食品製造業は、パン・菓子、そう菜、水産加工、めん類、調味料など、地域に根ざした中小企業が数多く活躍している業界です。景気に左右されにくい安定した需要がある一方で、原材料やエネルギーの価格上昇、パートを含む人手の確保、衛生管理の高度化、そして2027年に予定されている飲食料品の消費税率の引下げなど、経営環境は大きく動いています。
この記事では、食品製造業の経営を公的な統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、消費税率引下げが資金繰りに与える影響、在庫や設備の税務、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 食料品製造業の製造品出荷額等は35兆107億円(2024年、前年比+6.1%)。従業者数は111万7,773人で製造業の中分類で最多
- 発注側が食品製造の取引での価格転嫁率は59.5%(2026年3月)。ただし、小売・卸売向けは54%台で、原材料高を価格に反映しきれていない
- 公庫の調査では、小規模な食品製造業の経常利益率は平均−3.1%、黒字企業の平均は4.4%。人件費が付加価値を上回る会社が多い
- 飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間1%に下げる法案が国会で審議中。成立すれば、預かり消費税が減り、還付になる会社も出る
- 銀行が見るのは、取引先の分散、原価管理、設備の更新計画、衛生・品質管理の体制
食品製造業の今:需要は底堅く、課題はコストと人
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 食料品製造業の事業所数 | 2万3,820(製造業の11.1%、前年比−3.4%) | 総務省・経済産業省「2025年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」(2025年6月1日) |
| 同 従業者数 | 111万7,773人(製造業の14.7%で最多) | 同上 |
| 同 製造品出荷額等 | 35兆107億円(前年比+6.1%) | 同上(2024年の1年間) |
| 製品製造・加工処理の職業(金属製品を除く)の求人倍率 | 有効1.60倍、新規2.78倍(全職業は有効1.06倍) | 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」参考統計表(常用、パートを含む、原数値) |
| 農林水産物・食品の輸出額 | 1兆7,005億円(前年比+12.8%) | 農林水産省(2025年の1年間、2026年2月公表) |
出典:経済産業省「経済構造実態調査(製造業事業所調査)の結果」(2025年調査 結果の概要、2026年7月29日公表)、厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」、農林水産省「2025年の農林水産物・食品の輸出実績」
出荷額は前年から6.1%伸びていますが、これには原材料高に伴う値上げの影響も含まれています。事業所数は3.4%減っており、小規模な工場の廃業や、大手・中堅への集約が進んでいることがうかがえます。
人の面では、食品製造は製造業の中で最も多くの人が働く業種で、パート・アルバイトへの依存度も高いのが特徴です。2026年度の最低賃金は全国加重平均で1,177円(前年度比56円増)となり、10月から順次発効しています(厚生労働省)。
価格転嫁については、中小企業庁の2026年3月の調査で、発注側が食品製造の取引での転嫁率は59.5%と全体(54.2%)を上回りました。ただし、食品メーカーの主な販売先である卸売は54.6%、小売は54.3%です(中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」)。小売・卸売向けの商品が中心の会社ほど、コスト上昇を価格に反映しにくい状況が続いています。
中小食品製造業の収益構造と決算書の特徴
原材料と人件費の「二重の圧迫」
食品製造の原価は、原材料費、包装資材費、製造に携わる人の人件費、水道光熱費が中心です。材料費の比率が高く、付加価値率(粗付加価値額÷売上高)は金属加工などより低めになります。
| 指標 | 全体平均(219社) | 黒字かつ自己資本プラス企業の平均(50社) |
|---|---|---|
| 売上高経常利益率 | −3.1% | 4.4% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 0.1% | 7.1% |
| 粗付加価値額対売上高比率 | 32.0% | 37.7% |
| 人件費対粗付加価値額比率 | 110.0% | 76.0% |
| 固定長期適合率 | 102.3% | 71.5% |
