デューデリジェンス

税務DDで見つかる典型的な問題と、実際に否認された裁決事例|役員給与・源泉・消費税・簿外資金

M&Aで買い手が行う税務デューデリジェンス(税務DD)は、対象会社の過去の申告に、将来追徴される税金の芽がないかを調べる作業です。株式譲渡では会社の過去の税金のリスクがそのまま買い手に移るため、税務DDの結果は価格と契約条件に直結します。

この記事では、中小企業の税務DDで見つかりやすい問題を、国税不服審判所の公表裁決で実際に否認された事例とあわせて紹介します。「よくある指摘」が、調査ではどう判断されたのかを知っておくと、売り手は事前の準備ができ、買い手は見つかった問題の重さを判断しやすくなります。DD全体の進め方はDDの種類と規模別の範囲・費用の考え方、税務DDの基本は税務DDで見られるポイントをご覧ください。

この記事の結論
  • 中小企業の税務DDで多いのは、役員給与・役員退職金・源泉所得税・消費税の帳簿保存・代表者との取引の5分野
  • いずれも公表裁決で実際に否認例がある。期中の役員給与の減額、職人への報酬の外注処理、帳簿の不提示による仕入税額控除の否認など
  • 否認されると、本税に加えて過少申告加算税・不納付加算税・延滞税、仮装・隠ぺいがあれば重加算税がかかる
  • 見つかった論点は、価格調整・特別補償・クロージング前の修正申告のどれで扱うかを決める
  • 売り手は、自分で気づいている論点を先に整理して開示するほうが、交渉と契約の両方で有利になる

税務DDで何を見るのか

税務DDでは、主に次のような資料を確認します。

確認する資料主に見ること
法人税・地方税の申告書、決算書、勘定科目内訳書損金算入の判断が分かれる項目、別表の調整、繰越欠損金
消費税の申告書、帳簿、請求書等課税区分、仕入税額控除の要件、簡易課税などの届出
源泉所得税の納付書、給与台帳、外注先との契約源泉漏れ、外注と給与の区分、役員への経済的利益
株主総会・取締役会の議事録役員給与の決議、退職金の支給決議と金額
過去の税務調査の結果指摘事項が直っているか、同じ処理が続いていないか
代表者との取引の記録貸付金・借入金、資産の売買、賃貸借、私的な費用

調べる年数は、国税通則法70条の更正の期間制限(法人税・消費税は原則5年、偽りその他不正があれば7年、欠損金額は10年)が目安になります。

よくある問題1:役員給与と役員退職金

期中の役員給与の減額(平成23年1月25日裁決)

役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれかに当たらないと損金になりません(法人税法34条1項)。定期同額給与の額を期の途中で変えられるのは、期首から3か月以内の改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由による減額などに限られます。

この裁決では、期の途中の役員給与の減額が業績悪化改定事由に当たらないとされ、減額後の金額を超える部分は定期同額給与とはいえず、損金に算入できないと判断されました。国税庁のタックスアンサー(No.5211)も、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったことは業績悪化改定事由に含まれないとしています。

DDでは、期中に役員給与が変わっていないか、変わっているならその理由と決議を確認します。売却前に「社長の報酬を下げて利益を良く見せる」ことを期中に行うと、この論点が生じます。

分掌変更の退職金

社長が会長になったときなどに払う退職金は、実質的に退職したと同様の事情がないと退職給与になりません。平成29年7月14日裁決では、報酬が半額以下に下がっていても、分掌変更後も経営上主要な地位を占めていたとして否認され、源泉所得税の差額と不納付加算税も課されました。売却の数年前に支給していると、DDで必ず確認されます(詳しくは「実質的に退職した」と認められる実務)。

よくある問題2:源泉所得税(外注と給与、代表者への経済的利益)

職人への報酬は外注費か給与か(昭和58年3月23日裁決)

一人親方として外注費で処理していた職人への報酬について、審判所は、各職人の労務の提供が独立した事業として行われたとは認められず、対価も基本賃金・時間外勤務手当などの支払基準によっていたとして、外注費ではなく給与に当たると判断しました。給与であれば会社に源泉徴収義務があり、消費税の仕入税額控除も使えません。

建設業、運送業、美容業、ITの業務委託など、「外注」で働く人が多い会社では、契約書、指揮命令の有無、報酬の決め方、道具や材料の負担を確認します。

代表者が会社の資産を私的に使っている(平成24年11月1日裁決)

代表者の妻が会社名義の車両を個人的に使っていた事案で、審判所は、車両を贈与したとまでは認められないとしつつ、無償で専属的に使用し、使用料に相当する経済的な利益を受けていると認定しました。会社の資産を役員やその家族が私的に使うと、その利益は役員給与として扱われる可能性があります。社用車、社宅、別荘、会員権などはDDの定番の確認項目です。

よくある問題3:消費税の帳簿・請求書等の保存

帳簿等を提示できず仕入税額控除が否認された(平成19年10月3日裁決)

消費税の仕入税額控除は、帳簿と請求書等の保存が要件です(消費税法30条7項)。この裁決では、税務調査で第三者の立会いの排除に応じず、帳簿等を提示しなかったことが「保存しない場合」に当たるとして、仕入税額控除そのものが否認されました。審判所は、税務職員の検査に適時に提示できる態勢で保存していなければ控除は受けられない、としています。

保存要件を満たしていたと認められた例(令和4年11月9日裁決)

