消費税

不動産法人の設立と消費税の納税義務|免税になる条件・ならない条件、特定期間と法人成りの裁決事例、決算書と銀行の見え方

賃貸物件を法人で持つことを決めたとき、多くの方が最初に気にするのは法人税や社会保険ですが、不動産法人の設立と消費税の納税義務も、設立前に決めておくべきことが多いテーマです。資本金をいくらにするか、1期目の事業年度を何か月にするか、個人の物件をいつ移すか。いずれも後から変えにくく、判断を誤ると「免税のはずが課税事業者だった」「申告していなかった」という事態になります。

この記事では、消費税法と国税庁のタックスアンサー、公表された裁決事例をもとに、不動産法人が免税になる条件と、ならない条件を整理します。あわせて、会計処理と決算書の表示、銀行からの見え方も確認します。

この記事の結論
  • 不動産法人も、設立1期目・2期目は基準期間がないため原則として免税。ただし資本金1,000万円以上、特定新規設立法人、インボイス登録、課税事業者選択の場合は課税
  • 2期目は特定期間(1期目開始から6か月)の課税売上高と給与等支払額で判定する。基準期間がなくても適用される(平成30年2月23日裁決)
  • 個人から建物を引き継ぐ法人成りは、負債の引受けを対価とする課税資産の譲渡とされた裁決がある。個人側の消費税を見落とさない
  • 住宅家賃中心の法人は、居住用賃貸建物の制限があるため、課税事業者になっても建物の消費税は原則として控除できない
  • 決算書では、免税期間は税込経理。消費税の納付・滞納は資金繰りと銀行評価に直結する

不動産法人の消費税は「何が課税売上げか」から考える

最初に、不動産法人の売上のうち、何に消費税がかかるのかを確認しておきます。住宅の貸付けは非課税、土地の譲渡・貸付けも原則として非課税です。一方、次のような収入は課税売上げになります。

収入の種類消費税
住宅の家賃・共益費(1か月以上、居住用)非課税
事務所・店舗の家賃課税
駐車場収入(区画・舗装など施設の貸付け)原則課税(住宅に付随するものは非課税になり得る)
土地の売却非課税
建物の売却課税
自動販売機の設置手数料、看板・アンテナの設置料課税

住宅中心の法人では、毎年の課税売上高は小さいことが多い一方、建物を売った年に課税売上高が一気に増えることがあります。納税義務の判定は「基準期間(前々事業年度)」の課税売上高で行うため、売却の2期後に課税事業者になる、という時間差が生じます。

新設の不動産法人が免税にならない5つのケース

消費税法9条1項は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者の納税義務を免除しています。新しく設立した法人には基準期間がないため、原則として1期目・2期目は免税事業者です。ただし、国税庁のタックスアンサー(No.6503など)で整理されているとおり、次の場合は免税になりません。

ケース根拠内容
資本金1,000万円以上消費税法12条の2基準期間がない事業年度の開始日の資本金が1,000万円以上なら課税(新設法人)
特定新規設立法人消費税法12条の3資本金1,000万円未満でも、課税売上高5億円超の会社などに支配されている場合は課税。令和6年10月1日以後開始の課税期間からは、グループの総収入金額50億円超の判定も加わった
特定期間の基準を超えた消費税法9条の22期目は、1期目開始から6か月間の課税売上高と給与等支払額がいずれも1,000万円超なら課税
インボイス登録消費税法9条1項・57条の2適格請求書発行事業者は、基準期間の課税売上高にかかわらず課税
課税事業者選択届出消費税法9条4項自ら課税事業者を選んだ場合

資本金は1,000万円未満にするのが原則

「対外的な信用のために資本金1,000万円で」と考える方もいますが、その場合は1期目から課税事業者です。さらに、新設法人が基準期間のない課税期間中に調整対象固定資産(税抜100万円以上の建物・設備など)を取得し、一般課税で申告すると、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで免税事業者に戻れず、簡易課税も選べなくなります(国税庁タックスアンサーNo.6503)。

設立1期目の途中で増資して1,000万円以上になった場合は、2期目の期首時点で判定され、2期目が課税事業者になります。資本金の額は、消費税の観点からも設立前に決めておく項目です。

特定期間は「給与等支払額」でも判定できる

2期目の判定で使う特定期間は、原則として前事業年度(1期目)の開始日以後6か月の期間です。この期間の課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額で判定することもでき、どちらで判定するかは納税者が選べます(国税庁タックスアンサーNo.6501)。

役員報酬をあまり支払っていない資産管理法人なら、給与等支払額で1,000万円以下と判定できることが多いでしょう。ただし、1期目に事業用ビルを取得して事務所家賃が多く入る、従業員を雇って管理業務を行う、といった法人では注意が必要です。なお、1期目が7か月以下の場合などは、2期目には特定期間がないことになります(消費税法9条の2第4項)。

