ホテル・旅館業は、温泉地の旅館、地方のビジネスホテル、都市部の小規模ホテルや簡易宿所など、地域の中小企業が数多く担っている業界です。訪日外国人の増加で宿泊者数は過去最多を更新した一方、施設の種類や地域によって稼働率には大きな差があり、人手不足や設備の老朽化という課題も抱えています。
この記事では、ホテル・旅館業の経営を公的な統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が設備資金や運転資金の融資で見るポイント、減価償却・消費税・入湯税などの税務、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 2025年の延べ宿泊者数は6億6,111万人泊(前年比+0.3%)、外国人は1億7,992万人泊(同+9.4%)で過去最多。日本人は2.7%減
- 客室稼働率はビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%に対し、旅館は38.2%。施設の種類による差が大きい
- 公庫の調査では、小規模な旅館・ホテルの経常利益率は平均0.6%、黒字企業は8.4%。借入金は平均で月商の13.7か月分
- 銀行が見るのは、償却前の利益で借入を返せる年数、改装・設備更新の計画、繁閑の資金繰り
- 2023年の旅館業法改正で、事業譲渡でも承認で営業者の地位を承継できるようになった
ホテル・旅館業の今:宿泊者は過去最多、伸びはインバウンド
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 延べ宿泊者数(全体) | 6億6,111万人泊(前年比+0.3%) | 観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年年間値・確定値) |
| 同 日本人 | 4億8,118万人泊(前年比−2.7%) | 同上 |
| 同 外国人 | 1億7,992万人泊(前年比+9.4%) | 同上 |
| 訪日外客数 | 4,268万3,301人(2025年)、2026年1〜9月は3,073万200人(前年同期比−2.9%、推計値) | 日本政府観光局(JNTO) |
| 旅館業の営業許可施設数 | 9万3,475施設(うち旅館・ホテル営業5万1,038、簡易宿所4万1,909) | 厚生労働省「衛生行政報告例」(2024年3月末) |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年年間値(確定値))」(2026年7月6日公表)、日本政府観光局「訪日外客数(2026年9月推計値)」(2026年10月21日公表)、厚生労働省「旅館業法について」
2025年の延べ宿泊者数は過去最多となりましたが、伸びを支えたのは外国人で、日本人の宿泊は減っています。訪日外客数は2025年に4,268万人と過去最多でしたが、2026年は9月まで前年をわずかに下回って推移しています。JNTOは、中東情勢による航空券価格の上昇や台風による欠航などを要因に挙げています。インバウンドに頼る施設ほど、海外の情勢で需要が振れやすいことは、事業計画に織り込んでおきたい点です。
施設の種類で稼働率は大きく違う
| 施設の種類 | 客室稼働率(2025年) |
|---|---|
| ビジネスホテル | 75.3% |
| シティホテル | 74.1% |
| リゾートホテル | 56.9% |
| 旅館 | 38.2% |
| 簡易宿所 | 29.6% |
| 全体 | 61.6% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年年間値・確定値)」
旅館の稼働率が低く見えるのは、平日と休日、季節の差が大きいことに加え、客室あたりの単価や定員の考え方がホテルと違うためです。旅館は、稼働率よりも1室あたりの売上と、食事・宴会を含めた客単価で見るほうが実態に近くなります。
人手の面では、2026年8月の有効求人倍率(常用、パートを含む、原数値)は、接客・給仕の職業で2.31倍、飲食物調理の職業で2.21倍と、全職業(1.06倍)を大きく上回っています(厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」参考統計表)。客室を売れる状態でも、清掃や調理の人手が足りず稼働を抑えざるを得ない、という声は少なくありません。
