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賃貸物件の省エネ・耐震補助金と税金|法人の圧縮記帳(法人税法42条)と個人の総収入金額不算入(所得税法42条)、会計処理と銀行の見え方

賃貸物件の断熱改修、高効率給湯器や空調への交換、太陽光・蓄電池の設置、旧耐震の建物の耐震改修など、国や自治体の補助金を使って工事をするケースが増えています。補助金は工事費の自己負担を減らしてくれる一方で、受け取った補助金に税金がかかるのか、決算書にどう載せるのか、という問題が出てきます。

法人には圧縮記帳(法人税法42条)、個人には総収入金額不算入(所得税法42条)という仕組みがあり、要件を満たせば、補助金を受け取った期にまとめて課税されることを避けられます。ただし、どちらも課税の繰延べであり、要件や手続きを外すと使えません。この記事では、税務上の扱いを法人と個人に分けて整理し、会計上の処理と表示、公表裁決事例、銀行からの見え方までを解説します。

この記事の結論
  • 補助金は、法人では原則益金、個人では原則総収入金額になる
  • 国や地方公共団体の補助金で、固定資産の取得・改良に充てるためのものなら、法人は圧縮記帳(法人税法42条)、個人は総収入金額不算入(所得税法42条)が使える。どちらも確定申告書への記載が要件
  • 期末(個人は12月31日)までに返還不要が確定していない場合は、法人は特別勘定(43条)、個人は所得税法43条の取扱いになる
  • 修繕費(費用)に充てる補助金や、使途が固定資産に限られない助成金は対象外。公表裁決事例でも、雇用奨励のための支給金は国庫補助金等に当たらないとされた
  • 会計上は、国庫補助金で取得した資産は取得原価から補助金相当額を控除できる(企業会計原則注解24)。直接減額方式か積立金方式かで、純資産と以後の利益の見え方が変わる

賃貸経営で受ける補助金と、税務上の基本

賃貸経営で受ける補助金や助成金には、使い道によっていくつかの種類があります。税務上の扱いは、何に充てるための補助金かで分かれます。

補助金の使い道例法人個人
固定資産の取得・改良(資本的支出を含む)断熱改修、高効率設備への更新、耐震改修、太陽光・蓄電池の設置圧縮記帳(42条)の対象になりうる総収入金額不算入(42条)の対象になりうる
修繕費など費用の補填原状回復的な修繕、点検・調査費用への助成益金。対応する費用は損金なので、差し引きで課税は生じにくい総収入金額。対応する費用は必要経費
使途が固定資産に限られない給付雇用・事業継続のための給付金、助成金益金(圧縮記帳の対象外)総収入金額(不算入の対象外)

ここで大事なのは、同じ「省エネ改修の補助金」でも、工事の中身が資本的支出(資産の価値を高める支出)なのか修繕費なのかで扱いが変わることです。補助金の交付を受ける工事でも、税務上の修繕費と資本的支出の区分は通常どおり判定します。区分の考え方は修繕費と資本的支出の違い、耐震改修の扱いは耐震補強工事の記事で解説しています。

法人:国庫補助金等の圧縮記帳(法人税法42条・43条)

圧縮記帳の要件

法人税法42条は、法人が固定資産の取得又は改良に充てるための国又は地方公共団体の補助金など(国庫補助金等)の交付を受け、その事業年度末までに返還不要が確定し、その事業年度末までに交付の目的に適合した固定資産を取得・改良した場合に、補助金相当額(圧縮限度額)の範囲で、次のいずれかの方法で経理した金額を損金に算入できると定めています。

  1. その固定資産の帳簿価額を損金経理により減額する(直接減額方式)
  2. 圧縮限度額以下の金額を、確定した決算で積立金として積み立てる(積立金方式。政令で定める方法を含む)

補助金を受ける前の事業年度に取得・改良していた減価償却資産であっても、補助金の額をもとに政令で定める方法で計算した金額が圧縮限度額になります。また、確定申告書に損金算入に関する明細の記載がある場合に限り適用されます(記載がなかったことにやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、適用されることがあります)。

