アパートや駐車場の数が増えてきたころ、夏に都道府県から「個人事業税」の納税通知書が届いて驚く大家さんは少なくありません。所得税の確定申告しかしていないのに、別の税金がかかるのか。しかも所得税の「5棟10室」に届いていないのに、なぜ課税されるのか。
個人事業税は、都道府県が、一定の事業を営む個人に課す地方税です。不動産の賃貸は、一定の規模を超えると不動産貸付業や駐車場業として課税対象になります。判定の基準は所得税とは別に都道府県が定めており、空室の扱いや共有物件の数え方にも独特のルールがあります。この記事では、個人事業税の認定基準と計算、必要経費になる時期、共有建物をめぐる東京地裁の判決、そして法人の事業税との違いと銀行からの見え方を解説します。
- 不動産貸付業・駐車場業は、個人事業税の第1種事業で、税率は5%。所得から事業主控除290万円を差し引いて計算する
- 課税対象かどうかは、所得税の5棟10室基準ではなく、都道府県の認定基準で判定する。一戸建ては10棟、アパート等は10室、駐車場は10台などが一般的で、空室も含めて数える
- 共有物件は、持分ではなく物件全体で規模を判定する取扱いが多い。東京地裁平成18年1月27日判決は、この取扱いに沿った賦課決定を適法とした
- 個人事業税は、納税通知書が届いた年の必要経費になる(廃業年は見込控除の取扱いがある)
- 法人には規模の基準も事業主控除もない。会計上は、所得に応じた事業税は「法人税、住民税及び事業税」に表示され、銀行は税引後のキャッシュフローで返済力を見る
個人事業税とは:大家にかかる「第3の税金」
個人の不動産所得には、国の所得税、市区町村と都道府県の住民税がかかります。これに加えて、一定の規模以上の賃貸経営には、都道府県の個人事業税がかかります。
個人事業税は、地方税法で定められた「法定業種」を営む個人に課されます。業種は第1種から第3種に分かれ、不動産貸付業と駐車場業は、物品販売業や製造業などと同じ第1種事業に入ります。標準税率は5%です(東京都主税局の案内でも、不動産貸付業・駐車場業は第1種事業、税率5%とされています)。
申告は、原則として所得税の確定申告をすれば、個人事業税の申告もしたことになります。確定申告書の第二表にある事業税の欄(不動産所得から差し引いた青色申告特別控除額、事業税の対象にならない所得など)が、都道府県の課税の資料になります。その後、都道府県が税額を計算し、例年8月ごろに納税通知書が送られてきます。東京都では納期が8月と11月の年2回です。
課税されるかどうか:都道府県の認定基準
所得税の「5棟10室」とは別のものさし
所得税では、不動産の貸付けが事業として行われているかを、いわゆる5棟10室基準(所得税基本通達26-9)などで判定します。詳しくは不動産所得の事業的規模の記事で解説しました。
個人事業税は、これとは別の基準で判定します。地方税法は「不動産貸付業」「駐車場業」とだけ定めており、どの規模から事業と認めるかは、各都道府県が認定基準として公表しています。代表例として、神奈川県が公表している基準を整理すると次のとおりです(神奈川県:個人事業税における不動産貸付業・駐車場業の認定基準)。
| 区分 | 主な基準(神奈川県の例) |
|---|---|
| 一戸建て(住宅用) | 10棟以上 |
| 一戸建て(住宅用以外) | 5棟以上 |
| 一戸建て以外(アパート・マンション等) | 住宅用・住宅用以外とも10室以上 |
| 土地(住宅用) | 契約件数10件以上、または貸付総面積2,000平方メートル以上 |
| 土地(住宅用以外) | 契約件数10件以上 |
| 種類の異なる不動産を併せて貸す場合 | 棟数・室数・契約件数の合計が10以上 |
| 規模以外の基準 | 家屋の貸付総面積が600平方メートル超、かつ賃貸料収入が1,200万円超 など |
| 駐車場(建築物でないもの) | 駐車可能台数10台以上 |
| 駐車場(建築物である駐車場を有する場合) | 建築物以外の駐車場も含めた全体の台数で判定(屋根・柱のあるもの、機械式、コインパーキングは建築物の扱い) |
所得税の基準と比べると、一戸建ての住宅は10棟(所得税は5棟)と、個人事業税のほうが緩い部分がある一方、種類の異なる不動産を合計して10以上で課税されるなど、所得税では事業的規模にならない組み合わせでも課税される場合があります。基準は都道府県ごとに異なることがあるため、必ず課税する都道府県の公表資料で確認してください。
空室・共有・一棟貸しの数え方
認定基準の運用で、特に誤解が多いのが次の3点です。
- 空室も数える:貸付用の部屋であれば、空室や空き区画も室数・台数に含めます。「満室ではないから10室に届かない」は通りません
