電気工事、空調・給排水などの管工事、消防設備や通信設備の工事を担う設備工事業は、建物の性能と安全を支える業種です。省エネ化や設備の更新、工場や大型施設の建設を背景に受注は伸び続けていますが、資格を持つ技術者の確保が追いつかない、機器や材料の価格が上がる、といった課題も抱えています。
この記事では、設備工事業(電気工事業・管工事業)の経営を統計と制度の数字で整理したうえで、中小設備工事会社の決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、設備工事業特有の税務、電気工事業の登録や給水装置工事事業者の指定を含めた事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 設備工事業の受注高は2026年8月に2兆9,764億円(前年同月比19.7%増、24か月連続の増加)。元請受注高も1兆6,881億円(同28.7%増)と伸びている
- 2026年3月末の許可業者数は、電気工事業66,534業者、管工事業91,168業者。中小の設備工事業(法人)は売上高経常利益率8.54%、自己資本比率53.6%と、建設業のなかでも財務が厚い(令和6年度決算)
- 銀行は、受注残と元請の支払条件、機器の先行仕入れによる立替え、資格者の人数を見る
- 税務では、材料・機器の在庫の評価、工事の収益の計上時期、簡易課税の事業区分、工具・測定器の少額減価償却資産の特例(2026年4月取得分から40万円未満)が論点
- 承継では、建設業許可のほか、電気工事業の登録(主任電気工事士)と給水装置工事事業者の指定(5年更新、主任技術者)を誰の資格で満たすかを早めに設計する
設備工事業の今:受注は2年続けて増加、課題は人と資格
まず、統計で業界の現状を確認します。
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 設備工事業の受注高 | 2026年8月 2兆9,764億円(前年同月比19.7%増、24か月連続の増加) | 国土交通省「建設工事受注動態統計調査報告(令和8年8月分)」 |
| うち元請受注高 | 1兆6,881億円(同28.7%増、21か月連続の増加) | 同上 |
| 電気工事業の許可業者 | 66,534業者(前年同月比1.6%増。2000年3月末比23.8%増) | 国土交通省「建設業許可業者数調査」(2026年3月末) |
| 管工事業の許可業者 | 91,168業者(同0.8%増。同3.0%増) | 同上 |
| 電気通信工事業の許可業者 | 16,764業者(同1.5%増) | 同上 |
| 消防施設工事業の許可業者 | 16,075業者(同0.5%増) | 同上 |
| 機械器具設置工事業の許可業者 | 25,123業者(同1.5%増) | 同上 |
出典:国土交通省「建設工事受注動態統計調査報告(令和8年8月分)」、同「建設業許可業者数調査の結果について(令和8年3月末現在)」
同じ月の総合工事業の受注高は前年同月比1.2%増、元請受注高は同2.6%減でした。建設業のなかで、設備工事の受注の伸びが際立っていることが分かります。建物の新築に加え、空調・照明の省エネ改修や老朽化した設備の更新など、既存の建物に向けた工事が多いのも設備工事の特徴です。2025年4月以降に工事に着手する建築物からは、原則としてすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務づけられ、建物の性能を左右する設備の重要性はさらに高まっています(国土交通省「省エネ基準適合義務の対象拡大について」)。
一方、許可業者数の伸びは電気工事業で年1.6%、管工事業で0.8%と、内装や塗装などの専門工事より緩やかです。設備工事は、電気工事士や給水装置工事主任技術者などの資格を持つ人がいなければ施工も営業もできないため、仕事はあっても、資格者がいないと受けられないという制約があります。2024年4月から建設業に適用された時間外労働の上限規制も、資格者の少ない会社ほど重くのしかかります。
中小設備工事会社の収益構造と決算書の特徴
中小企業庁「中小企業実態基本調査」(令和7年確報、令和6年度決算実績)から、中小企業(法人)の財務を比べます。数字は、調査の集計値から筆者が計算したものです。
| 項目 | 設備工事業 | 職別工事業 | 全産業(中小・法人) |
|---|---|---|---|
| 1社あたり売上高 | 約2.51億円 | 約1.97億円 | 約3.91億円 |
| 1社あたり従業者数 | 10.4人 | 8.4人 | — |
| 売上総利益率(粗利率) | 29.6% | 27.0% | 25.2% |
| 外注費÷売上高 | 27.3% | 28.0% | — |
| 材料費÷売上高 | 22.4% | 26.2% | — |
| 売上高営業利益率 | 7.73% | 3.91% | — |
| 売上高経常利益率 | 8.54% | 5.12% | 4.44% |
| 自己資本比率 | 53.6% | 46.6% | 44.9% |