インボイスの「2割特例」は法人には使えなくなった

免税事業者がインボイス登録をした場合の「2割特例」は、令和8年9月30日の属する課税期間までが対象です。国税庁の案内では、令和8年度税制改正で、個人事業者に限り令和9年分・令和10年分の申告で「3割特例」を適用できるとされています。法人は対象外のため、これから設立する不動産法人がインボイス登録をするなら、一般課税か簡易課税かを比べて選ぶことになります。

裁決事例①:基準期間がない2期目にも特定期間の規定は適用される

国税不服審判所 平成30年2月23日裁決(裁決事例集No.110)は、設立2期目の納税義務が争われた事例です。

事案と争点

請求人は、資本金500万円で設立された、貴金属製品の加工・販売などを営む法人です。設立1期目の開始日から6か月間の課税売上高と給与等支払額は、いずれも1,000万円を超えていました。請求人は「2期目には基準期間がない。9条の2は『基準期間の課税売上高が1,000万円以下である場合』と書いてあるので、基準期間がない法人には適用されない。資本金も1,000万円未満なので12条の2も適用されない」と主張し、2期目の消費税の申告書を提出しませんでした。

審判所の判断

審判所は、9条1項の「基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者」には基準期間がない法人も含まれ、9条の2第1項も同じように解すべきだとしました。12条の2第1項の括弧書が、9条の2により納税義務が免除されない課税期間を除いていることも、9条の2が基準期間のない法人に適用されることを前提にしている、と述べています。さらに、9条の2は、基準期間がないことを利用した租税回避への対応などを背景にした規定であるという立法趣旨にも触れ、決定処分と無申告加算税の賦課決定処分を適法としました。

実務への示唆

この事例は不動産業ではありませんが、不動産法人にもそのまま当てはまります。「設立2年間は自動的に免税」と思い込むと、無申告の状態になります。2期目に入る前に、特定期間の課税売上高と給与等支払額を必ず確認してください。

裁決の確認先

国税不服審判所 平成30年2月23日裁決 公表裁決事例(kfs.go.jp)

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裁決事例②:法人成りで建物を引き継ぐと、個人側の課税売上げになる

不動産法人の設立では、個人で持っていた物件を法人に移すこともあります。このとき見落としやすいのが、個人側の消費税です。

国税不服審判所 平成20年12月15日裁決(裁決事例集No.76・475頁)では、個人事業者が金銭出資で法人を設立したあと、個人事業の資産と同額の負債を法人に引き継ぎました。請求人は「実態は現物出資と同じで、取得する株式がないから対価はゼロ」と主張しましたが、審判所は、法人が資産を受け入れた相手勘定を負債としていたことなどから、負債の引受けは資産の譲渡の反対給付であり、負債の引受額が課税資産の譲渡等の対価の額になると判断しました。消費税法には、事業そのものを一体として課税対象とする規定も、営業の譲渡を現物出資とみなす規定もない、とも述べています。

賃貸物件に当てはめると、次のようになります。

  • 建物は課税資産、土地は非課税資産。建物部分の対価が個人側の課税売上げになる
  • 個人がその年に課税事業者なら、建物の譲渡について消費税の納税が必要になる
  • 譲渡した年の課税売上高が、2年後の個人の納税義務の判定にも影響する

物件を個人から法人に移すときの所得税・登録免許税・不動産取得税などは、個人から法人への物件移転で解説しています。建物売却の消費税そのものは建物売却の消費税もご覧ください。

裁決の確認先

国税不服審判所 平成20年12月15日裁決 公表裁決事例(kfs.go.jp)

法人と個人の違い

同じ「免税事業者」でも、法人と個人では判定のしかたが異なります。

項目法人個人
基準期間前々事業年度前々年
特定期間前事業年度開始の日以後6か月前年1月1日〜6月30日
設立・開業直後1期目・2期目は原則免税。資本金1,000万円以上なら課税開業1年目・2年目は原則免税。資本金の特例はない
個人から法人への物件移転法人側は課税仕入れ(建物部分)個人側は課税売上げ(課税事業者なら納税)
2割特例・3割特例2割特例は令和8年9月30日の属する課税期間まで2割特例は令和8年分まで。令和9年分・10年分は3割特例
法人税・所得税での消費税の処理法人税の益金・損金不動産所得の総収入金額・必要経費

もう一つ大切なのは、住宅中心の法人が課税事業者になっても、建物の消費税は原則として控除できないという点です。税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物は、仕入税額控除の対象外です(消費税法30条10項)。以前のように「課税事業者を選んで建物の消費税の還付を受ける」という発想は、ほとんどの場面で通用しません。判定の詳細は居住用賃貸建物の判定実務と高額特定資産の3年縛りで解説しています。課税事業者選択届出の縛りは課税事業者選択届出と2年・3年の縛りで取り上げます。

会計上の扱いと決算書の表示

免税期間は税込経理

法人税の取扱いでは、免税事業者は税込経理で処理します。家賃も経費も消費税込みの金額で計上し、仮払消費税・仮受消費税は使いません。課税事業者になったら、税込経理と税抜経理のどちらかを選びます。