- 一棟貸しでも室数で数える:アパート1棟をサブリース会社に一括で貸していても、室数で判定する取扱いです
- 共有物件は全体で数える:持分が2分の1でも、物件全体の室数・面積・賃料で規模を判定する取扱いです(次の章の判決を参照)
なお、駐車場は台数の判定と別に、駐車場の所得は不動産所得と区分して計算します。駐車場収入の所得区分と消費税は駐車場収入の税金で解説しています。
判例:共有建物の規模は「持分」ではなく「全体」で判定
共有物件の数え方が争われた裁判例として、東京地方裁判所 平成18年1月27日判決(平成16年(行ウ)第506号 個人事業税賦課処分取消請求事件)があります(裁判所 裁判例検索)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事案 | 共有する建物を賃貸して収入を得ていた個人に、東京都が個人事業税(不動産貸付業)の賦課決定をした |
| 争点 | 事業の規模を、共有者の持分割合に応じて判定すべきか、共有建物全体の貸付面積・賃貸料収入で判定すべきか |
| 判断 | 事業税は事業という収益活動に着目して課す税であり、課税対象の事業に当たるかは収益活動の事実そのものに着目して判定すべきとした。そのうえで、共有物件全体の貸付面積・賃貸料収入で規模を認定する都の取扱いには相応の合理性があるとし、共有者が各部分を独立して貸しているなどの特段の事情がない限り、賦課決定は適法と判断した(請求棄却) |
この判決から読み取れる実務上の示唆は、持分で按分すれば基準に届かない、という主張は通りにくいということです。夫婦や親子で共有している物件、相続で兄弟の共有になった物件では、共有者それぞれに、物件全体の規模で判定した個人事業税がかかりえます(税額の計算は、それぞれの不動産所得をもとに行います)。共有物件の税務上の注意点は共有不動産の税金も参考にしてください。
ただし、この判決は「共有物件であれば必ず課税される」と述べたものではありません。共有者がそれぞれ独立して区画を貸しているような特段の事情があれば、判断は変わりえます。
税額の計算と、必要経費になる時期
計算式
個人事業税の税額は、次のように計算します。
ポイントは2つです。
- 青色申告特別控除は使えない:個人事業税には青色申告特別控除の適用がないため、所得税で差し引いた控除額を足し戻します
- 事業主控除290万円:年の途中で開業・廃業した場合は、月数に応じて按分します
たとえば、不動産所得が800万円(青色申告特別控除65万円を差し引いた後)の場合は、(800万円+65万円−290万円)×5%=28万7,500円となります。所得税・住民税と比べれば小さく見えますが、毎年かかり、規模が大きくなるほど増えていきます。
青色申告の場合、損失を翌年以後に繰り越して控除できる取扱いもあります(所得税とは別の制度のため、損失の年も申告が必要です)。
必要経費になるのは「通知が来た年」
個人事業税は、都道府県が税額を決める賦課課税の税金です。所得税では、こうした税金は原則として賦課決定があった年(納税通知書が届いた年)の必要経費になります。2025年分の不動産所得に対する事業税は、2026年に通知され、2026年分の必要経費になる、という1年ずれた関係です。
事業を廃止した場合は、翌年に課される事業税を、廃止した年の必要経費に見込みで算入する取扱いがあります。物件をすべて売却して賃貸をやめる年、法人に物件を移して個人の賃貸をやめる年には、忘れずに検討します。
法人の事業税との違い
物件を法人で持つと、事業税の仕組みは大きく変わります。
| 項目 | 個人(個人事業税) | 法人(法人事業税) |
|---|---|---|
| 課税対象になる基準 | 都道府県の認定基準(棟数・室数・台数など)を満たす場合 | 規模にかかわらず、所得があれば課税 |
| 控除 | 事業主控除290万円 | なし |
| 税率 | 5%(第1種事業) | 所得に応じた税率(資本金や所得の規模、都道府県で異なる)。あわせて特別法人事業税 |
| 申告 | 所得税の確定申告で兼ねる。都道府県が税額を通知 | 法人が自ら計算して申告・納付(決算日から原則2か月以内) |
| 税務上の経費になる時期 | 賦課決定のあった年の必要経費 | 原則として申告書を提出した事業年度の損金 |
| 役員報酬との関係 | 事業主本人の給与は経費にならない | 役員報酬を払うと法人の所得が減り、事業税の課税標準も減る |
