「買収した会社の業績が、思ったほど伸びない。のれんを減損すると、銀行からの評価はどうなるのか」。M&Aで会社を買った経営者から、買収後1〜3年目によく受けるご相談です。
のれんは、買収価格のうち、受け入れた純資産の時価を超える部分です。買収した事業が計画どおりに稼げなければ、決算書ではのれんの減損や子会社株式の評価損として表に出ます。ところが、会計で損失を計上しても、税務ではその年の損金にならないことがあり、銀行は銀行で独自の見方をします。
この記事では、のれんの減損と銀行の見え方を、会計・税務・銀行の3つの視点で整理します。税務については、法人税基本通達と、子会社への出資の評価損が認められなかった国税不服審判所の裁決をもとに解説します。
- のれんの減損は、兆候→認識→測定の順で判定する。買収時の事業計画を大きく下回ることが典型的な引き金
- 株式で買った場合、単体の決算書にのれんは出ず、子会社株式の評価損として表に出る
- 税務では、市場価格のない株式の評価損は発行会社の1株当たり純資産が取得時からおおむね50%以上下回った場合などに限られる。のれん相当の価値が失われただけでは損金にならないことがある(平成27年5月20日裁決)
- 銀行はのれんを実態の純資産から除いて見ることが多い。減損は特別損失で返済原資には影響しにくいが、債務超過や財務制限条項には直結する
- 減損の前に、原因と今後の計画を数字で説明する準備をしておく
のれんはどこに出てくるのか
まず、買い方によって、のれんが決算書のどこに出てくるかが違います。
| 買い方 | 単体の決算書 | 連結決算書 | 税務 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡で子会社にする | 子会社株式(取得価額で計上)。のれんは出ない | のれんとして計上し、償却・減損 | 子会社株式の取得価額。のれんの損金算入はない |
| 事業譲渡で事業を買う | のれんとして計上し、償却・減損 | 同左 | 一定の要件で資産調整勘定(5年で均等に損金) |
| 株式で買った後に合併する | 合併の会計処理に応じてのれんが生じることがある | - | 適格合併なら資産調整勘定は生じない |
中小企業の多くは連結決算書を作らないため、株式で買った場合、のれんは子会社株式の中に隠れていることになります。決算書の見た目では「子会社株式3億円」でも、そのうち2億円がのれん相当ということもあります。償却の基本と資産調整勘定はのれんの会計処理と税務で解説しています。
決算書は、会社法431条が求める「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、つまり一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作成します。法人税法22条4項も「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によるとしていますが、評価損が損金になるかどうかは法人税法の個別の規定で決まります。会計と税務の関係は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いもご覧ください。
会計の判定:のれんの減損と子会社株式の評価損
のれんの減損:兆候→認識→測定
のれんは、固定資産の減損会計の考え方で、次の3段階で判定します。
| 段階 | 内容 | 典型的な例 |
|---|---|---|
| ① 減損の兆候 | 減損が生じている可能性を示す事象があるか | 買収した事業の営業損益が継続してマイナス、経営環境の著しい悪化、買収時の事業計画を大きく下回る |
| ② 減損の認識 | 割引前の将来キャッシュ・フローの合計が、のれんを含む資産グループの帳簿価額を下回るか | 計画を見直した結果、将来の稼ぎで帳簿価額を回収できない |
| ③ 減損損失の測定 | 帳簿価額を回収可能価額(売却価額と使用価値の高いほう)まで減額 | 差額を特別損失として計上 |
のれんの償却額は通常、販売費及び一般管理費として営業利益を押し下げますが、減損損失は特別損失です。経常利益は変わらず、当期純利益と純資産が減ります。
子会社株式の評価損
株式で買った場合は、単体の決算書で子会社株式の価値を確認します。市場価格のない株式は、子会社の財政状態を反映した実質価額が取得価額より著しく下がれば、評価損を計上して減額します。買収価格に含めた超過収益力(のれん相当)が失われたことも、実質価額の低下として検討されます。
税務の判定:評価損が損金にならない場合
法人税法の要件
税務では、資産の評価損は原則として損金になりません(法人税法33条1項)。例外として、一定の事実が生じた場合に評価損の計上が認められます(同条2項、法人税法施行令68条1項2号)。市場価格のない株式について、法人税基本通達9-1-9は「発行法人の資産状態が著しく悪化したこと」の例として、次を挙げています。
- 取得して相当の期間を経過した後に、発行法人に特別清算開始の命令、破産・再生・更生手続開始の決定があったこと
- 事業年度終了の日の発行法人の1株当たり純資産価額が、取得した時の1株当たり純資産価額と比べておおむね50%以上下回ること
さらに、価額が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、近い将来その回復が見込まれないことも必要です(同9-1-11が準用する9-1-7)。
ここで注意したいのは、比べるのが子会社の純資産だという点です。のれん相当の超過収益力に高い価格を払って買った場合、子会社の純資産がそれほど減っていなくても、会計上は株式の実質価額が大きく下がっていることがあります。その場合、会計では評価損を計上しても、税務では損金にならず、申告書で加算することになります。
計算例
純資産1億円の会社を3億円で買い(のれん相当2億円)、2年後に業績が悪化したとします。
| 買収時 | 2年後 | |
|---|---|---|
| 子会社の純資産 | 1億円 | 8,000万円(20%減) |
| 超過収益力の評価 | 2億円 | ほぼゼロ |
| 子会社株式の実質価額(会計上の見積り) | 3億円 | 約1億2,000万円 |
