企業価値と株価

少数株主の株価と支配権プレミアム|1株の値段が保有割合で変わる理由と、非流動性ディスカウントをめぐる最高裁の判断

「社長の持っている株と、元役員が持っている株は、同じ1株でも値段が違うのですか?」。株式の集約や承継の相談で、よく出る質問です。

答えは「違うことが多い」です。会社の経営を決められる支配株式には上乗せ(支配権プレミアム)がつき、経営に口を出せない少数株主の株式には割引(マイノリティ・ディスカウント)がつく、というのがM&Aや株価算定の基本的な考え方です。さらに、非上場株式は売りにくいという理由で、非流動性ディスカウントが議論されることもあります。

この記事では、これらの考え方を整理し、相続税・法人税の扱い、最高裁の決定、少数株主との売買の実務までを解説します。

この記事の結論
  • 1株の値段は保有割合で変わる。支配株式には支配権プレミアム、少数株主の株式にはマイノリティ・ディスカウントがつくのが基本
  • 非上場株式は換金しにくいため、非流動性ディスカウントが議論される。中小M&Aガイドラインも、30%程度ディスカウントするケースがあると紹介している
  • 相続税では、支配力の乏しい株主の株式は配当還元方式。法人税では、企業支配のための株式は「通常の価額+企業支配に係る対価」で評価する
  • 最高裁は、非流動性ディスカウントについて、収益還元法の事案では認めず、DCF法の事案では認めた。手続と評価の中身で判断している
  • 少数株主との売買は、価格の根拠と税務上の時価を両方そろえてから交渉する

なぜ1株の値段が保有割合で変わるのか

株式会社では、議決権の割合によって、できることが大きく変わります。過半数があれば取締役を選任でき、3分の2以上あれば定款の変更や合併などの特別決議を単独で通せます。一方、少数株主ができるのは、帳簿の閲覧請求や株主提案などの権利の行使と、配当の受取りが中心です。保有割合ごとの権利は株式の保有比率ごとの権利で整理しています。

保有の状態できること1株の値段への影響
100%・3分の2以上経営、配当、役員、組織再編を自分で決められる支配権プレミアムがつきやすい
過半数役員の選任、通常の経営判断を決められる支配権の価値を含む
3分の1超特別決議を否決できる(拒否権)交渉力に応じて評価が変わる
少数(数%など)配当の受取り、少数株主権の行使マイノリティ・ディスカウントがつきやすい

買い手が会社を100%買うときに払う価格には、会社を自由に経営し、利益の使い道を決められる価値が含まれています。逆に、数%の株式を買っても、配当がなければ手元に入るものはほとんどありません。この差が、1株あたりの値段の差になります。

3つの調整の考え方

用語意味どんなときに議論されるか
支配権プレミアム会社を支配できることへの上乗せ100%や過半数の株式を買うM&A
マイノリティ・ディスカウント支配力がないことによる割引少数株主からの買取り、少数株の評価
非流動性ディスカウント市場で売れない、換金しにくいことによる割引非上場株式全般。上場会社の数値と比べて評価する場合など

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」参考資料2は、EV/EBITDA倍率法の説明の中で、中小企業は上場会社に比べて株式の流動性が低い点を考慮し、30%程度ディスカウント(非流動性ディスカウント)するケースもあると紹介しています。ただし、ディスカウントの幅に決まった公式はなく、評価方法の中身との関係で考える必要があります。

注意したいのは、これらの調整が二重に効かないようにすることです。たとえば、類似上場会社の数値を使った評価では市場性が織り込まれていないので非流動性ディスカウントを議論する余地がありますが、すでに少数株主向けの評価方法で計算しているのに、さらに大きく割り引くと過小評価になりかねません。

税務の世界では、支配力をどう扱うか

相続税:配当還元方式

財産評価基本通達は、同族株主以外の株主や、同族株主でも議決権割合が小さく役員でない株主など、会社への支配力が乏しい株主が取得した株式を、配当還元方式で評価するとしています(評価通達188、188-2)。

(その株式に係る年配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)※年配当金額が2円50銭未満の場合や無配の場合は2円50銭とする。原則的評価の価額のほうが低ければ、そちらによる

配当還元方式は、少数株主の株式の価値は「配当を受け取る権利」だという考え方に立った評価で、まさにマイノリティ・ディスカウントを制度にしたものといえます。ただし、配当還元方式で評価されることを利用して贈与税の負担軽減を図る目的で株式を取得したケースでは、国税不服審判所 平成10年1月29日裁決(裁決事例集No.55 533頁)が、配当還元方式を適用すると実質的な租税負担の公平を著しく害するとして、時価純資産価額を基に評価しています。

法人税:企業支配株式の時価

法人税基本通達9-1-15は、法人が持つ企業支配株式等の取得が、その発行法人の企業支配をするためにされたものと認められるときは、その価額は「当該株式等の通常の価額に企業支配に係る対価の額を加算した金額」とするとしています。税務の通達の中で、支配権プレミアムの考え方が明示されている例です。

所得税:譲渡人の支配力で判断

個人が法人に株式を譲渡する場面について、最高裁第三小法廷令和2年3月24日判決は、譲受人が少数株主に当たることを理由に配当還元価額を時価とした原審の判断を誤りとし、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきだとしました(裁判所ウェブサイト)。支配株主が少数株として安く手放しても、税務上は支配株主の株式として評価される、ということです。詳しくは相続税評価額・税務上の時価・M&A価格はなぜ違うかで紹介しています。

