不動産賃貸業では、税理士への顧問料や申告報酬、弁護士への報酬、物件取得や運営のコンサルタントへの報酬など、専門家に支払う費用が少なくありません。これらの報酬は、物件の取得に関連するものは取得価額、経営・管理のためのものは期間費用というのが基本の考え方です。
ただし、名目が「顧問料」「コンサル料」でも、中身が特定の物件の取得のための報酬なら取得価額に入りますし、弁護士報酬も、どんな紛争のための報酬かで扱いが変わります。この記事では、税理士・弁護士・コンサル報酬の処理を、法人と個人の違い、会計上の表示、銀行の見方、公表裁決事例とあわせて整理します。
- 特定の物件を取得するための報酬(買付コンサル、取得に関する争いの弁護士費用など)は、原則として取得価額
- 経営・管理のための報酬(顧問料、申告報酬、賃料滞納の回収・明渡しの弁護士費用など)は、その期の費用
- 個人の場合、相続税の申告報酬のように賃貸業と関係のない報酬は必要経費にならない
- 弁護士・税理士などの個人に報酬を払う法人・給与支払者の個人は、源泉徴収が必要
- 取得関連の報酬をまとめて費用にすると、その期の営業利益が小さく見える。表示はGAAP(一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って実態で判断する
報酬は「何のための支払か」で分ける
専門家への報酬は、支払先の資格や名目ではなく、どの資産・どの業務のための支払かで区分します。
| 報酬の内容 | 原則的な扱い | 考え方 |
|---|---|---|
| 税理士の顧問料・記帳指導・決算申告報酬 | 期間費用 | 賃貸業の経営・管理のための費用 |
| 法人設立時の手続報酬 | 創立費(繰延資産、任意償却) | 法人の設立のための費用 |
| 物件の買付・交渉・購入手配のコンサル報酬 | 取得価額 | 購入のために要した費用 |
| 物件取得のための調査(デューデリジェンス)費用 | 取得価額が原則(取得しなかった場合は費用) | 特定の資産の取得との関連 |
| 取得に関し争いのある資産の訴訟・和解の弁護士費用 | 取得価額(取得費) | 所有権等を確保するための費用 |
| 賃料滞納の回収、契約違反による明渡しの弁護士費用 | 期間費用 | 賃貸業の運営のための費用 |
| 賃貸中の物件の運営・リーシングのコンサル報酬 | 期間費用 | 保有物件の運営のための費用 |
| 融資のアレンジ手数料 | 期間按分が基本 | 借入期間に対応する費用 |
| 相続税申告・遺産分割の報酬(個人) | 必要経費にならない | 賃貸業と関係のない家事上の費用 |
取得価額に入る理由
法人税法施行令第54条第1項は、購入した減価償却資産の取得価額を、購入の代価と、購入のために要した費用、事業の用に供するために直接要した費用の合計としています。個人の譲渡所得の取得費も、所得税法第38条第1項で「資産の取得に要した金額」とされています。特定の物件を取得するために依頼した専門家の報酬は、この「購入のために要した費用」に当たると考えるのが自然です。
国税庁のタックスアンサー(No.5400)では、法人が立退き費用を自社で負担する約束で不法居住者のいる家屋を購入し、その後に支出した裁判費用・弁護士費用について、建物の取得価額に算入するとしています。同時に、売掛代金の取立てのための費用のように資産の取得に直接関係のない裁判費用等は、その都度損金にするとも示されています。
所得税でも、所得税基本通達38-2で、取得に関し争いのある資産につき、その所有権等を確保するために直接要した訴訟費用・和解費用等は、必要経費に算入されたものを除き資産の取得に要した金額とするとされています。
取得価額に算入しないことができる費用
法人の場合、法人税基本通達7-3-3の2で、固定資産の取得に関連して支出するものでも取得価額に算入しないことができる費用が示されています。不動産取得税、登録免許税その他登記のために要する費用のほか、建設計画の変更で不要になった調査・設計等の費用、いったん締結した取得契約を解除して別の資産を取得する場合の違約金です。登記のための司法書士報酬の扱いは司法書士報酬・登記費用の処理で解説しています。コンサル報酬や弁護士報酬は、この例示には含まれていません。
法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 税理士の顧問料・申告報酬 | 損金 | 不動産所得の申告に関する部分は必要経費 |
