不動産仲介・売買業は、住宅の売買や賃貸の仲介、中古住宅の買取再販、土地の仕入れと分譲など、地域の中小企業や個人事業者が数多く営む業界です。宅地建物取引業者の数は12年連続で増えており、都市部を中心に住宅価格の上昇が続いています。一方で、金利の上昇、不動産向け融資への目線の変化、空き家対策にともなう報酬規定の見直しなど、経営の前提も動いています。
この記事では、不動産仲介・売買業の経営を公的な統計で整理したうえで、仲介と売買で大きく違う決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、在庫・収益計上・消費税の税務、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 宅建業者は13万3,727業者(2026年3月末、前年度比+1.1%)で12年連続の増加。参入は続いている
- マンション(区分所有)の価格指数は225.1(2025年12月、2010年平均=100)。価格の上昇が、在庫を持つ売買業の利益と借入を大きくしている
- 不動産業の売上高経常利益率は13.6%(2024年度、全規模)と高いが、仲介は人件費型、売買は在庫・借入型で、決算書の見え方がまったく違う
- 銀行は、売買業なら在庫の回転・含み損・仕入資金の返済原資、仲介業なら手数料収入の安定性と固定費を見る
- 税務では、仲介手数料の計上時期、販売用不動産の評価損、居住用賃貸建物の消費税、課税売上割合が論点になりやすい
不動産仲介・売買業の今:業者は増え、価格は高止まり
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業者数 | 13万3,727業者(大臣免許3,238、知事免許13万489)、前年度比+1,436業者 | 国土交通省(2026年3月末) |
| 宅地建物取引士の登録者数 | 124万3,738人(2025年度の新規登録3万4,714人) | 同上 |
| 宅建業者への監督処分 | 163件(免許取消85、業務停止36、指示42) | 同上(2025年度) |
| 不動産価格指数(住宅総合) | 148.0(前月比+0.5%) | 国土交通省(2025年12月分、季節調整値、2010年平均=100) |
| 同 マンション(区分所有) | 225.1(前月比+1.0%) | 同上 |
| 同 商業用不動産総合 | 146.6(前期比−0.2%) | 同上(2025年第4四半期) |
出典:国土交通省「令和7年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について」(2026年10月2日公表)、国土交通省「不動産価格指数(令和7年12月・令和7年第4四半期分)」(2026年3月31日公表、速報値)
宅建業者の数は2026年3月末で13万業者を超え、12年連続で増えています。免許は5年ごとの更新で、事務所ごとに専任の宅地建物取引士を置くなどの要件を満たせば、比較的少ない人数でも開業できます。そのため、独立開業や他業種からの参入が続いている業界です。
価格の面では、マンション(区分所有)の指数が2010年の2倍を超える水準にあります。住宅地や戸建住宅の指数は120前後で、上昇はマンションに集中しています。価格が上がると、仲介業は1件あたりの手数料が増えますが、買取再販や分譲などの売買業は、仕入れに必要な資金と借入も大きくなります。
制度の面では、2024年7月1日から、宅建業者が受け取れる報酬の告示が改正され、売買代金800万円以下(税抜)の「低廉な空家等」は、媒介報酬の上限を30万円の1.1倍(33万円)まで受け取れるようになりました(大阪府「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」に掲載の国土交通省告示)。手数料が小さく採算が合わなかった地方の空き家の取引を、事業として扱いやすくする改正です。
中小の不動産会社の収益構造と決算書の特徴
仲介業と売買業は「別の業種」として見られる
財務省の法人企業統計では、不動産業の売上高経常利益率は2024年度で13.6%(売上高営業利益率は12.2%)と、全産業(6.8%)の2倍近い水準です(財務省「年次別法人企業統計調査(令和6年度)」、2025年9月1日公表、大企業を含む全規模)。ただし、この数字には賃貸ビルを持つ大企業も含まれます。中小企業の決算書は、事業の形によって次のように大きく違います。
