店舗やオフィスのテナントが契約期間の途中で退去する。賃貸借契約には「期間内に解約する場合は賃料の◯か月分を違約金として支払う」「保証金は返還しない」といった条項が入っていることが多く、まとまった金額が貸主に入ります。また、家賃を滞納した入居者から遅延損害金を回収したり、退去が遅れた入居者から損害金を受け取ったりすることもあります。
中途解約違約金・遅延損害金の収入は、「家賃とは違う臨時の収入だから一時所得」と考えてしまいがちですが、個人では原則として不動産所得になります。消費税も、違約金は不課税、明渡し遅延の損害金は課税というように、名目と実質で結論が分かれます。この記事では、税務・会計・銀行の視点から整理します。
- 中途解約違約金、解約で返還不要となった敷金・保証金は、個人は不動産所得(一時所得ではない)。収益の補償として受け取るもの(所得税法施行令94条1項2号、平成16年4月26日裁決)
- 補償の期間が3年以上なら臨時所得として平均課税の対象になり得るが、3年未満なら対象外
- 法人はすべて益金。損害賠償金・遅延損害金は、支払を受けるべきことが確定した期(または受領した期)に計上(法人税基本通達2-1-43)
- 消費税:中途解約違約金は不課税。明渡し遅延の損害金や割増賃料は貸付けの対価として課税(住宅は非課税)
- 会計上は臨時・多額なら特別利益。銀行は一過性の収入とみて、退去後の空室の影響を重視する
受け取るお金の種類と税務上の扱い
| 受け取るお金 | 内容 | 個人(所得税) | 法人 |
|---|---|---|---|
| 中途解約違約金 | 期間内解約による賃料◯か月分など | 不動産所得 | 益金 |
| 返還不要となった敷金・保証金 | 解約時に違約金として没収 | 不動産所得(返還不要が確定した日) | 益金 |
| 家賃の遅延損害金 | 滞納家賃に対する年◯%の損害金 | 不動産所得 | 益金 |
| 明渡し遅延の損害金・割増賃料 | 契約終了後も退去しない期間の賃料相当額 | 不動産所得 | 益金 |
| 原状回復費の精算 | 敷金からの差引き | 不動産所得 | 益金 |
原状回復費の精算については入居者の過失による損傷の修繕と保険金・損害賠償金で解説しています。
個人:一時所得ではなく不動産所得
一時所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務または資産の譲渡の対価としての性質を有しないものです。中途解約違約金は臨時に受け取るものですが、賃貸業務を行うなかで、本来得られたはずの賃料収入の補償として受け取るものです。
所得税法施行令94条1項2号は、不動産所得を生ずべき業務を行う居住者が、業務の全部または一部の休止、転換、廃止その他の事由により業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するものは、不動産所得の収入金額とするとしています。中途解約違約金は、これに当たると考えられます。
収入の時期
| 受け取るお金 | 個人の収入時期 | 法人の益金計上時期 |
|---|---|---|
| 中途解約違約金 | 解約の合意・申入れにより支払義務が確定した日 | 同左 |
| 返還不要となった敷金・保証金 | 返還を要しないことが確定した日(所得税基本通達36-7) | 同左 |
| 遅延損害金 | 権利が確定した日(判決等で確定する場合はその日、その後は日々発生した日) | 確定した期、または受領した期(法人税基本通達2-1-43) |
所得税基本通達36-7は、敷金等のうち貸付期間が終了しなければ返還を要しないことが確定しない部分は、貸付けが終了して返還を要しないことが確定した日の収入としています(所得税基本通達 第36条関係)。法人税基本通達2-1-43は、他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む)は、支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金とし、実際に支払を受けた日の属する事業年度に計上している場合はこれを認めるとしています(法人税基本通達 第2章第1節第7款)。
臨時所得と平均課税
個人の不動産所得のうち、一定の場所での業務の休止・転換・廃止により、3年以上の期間の不動産所得の補償として受ける補償金に係る所得は臨時所得とされます(所得税法施行令8条3号)。臨時所得の金額などがその年の総所得金額の20%以上であれば、平均課税(所得税法90条)により税負担を抑えられる場合があります。
