外部への売却(M&A)

赤字・債務超過の会社は売れるか、継げるか|事業譲渡・第二会社方式の注意点と、欠損金・詐害的会社分割の判例

「うちは赤字続きで、借入も多い。こんな会社を誰が買うのか。子どもにも継がせられない」。経営者の方から、こうした相談を受けることがあります。

結論から言えば、赤字や債務超過でも、売却や承継の道が閉ざされているわけではありません。買い手や後継者が見ているのは、決算書の数字だけでなく、その会社が持つ顧客、技術、人材、許認可、立地といった事業そのものの価値だからです。2026年版中小企業白書も、経営者が60代以上で承継の方向が決まっていない中小企業のうち、資産超過かつ黒字の会社は約5割で、残りは赤字または債務超過だとしています。赤字・債務超過の会社の承継は、決して珍しいテーマではありません。

ただし、進め方を誤ると、債権者とのトラブルや税務の否認につながります。この記事では、実態の債務超過の見方、売却・承継の方法ごとの注意点、繰越欠損金と組織再編をめぐる最高裁判決、詐害的会社分割の判例、銀行と経営者保証への対応まで整理します。

この記事の結論
  • まず実態の貸借対照表で、本当に債務超過か、どの程度かを確認する。簿価の債務超過と実態の債務超過は違う
  • 事業に価値があれば、株式譲渡(低い価格)、事業譲渡、第二会社方式などで引き継げる可能性がある
  • 繰越欠損金は買い手にとって魅力に見えるが、法人税法57条の2の制限や、ヤフー事件・IDCF事件の最高裁判決(平成28年2月29日)のように否認されることがある
  • 良い事業だけを切り出す方法は、債権者を害すると詐害行為として取り消されるおそれがある(最高裁平成24年10月12日)。債権者と合意する手続で進める
  • 経営者保証は、ガイドラインに基づく整理で一定の生活費や自宅を残せる場合がある。早めの相談が選択肢を広げる

「債務超過」は簿価ではなく実態で見る

債務超過とは、負債が資産を上回り、純資産がマイナスの状態です。ただし、決算書上の数字(簿価)と、資産・負債を時価で見直した実態の純資産は一致しません。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」も、債務超過企業の「債務超過」とは、特に説明のない限り、簿価上ではなく、資産・負債の時価評価を踏まえた実態貸借対照表上の債務超過を意味するとしています。

見直す項目実態の純資産への影響
土地・建物の含み益・含み損含み益があればプラス、含み損があればマイナス
回収できない売掛金・貸付金、売れない在庫マイナス
社長からの借入金返済を求めないなら、実質的に資本とみる余地がある
未払の残業代・退職金、簿外の保証債務マイナス
保険の解約返戻金簿価より大きければプラス

社長からの借入が大きく、不動産に含み益がある会社なら、簿価では債務超過でも、実態ではそうでないこともあります。逆に、簿価では資産超過でも、不良債権や含み損を差し引くと債務超過という会社もあります。不動産の含み益・含み損の見方は不動産の含み益・含み損と実態BSで解説しています。

私自身、2019年に、減価償却の速い物件が多く、簿価で負債が資産を上回る債務超過の状態に陥り、複数の銀行から融資を断られた経験があります。銀行は簿価の債務超過を厳しく見ます。一方、M&Aの買い手は実態と将来の収益力を見ます。両方の物差しを持っておくことが、出口を考える第一歩です。

赤字・債務超過の会社を引き継ぐ方法

主な方法と、それぞれの特徴を整理します。

方法内容主な注意点
株式譲渡(低い価格)会社ごと、1円など低い価格で株式を譲渡する借入・保証・簿外債務もそのまま買い手に移るため、買い手の審査が厳しい。経営者保証の扱いを最終契約で決める必要がある
事業譲渡必要な事業・資産・従業員・契約だけを買い手に移す譲渡代金で借入を返し、残った会社は清算することが多い。許認可や契約は個別に移す必要がある
第二会社方式良い事業を会社分割や事業譲渡で新会社(買い手)に移し、旧会社は債務を抱えたまま特別清算などで整理する債権者の同意が前提。中小企業活性化協議会や私的整理の手続の中で進めるのが原則
親族・社員への承継債務超過のまま株式を引き継ぎ、経営改善を進める後継者に経営者保証の負担がかかりやすい。株価は低いが、会社の再建が前提

株式を安く譲渡するときの税金

債務超過の会社の株式は、時価がゼロに近いことが多く、1円などで譲渡しても大きな課税の問題は生じにくいのが通常です。ただし、実態では価値があるのに低い価格で譲渡すると、買い手側に受贈益が生じたり、個人から法人への時価の2分の1未満での譲渡では、売り手に時価で譲渡したものとみなす課税(所得税法59条)が生じたりすることがあります。価格の根拠となる株価算定を残しておくことが大切です。