| 項目 | 仲介業(売買・賃貸の媒介) | 売買業(買取再販・分譲) |
|---|---|---|
| 売上 | 仲介手数料、賃貸の管理料 | 物件の売却代金(総額) |
| 主な費用 | 人件費、広告費、事務所家賃 | 物件の仕入代金、リフォーム費、借入利息 |
| 粗利の見え方 | 売上のほぼ全額が粗利 | 売上から仕入代金を引くため、粗利率は低くなる |
| 貸借対照表 | 資産が軽く、借入は少ない | 販売用不動産(棚卸資産)と借入金が大きい |
| 利益の変動 | 成約件数と単価で変わる | 1件の売却で期の損益が大きく動く |
| 主なリスク | 担当者の退職、広告費の増加 | 売れ残り、値下がり、金利上昇 |
仲介業は「人が稼ぐ」業種で、営業担当者の数と成約率、広告費の効率が利益を決めます。売上が手数料なので、売上高経常利益率は高く見えますが、月々の成約件数のぶれがそのまま利益のぶれになります。
売買業は「在庫を持つ」業種です。仕入れた物件は販売用不動産として棚卸資産に計上され、売れるまで減価償却はしません。決算書では、売上高が大きい割に粗利率が低く、借入金と在庫が膨らむのが特徴です。1件あたりの金額が大きいため、決算月の直前に1件売れるかどうかで、黒字にも赤字にもなります。
決算書に表れる業界特有のポイント
- 販売用不動産:仕入れからの期間、物件ごとの簿価と想定売却価格。長く売れ残っている物件は、銀行が最初に確認する
- 前受金・預り金:売買の手付金、賃貸の敷金・家賃の預り。自社の資金と区別して管理する
- 未収入金:決済待ちの仲介手数料。期末をまたぐ取引の計上時期に注意
- 支払手数料:業者間の紹介料、広告料、情報提供料。相手が個人なら源泉や支払調書の扱いも確認する(担当者への謝礼の税務)
銀行は不動産仲介・売買業のどこを見るか
売買業:在庫の質と返済原資
売買業の仕入資金は、物件ごとの短期の借入(売却時に一括返済)で調達するのが一般的です。銀行は、その物件が売れることが返済原資になると考えるため、次の点を見ます。
- 在庫の回転:仕入れから売却までの平均期間。計画より長期化している物件がないか
- 含み損:簿価が想定売却価格を上回っていないか。上回るなら評価損の計上を検討しているか(販売用不動産の評価損)
- 自己資金の割合:仕入代金のうち、どれだけを自己資金で入れているか
- 過去の実績:仕入れから売却までの実績(件数、粗利、期間)を一覧にして示せるか
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。売買業は在庫見合いの借入が多いため、この式をそのまま当てはめると年数が長く出ます。実務では、売却で返済される在庫見合いの借入を分けて評価する銀行もありますが、それは在庫が時価で売れる前提があってこそです。売れ残りの物件が増えると、この前提が崩れ、通常の借入と同じように見られます。
仲介業:手数料収入の安定性と固定費
仲介業は借入が少ない一方、担保になる資産も少ないため、手数料収入の安定性が評価の中心になります。売買仲介だけでなく、賃貸仲介や管理の収入があると、毎月の収入の底が見えやすくなります。人件費や広告費などの固定費を、成約が少ない月でもまかなえるかも確認されます。
業界全体として見られる点
不動産業向けの融資は、金融機関の貸出の中で大きな割合を占めるようになっており、金融機関によっては審査の目線を見直す動きも報じられています(地方銀行の不動産融資の動き)。宅建業者への監督処分は2025年度に163件あり、行政処分の履歴やコンプライアンスの体制も、取引先として見られるポイントです。決算書の整え方は不動産会社が銀行格付けを上げるチェックリストも参考にしてください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る不動産仲介・売買業特有の税務・会計の論点
仲介手数料の計上時期
土地・建物の売買や賃貸借の仲介報酬は、原則として売買等の契約の効力が発生した日の事業年度に計上します。売買・交換の仲介で、引渡しなど取引の完了日に継続して計上している場合は完了日によることもでき、その前に受け取った金額は受け取った日に計上します(国税庁 法人税基本通達2-1-21の9)。期末に契約し、翌期に決済する取引は、どちらの基準で計上しているかを毎期そろえておきましょう。
