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入居者の過失による損傷の修繕と保険金・損害賠償金の処理|法人は益金、個人は必要経費の補てん部分が収入、敷金精算は消費税の課税対象

入居者がお風呂の水を出しっぱなしにして下の階まで水漏れさせた、家具の移動で床を大きく傷つけた、たばこの火で壁を焦がした。賃貸経営では、入居者の過失による損傷は珍しくありません。修繕費は貸主がいったん負担し、入居者本人や入居者が加入している保険(借家人賠償責任保険など)、あるいは貸主自身の火災保険から回収するのが一般的な流れです。

入居者の過失による損傷の修繕と、保険金・損害賠償金の処理は、法人と個人で考え方が大きく違います。さらに、敷金から差し引いて精算する場合と、損害賠償として受け取る場合とで、消費税の扱いも変わります。この記事では、税務・会計・銀行の3つの視点で整理し、公表裁決事例も紹介します。

この記事の結論
  • 損傷部分を元に戻す修繕費は、法人・個人ともその期の経費。性能を高める部分は資本的支出
  • 法人:受け取った保険金・損害賠償金は益金。支払を受けるべきことが確定した期(または受領した期)に計上する(法人税基本通達2-1-43)
  • 個人:資産の損害についての保険金・賠償金は原則非課税だが、必要経費を補てんする部分は総収入金額(所得税法施行令30条)。家賃の補償は収入(同94条)
  • 消費税は、損害賠償金・保険金は不課税。ただし、敷金から差し引く原状回復費用や原状回復義務を消滅させる合意金は課税(国税庁質疑応答、平成21年4月21日裁決)
  • 決算書では修繕費と受取額を両建てで表示し、銀行には一過性の損失と回収状況を説明する

まず整理する:誰が、何に対して払うお金か

入居者の過失による損傷では、お金の流れが複数あります。処理を決める前に、どの経路で、何の名目で受け取るのかを整理します。

受け取るお金支払う人性格
損害賠償金入居者本人、連帯保証人資産に加えられた損害の賠償
賠償責任保険の保険金入居者が加入する保険会社(借家人賠償責任保険など)入居者の賠償責任を保険会社が肩代わり
貸主の火災保険の保険金貸主が加入する保険会社(破損・汚損、水濡れなどの補償)貸主自身の資産の損害の補てん
敷金からの差引額入居者(敷金との相殺)原状回復工事の費用相当額
原状回復の合意金入居者原状回復義務を消滅させる合意の対価
家賃の補償入居者、保険会社修繕期間中に貸せなかった家賃の補てん

下の階の入居者や隣室に被害が及んだ場合、貸主が他の入居者に修繕や補償を行い、その費用を原因者や保険会社に求償することもあります。この場合も、貸主の支出と受取りを分けて記録します。

税務上の扱い:法人と個人の違い

修繕費は原則としてその期の経費

損傷した部分を元の状態に戻すための修繕は、法人・個人とも原則として支出した期の修繕費です。損傷を機に設備のグレードを上げる、間取りを変えるといった部分は資本的支出になり得ます。修繕費と資本的支出の区分は修繕費と資本的支出の判定事例、退去時の原状回復とリノベーションの違いはこちらの記事で解説しています。

法人:受取額は益金、計上時期に注意

法人が受け取る保険金・損害賠償金は、すべて益金です。計上時期について、法人税基本通達2-1-43は、他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む)は、支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金とし、実際に支払を受けた日の属する事業年度に益金算入している場合はこれを認めるとしています。また、その損害に係る損失の額は、保険金等で補てんされる部分を除き、損害が発生した日の属する事業年度の損金とすることができるとしています(法人税基本通達 第7款 その他の収益等)。

決算期をまたいで、修繕は当期、賠償金の確定・入金は翌期ということはよくあります。その場合、当期は修繕費だけが計上され、翌期に益金が立つことになります。

個人:非課税と収入の境目

個人の場合、所得税法9条1項18号と所得税法施行令30条により、資産の損害に基因して受ける損害保険金や、突発的な事故により資産に加えられた損害についての損害賠償金は、原則として非課税です。ただし、施行令30条は、これらの額のうちに各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、その金額を非課税の範囲から除くとしています。

受け取ったお金個人の扱い
修繕費(必要経費に算入)の補てんとして受けた保険金・賠償金不動産所得の総収入金額
修繕せずに建物の価値が下がった部分の補てん非課税。資産損失を計上する場合はその額から差し引く
修繕期間中の家賃の補償不動産所得の総収入金額(所得税法施行令94条1項2号)
敷金からの差引額、原状回復の合意金不動産所得の総収入金額

つまり、修繕費を必要経費に計上して、その補てんを受け取ったら、受取額も収入に計上するのが基本です。修繕費だけ経費にして、受け取った保険金を「非課税だから」と申告しないのは誤りです。

