取得・建築

複数物件の一括購入と取得価額の按分|物件ごと・土地建物ごとの区分、付随費用の配分、消費税と裁決事例、銀行の見え方

売主がまとめて売りに出した複数の物件を、1本の売買契約で一括して買う。いわゆるバルク購入は、個別に買うより価格交渉がしやすく、融資もまとめて組めることがあります。一方で、税務と会計では、代金を物件ごとに分け、さらに各物件を土地と建物に分ける作業が必要になります。

この区分で、建物の減価償却費、消費税の仕入税額控除、将来1棟だけ売ったときの取得費が決まります。この記事では、契約書の内訳が尊重される条件、内訳がない場合の按分方法、付随費用の配分、消費税、一部売却時の扱い、公表裁決、決算書と銀行からの見え方を整理します。土地と建物の按分方法そのものは土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例で詳しく扱っているので、本記事では複数物件ならではの論点を中心に解説します。

この記事の結論
  • 一括購入の代金は、物件ごと → 各物件の土地・建物(・附属設備)の二段階で区分する
  • 契約書に物件ごと・土地建物ごとの価額があり、不合理でなければその価額による(平成20年5月8日裁決)
  • 内訳がなければ、固定資産税評価額の比率などの合理的な方法で按分する。複数の建物の区分にも使われている(平成25年12月17日裁決)
  • 仲介手数料・登記費用・固定資産税の精算金などの付随費用も、物件ごとに配分する
  • 法人税(所得税)と消費税で別々の比率は使えない。一部売却や担保解除に備え、物件ごとの取得価額と借入の内訳を最初に決めておく

二段階の区分:物件ごと、そして土地と建物

なぜ物件ごとに分ける必要があるのか

購入した減価償却資産の取得価額は、購入の代価と購入のために要した費用、事業の用に供するために直接要した費用の合計額です(法人税法施行令54条1項1号、所得税法施行令126条1項1号)。減価償却は資産ごとに行い、中古建物の耐用年数も建物ごとに計算します。そのため、一括購入でも、まず物件ごとの取得価額を決め、次に各物件を土地・建物・建物附属設備・構築物に分けます。

区分の段階何を決めるか影響するもの
第1段階:物件ごと各物件の取得価額物件ごとの減価償却、一部売却時の取得費・譲渡損益
第2段階:土地と建物各物件の土地・建物の取得価額減価償却費の総額、消費税の仕入税額控除
第3段階:建物と附属設備等建物本体・附属設備・構築物耐用年数の違いによる償却費

契約書の内訳があればそれによる

一括購入でも、売買契約書に物件ごと・土地建物ごとの価額が記載されていれば、それが取得価額の基礎になります。ただし、当事者が恣意的に建物の比率を高くしたような区分は、時価から著しくかけ離れていれば認められないことがあります。契約交渉の段階で、売主と内訳の根拠(固定資産税評価額、鑑定評価、建物の再調達価格の試算など)をすり合わせておくのが理想です。

内訳がなければ合理的な方法で按分する

内訳がない場合は、各物件・各資産の価額の比率で総額を按分します。公表裁決で多く採用されているのは、同一の公的機関が同一時期に同一の基準で評価した固定資産税評価額の比率です。複数物件の一括購入では、物件ごとに評価の時期や改修の状況が違うこともあります。評価額に反映されていない大規模な改修がある物件などは、鑑定評価の積算価格の比率がより合理的とされた例もあります(令和5年6月21日裁決。前掲の按分の記事で紹介しています)。

付随費用の配分と、個人・法人の違い

付随費用も物件ごとに

付随費用配分の考え方
仲介手数料(一括で請求)物件ごとの購入代価の比率などで配分し、各物件の中で土地・建物に配分
登録免許税・司法書士報酬登記ごとに金額がわかるため、物件ごとに直接対応させる(法人は損金にする選択も可)
固定資産税・都市計画税の精算金物件ごとの精算額で取得価額に算入し、土地・建物に配分
物件調査・デューデリジェンス費用対象物件ごとに直接対応させ、共通部分は代金の比率などで配分
不動産取得税物件ごとの課税額で対応させる(法人は損金にする選択も可)

