賃貸物件では、キッチンや浴室の入替え、給湯器・空調の更新、エレベーターの部品交換など、資産の一部だけを取り替える工事が繰り返し発生します。このとき、新しい部分を資産に計上するだけで、撤去した古い部分の簿価をそのまま残していないでしょうか。
旧部分の簿価を残したままにすると、もう存在しない資産を償却し続けることになり、貸借対照表の資産も実態より大きく見えます。この記事では、一部取替えの際の旧部分の除却について、税務上の考え方、取得価額が分からないときの算定方法、裁決事例、法人と個人の違い、決算書と銀行からの見え方を整理します。
- 一部を取り替えたときは、新しい部分の処理(修繕費・資本的支出・新たな資産)と、撤去した旧部分の除却をセットで考える
- 旧部分の除却損は、取壊し直前の帳簿価額(未償却残額)。取得価額が分からなければ床面積あん分など合理的な方法で算定する(平成26年4月21日裁決)
- 根拠を示せない割合での除却損は認められない(平成24年2月6日裁決)。工事前の写真・撤去の記録・算定根拠を残す
- 旧部分を除却すると純資産は減るが、資産の実態と決算書が一致する。銀行が実態の貸借対照表を作るときの差も小さくなる
一部取替えで考える2つのこと
一部取替えの工事では、次の2つを分けて考えます。
| 論点 | 内容 | 主な判断材料 |
|---|---|---|
| 新しい部分 | 修繕費か、資本的支出か、新たな資産の取得か | 通常の維持管理・原状回復か、価値や耐久性を高めるか、物理的に独立した資産か |
| 撤去した旧部分 | 除却損を計上するか、いくらか | 旧部分の取得価額相当額と、取壊し直前の未償却残額 |
新しい部分の判定は、修繕費と資本的支出の違いと判定フロー、裁決事例による判断の分かれ目は修繕費と資本的支出:判例・裁決事例で見る判断の分かれ目で解説しています。
処理の組み合わせ
| 新しい部分 | 旧部分 | 考え方 |
|---|---|---|
| 修繕費 | 除却しない | もとの資産の価値を維持する支出として費用にする。旧部分も別に除却すると二重の費用になりかねない |
| 資本的支出 | 除却を検討 | 旧部分の取壊しと新設が同時に行われたとみる場合、旧部分の未償却残額を除却損に |
| 新たな資産の取得(独立した設備の買い替え) | 除却 | 旧設備を除却し、新設備を別の資産として計上 |
給湯器や業務用空調のように、独立した設備をそっくり入れ替える場合は「新たな資産の取得+旧設備の除却」になりやすく、建物の一部である台所や浴室を作り直す場合は「資本的支出+旧部分の除却」の検討になります。設備の区分と交換の扱いは給湯器・エアコンの交換は修繕費か資本的支出かも参照してください。
旧部分の帳簿価額をどう出すか
除却損の金額は、取り壊した部分の取壊し直前の帳簿価額(未償却残額)です。法人では法人税基本通達7-7-1が、取り壊した資産の取壊し直前の帳簿価額(廃材等の見積額を除く)を損金に算入するとしています。個人では所得税法51条と所得税法施行令142条により、取壊し直前の未償却残額をもとに損失の金額を計算します。
問題は、旧部分が建物全体の取得価額の中に含まれていて、個別の金額が分からないことが多い点です。
算定方法の例
| 方法 | 内容 | 使える場面 |
|---|---|---|
| 固定資産台帳の個別の金額 | 旧部分を独立した資産として計上していれば、その未償却残額 | 新築時に内訳どおり台帳を作っていた場合 |
| 建築時の内訳明細・見積書 | 工事項目ごとの金額から旧部分の取得価額を求める | 新築時の資料が残っている場合 |
| 固定資産税評価の部分別の評点数 | 再建築費評点数の部分別の比率で按分する | 評価資料を入手できる場合 |
| 床面積などによるあん分 | 建物の取得価額を総床面積で割った単価に、旧部分の床面積を掛ける | 内訳資料がない場合(平成26年4月21日裁決) |
どの方法でも、取得価額相当額を出したあと、取得から取壊しまでの償却累計額を差し引いて未償却残額を求めることになります。
一括して償却している資産の一部除却
法人では、種類・耐用年数などが同じで一つの償却計算単位として償却している複数の資産の一部を除却した場合、償却費を個々の資産に合理的に配賦していればその除却時の帳簿価額、配賦していなければ法定耐用年数で計算した除却時の未償却残額を基礎にするとされています(法人税基本通達7-7-6)。また、資本的支出を既存資産と合算して一つの資産としている場合でも、追加償却資産の一部を除却したときは、その追加償却資産を一つの資産として除却損益を計算します(同7-7-10)。
なお、鉄道のレールや送電線などには「取替法」という特別な償却方法がありますが、対象は法人税法施行規則10条に掲げる資産に限られ、建物や一般の建物附属設備には使えません。
裁決事例:旧部分の除却損
床面積あん分で旧部分の除却損を認めた(平成26年4月21日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成26年4月21日裁決(裁決事例集No.95)[裁決全文]
- 事案:個人が所有する賃貸マンションで、各住戸の台所と浴室を全面的に取り壊してシステムキッチンとユニットバスを新設した。審判所は、この工事を修繕費ではなく、建物の価値を高め耐久性を増す資本的支出と判断した。請求人は、資本的支出なら撤去した流し台と風呂の未償却残額を除却損として必要経費にすべきだと主張した
- 判断:工事は住戸の一部分の取壊し・廃棄と新設が同時に行われたものとみるべきで、取り壊した台所・浴室の除却損失は所得税法51条1項により必要経費に算入されるとした。損失の金額は取壊し直前の未償却残額であり、建築費の内訳資料が請求人・購入先・建築業者のいずれにも残っていなかったため、建物の取得価額を総床面積で割った1平方メートル当たりの建築単価に、住戸ごとの台所・浴室部分の床面積を掛けて取得価額相当額を求め、そこから未償却残額を算定する方法を合理的とした(除却損失は2年分で約199万円と約242万円)