国税庁の質疑応答事例では、国や地方公共団体の補助金が、補助事業を行う団体を経由して間接的に交付された場合でも、その団体が事務の代行にとどまるなど、実質的に国や地方公共団体から直接交付されたと認められるときは、圧縮記帳の対象になる国庫補助金等に当たるとされています(国税庁:間接交付された国又は地方公共団体の補助金で取得した固定資産の圧縮記帳の適用について)。省エネ関係の補助金は、執行団体を通じて交付されるものが多いため、誰が補助の主体かを交付要綱で確認しておくことが大切です。

返還不要が期末までに確定しないとき:特別勘定(43条)

補助金を受け取っても、期末の時点で返還不要が確定していない場合(交付の条件を満たしたかどうかの確認が翌期になる場合など)は、42条の圧縮記帳は使えません。この場合は、法人税法43条により、補助金相当額以下の金額を確定した決算で特別勘定に経理する方法で損金に算入し、返還不要が確定した事業年度に、改めて圧縮記帳と特別勘定の取崩しを行います。43条も、確定申告書への明細の記載が要件です。

圧縮記帳の効果は「繰延べ」

圧縮記帳をすると、固定資産の帳簿価額が補助金相当額だけ小さくなります。その結果、以後の減価償却費が小さくなり、各期の利益が少しずつ大きくなります。物件を売却した場合も、帳簿価額が小さいぶん譲渡益が大きくなります。補助金を受けた期の課税が、将来の各期に振り替えられるというのが圧縮記帳の本質です。この点は、保険金で建物を建て直す場合の保険差益の圧縮記帳と同じです。

個人:国庫補助金等の総収入金額不算入(所得税法42条・43条)

個人の不動産所得には、法人のような「損金経理」や「積立金」という考え方はありません。その代わりに、所得税法42条で、補助金そのものを総収入金額に算入しないという形で調整します。

  • 固定資産の取得又は改良に充てるための国庫補助金等の交付を受け、その年の12月31日までに返還不要が確定し、同日までに目的に適合した固定資産を取得・改良した場合、補助金相当額を総収入金額に算入しない
  • その固定資産の減価償却は、取得価額から補助金相当額を差し引いた金額をもとに計算する
  • 確定申告書に適用を受ける旨や不算入額などの記載がある場合に限り適用される(やむを得ない事情があると認められるときの例外あり)
  • 12月31日までに返還不要が確定していないときは、所得税法43条により総収入金額に算入せず、のちに返還不要が確定した年に、固定資産の取得・改良に充てた部分を除いて総収入金額に算入するなどの調整を行う
項目法人個人(不動産所得)
根拠法人税法42条(確定)、43条(未確定:特別勘定)所得税法42条(確定)、43条(条件付)
判定の基準事業年度末までの返還不要の確定と取得・改良12月31日までの返還不要の確定と取得・改良
方法帳簿価額の損金経理による減額、または積立金総収入金額に算入しない
以後の減価償却圧縮後の帳簿価額(積立金方式は取崩しで調整)補助金相当額を控除した額で計算
手続き確定申告書に明細を記載確定申告書に適用を受ける旨などを記載
選択圧縮記帳をしないことも選べる要件を満たせば不算入(記載が要件)

法人は、圧縮記帳をせずに補助金を益金として計上し、その期の利益とすることも選べます。繰越欠損金がある会社や、その期の利益を厚くしたい会社では、あえて圧縮記帳をしないという判断もありえます。どちらがよいかは、税額だけでなく、次に説明する決算書の見え方も含めて検討します。

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消費税:補助金は不課税、工事代金は課税仕入れ

補助金は、資産の譲渡や役務の提供の対価ではないため、消費税の不課税取引です。一方、補助金を使って支払った工事代金は、通常どおり課税仕入れになります。課税事業者であれば、補助金を受けた工事でも、仕入税額控除の対象になります(居住用賃貸建物に当たる場合など、仕入税額控除が制限される場合は別です)。

なお、国・地方公共団体や公益法人などには、補助金などの「特定収入」がある場合に仕入税額控除を調整する特例がありますが、一般の会社や個人事業者の賃貸経営には通常関係しません。

