売却・相続

オーナーチェンジで売るときの敷金・家賃の精算|敷金の承継、日割家賃・固定資産税の精算と譲渡収入、法人と個人の違い

入居者が住んだまま物件を売るオーナーチェンジでは、売買代金のほかに、敷金の引継ぎ、家賃の日割精算、固定資産税の精算といったお金のやりとりが引渡日に発生します。決済の場では「精算書」の1枚で処理されるため見落としがちですが、どの項目が売主の譲渡収入に入り、どの項目が入らないのかは、税務でも会計でも区別が必要です。

この記事では、オーナーチェンジで売るときの精算項目を、民法上の位置づけ、税務(法人と個人の違い)、企業会計上の処理、銀行からの見え方の順に整理します。国税庁の質疑応答事例と、精算金の扱いが争われた公表裁決もあわせて紹介します。

この記事の結論
  • 対抗要件のある賃貸物件を売ると、賃貸人の地位と敷金の返還債務は買主に移る(民法605条の2)。敷金は買主に渡すか、代金から差し引いて精算する
  • 敷金の引継ぎは預り金(負債)の移転であり、売主の譲渡収入を減らすものではない。代金から差し引いても、譲渡収入は契約上の売買代金で考える
  • 固定資産税の精算金は、国税不服審判所の裁決で譲渡収入に算入すべきとされている。家賃の日割精算は、引渡日を境に売主と買主の収入を分ける処理
  • 敷金を渡すと現預金は減るが、負債も同額消えるので純資産は変わらない。銀行や次の投資の観点では、敷金を差し引いた後の手残りで資金計画を立てる

オーナーチェンジで精算するお金の全体像

オーナーチェンジの決済では、売買代金とは別に、次のような項目を引渡日を基準に精算します。まず全体を一覧で確認しておきましょう。

精算項目何のための精算か売主の譲渡収入に入るか消費税(売主が課税事業者の場合)
敷金・保証金(返還予定分)入居者への返還債務を買主に引き継ぐ入らない(預り金の移転)対価ではないので不課税
前受家賃(引渡日以後の分)売主が受け取った翌月分家賃などを買主に渡す入らない(買主の収入分を渡すだけ)家賃そのものの課否による
未収家賃(引渡日前の分)売主の期間の家賃を、後で買主が受け取る場合などの調整入らない(売主の家賃収入として扱う)家賃そのものの課否による
固定資産税・都市計画税引渡日以後の期間分を買主が負担する入る(売買条件の一つ)建物部分は建物の対価に含まれる
管理費・修繕積立金(区分所有)引渡日以後の期間分の負担の調整個別の契約内容で判断個別の契約内容で判断

ポイントは、「売主のものだったお金」と「入居者・買主のために預かっていたお金」を分けることです。敷金や前受家賃は後者で、売主の財産を売った対価ではありません。一方、固定資産税の精算金は、名目は税金でも、法律上は買主に納税義務がないため、売買の条件として授受されるお金です。この違いが、譲渡収入に入るかどうかの分かれ目になります。

敷金はなぜ買主に移るのか:民法と国税庁の質疑応答事例

民法605条の2:賃貸人の地位と敷金返還債務の移転

平成29年の民法改正で、賃貸物件が売られたときの扱いが条文に書き込まれました。民法605条の2は、対抗要件(建物の賃貸借なら建物の引渡しなど)を備えた賃貸借の目的となっている不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転すると定め、あわせて、敷金の返還債務も譲受人が承継するとしています。

つまり、オーナーチェンジで売った後に入居者が退去したら、敷金を返すのは買主です。売主は返還義務から外れる代わりに、預かっていた敷金を買主に引き継ぐのが通常の取引です。

国税庁の質疑応答事例:「新所有者は当然に敷金を引き継ぐ」

国税庁の質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」は、贈与の事例ですが、敷金の考え方を整理しています。回答要旨では、敷金は賃貸借が終われば未払いがない限り返還される停止条件付返還債務であり、賃貸中の建物の所有権が移転した場合には、新旧所有者の間で引継ぎがなくても新所有者は当然に敷金を引き継ぐ(判例・通説)と説明しています。