仲介手数料の按分は購入時の仲介手数料は経費にならない?、固定資産税の精算金は固定資産税の精算金は取得価額、登記費用は司法書士報酬・登記費用の処理で解説しています。

個人と法人の違い

論点法人個人
区分の考え方同じ(合理的な方法で区分)同じ
登録免許税・不動産取得税取得価額か損金かを選択業務用なら原則必要経費
借入金の利子損金不動産所得が赤字なら、土地等の取得のための負債の利子は損益通算が制限される。土地の比率が利子の区分にも効く
一部売却時の利益他の所得と通算して法人税分離課税の譲渡所得。所有期間で税率が変わる

個人の場合、一括で借りた借入金のうち土地の取得に充てた部分の利子は、不動産所得の赤字のうち損益通算できない部分の計算に使います。令和4年11月8日裁決は、海外の土地建物について、建物と土地の取得価額の区分と同じ評価額の割合で、土地の取得のための負債の利子も計算すべきとしています(国税不服審判所)。詳しくは借入金利子の処理と土地部分の利子の損益通算制限をご覧ください。

消費税:物件の用途が混在する場合

一括購入する物件に、住宅、店舗、事務所が混在していることは珍しくありません。消費税では、土地は非課税、建物は課税で、さらに住宅用の建物は居住用賃貸建物として仕入税額控除が制限されます(居住用賃貸建物の消費税)。

そのため、どの物件・どの建物にいくら配分するかで、控除できる消費税額が変わります。ただし、区分の基準は法人税(所得税)と消費税で異なるものではないとされています(令和5年6月21日裁決)。消費税の計算のためだけに、課税対象となる店舗や事務所の建物の比率を高くする、といった処理は通りません。

売主の側でも、課税資産と非課税資産を一括して譲渡した場合に、対価が合理的に区分されていなければ、それぞれの資産の時価の比率で区分することになります(消費税法施行令45条3項)。売主と買主で区分がそろっていることが、双方にとって安全です。

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公表裁決に見る判断の分かれ目

平成20年5月8日裁決(裁決事例集No.75・711頁):契約書の内訳は原則として尊重される

製造業の法人が、工場建物とその土地を1億2,000万円で一括取得した事案です。売買契約書には、土地1億1,000万円、建物1,000万円(ほかに消費税等50万円)と内訳が記載されていました。請求人は、延床面積約1,000㎡の立体駐車場付き工場建物の時価が1,000万円とは考えられないとして、土地・建物の固定資産税評価額の比率で按分し直した金額を建物の取得価額とし、課税仕入れの対価の額としても申告しました。

審判所は、売買契約書に土地建物の総額とともに内訳が記載されている場合、契約当事者が通謀して租税回避や脱税の目的で実体と異なる内容を表示したなどの事情がない限り、その内訳によるべきとしました。この事案では、売主と請求人に出資や役員の親族関係などの特殊な関係はなく、仲介業者の説明を受けて内訳を確認したうえで契約しており、建物の価額が固定資産税評価額を下回っていても、内訳が決まった経緯からみて特段不合理ではないとして、契約書の内訳による更正処分を適法としています。消費税の課税仕入れの対価の額も同様です(国税不服審判所)。

実務への示唆:契約書に書いた内訳は、買主にとって不利でも原則として覆せません。建物の比率は減価償却費と消費税に直結するため、契約書に内訳を書く前に、その数字が自分の想定と合っているか確認することが重要です。

平成25年12月17日裁決:用途の異なる複数の建物も固定資産税評価額で

主な争点は中古建物の耐用年数でしたが、1通の契約でまとめて買った用途の異なる複数の建物について、売買価額の内訳がないため、再建築価格を基にする固定資産評価基準には一般的な合理性があるとして、固定資産税評価額の比率で各建物の取得価額を算定しています(国税不服審判所)。この裁決は、見積法・簡便法による耐用年数の算定は取得して事業の用に供した最初の事業年度に限られるとした点でも重要です。一括購入では物件が多い分、最初の決算で全物件の耐用年数を確定させる必要があります。

会計上の扱いと決算書の表示

企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」など)でも、複数の資産を一括して取得した場合の取得原価は、各資産の時価などを基準に合理的に配分する考え方がとられます。法人税法22条4項が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って所得を計算するとしていることからも、税務と会計で配分の考え方を分ける理由はありません。

