飲食店は、創業する人が最も多い業種の一つであり、地域の暮らしに欠かせない仕事です。一方で、食材費とエネルギー費の上昇、毎年上がる最低賃金、人手不足と、経営のかじ取りは年々難しくなっています。さらに2027年4月からは、食料品の消費税率を2年間1%に引き下げる案が示されており、テイクアウトの多い店とそうでない店とで、影響が分かれます。
この記事では、飲食業(飲食店)の経営を統計で整理したうえで、小規模な飲食店の決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、内装の減価償却や消費税など税務の論点、店舗の事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 飲食店は約43万事業所・従業者約291万人(2021年6月)。2025年の外食売上は前年比107.3%と伸びたが、その主因は客単価の上昇(104.3%)
- 日本政策金融公庫の調査では、小規模な一般飲食店の売上高経常利益率は平均−0.9%、中央値0.4%。自己資本比率の中央値は−2.0%で、債務超過に近い会社が少なくない
- 銀行は、内装・設備への投資を償却前の利益で何年で回収できるかと、現金商売ならではの売上の信頼性を見る
- 2027年4月からの食料品の消費税率1%(案)は、店内飲食は10%のまま。仕入の税額が減るため、店内飲食が中心の店は納める消費税が増えることに備える
- 店舗の承継は、2023年12月から事業譲渡でも営業許可を引き継げるようになった。賃貸借契約と料理人の引継ぎが実務の要
飲食業の今:売上は客単価で伸び、客数と人手が課題
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 飲食店の事業所数・従業者数 | 430,360事業所、2,908,548人 | 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」(2021年6月1日) |
| 外食の売上(全店) | 前年比107.3%(客数102.9%、客単価104.3%、店舗数100.7%) | 日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」(2025年1〜12月) |
| 業態別の売上 | 喫茶109.8%、ファーストフード107.5%、ファミリーレストラン107.2%、ディナーレストラン106.6%、パブレストラン・居酒屋104.0% | 同上 |
| 新規開業に占める割合 | 飲食店・宿泊業が14.5%(サービス業27.7%、医療・福祉16.7%に次ぐ) | 日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」(2025年8月調査) |
| 最低賃金 | 全国加重平均1,177円(前年度から56円引上げ) | 厚生労働省(令和8年度、2026年10月1日から順次発効) |
出典:日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 令和7年(2025年)年間結果報告」、経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査 産業別集計(サービス関連産業)結果の概要」、日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」、厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」
日本フードサービス協会の集計は会員企業(チェーン店が中心)の数字ですが、傾向ははっきりしています。メニューの値上げが続いたことで売上は伸びた一方、協会自身も「消費者の節約志向」が強まっていると指摘しており、持ち帰り米飯・回転寿司や焼き肉では客数が前年を下回りました。コロナ禍で大きく減った居酒屋やディナーレストランは、店舗数が下げ止まりつつあります。
中小の飲食店にとってのポイントは、値上げで売上を守れても、客数が減れば利益は残らないことです。最低賃金は毎年50円を超える幅で上がっており、人件費の上昇を価格に反映しつつ、客数を維持できるかが問われています。
小規模な飲食店の収益構造と決算書の特徴
日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」(2025年度調査、2026年8月掲載)から、一般飲食店(464社)の主な指標を抜き出しました。
| 指標 | 平均値 | 中央値 | 黒字かつ自己資本プラスの企業の平均 |
|---|---|---|---|
| 売上高総利益率(原価を引いた残り) | 65.0% | 65.1% | 67.8% |
| 人件費対売上高比率 | 32.9% | 33.2% | 31.5% |
| 売上高経常利益率 | −0.9% | 0.4% | 4.8% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 2.0% | 2.5% | 7.6% |