会計上の扱い:直接減額方式と積立金方式

税務上は、補助金を圧縮記帳で損金に算入できるか(個人は総収入金額に算入しないか)が論点です。一方、決算書でどう処理し、どう表示するかは、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。会社法431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとし、法人税法22条4項も、収益・費用の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すると定めています。考え方の全体像は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いで整理しています。

企業会計原則注解24は、国庫補助金や工事負担金などで取得した資産について、補助金等に相当する金額を取得原価から控除することができるとしています(その場合は、控除後の金額で表示するか、控除額を注記するなどの方法をとります)。保険差益の圧縮記帳と違い、国庫補助金については、会計の側にも直接減額を認める根拠がある点が特徴です。

項目直接減額方式積立金方式
PL特別利益(国庫補助金受贈益など)と特別損失(固定資産圧縮損)が両建て特別利益のみ。税務上は申告調整で減算
BS(固定資産)補助金相当額を控除した金額取得価額のまま
BS(純資産)補助金の分は増えない圧縮積立金として利益剰余金に残る(税効果会計を適用すれば繰延税金負債を計上)
以後の減価償却費小さい大きい(税務上は積立金の取崩しで調整)
注意点補助金を受けた事実と金額を注記などで示す積立金の残高と取崩しの管理が必要

表示の区分は、取引の実態で決まります。固定資産の取得に充てる補助金の受贈益と圧縮損は、臨時的な損益として特別損益に表示するのが一般的です。一方、毎期の運営費用を補填する性格の補助金をどの区分に表示するかは、その内容によって判断が分かれます。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

公表裁決事例:使途が固定資産に限られない支給金は対象外

国税不服審判所 平成3年12月2日裁決(裁決事例集No.42 141頁)

  • 事案:法人が受けた雇用開発促進地域の特別奨励金について、事業所の設置・整備を目的として交付され、固定資産の取得・改良も含むものだから、法人税法42条1項の国庫補助金等に当たると主張した
  • 判断:審判所は、この奨励金は雇用の拡大と安定を図るための助成・援助として支給されるもので、事業所の設置・整備に要した費用の額は、雇用対象者数に応じた支給額の限度として定められているにすぎないとした。また、対象となる費用に動産などの賃借費用も含まれ、雇用労働者数が減れば支給を停止することとされていることから、固定資産の取得又は改良のみに充てることを要件としたものではないとして、国庫補助金等に当たらないと判断した
  • 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例要旨(法人税法関係・国庫補助金等)

実務への示唆

補助金や給付金の名称に「設備」「整備」などの言葉が入っていても、それだけで圧縮記帳の対象になるわけではありません。判断のポイントは、交付の目的と使途が固定資産の取得・改良に限られているかです。賃貸経営では、設備の導入費と運営費の両方を対象にする補助金や、工事の一部に修繕的な内容を含む補助金もあります。交付要綱・交付決定通知書・実績報告書で、補助の対象経費の内訳を確認し、固定資産に充てた部分を特定できるようにしておくことが大切です。

銀行からの見え方

補助金を受けた工事は、自己負担が減るぶん借入を少なくでき、財務面では有利です。ただし、決算書の見え方には次のような違いが出ます。

見られる点直接減額方式積立金方式・圧縮記帳をしない場合
経常利益影響しない(受贈益と圧縮損は特別損益)影響しない(受贈益は特別利益)
当期純利益両建てで相殺され、ほぼ変わらない補助金の分だけ大きい
純資産・自己資本比率補助金の分は増えない積立金または利益として厚く見える
以後の営業利益減価償却費が小さく、やや大きく見える減価償却費が大きい
償却前利益・債務償還年数大きな差はない(減価償却費は足し戻すため)同左

銀行は、補助金の受贈益のような臨時的な利益を、毎期の返済力を示す利益とは分けて見るのが一般的です。表示の違いで評価を大きく変えようとするより、改修によって物件の競争力や家賃、光熱費などの収支がどう変わるかを示すほうが説得力を持ちます。減価償却費と銀行の見方については減価償却費と銀行の見方も参考にしてください。