実務上は、固定資産台帳を物件ごとに作ることが基本です。物件ごとに土地・建物・附属設備・構築物の取得価額、耐用年数、償却方法を記録し、付随費用の配分の根拠も残しておきます。

銀行からの見え方:一部売却と担保解除に備える

一括購入では、融資も1本でまとめ、複数物件に共同担保を設定することがよくあります。このとき、物件ごとの取得価額だけでなく、物件ごとの借入額の内訳も意識しておく必要があります。

場面起こること準備しておくこと
1棟だけ売却譲渡損益は、その物件の帳簿価額(取得費)で計算物件ごとの取得価額と減価償却の記録
担保の一部解除銀行から、解除する物件に見合う返済を求められることが多い融資契約で物件ごとの借入額・解除条件を確認
借換え・追加融資物件ごとの収支と担保評価を見られる物件別の家賃・経費・借入残高の管理表
決算書一括取得の期は資産・負債が一度に膨らむ物件別の収支計画と、全体の債務償還年数の試算

著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内が健全の目安です。一括購入で借入金が一気に増える期は、この数字が大きく動きます。建物の比率は減価償却費を通じて分母に効く一方、借入金の総額は変わりません。按分で数字を良く見せることはできないので、物件ごとの収益力と返済計画で説明するのが王道です。銀行の格付けの見方は不動産投資の銀行格付けで解説しています。

実務のチェックポイント

  1. 売買契約書に、物件ごと・土地建物ごとの価額を記載するか、記載する場合の根拠を売主とすり合わせたか
  2. 内訳がない場合、固定資産税評価額の比率など、全物件で一貫した按分方法を採用したか
  3. 評価額に反映されていない改修がある物件など、個別事情を確認したか
  4. 仲介手数料・調査費などの共通の付随費用を、物件ごと・土地建物ごとに配分したか
  5. 法人税(所得税)と消費税で同じ区分を使っているか
  6. 物件ごとの固定資産台帳を作り、最初の決算で全物件の耐用年数を確定させたか
  7. 個人の場合、土地部分の借入金の利子を同じ比率で区分したか
  8. 融資契約で、物件ごとの借入額と担保解除の条件を確認したか

まとめ

  • 一括購入の代金は、物件ごと、さらに各物件の土地・建物に区分する
  • 契約書の内訳は、不合理でなければ原則としてそのまま使われ、買主に不利でも覆しにくい(平成20年5月8日裁決)
  • 内訳がなければ固定資産税評価額の比率などで按分。複数の建物の区分にも使われている
  • 付随費用も物件ごとに配分し、法人税と消費税で同じ区分を使う
  • 一部売却や担保解除に備えて、物件ごとの取得価額・借入額・収支を最初から管理する

物件取得時の諸費用の全体像は物件取得時の諸費用一覧で整理しています。複数物件の一括取得の契約・融資・決算書の組立ては、不動産投資家向けサービスでご相談ください。

よくある質問

複数の物件をまとめて買った契約書に物件ごとの価格が書いてあれば、そのまま使えますか?
原則として使えます。平成20年5月8日裁決は、売買契約書に土地・建物それぞれの価額が記載され、当事者が合意して契約しており、通謀して実体と異なる内容を表示したなどの事情がなく、価額に特段不合理な点がなければ、その価額によるべきとしています。ただし、時価とかけ離れた不合理な区分は認められないことがあるため、区分の根拠を説明できるようにしておきましょう。
契約書に物件ごとの内訳がない場合、どう分ければよいですか?
各物件の時価の比率など、合理的な方法で区分します。公表裁決では、同一の公的機関が同一時期に同一の基準で評価した固定資産税評価額の比率による按分が、一般的に合理的とされています。1通の契約で用途の異なる複数の建物を買った事案でも、固定資産税評価額の比率で各建物の取得価額を算定しています(平成25年12月17日裁決)。
一括で払った仲介手数料は、どの物件の取得価額にすればよいですか?
購入のために要した費用なので、各物件の取得価額に配分します。物件ごとの手数料が明らかでなければ、物件ごとの購入代価の比率などで配分し、さらに各物件の中で土地と建物に分けるのが合理的です。配分しないままにすると、減価償却費や将来の一部売却時の取得費が正しく計算できなくなります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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