中小のホテル・旅館の収益構造と決算書の特徴
ホテル・旅館は、売上原価(食材など)の比率は低い一方、人件費と、建物・設備の維持にかかる費用が大きい装置産業です。
| 指標 | 全体平均(66社) | 黒字かつ自己資本プラス企業の平均(24社) |
|---|---|---|
| 売上高経常利益率 | 0.6% | 8.4% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 7.0% | 13.4% |
| 人件費対売上高比率 | 32.0% | 29.7% |
| 1客室当たり売上高 | 508万7,000円 | 576万1,000円 |
| 借入金回転期間 | 13.7か月 | 10.5か月 |
| 固定長期適合率 | 102.2% | 86.7% |
| 自己資本比率 | −16.6% | 21.6% |
| 損益分岐点比率 | 105.0% | 97.8% |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)業種別経営指標 旅館,ホテル(公庫の融資先で従業者50人未満の法人、割ぽう旅館を含む。決算期は2024年7月以降、2026年8月公表)
全体の平均では、損益分岐点比率が100%を超え、自己資本比率はマイナスです。コロナ禍の時期に借りた資金の返済が残っている会社も多いと考えられます。一方、黒字企業は1客室あたりの売上が約1割高く、人件費の比率は低くなっています。客室単価と人の配置の効率が利益の分かれ目です。
償却前の利益率(7.0%)が償却後(0.6%)を大きく上回っているのは、減価償却費の負担が重いためです。建物や設備への投資が大きく、決算書上の利益は小さくても、手元に残るお金(キャッシュフロー)はそれより多い、というのがこの業界の決算書の特徴です。
決算書に表れる業界特有のポイント
- 有形固定資産:建物、温泉・給湯設備、空調、エレベーター、客室の内装・家具。改装の周期が利益と資金繰りを左右する
- 前受金:予約時に受け取る宿泊料。キャンセルの返金に備えて残高を管理する
- 預り金:入湯税・宿泊税など、宿泊者から預かって納める税金
- 売掛金:旅行会社や予約サイト経由の宿泊は、入金が翌月以降になる。手数料率も利益に影響する
銀行はホテル・旅館業のどこを見るか
返済能力:償却前の利益で何年かかるか
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。公庫の調査の平均値で単純に計算すると、借入金(月商の13.7か月分=年商の約1.14倍)を償却前の経常利益(年商の7.0%)で返すには約16年かかります(現預金と法人税等を考慮しない目安)。黒字企業の平均では約6.5年です。同じ業界でも、償却前の利益率が倍違うと、返済にかかる年数は半分以下になることが分かります。
設備資金:改装の計画と耐用年数
ホテル・旅館は、一定の周期で客室や水回りの改装、空調・給湯設備の更新が必要になります。銀行は、次の改装の時期と金額、改装後に客室単価をどれだけ上げられるかを事業計画で確認します。設備資金の返済期間は、原則として資産の耐用年数の範囲で設定されるため、内装や設備の資金を建物と同じ長期で借りるのは難しいのが一般的です(融資期間と耐用年数の関係)。
運転資金:繁閑と前受金
季節や曜日による売上の差が大きいため、閑散期の人件費や固定費をまかなう運転資金が必要になります。前受金が多い時期は資金に余裕があるように見えますが、キャンセルが出れば返金が必要です。月別の資金繰り表で、閑散期の底を見ておくことが、銀行との相談の出発点になります(運転資金の融資の考え方)。返済が重い場合は、返済条件の見直し(リスケ)の前に、借換えで返済期間を整える方法も検討できます。
ホテル・旅館業特有の税務・会計の論点
減価償却と資産の区分
旅館用・ホテル用の建物は、鉄筋コンクリート造で39年(木造内装部分が延べ面積の3割を超えるものは31年)、木造で17年などとされています(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一)。客室の家具・寝具、厨房設備、温泉の設備などは建物と別の耐用年数になるため、取得や改装のたびに、見積書の段階で資産の区分を整理しておきます(ホテル・旅館の耐用年数)。