出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査」令和7年確報(2026年6月29日公表、e-Stat)の「資産及び負債・純資産」「売上高及び営業費用」産業中分類別表より計算
中小の設備工事業は、平均で見ると経常利益率・自己資本比率とも全産業を大きく上回り、建設業のなかでも財務の厚い業種です。資格や技術が参入の壁になり、価格競争に巻き込まれにくいことが理由の一つと考えられます。同じ調査では、1社あたりの現金・預金は平均約8,700万円で、借入金(金融機関以外からの借入れを含む)の平均約4,900万円を上回っていました。
ただし、平均の裏には、ゼネコンやサブコンの下請として工事を受ける会社、官公庁や施主から直接受ける会社、保守・点検を中心に安定収入がある会社など、さまざまな形態があります。自社がどの形に近いかで、決算書の見え方は大きく変わります。
決算書で見られるところ
- 材料・機器の仕入れ:電線・配管材・空調機器・受変電設備など、工事に先立って仕入れる金額が大きい。価格の上昇を見積りに反映できているかが利益を左右する
- 在庫(未成工事支出金・材料貯蔵品):受注残が多い会社ほど、期末に未成工事支出金や材料の在庫が積み上がる。工事台帳と一致しているかが見られる
- 保守・点検の収入:定期点検や保守契約は、工事の波を平らにするストック型の収入。売上の内訳として分けて示すと評価されやすい
- 売掛金・受取手形:受取手形・売掛金は平均で売上の約1.7か月分。元請の支払サイトや手形の有無で大きく変わる
銀行は設備工事会社のどこを見るか
受注残と、機器の先行仕入れ
設備工事の資金繰りで特に注意したいのが、機器や材料を工事の前に発注し、支払いが先に来ることです。大型の空調機器や受変電設備は、発注から納入までの期間が長くなることがあり、前払いや早めの支払いを求められる場合もあります。そのうえ、工事代金は完成後や出来高に応じて入るため、受注が増えるほど立替えが膨らみます。
銀行に運転資金を申し込むときは、受注残の一覧と、工事ごとの入出金予定をセットで示すのが基本です。設備工事は受注から完成までの期間が長い工事も多いため、決算書だけでは足元の資金需要が見えません。考え方は運転資金の融資はいくらが目安?、資金繰り表は資金繰り表の作り方で解説しています。
債務償還年数と、資格者の人数
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。平均的な中小設備工事会社は手元資金が借入金を上回っており、この指標では良好な会社が多い業種です。銀行がむしろ気にするのは、利益を生み出している資格者や技術者が、何人いて、何歳かです。
設備工事会社の受注能力は、電気工事士、電気工事施工管理技士、管工事施工管理技士、給水装置工事主任技術者といった資格者の人数でほぼ決まります。ベテランの資格者1人に依存している会社は、その人が辞めたり引退したりすると受注も許可・登録も維持できなくなるおそれがあります。資格者の年齢構成と、若手の資格取得の計画を説明できると、銀行の評価は安定します。決算書の整え方は決算書を銀行に出す前のチェックも参考にしてください。
設備資金と保証協会
高所作業車やトラック、測定機器などの設備投資は、リースか借入かを、資金繰りと利益への影響で比べて決めます。創業間もない会社や、元請の下請から元請受注へ転換を図る会社は、信用保証協会の保証付き融資から実績を積むのが一般的です(信用保証協会の審査で見られるポイント)。
設備工事業特有の税務・会計の論点
材料・機器の在庫の評価
設備工事会社は、電線や配管材などの材料を在庫として持つことが多く、期末の在庫の金額が利益に直結します。法人は棚卸資産の評価方法を選んで届け出ることができ、届出をしていない場合は、最終仕入原価法による原価法で評価することになっています(法人税法施行令31条)。銅などの価格が大きく動く材料では、評価方法によって利益が変わります。期末の実地棚卸を行い、現場に持ち出した材料と倉庫の在庫を区別して数えることが、正しい利益と、銀行・税務署への説明の前提になります。
収益の計上時期と保守契約
工事の売上は、原則として目的物を引き渡した日に計上します(完成引渡基準)。工期1年以上・請負金額10億円以上などの要件をすべて満たす長期大規模工事は工事進行基準が強制され、それ以外の工事も要件を満たせば工事進行基準を選べます(法人税法64条)。設備工事では、棟ごとや系統ごとに引き渡して代金を受け取る取決めがある場合、その部分ごとに売上を計上する点にも注意が必要です。詳しくは建設業(総合工事業・工務店)の動向と経営のポイントで解説しています。
年間の保守・点検契約で料金を前もって受け取る場合は、受け取った時に全額を売上にするのではなく、サービスを提供した期間に対応する部分を各期の売上とするのが基本です。契約の内容ごとに計上方法をそろえておきましょう。
消費税:簡易課税の事業区分とインボイス
簡易課税を選んでいる会社では、建設業は第3種事業(みなし仕入率70%)ですが、他の者の原材料などに加工を施して加工賃を受け取る役務の提供は第4種事業(同60%)とされています(消費税法基本通達13-2-7、国税庁タックスアンサーNo.6509)。工事のほかに機器の販売だけを行う取引や、点検・修理などの役務がある会社は、取引ごとの事業区分を確認しておく必要があります。
