外部への売却(M&A)

海外の会社に売るときの注意点|外為法の事前届出、英文契約と表明保証、外貨の代金と税金、買収後の移転価格

「海外の会社から、うちの会社を買いたいという話が来た」。円安や人手不足を背景に、海外の事業会社や外資系ファンドが日本の中小企業に関心を持つケースは珍しくなくなりました。国内の買い手より高い価格が提示されることもあり、オーナー経営者にとっては魅力的な選択肢です。

一方で、海外の会社に売る場合は、国内の売却にはない手続やリスクがあります。外国為替及び外国貿易法(外為法)の届出、英文の契約、外貨で受け取る代金、売却後の会社のグループ内取引の税務などです。

この記事では、売り手のオーナー経営者の立場から、海外の会社に売るときの注意点を、法令と財務省の資料、最高裁判決をもとに整理します。

この記事の結論
  • 外国投資家による非上場会社の株式の取得は、外為法の対内直接投資等に当たる。事業が指定業種なら事前届出が必要で、原則として受理から30日は実行できない
  • 買い手と会社の国内売上高が一定規模を超えると、独占禁止法の株式取得の届出も必要になる
  • 契約は英文で、表明保証・補償の範囲が広くなりやすい。準拠法・紛争解決の方法・通貨を交渉の初期に決める
  • 売り手の税金は国内の売却と同じく20.315%(日本の居住者の場合)。外貨の代金は取引日の為替相場で円に換算する
  • 売却後は、海外の親会社との取引に移転価格税制がかかる。グループ内借入れの利息を否認しなかった最高裁令和4年4月21日判決も、取引の合理的な目的が判断の前提になっている

国内の売却と何が違うのか

項目国内の買い手海外の買い手
行政への届出独占禁止法(一定規模以上)独占禁止法に加え、外為法の事前届出・事後報告
契約書日本語・日本法・日本の裁判所が多い英文、準拠法・紛争解決(仲裁など)が交渉事項
表明保証・補償中小M&Aでは比較的簡素なことも多い範囲が広く、表明保証保険を使うことも多い
代金の通貨円外貨のこともある。為替の変動リスク
デューデリジェンス日本語の資料翻訳、海外の基準での調査、期間が長くなりやすい
売却後の会社国内グループの一員海外の親会社の子会社。移転価格税制や本社の方針の影響

外為法:事前届出と事後報告

非上場会社の株式取得は「対内直接投資等」

外為法では、外国投資家が国内の非上場会社の株式や持分を取得することは対内直接投資等に当たります。財務省は、国の安全の確保、公の秩序の維持、公衆の安全の保護、経済の円滑な運営の観点から、一定の場合に事前届出を求めて審査し、投資の実行後には一定の場合に事後報告を求めると説明しています(財務省:対内直接投資等)。外国投資家が、ほかの外国投資家から非上場会社の株式を譲り受ける場合も、一定の場合は事前届出の対象です。

事前届出が必要かどうかは、会社の事業が告示で定める指定業種に当たるかで決まります。武器・航空機・原子力・宇宙、電気・ガス・通信、サイバーセキュリティ関連などが代表例です。事前届出をした場合、原則として届出の受理から30日を経過するまでは株式の取得を実行できず(外為法27条)、審査の内容によっては期間が延びることがあります。

売り手も無関係ではない

財務省は、事前届出の要否は投資家が自ら判断するのが原則としています。とはいえ、会社の事業の一部(たとえば製品の一部に使われる部品、取引先との通信設備の保守など)が指定業種に当たるかどうかは、会社の側でなければわかりません。売り手は、事業内容と取引先の情報を早めに整理し、買い手の確認に協力する必要があります。届出が必要なのに漏れると、クロージングの日程が大きく狂います。

独占禁止法の届出

一定規模以上の会社どうしのM&Aでは、独占禁止法の企業結合の届出が必要です。株式取得では、買い手のグループの国内売上高の合計が200億円を超え、対象会社とその子会社の国内売上高の合計が50億円を超え、取得後の議決権が20%または50%を超える場合に、事前の届出が必要とされています(独占禁止法10条)。海外の会社が買い手でも、日本での売上高で判定します。届出後は原則として30日の待機期間があります。

中小企業の売却では届出が不要なことが多いものの、買い手が日本で大きく事業をしているグローバル企業なら、対象になり得ます。

英文の契約で交渉すること

準拠法・紛争解決・言語

英文の株式譲渡契約(SPA)では、どの国の法律で解釈するか(準拠法)、争いになったらどこで解決するか(裁判所か仲裁か)、正本の言語を決めます。売り手が日本の個人なら、日本法・日本での解決を求めるのが基本ですが、買い手が自国の法律や国際仲裁を求めることもあります。契約書の構造は国内のSPAと同じなので、論点の整理には株式譲渡契約(SPA)の要点が参考になります。

表明保証・補償の範囲

海外の買い手は、表明保証の項目が多く、補償の上限や請求期間も長めの条件を求める傾向があります。売り手の手取りを守るために、次の点を交渉します。

項目売り手が交渉したいこと
補償の上限譲渡代金の一定割合に抑える
請求期間一般の表明保証と税務・基本的事項(株式の権原など)で分ける
少額の請求一定額以下の請求は対象外にする
開示による免責DDで開示した事項は表明保証違反にしない
表明保証保険買い手側で保険をかけ、売り手の補償を小さくする(M&Aの保険)
株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

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代金の受け取り方と税金

売り手の税金は国内と同じ

日本に住む個人が非上場株式を売る場合、買い手が海外の会社でも、譲渡益に20.315%の申告分離課税がかかる点は国内の売却と同じです。所得が極めて高い年の追加負担は、令和9年分から特別控除額1億6,500万円・税率30%に強化されます(会社を売ったら手元にいくら残るか)。