| 借入金回転期間 | 10.2か月 | 8.3か月 |
| 自己資本比率 | −32.8% | 21.5% |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2024年度調査)業種別経営指標 食料品製造業(公庫の融資先で従業者50人未満の法人、製造小売業を除く。決算期は2023年7月以降)
全体の平均では、人件費が付加価値の110%に達しており、付加価値をすべて人件費に回しても足りない会社が多いことが分かります。黒字企業は、付加価値率が5ポイント以上高く、人件費に回るのは付加価値の76%です。商品の付加価値(価格)を上げられるかどうかが、利益の分かれ目です。
また、固定長期適合率が平均で100%を超えているのは、工場や設備の一部を短期の資金でまかなっている会社が多いことを示しています。設備投資の資金を長期の借入で調達できているかは、銀行が必ず確認する点です。
決算書に表れる業界特有のポイント
- 棚卸資産:原材料・包装資材・製品の在庫。賞味期限があるため、在庫が膨らむと廃棄損につながる(公庫の調査で棚卸資産回転期間は平均0.6か月)
- 売掛金:卸売・小売への販売は月末締め・翌月払いが多い。販売奨励金(リベート)や返品の条件が利益に影響する
- 設備:製造ライン、冷蔵・冷凍設備、包装機など。衛生基準を満たすための更新投資が定期的に発生する
- 水道光熱費:加熱・冷却に使うエネルギーの比率が高く、電気・ガス料金の変動が利益を直撃する
銀行は食品製造業のどこを見るか
返済能力と運転資金
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。食品製造業は利益率が薄いため、借入金が月商の10か月分を超えると、償却前の利益で返済するのに時間がかかりやすくなります。
運転資金は、原材料の支払いと売掛金の入金の時間差を埋めるものです。年末商戦やお中元・お歳暮など、季節によって在庫と売掛金が大きく動く会社は、ピークの資金需要を見越して借入枠を確保しておくことが大切です(運転資金の融資の考え方)。
業界特有のリスクとして見られる点
- 販売先の集中:大手小売やPB(プライベートブランド)の取引に売上が偏っていないか(取引先の集中リスク)
- 原価管理:原材料価格の変動を、製品別の原価計算で把握し、価格改定に反映できているか
- 食品事故:異物混入や表示ミスによる回収は、1回で大きな損失と取引停止につながる。衛生管理と保険の備え
- 設備の老朽化:衛生基準や取引先の監査に対応するための更新投資が必要にならないか
HACCPに沿った衛生管理は、2021年6月1日から原則としてすべての食品等事業者に求められています(厚生労働省「HACCP」)。衛生管理の計画と記録が整っていることは、取引先の監査だけでなく、銀行に事業の安定性を説明する材料にもなります。審査全般は銀行融資の審査で見られるポイントも参考にしてください。
2027年の消費税率引下げ(案)と資金繰り
国税庁が2026年9月に公表した資料では、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる改正案が示されています。この内容は、2026年9月15日に閣議決定された大綱にもとづくもので、法案は2026年10月時点で国会で審議されています。成立した場合、食品製造業には次のような影響があります。
| 項目 | 現行(2027年3月まで) | 引下げ期間(案) |
|---|---|---|
| 食品の売上 | 8% | 1% |
| 原材料(食品)の仕入れ | 8% | 1% |
| 包装資材・電気・ガス・設備・外注費 | 10% | 10%(変わらない) |
| 酒類の製造・販売 | 10% | 10%(対象外) |
出典:国税庁「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げについて」(2026年9月)
売上にかかる税率が大きく下がる一方、10%のままの経費は残るため、納める消費税が大きく減り、会社によっては還付になります。一見よい話ですが、資金繰りの面では注意が必要です。これまで、預かった消費税は申告・納付までの間、事実上の運転資金として手元にありました。引下げ期間中はこれがなくなり、還付になる場合は、10%で払った税金が申告後まで戻ってきません。
国税庁の資料では、次のような特例も示されています。
- 免税事業者や簡易課税の事業者が、2027年4月1日の属する課税期間中の届出で、課税事業者や一般課税に切り替えられる特例
- 前期の実績で計算すると中間納付が過大になる場合に、引下げ後の税率で再計算した仮決算の中間申告ができる特例
- 一定の定期供給契約や通信販売は、引下げ後も8%が適用される経過措置