| 相続税・贈与税の申告報酬 | 法人には通常生じない | 必要経費にならない |
| 取得関連のコンサル・弁護士報酬 | 取得価額(減価償却資産なら償却で費用化、土地部分は費用化されない) | 取得価額(取得費)。土地部分は売却時に取得費として控除 |
| 1棟目の取得前の報酬 | 設立後なら原則として取得価額か期間費用 | 業務開始前の取得関連費用は取得価額 |
| 報酬を払うときの源泉徴収 | 個人の弁護士・税理士等への報酬は源泉徴収が必要 | 給与の支払をしていない個人は不要 |
| 経費の範囲の考え方 | 事業目的の支出は原則として損金 | 業務との関連が必要。家事関連費は区分が必要 |
個人の場合、税理士報酬のうち、不動産所得の申告と関係のない部分(給与所得者としての医療費控除の手続、相続税の申告など)は必要経費になりません。一つの請求書にまとめられている場合は、内訳を出してもらうと説明がしやすくなります。経費の範囲の違いは個人と法人で経費にできる範囲の違いで詳しく整理しています。
源泉徴収の要否
国税庁のタックスアンサー(No.2792、No.2798)では、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士など特定の資格を持つ個人に支払う報酬は源泉徴収の対象とされています。税率は、同じ人に1回に支払う金額のうち100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です(令和9年分以後は防衛特別所得税が加わるため、適用年分の税率を確認してください)。
ただし、支払者が個人で、給与等の支払をしていない場合は源泉徴収は不要です。一方、青色事業専従者やパートに給与を払っている個人の大家は、たとえ給与にかかる源泉税額がなくても、源泉徴収が必要になります。支払先が税理士法人・弁護士法人などの法人であれば、源泉徴収は不要です。
会計上の扱いと表示
取得原価に含める付随費用
企業会計原則では、固定資産の取得原価には、原則として引取費用などの付随費用を含めるとされています。特定の物件の取得のためのコンサル報酬や、取得に関する争いの弁護士費用は、会計上も取得原価に含めるのが基本です。土地と建物を一括で取得した場合は、取得原価に含める報酬も土地・建物に按分します(購入時の仲介手数料と按分を参照)。
期間費用は販管費
顧問料・申告報酬・管理のための弁護士費用は、通常の営業活動に伴う費用として販売費及び一般管理費(支払報酬)に表示します。
税務上は、その報酬がいつ損金・必要経費に算入されるか(取得価額か期間費用か)が論点になります。一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。たとえば、物件の取得をやめたことで不要になった調査費用や、一度きりの大きな訴訟の費用が、臨時・多額で特別損失に当たるかどうかは、その会社の規模や頻度によって判断が分かれます。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方
取得関連の報酬を費用にすると、営業利益が小さく見える
物件を取得した期に、本来は取得価額に入る買付コンサル報酬を販管費に計上すると、その期の営業利益が実態より小さく見えます。著書のモデルでは、ICRの分子に営業利益、債務償還年数の分母に経常利益(と減価償却費)が入るため、物件を買った期ほど数字が悪く見える、という逆転が起きます。
| 項目 | 取得価額に含めた場合 | 販管費にした場合 |
|---|---|---|
| その期の営業利益 | 影響は減価償却分のみ | 報酬の全額だけ減る |
| ICR・債務償還年数 | 物件の実力どおりに見える | 取得した期だけ悪化する |
| 純資産 | 取得原価に含まれる | 費用の分だけ小さくなる |
| 税務 | 建物部分は償却で費用化、土地部分は売却まで費用化されない | 損金・必要経費の要件を満たす場合に限り可能 |
ただし、取得価額に入れるか費用にするかは、利益の見え方で選ぶものではなく、報酬の中身で決まります。
銀行が気にする「報酬」の中身
銀行は、支払報酬の金額だけでなく、誰に払っているかも見ます。
- 代表者の親族や関連会社へのコンサル報酬が毎期大きい:利益の外部流出として、実質的な収益力を割り引いて見られることがある