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裁判所は非流動性ディスカウントをどう判断したか

株式の買取価格や売買価格が裁判所で決められる場面では、非流動性ディスカウントができるかが争われてきました。

決定手続評価方法結論
最高裁第一小法廷 平成27年3月26日決定(平成26年(許)第39号)吸収合併に反対した株主の株式買取請求(会社法785条・786条)収益還元法非流動性ディスカウントはできない。1株80円(25%減価後)を退け、106円と決定
最高裁第三小法廷 令和5年5月24日決定(令和4年(許)第8号)譲渡制限株式の売買価格の決定(会社法144条2項)DCF法評価の過程で市場性のなさが考慮されていないので、30%の非流動性ディスカウントができる

平成27年の決定は、合併に反対して会社から退出する株主には企業価値を適切に分配すべきであり、市場での取引価格との比較という要素を含まない収益還元法の価格から、市場性のなさを理由にさらに減価するのは相当でない、と判断しました(裁判所ウェブサイト)。

令和5年の決定は、譲渡制限株式の売買価格の決定は、譲渡を希望する株主に投下資本を回収する手段を保障する手続であり、市場性がないことを理由に減価するのが相当なら、任意に譲渡される場合と同様に非流動性ディスカウントができるとしました。そのうえで、評価の過程ですでに市場性のなさが十分考慮されている場合に重ねて減価するのは、二重の減価になるので相当でないとも述べています(裁判所ウェブサイト)。

2つの決定から分かるのは、ディスカウントの可否は「非上場だから一律に何%」ではなく、どの手続で、どの評価方法に何が織り込まれているかで決まるということです。株式の価格が裁判で争われた事例は株式の買取価格が裁判で争われた事例でも扱います。

少数株主との売買で気をつけること

株式の集約で少数株主から買い取るとき、また少数株主が株式を手放したいと言ってきたときは、次の点を確認します。

  1. 会社法の手続を確認する:譲渡制限株式の譲渡承認請求に対し、会社が承認せず自ら買い取る場合などは、協議が調わなければ通知の日から20日以内に裁判所に売買価格の決定を申し立てることができる。申立てがなく協議も調わなければ、1株あたり純資産額をもとにした価格になる(会社法144条)
  2. 誰が買うかで税金が変わる:会社が買う(自己株式の取得)とみなし配当、社長個人が買うと税務上の時価との差が問題になる(社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金)
  3. 税務上の時価を先に試算する:相手が親族や元役員なら、所得税基本通達59-6や評価通達による評価との差を確認する
  4. 価格の根拠を文書に残す:算定方法、ディスカウントの考え方、交渉の経緯を記録する

少数株主の株式を安く買い集めた後に、会社を第三者へ高く売る場合、売却が近い時期の買取りは、税務上も、少数株主との関係でも問題になりやすくなります。株式の集約は、売却や承継の計画より前倒しで進めるのが原則です。全体像は分散した株式を集中させる方法をご覧ください。

株式が整理され、後継者に議決権が集まっている会社は、銀行から見ても経営の安定性が高く評価されやすくなります。株主構成は、承継・売却・融資のすべての土台です(銀行格付けを上げる方法)。

まとめ

  • 1株の値段は保有割合で変わる。支配株式には支配権プレミアム、少数株主の株式にはマイノリティ・ディスカウントがつくのが基本
  • 非上場株式の換金しにくさは非流動性ディスカウントとして議論される。30%程度とするケースもあるが、公式はない
  • 税務では、相続税は配当還元方式、法人税は企業支配に係る対価の加算、所得税は譲渡人の支配力で考える
  • 最高裁は、非流動性ディスカウントの可否を、手続と評価方法の中身で判断している
  • 少数株主との売買は、会社法の手続、税務上の時価、価格の根拠をそろえてから進める

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よくある質問

少数株主の株式は、なぜ安く評価されるのですか?
少数株主は、役員の選任や配当の額、会社の売却といった重要な事柄を自分で決められず、受け取れるのは主に配当と、売れたときの代金だけです。さらに非上場会社の株式は市場で売ることができず、譲渡に会社の承認が必要なことも多いため、換金しにくいという事情もあります。こうした支配力のなさと換金のしにくさが、1株あたりの価格を下げる理由になります。
相続税の評価でも、少数株主の株式は安くなりますか?
財産評価基本通達では、同族株主以外の株主など、会社への支配力が乏しい株主が取得した株式は、配当をもとにした配当還元方式で評価します。原則的評価よりかなり低くなることが多い方法です。ただし、配当還元方式で評価されることを利用して税負担を軽くする目的で株式を取得した場合には、配当還元方式の適用を認めなかった裁決もあります。
少数株主から株式を買い取りたいのですが、価格で折り合わない場合はどうなりますか?
譲渡制限株式の場合、株主が会社に譲渡の承認を求め、会社が承認せずに自ら買い取るなどの手続に入ると、価格は当事者の協議で決め、協議が調わなければ、会社または株主が通知の日から20日以内に裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法144条)。申立てがなく協議も調わなければ、1株あたり純資産額をもとにした価格になります。裁判所の手続では、DCF法などの評価に加えて非流動性ディスカウントの可否も争点になります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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