還付を早く受けたい場合は、課税期間を3か月や1か月に短縮する方法もあります。ただし、短縮すると申告の回数が増え、2年間はやめられません。自社の課税方式(一般課税か簡易課税か)、還付の見込み額、中間申告の負担を、2027年3月までに試算しておくことをおすすめします。中間申告の考え方は中間申告の活用も参考にしてください。
食品製造業特有の税務・会計の論点
在庫の廃棄損と評価損
賞味期限切れや品質不良で廃棄した在庫は、廃棄の事実を証明できる記録があれば損金にできます。廃棄業者の証明書、写真、社内の廃棄記録をそろえておきましょう。廃棄せずに評価損を計上できるのは、季節商品の売れ残りで通常の価額では販売できないことが明らかな場合や、破損・型崩れ・品質変化などで通常の方法では販売できなくなった場合などです(国税庁 法人税基本通達9-1-4、9-1-5)。単に市況で値下がりしただけでは計上できません。
在庫は、銀行から見ても重要な項目です。決算書の在庫が月商に比べて多すぎると、売れない在庫が資産に残っていないかを疑われます。期末の棚卸は、賞味期限と数量を照合して行いましょう。
設備と税制
食料品製造業用設備の法定耐用年数は10年です(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第二)。2026年4月1日以後に取得等をする資産から、少額減価償却資産の特例は40万円未満が対象になり(年300万円が上限)、経営力向上計画の認定を受けて取得する設備には中小企業経営強化税制(取得等の期限は2027年3月31日)が使えます(国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」、No.5434)。
ただし、即時償却などで利益を小さくすると、融資の審査では不利に見えることがあります。著書の標語「払った税金の2倍、会社は強くなる」のとおり、翌期以降の資金調達の予定もふまえて使い方を決めましょう。
消費税の区分経理
食品の売上・仕入れと、包装資材やイートインのある直売所の売上など、税率の異なる取引を区分して記帳する必要があります(国税庁 No.6102)。税率引下げの前後で、商品マスタや請求書の設定を確実に切り替えられるよう、早めにシステムの対応を確認しておきましょう。
事業承継・M&A:レシピ、許可、販路
食品製造業の承継では、製法(レシピ)と職人の技術、営業許可、取引先との口座が会社の価値を支えます。事業承継・引継ぎ支援センターの成約件数は2024年度に2,132件となっています(中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援事業」事業評価報告書)。
| 論点 | 承継・M&Aで確認されること |
|---|---|
| 営業許可 | 食品衛生法の営業許可は、施設と営業者ごと。株式譲渡か事業譲渡かで手続きが変わる(許認可の引継ぎ) |
| 製法・ブランド | レシピや商標が会社の資産として管理されているか、社長個人に属していないか |
| 職人・パート | 製造の中心となる人が承継後も残るか(キーパーソンの引き留め) |
| 販売先 | 大手小売・PBとの取引条件、経営者交代で契約を見直す条項 |
| 衛生・表示 | HACCPの記録、アレルゲン表示、過去の回収事故の有無 |
株式譲渡であれば許可や契約は会社に残りますが、事業譲渡では許可の取り直しが必要になる場合があります。M&Aの全体の流れは中小企業M&Aの件数と最近の傾向をご覧ください。
経営者が今やっておきたいこと
- 製品別の原価計算を行い、原材料・包装資材・光熱費の上昇を価格改定に反映している
- 販売先別の売上と粗利を把握し、特定の取引先への依存度を下げる計画がある
- 消費税率引下げ(案)について、還付・納付の見込みと中間申告への影響を試算している
- 季節の資金需要を見越して、運転資金の借入枠を確保している
- 廃棄の記録と期末の棚卸を、賞味期限とあわせて管理している
- HACCPの計画と記録を整え、取引先の監査や銀行への説明に使える状態にしている
- 製法・商標・営業許可の管理を整理し、承継の準備を始めている
ほかの業界の動向は、金属加工業、飲食業(飲食店)、運送業でも解説しています。
まとめ
- 食料品製造業の出荷額は35兆円、従業者数は製造業で最多。事業所数は減少し、集約が進む
- 価格転嫁は進んでいるが、小売・卸売向けは54%台。最低賃金の上昇も人件費を押し上げる
- 小規模企業は平均で赤字だが、黒字企業の経常利益率は4.4%。付加価値率と人件費のバランスが分かれ目
- 飲食料品の税率を2027年4月から2年間1%に下げる法案が審議中。預かり消費税が減るため、資金繰りの試算が必要
- 在庫の廃棄損は証拠を残す。評価損は通達の要件を満たす場合に限られる
運転資金の調達、決算書の見せ方、消費税の資金繰りへの影響、事業承継の進め方について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