そのうえで、敷金返還義務を負ったまま建物を贈与すると法形式上は負担付贈与に当たるが、敷金相当額の現金も同時に贈与していれば実質的な負担はなく、負担付贈与通達は適用されないとしています。また注記で、この場合は譲渡の対価がないので、贈与した側に譲渡所得の課税は生じないとしています。

この事例から読み取れるのは、敷金返還債務を相手に負わせることは、経済的には「対価の一部」になりうるということです。売買の場面に置き換えると、敷金を現金で買主に渡さず、売買代金から差し引く形にした場合でも、売主は「返還債務を引き受けてもらう代わりに、代金を少なく受け取った」ことになります。したがって、譲渡収入は差し引く前の売買代金で考えるのが自然です。契約書と精算書で、売買代金と敷金の精算額を分けて書いておくと、後から説明しやすくなります。

保証金のうち返還しない約束の部分(償却分)は、受け取った時点や償却が確定した時点で売主の収入として計上済みのはずです。礼金・更新料・償却敷金の収入計上のタイミングは礼金・敷金・保証金・更新料の処理で整理しています。

税務上の扱い:法人と個人の違い

精算項目の扱いを、法人と個人で比べます。

項目法人個人
売却益・売却損の区分他の所得と合算して法人の所得を計算土地・建物の譲渡所得(分離課税)
敷金の引継ぎ預り敷金(負債)を消して現金を払う。損益は生じない不動産所得・譲渡所得のどちらにも影響しない
固定資産税の精算金売却の対価に含めて売却損益を計算譲渡所得の総収入金額に算入
引渡日以後の前受家賃期間対応で、売主の収益から除いて買主に渡す引渡日以後の分として買主に渡した額は、売主の不動産所得の収入から除いて計算するのが一般的
引渡日前の未収家賃売主の期間の家賃として収益計上原則どおり売主の不動産所得の収入

法人の場合

法人は、家賃を期間に対応させて収益計上するのが原則です(発生主義)。引渡日までの家賃は売主の収益、引渡日以後の家賃は買主の収益ですから、前受家賃を買主に渡す処理は、売主の損益には影響しません。

売却損益は、売却の対価(売買代金と固定資産税の精算金など)から、帳簿価額と譲渡のための費用を差し引いて計算します。固定資産税の精算金は、売主の側では対価の一部、買主の側では取得価額の一部になります。買主側の扱いと根拠になった裁決は固定資産税の精算金は取得価額で紹介しています。

個人の場合

個人の不動産所得は、契約上の支払日が到来した家賃を収入に計上するのが原則です(所得税基本通達36-5)。引渡月の家賃をすでに受け取っていて、そのうち引渡日以後の分を買主に渡す場合は、渡した分を売主の不動産所得の収入から除いて計算するのが実務上一般的です。家賃の計上時期の原則と、前受家賃・未収家賃の扱いは家賃収入の計上時期で詳しく扱っています。

土地・建物の売却益は譲渡所得として分離課税になり、固定資産税の精算金は総収入金額に含めます。所有期間による税率の違いは不動産売却の税金を参照してください。

消費税

売主が消費税の課税事業者なら、建物部分の売却代金(建物に対応する固定資産税の精算金を含む)は課税売上げになります。敷金の引継ぎは資産の譲渡の対価ではないため、課税の対象外です。家賃の精算は、住宅家賃なら非課税、店舗・事務所家賃なら課税という、家賃そのものの区分に従います。建物の売却と消費税の関係は建物を売ったときの消費税にまとめています。

公表裁決:固定資産税の精算金は譲渡収入(平成14年8月29日裁決)

精算金の扱いが争われた公表裁決を一つ紹介します。

  • 審判所・日付:国税不服審判所 平成14年8月29日裁決(裁決事例集No.64・152頁)
  • 事案:個人が共有する土地を売却し、売買契約書の定めに従って、引渡日以後の期間に対応する固定資産税・都市計画税相当額(未経過固定資産税等相当額)を買主から受け取った。請求人はこれを譲渡所得の総収入金額に含めずに申告した
  • 争点:未経過固定資産税等相当額は、立替金の清算として譲渡収入から除けるか
  • 判断:売主は買主に未経過分の求償権を持つわけではなく、授受は売買契約によって初めて生じる債権債務に基づくもので、その性質は売買条件の一つにほかならない。したがって、譲渡所得の総収入金額に算入すべきとされた
  • 出典:国税不服審判所