債務免除と欠損金

債務超過の会社の再建では、金融機関や社長からの借入の免除を受けることがあります。債務免除を受けると、会社には債務免除益(益金)が生じます。繰越欠損金があれば相殺できますが、足りなければ課税が生じます。会社の再生手続や解散の場面では、一定の要件のもとで、期限が切れた欠損金も使える特例(法人税法59条)があります。社長からの借入を免除する場合も、会社側に債務免除益が出る点は同じです。

繰越欠損金は「買い手のメリット」になるか

赤字の会社には、過去の損失である繰越欠損金がたまっていることがあります。中小法人は、繰越欠損金を10年間(2018年4月1日以後に開始した事業年度に生じたもの)、所得の全額まで控除できます。買い手からすると、「買収後に利益を出せば、欠損金で法人税が減る」ように見えます。

しかし、欠損金の利用には制限があります。

  • 法人税法57条の2:欠損金のある会社が、特定の株主に50%超の株式を取得されて支配された後、一定期間内に従来の事業をやめて新しい事業を始めるなどした場合、欠損金を使えなくする規定です
  • 組織再編の欠損金の引継ぎ制限:買収後に合併する場合、合併で欠損金を引き継ぐには適格要件などを満たす必要があります
  • 行為計算の否認(法人税法132条の2):形式的に要件を満たしていても、租税回避のための不自然な組織再編は否認されることがあります

この最後の点について、最高裁は平成28年2月29日に2つの判決を出しています。

判決事案判断
最高裁第一小法廷 平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第75号、ヤフー事件)親会社が、多額の欠損金のある会社の全株式を買収して子会社にし、その後吸収合併した。買収前に、親会社の社長が買収先の取締役副社長に就任していた「法人税の負担を不当に減少させる」とは、組織再編税制の規定を租税回避の手段として濫用することをいい、①不自然な手順・形式か、②税負担の減少以外に合理的な事業目的があるかなどを考慮して判断するとした。副社長就任は、欠損金の引継ぎ要件(特定役員の要件)を満たすために企図されたもので、特定役員の実質を備えていたとはいえないとして、否認を認めた
最高裁第二小法廷 平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第177号、IDCF事件)新設分割で設立した会社の株式を、分割後に譲渡する計画を前提として分割を行い、非適格分割として資産調整勘定を計上した分割法人の約100億円の未処理欠損金を資産調整勘定に転化させ償却するため、本来必要のない株式譲渡を介在させ、実質的には適格分割というべきものを形式的に非適格としたものとして、否認を認めた

(出典:裁判所ウェブサイト 裁判例検索)

これらは大企業の事案ですが、示している考え方は中小企業のM&Aにも当てはまります。欠損金の利用を主な目的にした買収や再編は、否認のリスクを抱えます。売り手としては、欠損金の価値を大きく価格に上乗せすることは期待しにくいと考えておきましょう。詳しくはM&Aと繰越欠損金の引継ぎ・制限で解説します。

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良い事業だけを切り出すときの落とし穴:詐害的会社分割

借入の多い会社で、収益の上がる事業だけを会社分割や事業譲渡で新会社に移し、借入は元の会社に残す、という方法が取られることがあります。債権者の同意を得て行う第二会社方式なら事業再生の手法ですが、債権者の同意を得ずに行うと、債権者を害する行為(詐害行為)になります。

判例・法律内容
最高裁第二小法廷 平成24年10月12日判決(平成22年(受)第622号)新設分割で、新会社に債務が引き継がれず、分割に異議を述べることもできない元の会社の債権者は、詐害行為取消権(民法424条)を行使して新設分割を取り消すことができると判断した
会社法の改正(2014年改正)元の会社が残存債権者を害することを知って会社分割・事業譲渡をした場合、残存債権者は、新会社・譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度に直接債務の履行を請求できる規定が設けられた(会社法23条の2、759条4項、764条4項など)

つまり、「良い事業だけを逃がして、借入は元の会社に置いていく」やり方は、取り消されたり、新会社が直接請求を受けたりするリスクがあります。買い手にとっても、買った事業に債権者の請求が及ぶおそれがあるため、まともな買い手ほどこうした案件を避けます。

債務超過の会社の事業を引き継ぐときは、次のような債権者と合意する手続の中で進めるのが原則です。

  • 各都道府県の中小企業活性化協議会による再生計画の策定支援
  • 全国銀行協会などの研究会が2022年に策定した「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」に基づく私的整理
  • 必要に応じて、特定調停、民事再生などの法的手続