販売用不動産と固定資産の区分
販売目的で仕入れた物件は棚卸資産で、減価償却はできません。一方、賃貸用として保有する物件は固定資産です。同じ物件を途中で販売用から賃貸用(またはその逆)に変えると、償却や消費税の扱いが変わるため、取締役会の記録などで保有目的を明確にしておきます(棚卸資産と固定資産の区分)。
消費税:居住用賃貸建物と課税売上割合
| 論点 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 居住用賃貸建物 | 税抜1,000万円以上の住宅は、販売用でも仕入税額控除が制限される(住宅の貸付けに使わないことが明らかなものを除く) | 一時的に賃貸に出す買取再販は特に注意(居住用賃貸建物の消費税) |
| 土地の譲渡 | 土地の売却は非課税で、課税売上割合の分母に入る | 土地の売却が多い期は控除できる消費税が減る(課税売上割合が下がる仕組み) |
| 建物と土地の按分 | 売買代金を建物と土地に分ける割合で、消費税額が変わる | 契約書に建物の消費税額を明記する |
印紙税と土地の短期譲渡
不動産の譲渡契約書の印紙税は、2027年3月31日までに作成されるものについて軽減措置があります(国税庁 No.7108)。また、法人が短期で土地を売買した場合の重課制度は1998年から適用が停止されていますが、マンション価格の高騰を受けて再開の検討が報じられています(土地譲渡益重課の再開の検討)。税制改正大綱の内容によっては、短期で仕入れて売る事業の採算が変わるため、動向を見ておきたいところです。
事業承継・M&A:免許は会社に、信用は人に
不動産会社の価値は、宅建業の免許、地域での信用と物件情報のネットワーク、管理物件のオーナーとの関係にあります。宅地建物取引業法には、建設業法のような地位の承継の規定がありません。
| 論点 | 承継・M&Aで確認されること |
|---|---|
| 宅建業の免許 | 株式譲渡なら会社の免許は維持。事業譲渡・合併では、譲り受ける側が免許を持っている必要がある(許認可の引継ぎ) |
| 専任の宅建士 | 事務所ごとに業務に従事する人の5人に1人以上。社長が唯一の宅建士なら、退任で要件を欠くおそれ |
| 管理物件・オーナー | 賃貸管理の契約が会社との契約か、社長個人との信頼関係に依存していないか |
| 在庫物件 | 承継時の時価と簿価の差。含み損があれば株価と融資に影響する |
| 保証金・保証協会 | 営業保証金(主たる事務所1,000万円)または保証協会の弁済業務保証金分担金(主たる事務所60万円)の扱い |
株式譲渡で会社ごと引き継げば免許は残りますが、役員や専任の宅建士の変更届が必要です。物件を多く持つ会社の承継やM&Aの考え方は、不動産M&A(株式譲渡)の仕組みをご覧ください。
経営者が今やっておきたいこと
- 仲介と売買の損益を分けて管理し、それぞれの利益率と固定費を把握している
- 販売用不動産の一覧(仕入日、簿価、想定売却価格、借入残高)を毎月更新している
- 長期間売れ残っている物件について、値下げ・賃貸転用・評価損のどれにするかを決めている
- 仲介手数料の計上基準(契約日か引渡日か)を決め、毎期同じ基準で処理している
- 買取再販で賃貸に出す前に、居住用賃貸建物の消費税への影響を試算している
- 専任の宅建士が社長1人に依存していないか確認し、後継者や社員の資格取得を進めている
- 仕入れから売却までの実績を一覧にし、銀行に説明できる資料を用意している
ほかの業界の動向は、建設業(総合工事業・工務店)、食品製造業でも解説しています。
まとめ
- 宅建業者は13万3,727業者で12年連続の増加。マンション価格は2010年の2倍超の水準
- 不動産業の経常利益率は高いが、仲介は人件費型、売買は在庫・借入型で、決算書の見え方が違う
- 売買業の融資は、在庫の回転と含み損、仕入資金の返済原資がポイント
- 仲介手数料の計上時期、販売用不動産の区分、居住用賃貸建物と課税売上割合の消費税は、毎期確認する
- 宅建業の免許は承継規定がない。株式譲渡か事業譲渡かで手続きが変わり、専任の宅建士の確保も欠かせない
在庫物件の融資、決算書の見せ方、消費税の試算、会社の承継について相談したい方は、不動産投資家・不動産会社向けのサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