実務への示唆:精算書の上では「税金の精算」に見えても、税務上は売買代金の一部として扱われます。売却の申告では、売買契約書の代金だけでなく、精算書に載っているすべての項目を確認し、譲渡収入に入るものと入らないものを仕分けることが必要です。なお、この裁決は固定資産税の精算金についての判断であり、敷金や家賃の精算まで同じ結論になるという趣旨ではありません。敷金の引継ぎそのものが争点になった公表裁決は、確認した範囲では見当たりませんでした。

不動産投資の税務と融資、まとめて相談できます

代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。

不動産投資家向け税務・融資支援を見る

会計上の処理と決算書の表示

税務上の扱いとは別に、決算書の上でどう処理し、どこに表示するかは、企業会計の基準で判断します。ここでいう基準は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)のことで、中小企業であれば企業会計原則や「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する要領」などがその中心です。会社法431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとしています。

オーナーチェンジの精算は、会計上は次のように処理するのが基本です。

  • 敷金:預り敷金(負債)を減らし、現預金を減らす(または売却代金の受取額と相殺する)。損益には影響しない
  • 前受家賃:前受収益(負債)を減らし、買主に支払う。引渡日までの家賃だけが売主の売上高になる
  • 固定資産税の精算金:売却の対価に含め、固定資産の売却損益を計算する

賃貸用の固定資産を売った損益は、原則として特別利益・特別損失に表示します。一方、販売用不動産として保有していた物件なら、売買代金は売上高、帳簿価額は売上原価です。どちらになるかは保有目的と取引の実態で決まるもので、都合で選べるものではありません。売却損の表示区分は不動産の売却損は特別損失?で詳しく解説しています。

注意したいのは、精算金を「雑収入」や「租税公課のマイナス」として処理してしまう例です。固定資産税の精算金を受け取ったときに租税公課と相殺すると、販管費が小さく見え、売却損益も正しく計算されません。税務上は損金・益金の合計が同じでも、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損益か)は企業会計の基準に沿って判断する必要があります。どの区分にできるかは取引の実態次第ですので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方:純資産は変わらないが、手残りは減る

預り敷金は「返すべきお金」

銀行は、賃貸物件を多く持つ会社の決算書を見るとき、預り敷金を実質的な負債として意識します。現預金が多く見えても、その一部は入居者に返すべきお金だからです。オーナーチェンジで敷金を買主に渡すと、現預金と預り敷金が同額減るため、純資産は変わりません。自己資本比率は、総資産が減る分、わずかに改善することもあります。

本当の手残りで資金計画を立てる

一方、資金繰りの面では注意が必要です。売却代金から、残債の一括返済、仲介手数料などの諸費用、敷金の引継ぎ額、前受家賃の精算額を差し引いた金額が、売却で実際に手元に残る資金です。売買代金だけを見て「これだけ残る」と計画すると、決済の後に想定より少ないことに気づくことになります。

著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)」で計算します。売却で借入を返せば分子は大きく減りますが、敷金の引継ぎで現預金も減るため、試算では敷金の支払いも織り込んでおく必要があります。入居者の多い物件ほど敷金の総額が大きくなるため、影響は無視できません。出口の考え方は不動産投資の出口戦略もあわせてご覧ください。

実務のチェックポイント

タイミング確認すること
売却の検討時物件ごとの預り敷金・保証金の残高を、契約書と帳簿で照合したか
売却の検討時売買代金から残債・諸費用・敷金・前受家賃を引いた手残りを試算したか
契約時売買代金と、敷金・家賃・固定資産税の精算額を契約書・精算書で分けて記載したか
契約時保証金のうち償却分(返還しない部分)の扱いを、買主と書面で合意したか
決済後精算書の項目を、譲渡収入に入るもの(固定資産税精算金など)と入らないもの(敷金・前受家賃)に仕分けたか
決算・申告時法人:預り敷金・前受収益を消し、売却損益を特別損益(または売上高・売上原価)に実態どおり表示したか
決算・申告時個人:固定資産税の精算金を譲渡所得の総収入金額に含め、引渡月の家賃を不動産所得と正しく分けたか
決算・申告時課税事業者の場合、建物部分の対価(精算金を含む)を課税売上げに含めたか