ただし、平均課税は確定申告書に適用を受ける旨と計算の明細を記載した場合に限り適用されます。後から「臨時所得だった」と主張しても、記載がなかったことにやむを得ない事情がなければ適用されません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 業務の休止・転換・廃止により、3年以上の期間の不動産所得等の補償として受ける補償金 |
| 適用要件 | 変動所得・臨時所得の金額がその年の総所得金額の20%以上など |
| 手続 | 確定申告書に適用を受ける旨と明細を記載 |
| 注意 | 補償期間が3年未満なら臨時所得に当たらない |
公表裁決事例
平成16年4月26日裁決(裁決事例集No.67・135頁):返還不要の敷金・建設協力金は不動産所得
- 事案:個人が所有する店舗・倉庫を、借主の希望する設計で建築し、借主から預かった建設協力金を建築資金に充てて賃貸していた。借主が中途解約し、契約では敷金と建設協力金の残額を違約金として没収できるところ、代替借主を紹介したことから減額して合意し、返還不要となった金額を請求人は一時所得として申告した
- 判断:建設協力金・敷金は賃貸借契約と密接な関連性を有し、返還不要となった金額は、本来違約金として没収できた額を代替借主の存在を考慮して減額したにすぎず、そのすべてを契約の解約によって生ずる損失等に対する補償として取得したものであるから、所得税法施行令94条1項2号の「収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に当たり、不動産所得の収入金額であるとした。また、補償に係る期間は月額賃料で除しておよそ35か月分であり、3年に満たないから臨時所得に該当せず、そもそも確定申告書に平均課税の記載がなかったことにやむを得ない事情もないとして、平均課税の適用も認めなかった
- 確認先:国税不服審判所 平成16年4月26日裁決
違約金や没収した保証金を一時所得として申告すると、50万円の特別控除と2分の1課税を適用した分だけ過少申告になります。この事例では、不動産所得とされたうえ、臨時所得の平均課税も認められませんでした。
令和2年4月21日裁決:遅延損害金は判決確定まで一括、その後は発生の都度
- 事案:所有地を無断で第三者に貸し付けられた所有者が、不法行為に基づく賃料相当の損害金と遅延損害金の支払を命じる判決を得たが、申告していなかった
- 判断:賃料相当損害金は判決が確定した年分の不動産所得の総収入金額に計上すべきとし、遅延損害金のうち判決確定日までの分は判決が確定した年分、判決確定日の翌日以降の分は、元本が弁済されるまで日々発生した日の属する各年分の不動産所得の総収入金額に計上すべきとした
- 確認先:国税不服審判所 令和2年4月21日裁決
滞納家賃の回収でも、遅延損害金は不動産所得の収入です。判決後に分割で回収している場合などは、毎年その年に発生した分を計上する必要があります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る消費税:違約金は不課税、明渡し遅延の損害金は課税
国税庁のタックスアンサーNo.6261は、建物賃貸借契約に関連する受取金について、次のように整理しています(国税庁 タックスアンサーNo.6261 建物賃貸借契約の違約金など)。
| 受け取るお金 | 消費税 | 理由 |
|---|---|---|
| 中途解約の違約金(数か月分の家賃相当額) | 不課税 | 中途解約に伴う逸失利益を補てんする損害賠償金 |
| 保証金等から差し引く原状回復工事費用 | 課税 | 賃借人に代わって行う原状回復工事という役務の提供の対価 |
| 契約期間終了後も立ち退かない入居者から受け取る割増賃料(店舗・事務所) | 課税 | 正当な権利なく使用していることに対する割増賃貸料の性格 |
| 同上(住宅) | 非課税 | 住宅の貸付けの対価 |
また、消費税法基本通達5-2-5は、損害賠償金のうちその実質が資産の譲渡等の対価に該当するものの例として、不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金を挙げています(国税庁 タックスアンサーNo.6257 損害賠償金)。名目が「損害金」でも、明渡しが遅れた期間の使用の対価とみられるものは、貸付けの対価として扱います。
家賃の支払遅延に対する遅延損害金は、金銭の支払が遅れたことに対する損害の賠償であり、資産の貸付けそのものの対価ではないと整理するのが一般的ですが、契約上の名目と実質によって判断が分かれる余地があるため、課税事業者の貸主は顧問税理士と区分を確認してください。不課税と非課税は課税売上割合の計算で扱いが異なる(不課税は分母にも分子にも入らない)点にも注意が必要です。