一方、調査時点で請求書等の保存期間を過ぎていた課税期間について、帳簿が保存されていたことから保存要件を満たすとして、仕入税額控除を認めた裁決もあります。保存の期間と方法は、年度ごとに確認が必要です。インボイス制度の開始後は、登録番号の記載や、免税事業者からの仕入れの経過措置も確認項目に加わります。

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よくある問題4:代表者との取引と簿外の資金

簿外預金の払戻しは借入金の返済ではなく給与(平成14年3月20日裁決)

帳簿に載っていない会社の普通預金からの払戻金について、会社は代表者からの借入金の返済だと主張しました。審判所は、代表者が経営の全般を掌握し、自らその預金を管理して出し入れしていたことなどから、払戻金は代表者に対する給与等の支給であると判断しました。簿外の預金や現金は、それ自体が重大な問題です。

代表者への貸付金の利息(平成9年11月14日裁決)

代表者への貸付金について、会社は代表者が債務超過で利息の回収が困難だとして、未収利息を益金に計上しませんでした。審判所は、代表者の資産を時価で見れば債務超過ではなく、換金できる不動産や株式もあるとして、未収利息の計上を求めた処分を支持しました。役員貸付金は利息の計上漏れという形で問題になります(解消の方法は役員貸付金の解消方法)。

よくある問題5:仮装・隠ぺい(重加算税の対象)

裁決内容結論
平成8年3月11日裁決(裁決事例集No.51)外注先が領収書の所在地に実在しない、元請先の工事台帳と一致しないなど外注費の計上は仮装によるものとして損金算入を否認
昭和57年5月31日裁決(裁決事例集No.24)個人事業を法人にする際の未払退職金を、支払っていないのに支払ったように仮装架空の退職金として重加算税を相当とした

架空の外注費や経費、売上の除外などの仮装・隠ぺいが見つかった場合は、重加算税の対象になるだけでなく、更正の期間が7年に延びます。金額の問題を超えて、経営管理の体制や、売り手の説明の信頼性そのものが問われる論点です。加算税の種類と税率は過少申告加算税・重加算税・延滞税とはを参照してください。

裁決の確認先(国税不服審判所 公表裁決事例・要旨)

見つかった問題を価格と契約にどう反映するか

論点の性質例主な扱い方
金額をほぼ見積もれる未納の源泉所得税、期中減額による損金不算入額想定税額を価格から差し引く、またはクロージング前に修正申告
追徴されるか不確実分掌変更の退職金の損金性、外注と給与の区分特別補償(加算税・延滞税を含めるか決める)
継続している処理の問題役員の私的利用、外注扱いの継続クロージングまでに処理を改め、誓約事項に入れる
仮装・隠ぺいが疑われる架空経費、簿外預金価格・補償だけでなく、取引の継続そのものを検討

契約条項の作り方は株式譲渡契約書に入れるべき税務リスクの条項で、DD全体で見つかる問題と価格への反映はDDでよく見つかる問題と価格への反映で解説しています。

銀行の目線では、買収後に追徴が出ると、買収資金を返済する原資が削られます。著書のモデルでは債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で見て10年以内を健全の目安としており、税務リスクの金額は、買収後の返済計画に織り込んでおく必要があります。

まとめ

  • 中小企業の税務DDで多いのは、役員給与・退職金、源泉所得税、消費税の帳簿保存、代表者との取引、仮装・隠ぺいの5分野
  • 期中の役員給与の減額、職人への報酬の外注処理、帳簿の不提示、簿外預金の払戻しなど、公表裁決で実際に否認された例がある
  • 本税だけでなく、加算税・延滞税、仮装・隠ぺいなら重加算税と7年の期間制限まで見積もる
  • 見つかった論点は、価格調整・特別補償・事前の是正のどれで扱うかを決め、契約に落とし込む

クレフティには、大手FASで財務DDやバリュエーションを担当してきた公認会計士・税理士が在籍しています。事業承継・M&A支援の中で、税務DDの実施、売り手側の事前チェック、見つかった論点の価格・契約への反映をお手伝いします。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の公認会計士・税理士が対応します。

よくある質問

税務DDでは、何年分の申告を見るのですか?
決まった年数はありませんが、更正の期間制限を目安に、法人税・消費税は過去5年程度、源泉所得税も5年程度を見ることが多いと考えられます。偽りその他不正の行為がある場合は7年、欠損金額の更正は10年さかのぼれるため(国税通則法70条)、繰越欠損金を価格に織り込む案件では、欠損金が生じた年度まで確認します。範囲は、規模や予算、見つかった論点に応じて決めます。
税務DDで問題が見つかったら、M&Aはやめるべきですか?
見つかった問題の多くは、やめる理由ではなく、価格や契約の条件で調整する材料です。金額を見積もれるものは価格から差し引き、追徴されるか分からないものは特別補償で手当てし、誤りが明らかなものはクロージング前に修正申告で片付ける、といった方法があります。ただし、仮装・隠ぺいが疑われる場合は、重加算税や経営者の姿勢の問題として、取引そのものを見直すきっかけになります。
売り手は、税務DDの前に何を準備すればよいですか?
過去5年分程度の申告書・決算書・勘定科目内訳書、税務調査の結果や指導の記録、役員給与と退職金の議事録、外注先との契約書、消費税の帳簿と請求書などを、すぐに出せるようにしておきます。役員への貸付金や会社名義の資産の私的利用など、自分で気づいている論点は、隠さずに先に整理しておくほうが交渉はスムーズです。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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