決算書は、締めてしまえば1年間そのまま銀行に読まれ続けます。著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』は、決算書を健康診断にたとえ、人間ドックの前に体調を整えるように、決算日の数か月前から格付けを意識した準備をして決算を迎えることを「決算書磨き」と呼んでいます。
この記事は、その準備のためのチェックリストです。PL、BS、税務と会計のずれ、銀行の指標、説明資料の5つに分けて、格付けを下げてしまう処理と、実態に即して見直すべき処理を対比します。大前提として、税法は守り、会計の基準の範囲で実態に合った処理を選ぶ話であり、実態と違う区分や計上を勧めるものではありません。
- 格付けを下げる処理の多くは、「税務上は正しいが、決算書の区分や中身が実態を伝えていない」もの
- PLは、本業の収益が営業外に埋もれていないか、臨時・多額の費用が販管費に混ざっていないかを確認する
- BSは、役員貸付金・仮払金・滞留した未収家賃など、銀行が資産と認めない科目を減らし、借入と役員借入金を実態どおりに区分する
- 会計の基準に沿った処理でも、税務上そのまま認められるとは限らない(東京高裁平成25年7月19日判決)。会計と税務は分けて検討する
- 最後に、著書のモデルの債務償還年数・ICR・流動比率・純資産を自分で計算し、説明資料をそろえてから銀行に出す
チェックの前提:「数字を作る」と「数字を伝える」
著書は、決算書には二つの仕事があると述べています。一つは、税務・会計のルールに従って事実を正確に積み上げること(数字を作る)で、ここに恣意を入れる余地はありません。もう一つは、税法・会計の基準が認める範囲で、財務諸表の利用者である銀行に伝わりやすい形に整えること(数字を伝える)です。
このチェックリストは、二つ目の仕事のためのものです。ただし、どの区分・どの処理が認められるかは取引の実態次第です。税務上は損金算入が認められるかが論点になる一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があります。迷う項目は、決算を締める前に顧問税理士・会計の専門家と検討してください(税務上の損金と企業会計(GAAP)の違い)。
PLのチェックリスト
| 確認項目 | 格付けを下げる処理 | 実態に即して見直す処理 |
|---|---|---|
| 付帯収入(駐車場・自販機・看板など) | 継続的な事業収入を雑収入として営業外収益に入れている | 賃貸事業に付随する継続的な収入なら売上高に |
| 本業でない収入(受取利息・保険金) | 売上高に混ぜて営業利益を大きく見せる | 営業外収益・特別利益のまま |
| 臨時・多額の修繕 | 内容を検討せずに販管費に一括計上し、営業利益が赤字に | 資本的支出か、修繕費か、臨時・多額で特別損失に当たるかを実態で検討 |
| 災害損失・除却損・固定資産売却損 | 販管費に混ざっている | 特別損失 |
| 物件取得時の諸費用(不動産取得税・登録免許税など) | 毎期の販管費に混ぜて営業利益を圧迫 | 取得価額に算入するか、費用処理なら区分を検討(毎期取得している会社では臨時とは言いにくい) |
| 支払利息・融資手数料 | 販管費に入れている | 営業外費用 |
| 減価償却 | 前期と同じ方針なく償却額を増減させる | 継続して相当の償却を行う |
| 役員報酬 | 法人の利益を消す水準に設定 | 法人に利益を残す設計(改定は定期同額給与のルールの範囲で行う) |
付帯収入と臨時費用の区分の考え方は「収益は上に、費用は下に」で、修繕の区分は大規模修繕と特別損失で詳しく解説しています。毎期同じ程度の修繕をしている会社が、ある年だけ特別損失にする、といった継続性のない処理はできません。
BSのチェックリスト
| 確認項目 | 格付けを下げる処理・状態 | 実態に即して見直す処理 |
|---|---|---|
| 現預金 | 決算日直前に借入返済や支払で薄くなっている | 必要な支払の時期を計画し、月商の数か月分を目安に確保 |
| 未収家賃 | 回収見込みのない滞納分がそのまま残る | 回収を進め、回収不能なものは貸倒れの要件を確認して処理 |
| 役員貸付金・仮払金 | 精算されずに残高が残る(銀行は資産と認めないことが多い) | 決算前に精算し、発生しない資金の流れを作る |
| 販売用不動産 | 長期滞留して評価が下がっている | 保有目的を確認し、売却計画や評価の要否を検討 |
| 太陽光などの設備 | 簿価があるが換金性が低い(銀行はゼロに近い評価) | 保有の意義を再確認し、入れ替えを検討 |
| 短期借入金 | 長期資金を短期借入で賄い、流動比率を下げている | 実際に長期借入へ借り換える |
| 役員借入金 | 返済予定がないのに短期借入金に計上 | 契約と実態に合わせて長期借入金に(金銭消費貸借契約書を整える) |
| 未払金・買掛金 | 異常に膨らんでいる(資金繰り悪化のサイン) | 内容を確認し、期日どおりに支払う |
| 純資産 | 節税目的の資産購入で利益剰余金が積み上がらない | 利益を残し、まずは純資産1億円を目指す |
流動比率と借入の区分は「資産は上に、負債は下に」、純資産の積み上げ方は不動産事業者が純資産1億円を目指す道筋で整理しています。BSの区分を変えることは「見せ方」だけの話ではありません。借換えをする、精算する、売却するといった中身の改善があって初めて意味があります。
税務と会計がずれる項目のチェック
税務上の処理と決算書の処理が一致しない項目は、確認を後回しにしがちです。
| 項目 | 税務上の扱い | 会計上の扱い | 確認すること |
|---|---|---|---|
| 減価償却(法人) | 償却限度額の範囲で損金経理した額が損金(任意償却が可能) | 継続して相当の償却を行う | 償却不足を銀行は見ている(任意償却と償却不足) |