借主側の処理
違約金を支払う借主の側では、法人なら損金、個人事業者なら事業の必要経費です。借主が事務所・店舗を移転するために中途解約した場合、違約金は移転に伴う費用として、その期の費用とするのが通常です。消費税は、受け取る側で不課税とされる違約金は、支払う側でも課税仕入れになりません。
会計上の扱いと決算書の表示
税務上は、違約金・遅延損害金がどの所得に当たり、いつ計上するかが論点です。一方、決算書の表示区分は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」が実務の拠り所になります。
| 項目 | 主な表示 | 考え方 |
|---|---|---|
| 少額で、毎期のように生じる違約金 | 売上高または営業外収益 | 賃貸業務に付随して経常的に生じる |
| 臨時・多額の中途解約違約金、没収した保証金 | 特別利益を検討 | 臨時の収益 |
| 家賃の遅延損害金 | 営業外収益(雑収入など) | 金銭債務の履行遅滞に対する損害金 |
| 明渡し遅延の損害金・割増賃料 | 売上高(賃料相当) | 使用の対価としての性格 |
著書では「収益は上に、費用は下に」という考え方を紹介していますが、これは本業の収益を正しく売上高に表示するという意味です。賃貸借契約に基づいて経常的に受け取るものは売上高に含める余地がある一方、テナントの退去に伴う臨時・多額の違約金を売上高に入れて営業利益を大きく見せることは、実態と違う表示になりかねません。税務上の益金算入とは別に、どの区分にするかは企業会計の基準に沿って、取引の実態で判断する必要があります。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
| 見られる点 | 違約金・遅延損害金との関係 |
|---|---|
| 経常的な収益力 | 違約金は一過性。経常利益に入っていても割り引いて見られる |
| 退去後の空室 | 違約金を受け取った後、次のテナントが決まるまで家賃が途絶える |
| 純資産・現預金 | 違約金の受取り(税引後)で一時的に厚くなる |
| 滞納の状況 | 遅延損害金の発生は、滞納テナントの存在を示す |
大口テナントの退去で違約金が入った期は、利益と現預金が一時的に増えますが、銀行はむしろ「次のテナントが決まるまでの空室期間」と「賃料水準の見通し」を重視します。著書のモデルでは債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」を重視しますが、違約金を含めた経常利益で計算した数字は、翌期以降も続くものではありません。違約金の受取りと同時に、後継テナントの募集状況とリーシングの見通しを説明できるようにしておくことが大切です。空室期間の費用は空室中の水道光熱費・維持費、滞納が続く場合の処理は滞納家賃と貸倒損失の要件をご覧ください。
実務のチェックポイント
- 契約書の違約金条項を確認する:違約金の額、敷金・保証金の没収、予告期間
- 解約合意書で名目と金額を明確にする:違約金か、賃料か、原状回復費か
- 個人は不動産所得として申告する:一時所得にしない
- 臨時所得の要件を確認する:補償期間が3年以上か。適用するなら申告書に記載
- 収入の時期を確定日で判断する:返還不要が確定した日、支払義務が確定した日
- 消費税の区分を確認する:違約金は不課税、明渡し遅延の損害金・割増賃料は課税(住宅は非課税)、原状回復費は課税
- 遅延損害金は発生の都度計上する:判決後の分割回収など
- 後継テナントの見通しを銀行に説明する:一過性の収入と空室リスクを分けて示す
礼金・敷金・更新料の扱いは礼金・敷金・保証金・更新料の処理、家賃の計上時期は家賃収入の計上時期、売上に計上できる収入の考え方は「収益は上に、費用は下に」:PLの表示区分と銀行格付けもあわせてご覧ください。
まとめ
- 中途解約違約金や没収した敷金・保証金は、個人では一時所得ではなく不動産所得(所得税法施行令94条1項2号、平成16年4月26日裁決)
- 補償期間が3年以上なら臨時所得として平均課税の対象になり得るが、申告書への記載が必要
- 法人はすべて益金。損害賠償金・遅延損害金は確定した期(または受領した期)に計上する
- 消費税は、中途解約違約金は不課税、明渡し遅延の損害金・割増賃料は貸付けの対価として課税(住宅は非課税)
- 会計上は臨時・多額なら特別利益を検討。銀行には一過性の収入と退去後の空室リスクを分けて説明する
テナントの退去は、税務、決算書、資金繰り、次のリーシングが一度に動く場面です。早めに不動産投資家向けサービスへご相談ください。