| 会計上の評価損 | - | 約1億8,000万円(特別損失) |
| 税務上の評価損 | - | 認められない可能性が高い(純資産の低下は20%で、おおむね50%に届かない) |
この場合、決算書の純資産は約1億8,000万円減りますが、法人税の負担は軽くなりません。資金繰りと銀行への説明は、この「会計と税務のずれ」を前提に組み立てる必要があります。
裁決例:子会社出資の評価損が認められなかった
国税不服審判所の平成27年5月20日裁決は、請求人が子会社への出資持分の評価損を損金に算入したところ、否認された事例です。請求人は、法人税法施行令68条1項2号ハの「ロに準ずる特別の事実」が子会社に生じていると主張しました。審判所は、この「特別の事実」とは、発行法人そのものの資産状態以外の要因で、災害に準ずるような事実が生じて価額が著しく低下し、回復の見込みがない場合を指すものと考えられるとして、子会社にそうした事実は生じていないと判断し、評価損の損金算入を認めませんでした(国税不服審判所「公表裁決事例要旨:有価証券の評価損」)。
「子会社の業績が悪い」「買収時の期待が外れた」というだけでは、税務上の評価損の要件にはなかなか届きません。評価損を損金にしたい場合は、子会社の純資産の推移を、取得時の1株当たり純資産と比べて記録しておくことが前提になります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行から見たのれんと減損
のれんは実態の純資産から除いて見られやすい
銀行は、決算書を実態に引き直して見るとき、のれんや、のれん相当を含む子会社株式を資産から除いたり、大きく割り引いたりすることがあります。売って現金にできる資産ではないからです。そのため、減損をしても、銀行の実態評価はすでに織り込み済みということもあります。
逆に言えば、決算書で資産超過に見えても、のれんを除くと実質的には債務超過に近い会社は、追加の融資で慎重に見られます。代表の相亰の著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。買収を重ねる会社は、のれんを除いた純資産でこの水準に届いているかを意識しておくとよいでしょう(純資産1億円の壁、債務超過の会社は融資を受けられるか)。
減損が影響するもの・しないもの
| 項目 | 減損の影響 | 銀行の見方 |
|---|---|---|
| 経常利益 | 影響しない(特別損失) | 返済能力の評価は大きく変わらない |
| 債務償還年数 | 直接は影響しない | 著書のモデルでは(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)。のれん償却費は足し戻して考えるのが一般的 |
| 純資産・自己資本比率 | 減る | 決算書上の債務超過になると、格付けで大きく不利 |
| 財務制限条項 | 抵触するおそれ | M&A融資では、純資産の維持や利益の水準などを条件にすることがある |
| 将来の計画の信頼性 | 低下する | 「買収時の計画が外れた」ことを示すので、原因と見直し後の計画を確認される |
著書のモデルでは、銀行格付けを129点満点(安全性34・収益性15・成長性25・返済能力55)で考え、正常先の目安を32点以上としています。返済能力の配点が大きいため、減損で純資産が減っても、キャッシュ・フローで返済できることを示せれば、格付けの落ち込みは抑えられる、というのが基本的な考え方です。
財務制限条項に注意
M&Aの買収資金の融資では、契約に財務制限条項(コベナンツ)がつくことがあります。純資産を一定額以上に保つ、経常損失を続けて出さない、といった内容です。減損で純資産が減って条項に抵触すると、金利の引上げや期限の利益の喪失につながるおそれがあります。減損を計上する前に、融資契約の条項を確認し、必要なら事前に銀行へ相談することが大切です。買収資金の調達はM&Aの買収資金の融資、返済期間の考え方はM&A融資の返済期間の考え方で解説しています。
減損を「説明できる損失」にする
減損そのものは、買収した事業の実態を決算書に正しく反映する処理です。問題は、原因と対策を説明できないことです。実務では、次の準備をおすすめします。
- 買収時の事業計画と実績を毎月比べる:売上、粗利、主要顧客、人員を、計画との差で管理する
- 兆候を早めにつかむ:営業損益のマイナスが続く、主要取引先が離れるなどの兆候が出たら、決算前に減損の要否を試算する
- 会計と税務のずれを試算する:会計上の評価損と、税務上の損金算入の可否、税金への影響を分けて計算する
- 銀行への説明資料をつくる:減損の原因、見直し後の計画、返済原資への影響、財務制限条項への影響
- 統合の打ち手を示す:PMIの見直し(人員配置、取引条件、コスト削減)を具体的に示す(買収後のPMI)
クレフティでは、専門職の会社(年商5,000万円)の9,000万円のM&Aで、政府系金融機関と地方銀行の協調融資により、買収資金と統合後の運転資金を調達したご支援の事例があります。買収前から「買収後の決算書がどう見えるか」を示しておくことが、減損の局面でも銀行との関係を保つ土台になります。
まとめ
- のれんの減損は兆候→認識→測定で判定する。株式で買った場合は、単体では子会社株式の評価損として表に出る
- 税務では、市場価格のない株式の評価損は、1株当たり純資産がおおむね50%以上下回った場合などに限られる。のれん相当の価値が失われただけでは損金にならないことがある
- 銀行はのれんを実態の純資産から除いて見ることが多い。減損は返済原資に影響しにくいが、純資産・財務制限条項には直結する
- 減損の前に、計画との差、会計と税務のずれ、銀行への説明を準備する
クレフティでは、買収前の株価算定・デューデリジェンスから、買収後の決算書の見え方の試算、減損の判断と銀行への説明資料づくりまで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。大手FASでバリュエーションを担当してきた公認会計士・税理士も在籍しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