また、所得税法施行令94条は、不動産所得を生ずべき業務を行う人が、業務の休止などにより業務の収益の補償として取得する補償金などは、不動産所得の収入金額とするとしています。修理のために部屋を貸せなかった期間の家賃相当額を受け取った場合は、家賃と同じく収入です。

項目法人個人(不動産所得)
修繕費損金必要経費
修繕費の補てん(保険金・賠償金)益金総収入金額(施行令30条かっこ書)
資産の価値の減少の補てん益金非課税(資産損失から控除)
家賃の補償益金総収入金額(施行令94条)
計上時期確定した期、または受領した期(法基通2-1-43)収入すべき権利が確定した年
保険金で代替資産を取得圧縮記帳の制度あり圧縮記帳の制度なし

火災などで建物が大きく損壊し、保険金で建て直す場合は、法人には保険差益の圧縮記帳の制度があります。詳しくは火災保険金の受取りと圧縮記帳で解説します。

消費税:賠償金は不課税、敷金精算の原状回復費は課税

損害賠償金・保険金は不課税

心身または資産に加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金は、資産の譲渡等の対価に当たらず不課税です(消費税法基本通達5-2-5)。国税庁の質疑応答事例でも、事業用資産の損害を自己で修理した費用は課税仕入れに当たり、加害者から受けた損害賠償金や損害に係る保険金には課税関係が生じないとしています(国税庁 質疑応答事例「損害を被った場合の修理の費用」)。

敷金から差し引く原状回復費用は課税

一方、退去時に敷金・保証金から原状回復工事の費用相当額を差し引く場合について、国税庁は、建物の賃借人には退去に際して原状に回復する義務があり、賃借人に代わって賃貸人が原状回復工事を行うことは賃貸人の賃借人に対する役務の提供に当たるとして、差し引く費用相当額は課税の対象になるとしています(国税庁 質疑応答事例「建物賃貸借に係る保証金から差し引く原状回復工事費用」、タックスアンサーNo.6261)。照会はマンションの賃貸についてのものであり、住宅の貸付けであっても、原状回復の費用相当額は家賃ではなく役務の対価として課税です。

受け取り方消費税
入居中の事故について、入居者や保険会社から損害賠償として受け取る不課税
貸主自身の火災保険から保険金を受け取る不課税
退去時に敷金から原状回復工事費用を差し引く課税
原状回復義務を消滅させる合意金を受け取る課税(平成21年4月21日裁決)

同じ「直した費用の回収」でも、名目と合意の内容で結論が変わります。課税事業者の貸主は、精算書や合意書で、損害賠償なのか原状回復工事の対価なのかを明らかにしておくことが重要です。

公表裁決事例

平成21年4月21日裁決(裁決事例集No.77・495頁):原状回復の合意金は収入であり、消費税も課税

  • 事案:不動産貸付業を営む個人が、建物の賃貸借契約の終了に伴い、賃借人と合意書を交わし、敷金を原状回復費用に充当したうえで追加金を受け取った。請求人はこれを仮受金(預り金)とし、消費税の課税対象にもならないとして申告した
  • 判断:合意は、賃借人の原状回復義務を消滅させる一方で賃借人に一定の経済的負担を負わせ、原状回復に関わる法律関係を整理したものである。請求人は原状回復義務を消滅させるという便益を提供しており、敷金充当額と追加金の合計は課税資産の譲渡等の対価に当たる。また、合意により敷金の返還義務がないことが確定し、追加金の収入すべき時期も到来することが確実になったから、合意書を交わした日の属する年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきとした。合意金の大部分が工事業者に支払われるとしても、それは課税仕入れとして仕入税額控除の対象になり得るものであり、預り金とする主張は採用できないとした
  • 確認先:国税不服審判所 平成21年4月21日裁決

平成16年2月27日裁決(裁決事例集No.67・264頁):原状回復費用名目の金員は契約終了年の収入

2つの裁決に共通するのは、精算しない約束で受け取った原状回復費用は、工事が終わる前でも受け取った時点で収入になるという点です。工事が翌年になる場合、収入は今年、修繕費は翌年という期ズレが起きます。高額な原状回復の合意をする場合は、工事の時期と決算期を意識して計画してください。

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会計上の扱いと決算書の表示

税務上は、受け取った保険金・損害賠償金が益金や総収入金額になるか、いつ計上するかが論点です。一方、決算書のどこに表示するかは、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。中小企業であれば「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」が実務の拠り所です。

項目主な表示考え方
通常規模の修繕費賃貸原価または販管費賃貸経営で通常生じる費用
保険金・損害賠償金の受取り営業外収益(受取保険金、雑収入など)本業の賃貸収入ではない
臨時・多額の損傷の修繕・損失実態により特別損失への表示を検討できる場合がある対応する保険金は特別利益とすることが多い
敷金から差し引いた原状回復費・合意金売上高または営業外収益(会社の方針と実態による)賃貸借契約の終了に伴う収益