| 受取勘定回転期間(売掛金) | 0.2か月 | 0.2か月 | 0.2か月 |
| 借入金回転期間(借入金÷月商) | 6.8か月 | 5.0か月 | 4.6か月 |
| 自己資本比率 | −30.6% | −2.0% | 30.6% |
| 損益分岐点比率 | 104.5% | 101.3% | 95.7% |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」飲食店・宿泊業(2025年度調査)
この表から、飲食店の決算書の特徴が読み取れます。
- 原価率はおおむね3割台、人件費も3割強。いわゆる「FL(食材費と人件費)」で売上の7割近くを占め、家賃や水道光熱費を払うと利益はほとんど残らない
- 売掛金がほとんどない現金商売。カード決済やキャッシュレス決済の入金待ちを除けば、売上はすぐ現金になる
- 自己資本比率の中央値がマイナス。つまり、半数前後の店が債務超過かそれに近い状態にある。開業時の借入で内装をつくり、赤字や役員報酬の取りすぎで純資産が削られていく、という流れが典型的
- 黒字で自己資本がプラスの店は、経常利益率4.8%・自己資本比率30.6%。同じ業種でも、こうした店は人件費率がやや低く、借入金の水準も小さい
債務超過は、銀行の格付けを大きく下げる要因です。私自身、不動産投資で減価償却の速い物件を多く抱え、帳簿上の資産より負債が大きい債務超過となって、2019年に複数の銀行から融資を止められた経験があります。飲食店でも、開業時の内装を早く償却するほど純資産は薄くなるため、利益を残して純資産をプラスに戻すことが、次の出店や改装の資金を借りるための前提になります(債務超過の会社は融資を受けられるか)。
銀行は飲食店のどこを見るか
内装・設備投資を、償却前の利益で何年で回収できるか
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。飲食店の借入の多くは、内装工事と厨房設備のための設備資金です。銀行は、その店の償却前の利益で借入をどれだけの期間で返せるかを見ます。
ただし飲食店では、店舗の賃貸借契約の期間も重要です。内装は店を出るときに原状回復が必要になることが多く、資産としての価値はほとんど残りません。借入の返済期間が契約期間や想定の営業年数より長い計画は、銀行から見ると危うく映ります。新規出店では、投資額を何年で回収できるかを店ごとに示せるようにしておきましょう。
運転資金:売掛金がない業種の「必要な理由」
一般飲食店の受取勘定回転期間は0.2か月と短く、売上はほぼ現金で入ります。一方、食材の仕入は掛けで支払うことが多いため、本来、運転資金はあまり必要にならない業種です。そのため銀行は、飲食店からの運転資金の申込みに対しては「なぜ資金が足りないのか(赤字の補填ではないか)」を確認します。季節の変動、改装中の休業、賞与や納税の時期など、必要な理由と金額を資金繰り表で説明できることが大切です(運転資金の融資はいくらが目安?)。
現金商売ならではの「売上の信頼性」と保証
現金売上が多い業種では、決算書の売上が実態どおりかどうかが問われます。POSレジのデータ、日々の売上と入金の記録、キャッシュレス決済の入金明細がそろっていれば、銀行への説明力は大きく上がります。逆に、売上や経費の管理があいまいな店は、融資でも税務調査でも不利になります。
小規模な飲食店の資金調達は、日本政策金融公庫と、信用保証協会の保証付き融資が中心です。創業時の公庫融資については日本政策金融公庫の創業融資、審査全般は銀行融資の審査で見られるポイントも参考にしてください。
飲食店特有の税務・会計の論点
内装(造作)と厨房設備の減価償却
借りている店舗に行った内装工事は、国税庁のタックスアンサーでは、その建物の耐用年数や造作の種類・用途・材質などを勘案して、合理的に耐用年数を見積もるとされています。建物附属設備に当たるもの(電気設備、給排水設備など)はその耐用年数を使い、賃借期間が更新できず、買取請求もできない契約なら、賃借期間を耐用年数とすることもできます(国税庁 No.5406 他人の建物に対する造作の耐用年数)。
また、中小企業者等が取得した少額の減価償却資産は、令和8年4月1日以後の取得分から40万円未満(従来は30万円未満)のものを、年間合計300万円まで一度に損金にできるようになりました(国税庁 No.5408)。厨房機器や客席の家具は、この特例の対象になりやすい資産です。ただし、一度に費用にすれば、その期の利益と純資産は減ります。債務超過に近い店では、税金を減らすことより、決算書の純資産を守ることが優先になる場面もあります。
2027年4月からの食料品の消費税率1%(案)の影響
国税庁は、2026年9月15日に閣議決定された大綱にもとづき、令和9年(2027年)4月1日から令和11年(2029年)3月31日までの2年間、飲食料品の消費税率を1%に引き下げる内容を公表しています。法案が国会で成立した場合の内容です。