改装工事は、原状回復や通常の維持管理なら修繕費、価値を高めたり使える期間を延ばしたりするものは資本的支出になります。どちらに当たるかで、その期の利益と、銀行から見える決算書の数字が大きく変わります。
消費税と入湯税・宿泊税
| 項目 | 消費税の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 宿泊料・飲食 | 課税(10%) | 宿泊料は、非課税の住宅の貸付けに当たらない |
| 売店での飲食料品の販売 | 軽減税率(8%) | 2027年4月からの税率引下げ案の影響を受ける(食品製造業の記事で解説) |
| 入湯税 | 明確に区分していれば課税標準に含めない(消費税法基本通達10-1-11) | 請求書・領収書で金額を区分する |
| 宿泊税 | 同じ特別徴収の仕組みなら同様に整理されるのが一般的 | 条例の内容と所轄で確認する(宿泊税・入湯税の処理) |
| 簡易課税の事業区分 | 宿泊業は第五種、明確に区分した飲食の提供は第四種 | 区分しないと低い方のみなし仕入率になる |
入湯税・宿泊税は、宿泊者から預かって納める税金なので、会計上は預り金として処理するのが実態に合います。売上に含めると、売上高と利益率の見え方が変わります。
建物を自社で持つか、運営会社に貸すか
建物を持つ会社と運営する会社を分けるケースもあります。建物を運営会社に貸す側は不動産賃貸業になり、所得の区分や消費税、銀行から見た決算書の見え方が変わります(自営するか運営会社に貸すか)。承継や資金調達の方針とあわせて検討しましょう。
事業承継・M&A:許可、建物、人
ホテル・旅館の承継では、旅館業の許可、建物と土地(温泉の権利を含む)、そして女将・料理長など現場の中心となる人が論点になります。
| 論点 | 承継・M&Aで確認されること |
|---|---|
| 旅館業の許可 | 2023年12月13日施行の改正で、事業譲渡でも都道府県知事等の承認で営業者の地位を承継できる(許認可の引継ぎ) |
| 飲食店営業の許可 | 食品衛生法の許可は別の手続き。事業譲渡では届出が必要 |
| 建物・設備 | 改装の履歴、耐震性、設備の更新時期。承継直後に大きな投資が必要にならないか |
| 温泉の権利 | 源泉の所有・利用の権利関係、温泉法の手続き |
| 人 | 女将・料理長・支配人が承継後も残るか(キーパーソンの引き留め) |
| 借入と保証 | 設備資金の借入残高と経営者保証の扱い |
改正旅館業法の施行により、事業譲渡を使った承継の選択肢が広がりました(文京区「旅館業法の一部が改正されました」)。建物と運営を分けて引き継ぐ、運営だけを第三者に任せるといった形も考えられます。M&Aの全体の流れは中小企業M&Aの件数と最近の傾向をご覧ください。
経営者が今やっておきたいこと
- 施設の種類に合った指標(稼働率、1室あたり売上、客単価)を月次で把握している
- 国内客と外国客、直販と予約サイト経由の売上の割合を把握し、偏りのリスクを確認している
- 月別の資金繰り表を作り、閑散期の資金の底を見たうえで借入枠を確保している
- 次の改装・設備更新の時期と金額、改装後の客室単価の目標を事業計画にしている
- 改装工事の見積書を、建物・設備・家具などの資産区分と修繕費に分けて整理している
- 入湯税・宿泊税を請求書で区分し、預り金として処理している
- 許可・建物・温泉の権利関係を整理し、承継の形(株式譲渡か事業譲渡か)を検討し始めている
ほかの業界の動向は、飲食業(飲食店)、食品製造業でも解説しています。
まとめ
- 2025年の延べ宿泊者数は過去最多。伸びは外国人で、日本人は減少。2026年の訪日客は前年並みからやや減
- 稼働率はビジネスホテル・シティホテルが7割台、旅館は4割弱。施設の種類に合った指標で見る
- 小規模な旅館・ホテルの経常利益率は平均0.6%、黒字企業は8.4%。償却前の利益と客室単価が分かれ目
- 銀行は、償却前の利益で返せる年数、改装の計画、繁閑の資金繰りを見る
- 耐用年数と資産の区分、入湯税・宿泊税の区分は毎期確認する。事業譲渡でも旅館業の許可は承認で承継できる
設備資金・運転資金の調達、決算書の見せ方、改装の資金計画、事業承継の進め方について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