- 示唆:資本的支出と判断されても、旧部分の除却損で一部は取り戻せることがあります。一方、請求人が示した金額は、撤去した設備が新設備と同程度のものだと認める証拠がないとして採用されませんでした。算定の根拠は、客観的な資料に基づく必要があります
この事案では、建物の取得価額に含めて償却していた機械式駐車場の一部を撤去した年に、その部分の取得価額を区分して計算していたことも事実として認定されています。建物の中に異なる設備が含まれている場合ほど、撤去のたびに区分の根拠が問われます。
根拠のない割合での除却損は認められない(平成24年2月6日裁決)
- 出典:国税不服審判所 平成24年2月6日裁決(裁決事例集No.86)[裁決全文]
- 事案:工場を移転した法人が、移設した印刷・製本設備の帳簿価額には、取得時に旧工場で行った電気配線設備等の工事費用が帳簿価額の15%相当額含まれており、それらは移転の際にすべて除却したとして、15%相当額を除却損として損金にすべきだと主張した
- 判断:主張の根拠となる具体的な証拠が提示されておらず、審判所の調査でも主張する事実を認めるに足る証拠はないとして、主張を採用しなかった
- 示唆:「おおむねこのくらい含まれているはず」という割合では、除却損は認められません。取得時の内訳と、撤去した事実の両方を示せることが必要です
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 除却損の金額 | 取壊し直前の帳簿価額(廃材等の見積額を除く) | 取壊し直前の未償却残額などから、資材の価額などを控除した金額 |
| 必要経費・損金になる範囲 | 全額 | 事業的規模なら全額、事業的規模に満たなければ不動産所得の金額が限度(所得税法51条4項) |
| 計上の時期 | 取り壊した日の属する事業年度 | 取り壊した日の属する年分 |
| 根拠 | 法人税法22条3項、法人税基本通達7-7-1・7-7-6 | 所得税法51条、所得税法施行令142条 |
個人で事業的規模に満たない場合の制限は、建物の取壊し・除却損失の処理と特別損失で詳しく解説しています。
会計上の扱いと決算書の表示
会計では、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って、存在しない資産を貸借対照表に残さないことが基本です。一部取替えで撤去した旧部分は、固定資産台帳と帳簿から除き、未償却残高を固定資産除却損とします。
除却損の表示区分は、金額と頻度で判断します。
- 賃貸業で毎期のように発生する設備の入替えに伴う除却損:販売費及び一般管理費や営業外費用に含めることが考えられる
- 大規模な改修で臨時かつ多額に発生した除却損:特別損失とすることが考えられる
税務上の損金かどうかと、決算書のどこに出すかは別の問いです。毎期のように発生する除却損まで特別損失にするのは実態と合いません。考え方は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いを参照してください。
銀行からの見え方
| 指標 | 旧部分を除却した場合 | 除却せずに残した場合 |
|---|---|---|
| 当期の利益 | 除却損の分だけ下がる | 下がらない(旧部分の償却が続く) |
| 毎期の償却費 | 旧部分の償却がなくなる | 存在しない資産の償却が続く |
| 資産・純資産 | 実態に近づく(純資産は減る) | 実態より大きく見える |
| 銀行の実態評価との差 | 小さい | 大きくなりうる |
銀行は、決算書の数字をそのまま使うだけでなく、資産の中身を見て実態の貸借対照表を作ることがあります。存在しない旧部分の簿価が残っていれば、いずれ実態評価で差し引かれます。除却で純資産が減るのは一時的に痛く見えますが、決算書と実態が一致していること自体が、決算書の信頼につながります。
除却損で当期の利益が下がる年は、「設備更新に伴う旧設備の除却で、現金の支出を伴わない損失」と説明できるようにしておきましょう。決算書の見直しポイントは不動産事業者の決算書チェックリストでも整理しています。
実務のチェックポイント
- 取替え工事の見積書で、撤去する旧部分と新設する部分を分けてもらったか
- 新しい部分を修繕費・資本的支出・新たな資産のどれで処理するかを決め、旧部分の除却との組み合わせを確認したか
- 旧部分の取得価額相当額を、台帳・内訳明細・評価資料・床面積などの客観的な根拠で算定したか
- 取得から取壊しまでの償却累計額を差し引き、未償却残額を計算したか
- 工事前の写真、撤去の記録(産業廃棄物の処理票など)を保存したか
- 固定資産台帳から旧部分を除き、新しい部分を種類・耐用年数ごとに登録したか
- 除却損の表示区分を、金額と頻度に応じて決めたか
台帳の作り方と按分根拠の残し方は、固定資産台帳の作り方と按分根拠の残し方で解説しています。
まとめ
- 一部取替えでは、新しい部分の処理と、撤去した旧部分の除却をセットで考える
- 旧部分の除却損は取壊し直前の未償却残額。取得価額が分からなければ床面積あん分など合理的な方法で算定する
- 根拠を示せない割合での除却損は認められない。内訳・写真・撤去の記録を残す
- 個人は、事業的規模に満たない場合、除却損は不動産所得の金額が限度
- 旧部分を除却すると純資産は減るが、決算書と資産の実態が一致し、銀行からの信頼につながる
設備更新の処理と固定資産台帳の整理から、決算書の見え方の確認まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