- 金額の根拠となる契約書や業務の実績がない:税務上も損金性が問題になりやすい
- 期ごとに大きく変動する:一過性か継続かの説明が必要
関連会社に管理料やコンサル料を払う場合の考え方は、不動産管理会社方式と管理料率の争いで解説しています。
公表裁決事例:弁護士報酬が「取得費」とされた事例
借地権の取得に関連した弁護士報酬は取得費(令和7年5月20日裁決)
不動産賃貸業を営む個人が、自己の所有地の借地権と、その上の建物を訴訟上の和解により取得し、建物の賃借人に移転補償料を払って明渡しを受けたうえで建物を取り壊した事案です(国税不服審判所)。請求人は、弁護士報酬・移転補償料・取壊し費用・建物の未償却残高を不動産所得の必要経費に算入しました。
請求人は、弁護士報酬は土地の正常な利用を回復し賃貸事業を運営するための費用だと主張しましたが、審判所は、訴訟では借地権の存否が争われ、和解により借地権を買い受けたこと、建物は当初から取り壊して借地権を利用する予定だったことから、弁護士報酬を含む各費用はいずれも借地権の取得に関連して発生した費用であり、借地権の取得費に算入すべきで、不動産所得の必要経費には算入できないと判断しました。
実務への示唆:同じ「土地の明渡しを求める訴訟」の弁護士報酬でも、結果として権利を取得したのであれば、取得費とされることがあります。訴訟の目的と結果(何を取得したか)を整理しておくことが重要です。
遺産分割の弁護士費用は取得費に当たらない(平成21年2月13日裁決)
相続した土地を譲渡した際、遺産分割の手続で支払った弁護士費用を取得費に含められるかが争われた事例です(裁決事例集No.77・59頁、国税不服審判所 要旨)。審判所は、遺産分割の際の弁護士費用等は一般に相続人間の紛争を解決するための費用であり、資産を取得するために通常必要と認められる費用とはいえないとして、取得費に当たらないと判断しました。
実務への示唆:相続に関連する専門家報酬は、不動産所得の必要経費にも、譲渡所得の取得費にもならない場合があります。相続した賃貸物件に関する報酬は、何の業務に対する報酬かを分けて考える必要があります。
対照的な事例:賃貸業務の継続のための支出は必要経費(令和元年9月20日裁決)
賃料を払わない土地の賃借人から法的手続で明渡しを受け、賃借人所有の建物を収去するために支出した費用について、原処分庁は家事上の経費だと主張しましたが、審判所は、賃貸業務は収去に至るまで継続しており、支出は不動産所得を生ずべき業務と直接関係し業務の遂行上必要なものだったとして、必要経費に算入できると判断しました(国税不服審判所)。弁護士報酬そのものの事例ではありませんが、賃貸業務を続けるための法的対応の費用が必要経費と判断された例として参考になります。
実務のチェックポイント
- 報酬の請求書・契約書に、どの物件・どの業務に対する報酬かが書かれているか
- 特定の物件の取得のための報酬を、取得価額に含めたか(土地と建物への按分も)
- 取得を見送った物件の調査費用を、その期の費用として整理したか
- 弁護士報酬は、訴訟の目的と結果(取得・回収・明渡し)で区分したか
- 個人の場合、相続税の申告など賃貸業と関係のない報酬を除いたか
- 個人の弁護士・税理士等への支払で、源泉徴収が必要な立場かを確認したか
- 関連会社・親族へのコンサル報酬に、契約書と業務の実績があるか
- 決算書の表示区分を、決算前に顧問税理士・会計の専門家と確認したか
税理士報酬の相場や選び方は税理士報酬の相場、物件取得時の諸費用の全体像は物件取得時の諸費用一覧もあわせてご覧ください。
まとめ
- 専門家への報酬は、支払先や名目ではなく、どの資産・どの業務のための支払かで区分する
- 特定の物件を取得するための報酬は取得価額、経営・管理のための報酬は期間費用が原則
- 弁護士報酬は、紛争の結果として権利を取得したなら取得費とされることがある(令和7年5月20日裁決)
- 個人は、相続税の申告など賃貸業と関係のない報酬を必要経費にできない
- 法人と給与支払者の個人は、個人の弁護士・税理士等への報酬で源泉徴収が必要
- 表示区分はGAAPに沿って実態で判断し、顧問税理士・会計の専門家と検討する
物件取得時の費用の整理から、銀行に出す決算書の確認まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