個人で不動産所得が290万円以下なら個人事業税はかかりませんが、法人では小さな所得にも事業税がかかります。一方、規模が大きくなり、役員報酬で所得を分けられるようになると、法人のほうが全体の負担を調整しやすくなります。個人と法人の税負担の比較は不動産投資の個人と法人の税金比較、法人化の時期は法人化のタイミングで解説しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと、銀行からの見え方
会計上の表示
個人の大家には、会社法のような決算書作成のルールは課されていませんが、青色申告の決算書では、個人事業税は「租税公課」として経費に計上します。
法人では、決算書を一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作ります(会社法431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとしています)。法人事業税のうち所得に応じて課される部分(所得割)は、法人税・住民税と同じく損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に表示するのが一般的です。資本金1億円超の法人などにかかる外形標準課税(付加価値割・資本割)は、所得に連動しないため、販売費及び一般管理費(租税公課)に表示します。
つまり、同じ「事業税」でも、個人の決算書では経費(租税公課)、法人の決算書では原則として税金の区分に入ります。個人から法人に移ったとき、営業利益や経常利益の水準が変わったように見えるのは、こうした表示の違いも一因です。税務上の処理と会計上の表示は別のもので、どの区分に表示するかは取引の実態と会計基準に沿って判断します。
銀行はどこを見るか
金融機関が個人の大家を審査するときは、確定申告書と青色申告決算書をもとに、不動産所得+減価償却費(+支払利息などの調整)で返済の原資を見て、所得税・住民税・事業税などの税金を差し引いたキャッシュフローで返済できるかを確認します。
個人事業税は1年遅れで払う税金なので、規模が急に大きくなった年の翌年は、所得税・住民税・事業税の支払いが重なり、手元の資金が細りやすくなります。銀行への資金繰りの説明でも、翌年の税金の支払いまで織り込んでおくと説得力が増します。
法人では、事業税は経常利益の下で差し引かれます。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算しており、事業税を含む税金を払った後のキャッシュフローで返済力を見る考え方です。税金を払うことは、純資産を積み上げ、銀行の評価を高めることにもつながります。
実務のチェックポイント
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 認定基準 | 課税する都道府県の基準を確認したか。空室・空き区画、一棟貸しの室数、共有物件を全体で数えているか |
| 駐車場 | 青空駐車場の台数、建築物である駐車場・機械式・コインパーキングの有無。駐車場の所得を区分しているか |
| 確定申告書 | 第二表の事業税の欄(青色申告特別控除額、非課税所得など)を記入したか。収支内訳書・決算書の貸付不動産の明細を正しく書いたか |
| 必要経費の時期 | 前年分の事業税を、通知が来た年の租税公課に計上したか。廃業する年は見込控除を検討したか |
| 法人化の比較 | 事業税だけでなく、所得税・住民税・社会保険料・融資への影響を合わせて試算したか |
| 資金繰り | 規模拡大の翌年の税金(所得税・住民税・事業税)を資金繰り表に入れたか |
まとめ
- 不動産貸付業・駐車場業は個人事業税の第1種事業で、税率5%、事業主控除290万円
- 課税されるかは都道府県の認定基準で判定する。一戸建て10棟・アパート10室・駐車場10台などが一般的で、空室も含めて数える。所得税の5棟10室とは一致しない
- 共有物件は物件全体で規模を判定する取扱いが多く、東京地裁平成18年1月27日判決もその取扱いに沿った賦課決定を適法とした
- 個人事業税は通知が来た年の必要経費。廃業年は見込控除を検討する
- 法人には規模の基準も事業主控除もない。会計上の表示も個人と法人で異なり、銀行は税金を払った後のキャッシュフローで返済力を見る
クレフティでは、個人の大家さんの確定申告から、法人化の比較、法人での決算・申告、金融機関への決算書の見せ方まで一貫してサポートしています。代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)で、税金を払いながらも融資を受け続けられる財務づくりをお手伝いします。初回のご相談は無料です。詳しくは不動産投資家向けサービスをご覧ください。