外貨で受け取る場合

代金が外貨建ての場合、譲渡所得は原則として取引日の為替相場で円に換算して計算します(所得税法57条の3)。注意したいのは、エスクローや分割払いで外貨のまま残る部分です。受け取るまでの為替の変動で、円に換えたときの金額が変わり、別に為替差損益が生じることがあります。代金の通貨を円にする、外貨なら受取後すぐに円に換える方針を決めておく、といった対応を検討します。エスクローの仕組みはエスクロー・ホールドバックで解説しています。

対価が外国の会社の株式の場合

代金の一部を買い手(外国の親会社)の株式で受け取る提案を受けることもあります。株式を対価とする取引で課税を繰り延べられるかは要件次第で、現金がないのに日本の税金が生じることがあります。外国株式は換金の時期や価格も読みにくいため、手取りとリスクの両面で慎重に検討します。

売却後に海外に移り住む場合

売却後に海外へ移住する場合、保有する有価証券などが1億円以上あると、出国時に含み益に課税される国外転出時課税の対象になることがあります(海外移住と税金)。

売却後の会社の税務:移転価格とグループ内取引

海外の親会社との取引

売却後、会社は海外の親会社の子会社になります。親会社やグループ会社との取引(商品の売買、ロイヤルティ、経営指導料、グループ内借入れの利息など)は移転価格税制の対象になり、独立した当事者間の価格(独立企業間価格)と比べて適正かが問われます。売り手が会長や顧問として残る場合も、こうした取引の決まり方に関わることがあります。

最高裁令和4年4月21日判決(ユニバーサルミュージック事件)

最高裁判所第一小法廷 令和4年4月21日判決(令和2年(行ヒ)第303号、法人税更正処分等取消請求事件)は、外資系の企業グループの組織再編成の中で、日本の合同会社がグループ会社から借り入れて国内の関連会社の株式を取得し、その借入れの支払利息を損金に算入した事案です。税務署は、同族会社の行為計算の否認(法人税法132条1項)を適用して支払利息の損金算入を否認しました。

最高裁は、同項にいう法人税の負担を「不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるものをいうと判断し、国の上告を棄却しました(裁判所ウェブサイト)。

この判決は、グループ内借入れによる買収がすべて認められるという意味ではありません。判決は、組織再編成の目的、借入れの条件、グループの方針などの事実関係を踏まえて判断しています。買収後のグループ内取引には、事業上の目的と条件の合理性を説明できる資料が欠かせません。

売り手が早めに準備すること

  1. 事業内容の棚卸し:指定業種に当たる可能性のある事業・製品・取引先を整理する
  2. 英文の資料:決算書、主要な契約、規程類の英訳の範囲を決める
  3. アドバイザーの体制:海外の買い手側には法律・会計の専門家がつく。売り手側も、契約・税務・評価の専門家をそろえる
  4. 従業員・取引先への説明:本社が海外になることで、意思決定や取引条件が変わる可能性を説明する(従業員への伝え方)
  5. 銀行との関係:買い手のグループでの資金調達に切り替わるか、既存の借入れや経営者保証をどうするかを確認する(事業承継と経営者保証)

まとめ

  • 外国投資家による非上場会社の株式取得は、外為法の対内直接投資等。指定業種なら事前届出で、原則30日は実行できない
  • 一定規模以上なら独占禁止法の届出も必要
  • 英文契約では、準拠法・紛争解決・通貨、表明保証と補償の範囲を早めに交渉する
  • 売り手の税金は20.315%で国内と同じ。外貨の代金は円換算と為替の変動に注意
  • 売却後は移転価格税制がかかる。グループ内取引は事業上の目的と条件の合理性を説明できるようにしておく

クレフティでは、海外の会社への売却を含むM&Aで、株価算定、税務デューデリジェンスへの対応、契約条件と手取りの検討まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。代表の相亰は米国シリコンバレーに駐在した経験があり、大手FASで金融機関を中心にFA・財務デューデリジェンス・バリュエーションを担当してきた公認会計士・税理士も在籍しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

海外の会社に株式を売ると、日本の税金はどうなりますか?
日本に住む個人が非上場株式を売る場合、買い手が海外の会社でも、譲渡益に20.315%の申告分離課税がかかるのは国内の売却と同じです。代金を外貨で受け取る場合は、原則として取引日の為替相場で円に換算して譲渡所得を計算します。エスクローなどで外貨のまま残る部分は、後日の為替の変動で別の損益が生じることがあります。
外国の会社が日本の非上場会社の株式を買うとき、届出が必要ですか?
外国投資家による非上場会社の株式の取得は、外為法の対内直接投資等に当たり、会社の事業が国の安全などに関わる指定業種に当たる場合は事前届出が必要です。事前届出をした場合、原則として受理から30日を経過するまでは取得を実行できません。指定業種に当たらない場合も事後報告が必要になることがあります。要否の判断は原則として投資家側が行いますが、売り手も事業内容の確認に協力する必要があります。
外資の会社に売った後、会社の税務で気をつけることはありますか?
海外の親会社やグループ会社との取引は、移転価格税制の対象となり、取引価格が独立企業間価格と比べて適正かが問われます。グループからの借入れの利息や、経営指導料なども論点になります。最高裁令和4年4月21日判決は、外資系グループ内の借入れの支払利息について、同族会社の行為計算の否認を認めませんでしたが、取引ごとの合理的な目的と資料が判断の前提になりました。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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