企業会計の考え方も確認しておきます。決算書は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作ります。会社法431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとしており、法人税法22条4項も、収益・費用の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。中小企業では、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」が実務の拠り所になります。

消費税の計上と表示

課税事業者になった期は、期末に納付する消費税を未払消費税等として流動負債に計上します。税込経理の場合は、納付額を租税公課(販管費)として計上するのが一般的で、納付額が大きい年は営業利益が押し下げられます。

税務上の処理(税込か税抜か、いつ損金になるか)と、決算書でどの区分に表示するかは別の問題です。表示区分は取引の実態に応じて判断する必要があり、たとえば物件売却による一時的な消費税の負担をどう表示するかは、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

設立直後の不動産法人に対する銀行の目線は、消費税にも向いています。

  • 資本金と純資産:資本金を1,000万円以上にしても、それだけで評価が大きく上がるわけではありません。銀行が見るのは純資産の厚みで、利益の積み上げで純資産を増やすほうが、消費税の面でも無理がありません
  • 納税の状況:消費税の滞納は、納税証明書で確認されます。消費税は預かった税金なので、滞納があると資金管理を疑われ、融資の審査に大きく響きます
  • 流動負債と資金繰り:建物を売却した翌々期の消費税、課税事業者になった期の中間申告など、まとまった納付が流動負債と現預金に影響します。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内を健全の目安としています。納付で現預金が減れば、この指標も悪化します
  • 無申告のリスク:裁決事例①のように、免税と思い込んで申告しないと、決定処分と無申告加算税を受けます。加算税は資金を減らすだけでなく、申告の管理体制への信頼を損ないます

資産管理法人を設立するかどうかの全体的な判断は、資産管理法人のメリット・デメリットと法人設立前に知るべき消費税もあわせてご覧ください。

実務のチェックポイント

  1. 設立時の資本金は1,000万円未満か。期中の増資予定はないか
  2. 出資者・役員に、課税売上高が大きい会社や、そのグループ会社が関係していないか(特定新規設立法人)
  3. 1期目の事業年度は何か月か。2期目の特定期間の課税売上高・給与等支払額はいくらになりそうか
  4. 事務所・店舗・駐車場など、課税売上げになる収入がどの程度あるか。インボイス登録を求めるテナントはいるか
  5. 個人から物件を移す場合、個人側はその年に課税事業者か。建物部分の対価はいくらか
  6. 建物の取得や売却の予定があるか。高額特定資産・調整対象固定資産の3年縛りにかからないか
  7. 免税期間は税込経理になっているか。課税事業者になる期の経理方式は決めたか

まとめ

  • 不動産法人の1期目・2期目は基準期間がないため原則として免税だが、資本金1,000万円以上、特定新規設立法人、インボイス登録、課税事業者選択では課税
  • 2期目は特定期間で判定する。基準期間がなくても適用されるとした裁決がある(平成30年2月23日裁決)
  • 法人成りで建物を引き継ぐと、個人側の課税売上げになり得る(平成20年12月15日裁決)
  • 住宅中心の法人は、課税事業者になっても居住用賃貸建物の消費税は原則として控除できない
  • 決算書では免税期間は税込経理。消費税の納付・滞納は、資金繰りと銀行評価に直結する

消費税の判断は、設立の段階で決まってしまうものが少なくありません。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、法人の設立設計から、物件の移し方、融資を見据えた決算書づくりまでご相談いただけます。

よくある質問

不動産を保有する法人を新しく設立すると、消費税は免税になりますか?
設立1期目・2期目は基準期間(前々事業年度)がないため、原則として免税事業者になります。ただし、期首の資本金が1,000万円以上の場合、2期目で特定期間(1期目開始から6か月)の課税売上高と給与等支払額がいずれも1,000万円を超える場合、インボイス登録や課税事業者選択届出をした場合、大規模な会社に支配される特定新規設立法人に当たる場合は、免税になりません。
設立2期目は基準期間がないので、特定期間の判定も不要ではないのですか?
不要ではありません。国税不服審判所の平成30年2月23日裁決は、基準期間がない設立2期目の法人にも特定期間の規定(消費税法9条の2)が適用されるとして、申告をしなかった法人への決定処分と無申告加算税を適法としました。課税売上高と給与等支払額のどちらで判定するかは選べるため、給与の支払いが少ない賃貸法人は給与等支払額で1,000万円以下と判定できることがあります。
個人で持っている賃貸物件を新しい法人に移すと、消費税はかかりますか?
建物は課税資産なので、個人が課税事業者であれば、法人への売却や引継ぎは個人側の課税売上げになります。平成20年12月15日裁決では、法人成りで個人事業の資産と同額の負債を法人に引き継いだ取引について、負債の引受額を対価とする課税資産の譲渡とされました。土地は非課税です。移す前に、個人側の納税義務と、法人側の取得価額・消費税の扱いを確認してください。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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