銀行・経営者保証への対応

赤字・債務超過の会社の承継で避けて通れないのが、借入と経営者保証です。

後継者・買い手に保証をどう引き継ぐか

親族や社員が継ぐ場合、銀行は後継者に経営者保証を求めることが多くなります。経営者保証ガイドラインの事業承継時の特則は、後継者に当然に保証を引き継がせず、慎重に判断するよう金融機関に求めていますが、債務超過の会社では保証を外すのは簡単ではありません。経営改善計画をつくり、いつまでに、どの数字を改善すれば保証を外せるかを銀行と共有することが現実的な進め方です(事業承継と経営者保証)。

廃業・整理のときの保証債務

事業の整理を選ぶ場合も、経営者保証ガイドラインに基づいて保証債務を整理すれば、一定期間の生計費に相当する額や、華美ではない自宅などを、保証人の手元に残せる場合があります。保証債務の履行のために資産を売った場合の税金の特例もありますが、適用には厳しい要件があります。資金が尽きる前に相談するほど、残せるものが多くなります。

銀行から見た「債務超過」

私の著書のモデルでは、銀行の格付けは安全性・収益性・成長性・返済能力の4分野で点数化され、債務超過は安全性の点数を大きく下げます。一方、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))が改善していれば、銀行が支援を続ける余地は残ります。赤字・債務超過からの立て直しの考え方は、債務超過の会社が融資を受けるには、赤字の会社の融資もあわせてご覧ください。

赤字・債務超過の会社の出口を考える手順

ステップやること
1. 実態の把握実態BSと正常な収益力(一時的な損失、オーナーの経費などを除いた利益)を計算する
2. 事業価値の棚卸し顧客、技術、人材、許認可、立地など、買い手や後継者が評価しうる価値を洗い出す
3. 選択肢の比較株式譲渡、事業譲渡、第二会社方式、親族・社員への承継、廃業のそれぞれで、債権者・従業員・オーナーに残るものを比べる(廃業と売却の比較)
4. 債権者との対話取引銀行に早めに相談し、必要なら中小企業活性化協議会などの手続を使う
5. 税務の確認債務免除益、欠損金、低額譲渡、組織再編の税務を事前に確認する

まとめ

  • 赤字・債務超過でも、事業に価値があれば売却や承継の道はある。まず実態BSで債務超過の程度を確認する
  • 方法は、株式譲渡(低い価格)、事業譲渡、第二会社方式、親族・社員への承継など。それぞれ借入・保証・債権者への影響が違う
  • 繰越欠損金には57条の2などの制限があり、ヤフー事件・IDCF事件の最高裁判決のように、不自然な再編は否認される
  • 良い事業だけを切り出す方法は、詐害行為として取り消されるおそれがある(最高裁平成24年10月12日)。債権者と合意する手続で進める
  • 経営者保証は、ガイドラインに基づく整理で一定の資産を残せる場合がある。資金が尽きる前に相談することが大切

クレフティでは、実態BSと正常収益力の分析、承継・売却・整理の選択肢ごとの試算、銀行への説明資料づくりまで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

債務超過の会社でも、M&Aで買い手は見つかりますか?
見つかる場合があります。買い手が評価するのは、決算書の純資産だけでなく、顧客・技術・人材・許認可など事業そのものの価値です。中小M&Aガイドラインも、債務超過企業でもM&Aを実行できる可能性はあるが、その際には債務整理手続などを伴うことがあるとしています。株式を1円など低い価格で譲渡する方法、必要な事業だけを事業譲渡する方法など、形を工夫することになります。
繰越欠損金がある会社は、買い手にとって税金面のメリットになりますか?
一定の範囲で使える場合はありますが、期待しすぎるのは禁物です。法人税法には、欠損金のある会社を買収した後に事業を入れ替えるなどした場合に欠損金を使えなくする規定(57条の2)があります。また、最高裁は平成28年2月29日のヤフー事件・IDCF事件で、欠損金の引継ぎなどを目的とした不自然な組織再編を否認しました。欠損金の価値を価格に織り込むときは慎重な検討が必要です。
借入が多い会社の良い事業だけを新会社に移すことはできますか?
第二会社方式と呼ばれる方法で、事業再生の手法として使われています。ただし、債権者の同意を得ずに優良な事業だけを移すと、債権者を害する行為として取り消されたり、新会社に直接請求されたりするおそれがあります。最高裁は平成24年10月12日、新設分割も詐害行為取消権の対象になると判断しました。中小企業活性化協議会や私的整理のガイドラインなど、債権者と合意する手続の中で進めるのが原則です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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