| 土地・建物の時価の大幅な下落 | 評価損は原則として損金にならない | 減損が必要な場合がある | 減損の要否と、税務上の申告調整 |
| 物件取得時の不動産取得税・登録免許税 | 法人は損金にできるものがある | 取得原価に含めるか費用処理か | 表示区分と継続性 |
| 加算税・延滞税 | 損金にならない | 追徴税額に含めて処理 | 申告書での加算漏れ(加算税・延滞税) |
| 税効果会計 | ― | 一時差異に重要性がなければ計上しないことができる(中小企業の会計に関する指針) | 採用している会計の基準の確認 |
判例:東京高裁平成25年7月19日判決(会計の基準と税務の基準は一致しない)
会計と税務のずれを考えるうえで参考になるのが、不動産の流動化をめぐる東京高等裁判所平成25年7月19日判決です(控訴棄却・確定。一次情報:国税庁税務訴訟資料 第263号-139(順号12263)、第一審は東京地裁平成25年2月25日判決・順号12154)。
- 事案:家庭用電気製品の販売会社が、平成14年に資金調達のため所有する土地・建物を信託し、その受益権を290億円で譲渡する不動産の流動化を行った。当初は信託財産の譲渡(売却)として会計処理し、法人税の申告もそれに沿って行っていた。その後、証券取引等監視委員会の指導を受け、日本公認会計士協会の「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」に従って、売却ではなく金融取引として扱う処理に過年度の会計処理を訂正し、それに基づいて法人税の更正の請求をした
- 争点:訂正後の会計処理が、法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に当たり、税務上も相当といえるか
- 判断:法人税法22条4項は、所得の計算を簡素なものとする目的で設けられた規定であり、ある会計処理の基準が同項の基準に当たるかは法人税法固有の観点から判断され、企業会計上の公正妥当な会計処理の基準とされるものと常に一致するものではないとした。受益権が契約により法的に譲渡され対価を現に得ている以上、その収益の実現を否定する取扱いを定めた実務指針は、税務上の基準には当たらないとして、更正の請求を認めなかった
- 実務への示唆:決算書の処理を会計の基準に沿って見直すことと、それが税務上もそのまま認められることは別問題です。不動産の売却・流動化・セールアンドリースバックのように、法的な形式と経済的な実態が分かれやすい取引では、会計上の処理と税務上の処理を、それぞれの基準で別々に検討する必要があります。この判決は、税務上の処理を会計の都合で動かすことも、会計上の表示を税務の処理に合わせて決めることも、どちらも慎重であるべきことを示しています
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行に出す前の指標チェック
決算書の数字が固まったら、銀行が計算する指標を自分で計算します。
| 指標 | 計算 | 目安(出典) |
|---|---|---|
| 債務償還年数 | (借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等) | 10年以内が健全、20年超は厳しい(著書のモデル) |
| ICR | (営業利益 + 受取利息・配当金)÷ 支払利息 | 2.0倍以上が健全、1.5倍未満は注意、1.0倍未満は危険水域(著書) |
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 | 100%を超えていれば向こう1年の支払に問題がないことを示す(著書) |
| 自己資本比率 | 純資産 ÷ 総資産 | 実態修正後の数字で確認 |
| 純資産 | 決算書の純資産と、銀行の実態修正後の純資産 | 正常先+純資産1億円がプロパー融資の目安(著書のモデル) |
| 格付けの点数 | 安全性34・収益性15・成長性25・返済能力55の129点満点 | 正常先の目安は32点以上(著書のモデル) |
著書のモデルでは、返済能力の55点のうち、中小企業が点を取りに行けるのは債務償還年数(20点)とICR(15点)だとしています。チェックリストで見直したPLの区分は営業利益・経常利益を通じてICRと債務償還年数に、BSの見直しは流動比率と自己資本比率に効きます。計算の手順は銀行に出す前の決算書チェックでも解説しています。
説明資料のチェック
決算書だけで伝わらないことは、資料で補います。著書の著者は、物件ごとの時価評価・残債・含み損益と主要指標を1枚のシートにまとめ、銀行から求められたら5分以内に送れる状態にしているといいます。
- 物件一覧(取得価額、帳簿価額、時価の目安、家賃収入、稼働率、残債、残債利回り)
- 借入一覧(金融機関、残高、金利、返済期間、担保)
- 直近の試算表(決算後も月次で更新)
- 臨時・多額の支出や売却損益があった期は、その内容と今後の見通しのメモ
- 修正申告があった場合は、原因・金額・再発防止策
- 今後の取得・売却の計画(3〜5年の財務の見通し)
まとめ
- 格付けを下げる処理の多くは、税務上は正しくても、決算書の区分や中身が実態を伝えていないもの
- PLは収益と費用の区分を、BSは銀行が資産と認めない科目と借入の区分を、決算の数か月前に確認する
- 区分を変えるだけでなく、借換え・精算・売却といった中身の改善を伴わせる
- 会計の基準に沿った処理でも、税務上そのまま認められるとは限らない。会計と税務は分けて、税理士・会計の専門家と検討する
- 最後に指標を自分で計算し、説明資料をそろえてから銀行に出す
決算前のチェックから、129点満点のモデルによる格付けの試算、銀行への説明資料づくりまで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