まとめ

  • オーナーチェンジで売ると、賃貸人の地位と敷金の返還債務は買主に移る(民法605条の2)。国税庁の質疑応答事例も、新所有者は当然に敷金を引き継ぐと説明している
  • 敷金の引継ぎは預り金の移転であり、代金から差し引いても譲渡収入は差引前の売買代金で考える
  • 固定資産税の精算金は、平成14年8月29日裁決で譲渡所得の総収入金額に算入すべきとされた。家賃の日割精算は、引渡日を境に売主と買主の収入を分ける処理
  • 会計上は預り敷金・前受収益を消し、売却損益は保有目的と実態に応じて表示する。表示区分はGAAPに沿って判断する
  • 敷金を渡しても純資産は変わらないが、手残り資金は減る。売却前に、敷金を差し引いた後の資金計画を立てておく

精算書の仕分けから、売却後の決算書を銀行にどう説明するかまで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。

よくある質問

オーナーチェンジで売ると、預かっていた敷金はどうなりますか?
賃借権に対抗要件がある賃貸物件を売った場合、民法605条の2により賃貸人の地位は買主に移り、敷金の返還債務も買主が引き継ぎます。実務では、売主が預かっている敷金相当額を買主に現金で渡すか、売買代金から差し引く形で精算するのが一般的です。差し引く場合でも、売買代金そのもの(譲渡収入)が減るわけではない点に注意してください。
引渡日に精算した固定資産税相当額は、売主の譲渡収入に入りますか?
入ります。国税不服審判所の平成14年8月29日裁決(裁決事例集No.64・152頁)は、土地の売主が受け取った未経過固定資産税等相当額は立替金の清算ではなく売買条件の一つであり、譲渡所得の総収入金額に算入すべきとしています。法人の場合も、売却の対価の一部として売却損益の計算に含めます。
敷金を買主に渡すと、売却後の手残りが減ってしまいます。銀行の見え方は悪くなりますか?
敷金はもともと入居者に返すべき預り金で、貸借対照表では負債です。買主に引き継ぐと現預金は減りますが、同じ額の負債も消えるため、純資産は変わりません。ただし、売却代金から残債・諸費用・敷金を差し引いた「本当の手残り」が想定より少ないと、資金繰りや次の物件の自己資金に影響します。売却前に、敷金を差し引いた後の手元資金を試算しておくことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

RELATED

あわせて読みたい

売却・相続

相続税の取得費加算の特例と納税資金のための売却|3年10か月の期限、計算方法、自社株を会社に売る場合

相続した不動産を相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売ると、納めた相続税の一部を取得費に加算できます。期限の数え方、計算式と数値例、代償金を払った場合、争いが長引き期限を過ぎた平成11年の裁決、相続した自社株を発行会社に売る特例、決算書と銀行の見え方まで解説します。

2026年10月18日
売却・相続

特定の事業用資産の買換え特例とは|不動産の売却益の8割を繰り延べる要件、法人の圧縮記帳と銀行の見え方(裁決事例つき)

長く持った事業用の土地建物を売って買い換えると、売却益の原則80%の課税を繰り延べられます。10年超の買換えの要件、届出、法人の圧縮記帳の2つの方式、賃貸物件で否認された裁決、銀行から見た純資産を解説します。

2026年10月18日
売却・相続

相続で共有になった賃貸物件のリスクと解消方法|改正民法の管理ルール、分割方法ごとの税金と銀行の見え方

相続で兄弟の共有になった賃貸アパートは、入居者との契約、修繕、売却、借換えのたびに共有者の合意が必要です。令和5年施行の改正民法で変わった管理のルール、遺産分割と共有物分割の方法(現物・代償・換価・賠償分割)ごとの税金、最高裁平成8年10月31日判決、銀行から見た共有物件まで解説します。

2026年10月18日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。