| 売上・仕入の種類 | 現在 | 2027年4月〜2029年3月(案) |
|---|---|---|
| 店内飲食(外食) | 10% | 10%のまま |
| テイクアウト・デリバリー(飲食料品の販売) | 8% | 1% |
| 酒類の提供・販売 | 10% | 10% |
| 食材の仕入(酒類を除く飲食料品) | 8% | 1% |
出典:国税庁「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げについて」(令和8年9月)、国税庁「消費税率引下げ特設サイト」
飲食店にとって見落としやすいのは、店内飲食が中心の店(一般課税の場合)は、納める消費税が増えることです。売上の税率は10%のままなのに、食材の仕入にかかる税額が8%から1%に下がるため、差し引きで納める税額が増えます。仕入先が税込価格を下げれば、その分の支払いは減りますが、現金の出口が「仕入先」から「税務署」に移るため、納税の時期の資金繰りに影響します。中間申告の金額も変わるため、早めに試算しておきましょう(中間申告で予定納税を見直す)。
逆に、テイクアウトや持ち帰り販売が多い店は、売上の税率が下がり、一般課税なら還付になる場合もあります。国税庁は、免税事業者が課税事業者を選ぶ届出や、簡易課税をやめる届出の時期についての特例も示しています。自店の売上のうち店内飲食・テイクアウト・酒類がそれぞれどれだけかを把握しておくことが、判断の出発点です。
インボイスと接待需要
飲食店業は、宛名などを省略した「適格簡易請求書(簡易インボイス)」を交付できる業種です。法人客の接待や会議での利用が多い店では、登録番号の入ったレシートを出せることが選ばれる条件になります。免税事業者のまま続けるか、課税事業者になってインボイスを発行するかは、客層によって判断が分かれます(新設法人の消費税)。
事業承継・M&A:営業許可、店舗の賃貸借、料理人
飲食店の承継は、親族への引継ぎのほか、従業員への承継や、居抜きでの事業譲渡など、規模の小さい取引が多いのが特徴です。中小企業のM&A全体の動きは中小企業M&Aの件数と最近の傾向で整理しています。
| 論点 | 株式譲渡 | 事業譲渡(店舗ごとの譲渡) |
|---|---|---|
| 飲食店営業許可 | 会社は変わらないため残る | 2023年12月13日以後の譲渡は、営業の全部を譲り受けた場合に地位承継の届出で引き継げる(一部の譲渡は対象外) |
| 店舗の賃貸借契約 | 契約は会社のまま。ただし契約に役員・株主の変更に関する条項がないか確認 | 賃貸人の承諾が必要。保証金の扱いも交渉事項 |
| 内装・設備(造作) | 会社の資産のまま | 造作の譲渡として対価を決める。消費税の課税対象 |
| 従業員 | 雇用は会社のまま | 個別に同意を得て転籍 |
出典:厚生労働省「事業譲渡による営業者の地位の承継について」ほか。詳しくは許認可はM&Aで引き継げるか、事業譲渡と株式譲渡の違いを参照。
飲食店の企業価値を大きく左右するのは、料理長や店長への依存度です。レシピや仕入先との関係が特定の人にしかない店は、その人が辞めると価値が大きく下がります。また、長時間労働になりやすい業種のため、譲渡の調査で未払残業代が見つかり、価格が下がることもあります(労務DDと未払残業代のリスク)。承継を考えるなら、レシピと仕込みの手順を文書にし、勤怠と賃金の管理を整えておくことが先決です。
経営者が今やっておきたいこと
- 店ごと・月ごとに、原価率・人件費率・家賃比率を把握している
- 最低賃金の改定を織り込んだ人件費の見通しと、値上げの計画を持っている
- 内装・設備の借入を、償却前の利益で何年で返せるかを計算している
- 赤字が続く店の撤退基準(何か月で判断するか)を決めている
- 債務超過なら、利益を残して純資産をプラスに戻す計画を立てている
- 店内飲食・テイクアウト・酒類の売上の内訳を把握し、2027年4月からの消費税の影響を試算している
- 店舗の賃貸借契約の期間・更新条件・原状回復の範囲を確認している
- レシピ・仕入先・調理手順を、特定の人に頼らない形で残している
ほかの業界の動向は、建設業(総合工事業・工務店)、運送業(一般貨物自動車運送業)でも解説しています。
まとめ
- 外食の売上は伸びているが、主因は客単価の上昇。客数の維持と人件費の上昇が課題
- 小規模な飲食店の経常利益率は平均で赤字、自己資本比率の中央値もマイナス。純資産を守ることが、次の資金調達の前提になる
- 銀行は、内装・設備投資の回収年数、運転資金が必要な理由、現金売上の管理を見る
- 2027年4月からの食料品の消費税率1%(案)は、店内飲食は対象外。店内飲食が中心の店は、納める消費税が増えることに備える
- 承継では、事業譲渡でも営業許可を引き継げるようになった。賃貸借契約、料理人への依存、未払残業代が価値を左右する
出店・改装の設備資金や運転資金の融資、決算書の見せ方、消費税率の変更への備え、店舗の承継について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