一人親方などインボイスの登録をしていない外注先への支払いは、経過措置で控除できる割合が2026年10月1日から70%に下がりました(免税事業者からの仕入れの経過措置)。
工具・測定器と少額減価償却資産の特例
中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、令和8年度税制改正で、2026年4月1日以後に取得する資産から基準が40万円未満(従来は30万円未満)になりました。年間合計300万円までが上限で、適用期限は2029年3月31日です(国税庁タックスアンサーNo.5408)。絶縁抵抗計などの測定器や電動工具の更新に使える制度ですが、利益を減らせば銀行から見た利益も減ります。融資を控えている期は、償却の方法も含めて顧問税理士と相談しましょう。
事業承継・M&A:許可・登録・指定を誰の資格で満たすか
中小企業実態基本調査(令和7年確報、個人企業を含む)で、設備工事業の社長と承継の意向を見ると、社長の年齢が60歳以上の割合は49.6%、就任経緯は「創業者」が51.1%、「親族内での承継」が38.8%でした。承継の意向では「役員・従業員承継を考えている」が9.6%と、全産業(4.3%)の2倍を超えています。創業者が多く、社員の技術者に会社を託すことを考える経営者が比較的多い業種といえます(同調査「事業承継の状況」産業中分類別表)。
設備工事会社の承継では、建設業許可に加えて、業務ごとの登録や指定を引き継げるかが重要です。
| 制度 | 内容 | 承継のときの注意点 |
|---|---|---|
| 建設業許可(電気工事業・管工事業など) | 経営体制と営業所ごとの技術者が要件 | 事業譲渡・合併・分割は事前の認可で地位を承継(建設業法17条の2)。株式譲渡なら許可は残るが、要件を満たす人の後任が必要 |
| 電気工事業の登録 | 有効期間5年。一般用電気工作物の工事を行う営業所ごとに主任電気工事士を置く。建設業者は届出による「みなし登録電気工事業者」 | 事業の全部の譲渡、相続、合併・分割(事業の全部を承継させるもの)で地位を承継(電気工事業法9条)。主任電気工事士が欠けたときは2週間以内に選任 |
| 指定給水装置工事事業者 | 水道事業者ごとの指定。5年ごとの更新。事業所ごとに給水装置工事主任技術者を選任 | 事業所や主任技術者の変更、承継の扱いを、指定を受けている水道事業者ごとに確認 |
出典:電気工事業の業務の適正化に関する法律(3条、9条、19条、34条)、水道法(16条の2、25条の3、25条の3の2、25条の4)、建設業法
どの制度でも共通するのは、資格を持つ人がいなければ、登録や指定があっても事業を続けられないことです。社長自身が第一種電気工事士や施工管理技士の資格で要件を満たしている会社では、社長の引退と同時に要件を欠くおそれがあります。後継者や若手社員の資格取得は、承継の数年前から計画的に進めましょう。
M&Aでは、買い手にとって資格者の人数と年齢、保守契約などの継続収入、元請・施主との関係が価値の中心になります。資格者が退職しないよう、承継の前後で処遇や役割を示しておくことが欠かせません。許認可の扱いは許認可はM&Aで引き継げるか、社員への承継はMBO・EBOによる事業承継で詳しく解説しています。
経営者が今やっておきたいこと
- 受注残の一覧と、工事ごとの入出金予定(機器の発注・支払時期を含む)を作っている
- 材料・機器の価格の上昇を、見積りと契約の変更方法に反映している
- 期末に実地棚卸を行い、未成工事支出金と材料の在庫を工事台帳と一致させている
- 保守・点検などの継続収入を、工事の売上と分けて把握している
- 資格者の人数・年齢・資格の種類を一覧にし、若手の資格取得の計画を立てている
- 電気工事業の登録(またはみなし登録の届出)と給水装置工事事業者の指定の有効期限、主任者の選任状況を把握している
- 簡易課税の会社は、工事・機器販売・点検などの事業区分を確認している
- 債務償還年数と自己資本比率を把握し、承継や設備投資の資金計画に生かしている
専門工事業(内装・塗装・左官など)の動向とポイントは専門工事業の動向と経営のポイントで解説しています。
まとめ
- 設備工事業の受注高は24か月連続で増加し、建設業のなかでも伸びが目立つ。課題は資格者の確保と、機器・材料の価格上昇
- 中小の設備工事業は経常利益率8.54%、自己資本比率53.6%と財務が厚いが、資格者への依存度が高い
- 銀行は受注残、機器の先行仕入れによる立替え、資格者の人数と年齢を見る。受注残と入出金予定をセットで示すのが基本
- 税務では、在庫の評価、収益の計上時期と保守契約、簡易課税の事業区分、少額減価償却資産の特例の拡充に注意する
- 承継では、建設業許可・電気工事業の登録・給水装置工事事業者の指定を、誰の資格で満たすかを早めに設計する
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