資金繰りの面で注意したいのは、補助金の入金は工事の完了・実績報告の後になるのが一般的なことです。工事代金はいったん全額を支払う必要があるため、つなぎ資金をどう用意するかを、工事の契約前に金融機関と相談しておきます。また、多くの補助金では、補助金で取得した財産を一定期間内に譲渡・転用・担保に供する場合に交付元の承認が必要とされ、補助金の返還を求められることがあります。物件の売却や借り換え、追加の担保設定を予定している場合は、交付要綱の財産処分の制限を事前に確認してください。

実務のチェックポイント

  1. 交付要綱で補助の主体と使途を確認する:国・地方公共団体の補助金か、執行団体を経由した間接交付か。使途が固定資産の取得・改良に限られているか
  2. 工事の内容を、資本的支出と修繕費に分ける:圧縮記帳・不算入の対象は固定資産の取得・改良に充てた部分
  3. 返還不要の確定時期を確認する:期末(個人は12月31日)までに確定しているか。未確定なら法人は特別勘定、個人は43条
  4. 確定申告書への記載を忘れない:法人は明細の記載、個人は適用を受ける旨などの記載が要件
  5. 減価償却の基礎を圧縮後の金額にする:固定資産台帳に、取得価額・補助金額・圧縮後の帳簿価額を残す
  6. 消費税は工事代金で通常どおり判定する:補助金は不課税、工事代金は課税仕入れ
  7. つなぎ資金と財産処分の制限を確認する:入金時期、処分制限期間、担保設定の承認の要否

まとめ

  • 補助金は、法人では原則益金、個人では原則総収入金額になる
  • 固定資産の取得・改良に充てるための国・地方公共団体の補助金なら、法人は圧縮記帳(法人税法42条)、個人は総収入金額不算入(所得税法42条)を使える。返還不要が未確定なら法人は43条の特別勘定、個人は43条の取扱い
  • どちらも確定申告書への記載が要件で、効果は課税の繰延べ。以後の減価償却費が小さくなり、売却時の譲渡益は大きくなる
  • 公表裁決事例では、使途が固定資産に限られない奨励金は国庫補助金等に当たらないとされた。交付要綱で目的と使途を確認する
  • 会計上は直接減額方式と積立金方式があり、純資産と以後の利益の見え方が変わる。資金繰りでは、入金までのつなぎ資金と財産処分の制限に注意する

補助金を使った改修は、税務・会計・資金繰りの3つを同時に考える必要があります。税理士法人クレフティでは、工事の計画段階から、税務上の処理と、銀行から見た決算書の両面で賃貸経営をサポートしています。初回のご相談は無料です。不動産投資家向けサービスからお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

賃貸アパートの断熱改修で自治体の補助金をもらいました。法人ではそのまま益金になりますか?
補助金は原則として益金になります。ただし、国や地方公共団体の補助金で、固定資産の取得や改良に充てるためのものを受け、その事業年度末までに返還不要が確定し、目的どおりに資産を取得・改良した場合は、法人税法42条の圧縮記帳により、補助金相当額の範囲で損金に算入できます。確定申告書に明細を記載することが要件です。課税がなくなるのではなく、以後の減価償却費が小さくなることで、課税が繰り延べられる制度です。
個人の大家が補助金を受けた場合は、どう処理しますか?
個人の場合、固定資産の取得や改良に充てるための国庫補助金等で、その年の12月31日までに返還不要が確定し、目的どおりに資産を取得・改良したときは、所得税法42条により補助金相当額を総収入金額に算入しません。その代わり、その資産の減価償却は補助金相当額を差し引いた金額をもとに計算します。確定申告書への記載が要件です。返還不要が年末までに確定していない場合は、43条の取扱いがあります。
補助金で取得した設備を、数年後に物件ごと売却しても問題ありませんか?
税務上は、圧縮記帳で減らした分だけ帳簿価額が小さくなっているため、売却時の譲渡益が大きくなります。また、多くの補助金では、交付要綱で一定期間の財産の処分(譲渡・転用・担保提供など)に承認が必要とされ、補助金の返還を求められる場合があります。売却や借り換えで担保に入れる予定があるときは、事前に交付要綱と交付元への手続きを確認してください。

※本記事は2026年10月21日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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