著書では「収益は上に、費用は下に」という考え方を紹介していますが、受取保険金はもともと本業の収益ではないため、営業外収益に置くのが自然です。修繕費と保険金を相殺して純額で表示すると、損傷の規模も回収の状況も決算書から読み取れなくなります。原則として両建てで計上し、修繕費をどの区分にするかは、税務上の損金算入とは別に、企業会計の基準に沿って判断する必要があります。どの区分にできるかは取引の実態次第なので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

処理営業利益経常利益純資産
修繕費(販管費)と保険金(営業外収益)を両建て修繕費の分だけ減るほぼ影響なし(回収額による)ほぼ影響なし
修繕は当期、保険金の確定は翌期当期に減る当期に減り、翌期に戻る当期に減り、翌期に戻る
臨時・多額で特別損失と特別利益に表示影響なし影響なし差額だけ動く

ICRは営業利益を基準に見ることが多いため、保険金で回収できていても、修繕費を販管費に計上すれば当期の営業利益は下がります。また、決算期をまたぐと当期は費用だけが残ります。著書のモデルでは債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で見るため、経常利益の一時的な落ち込みは、回収見込みとあわせて説明することが大切です。

銀行に説明するときは、次の資料をそろえておくと伝わりやすくなります。

  • 事故の内容、発生日、損傷の範囲
  • 修繕の見積書・請求書と、修繕費か資本的支出かの区分
  • 保険会社の支払通知、示談書、合意書
  • 回収が翌期になる場合は、請求額と入金予定時期

実務のチェックポイント

  1. 受け取るお金の名目を確認する:損害賠償金か、保険金か、敷金からの原状回復費か、合意金か
  2. 修繕費と資本的支出を分ける:損傷部分の原状回復と、グレードアップ部分
  3. 個人は補てん分を収入に計上する:修繕費を経費にしたら、その補てんは非課税ではない
  4. 家賃の補償は収入:修繕期間中の家賃相当額
  5. 法人は計上時期を決める:確定した期か受領した期か、継続して同じ方法で
  6. 消費税の区分を確認する:賠償金・保険金は不課税、敷金精算の原状回復費・合意金は課税
  7. 精算しない合意は受取時に収入:工事が翌期になる場合の期ズレに注意
  8. 決算書では両建てで表示する:修繕費と受取額を相殺しない

保険料の処理は火災保険・地震保険の長期一括払いの処理、災害による損傷は災害による修繕費・災害損失の処理、敷金の扱いは礼金・敷金・保証金・更新料の処理もあわせてご覧ください。

まとめ

  • 入居者の過失による損傷の修繕は、原則としてその期の修繕費
  • 法人は保険金・損害賠償金を益金に計上し、計上時期は確定した期か受領した期(法人税基本通達2-1-43)
  • 個人は、資産の損害についての保険金・賠償金は原則非課税だが、必要経費を補てんする部分と家賃の補償は不動産所得の収入
  • 消費税は、賠償金・保険金は不課税、敷金から差し引く原状回復費や原状回復の合意金は課税
  • 精算しない約束の原状回復費用は受け取った時点で収入(平成21年4月21日裁決、平成16年2月27日裁決)。決算書は両建てで表示し、銀行には回収状況を説明する

事故や損傷が起きたときは、修繕の手配と同時に、保険・賠償の請求と決算書への影響を整理しておくと、後で慌てずに済みます。不動産投資家向けサービスでご相談ください。

よくある質問

入居者の不注意で壊れた設備を直し、入居者の保険から修理代が支払われました。個人の大家は申告が必要ですか?
必要です。修理代は修繕費として不動産所得の必要経費になりますが、所得税法施行令30条は、資産の損害について受ける保険金や損害賠償金のうち、必要経費に算入される金額を補てんするための部分を非課税の範囲から除いています。修繕費を必要経費にしたうえで、その修理代の補てんとして受け取った保険金・賠償金は、不動産所得の総収入金額に計上します。結果として、修繕費と受取額が見合っていれば所得への影響はほぼなくなります。
敷金から原状回復費用を差し引いた場合、消費税はかかりますか?
国税庁は、賃借人には退去時の原状回復義務があるため、賃借人に代わって賃貸人が原状回復工事を行うことは役務の提供に当たり、保証金から差し引く原状回復工事費用相当額は課税の対象になるとしています。住宅の貸付けであっても、この部分は家賃ではなく役務の対価なので課税です。一方、損害の発生に伴って受け取る損害賠償金や保険金は不課税です。どちらの性格の金銭かを合意書で明らかにしておくことが大切です。
法人が入居者に損害賠償を請求していますが、まだ支払われていません。いつ益金に計上しますか?
法人税基本通達2-1-43では、他の者から支払を受ける損害賠償金は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金とし、実際に支払を受けた日の属する事業年度に益金算入している場合はこれを認めるとしています。損害による損失(修繕費など)は、保険金等で補てんされる部分を除き、損害が発生した事業年度の損金とすることができます。示談書や判決で金額が確定した時期を記録しておきます。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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