オーナーが100%を持つ事業会社と資産管理会社、持株会社とその100%子会社――中小企業でも、100%の資本関係でつながった会社のグループはめずらしくありません。こうした会社の間の取引には、グループ法人税制が、選択や届出なしに適用されます。
M&Aでは、このグループ法人税制が思わぬところで効いてきます。売却前にグループ内で動かした資産の譲渡損益が、子会社を売った瞬間に戻ってくる。グループ内で行った支援が、寄附金として損金にならない。大きな会社に買われると、中小法人の特例が使えなくなる。この記事では、完全支配関係の取引のルールを整理し、売却・買収のそれぞれの場面で何が起こるかを、裁決事例とともに解説します。
- グループ法人税制は、完全支配関係(100%)がある内国法人の間に、選択なしで適用される。個人が100%を持つ兄弟会社も対象になる制度がある
- 帳簿価額1,000万円以上の土地・有価証券などのグループ内の譲渡損益は繰り延べられ、子会社の売却などで完全支配関係がなくなると戻し入れられる
- 法人による完全支配関係がある会社の間の寄附金は全額損金不算入、受贈益は全額益金不算入
- 100%子会社から親会社への適格現物分配は、帳簿価額で資産を移せる。売却前の資産の整理に使われるが、行為計算否認にも注意
- 資本金5億円以上の法人などに100%買収されると、中小法人の特例の一部が使えなくなる
グループ法人税制の主なルール
完全支配関係とは
完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。「一の者」が個人の場合は、その個人と親族などの特殊関係者を合わせて判定します。グループ法人税制の中には、個人による完全支配関係でも適用されるものと、法人による完全支配関係に限って適用されるものがあります。
| ルール | 内容 | 個人による完全支配関係(兄弟会社など) | 法人による完全支配関係(親子会社など) |
|---|---|---|---|
| 譲渡損益調整資産の譲渡損益の繰延べ(61条の11) | 帳簿価額1,000万円以上の固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産の譲渡損益を繰り延べる | 適用あり | 適用あり |
| 寄附金の損金不算入・受贈益の益金不算入(37条2項・25条の2) | 寄附した側は全額損金不算入、受けた側は全額益金不算入 | 適用なし(通常の寄附金・受贈益) | 適用あり |
| 受取配当等の益金不算入(23条) | 完全子法人株式等からの配当は全額益金不算入 | - | 適用あり |
| 適格現物分配(2条12号の15・62条の5) | 100%子会社から親会社への現物分配を帳簿価額で行う | - | 適用あり |
| 100%子会社株式の自己株式としての譲渡など(61条の2第17項) | 譲渡損益を計上せず、資本金等の額で調整 | - | 適用あり |
| 中小法人向け特例の不適用(66条5項など) | 資本金5億円以上の法人などによる完全支配関係がある法人は、軽減税率などの特例の一部が使えない | - | 適用あり |
国税庁の「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)」は、制度ごとに対象となる完全支配関係の範囲が違うことを整理しています(国税庁の質疑応答事例)。
売却のときに起こること
繰り延べた譲渡損益の戻し入れ
オーナーの事業会社が、資産管理会社(同じオーナーが100%保有)に土地を時価で売ったとします。両社にはオーナーによる完全支配関係があるため、土地の帳簿価額が1,000万円以上なら、譲渡益は事業会社で繰り延べられ、その時点では課税されません。
ところが、その後に事業会社の株式を第三者に売ると、事業会社と資産管理会社の完全支配関係はなくなります。このとき、繰り延べていた譲渡益は、事業会社の、完全支配関係がなくなった日の前日の属する事業年度の益金に戻し入れられます(法人税法61条の11第3項)。
| 時点 | 事業会社(譲渡した側) | 資産管理会社(譲り受けた側) |
|---|---|---|
| グループ内で土地を譲渡 | 譲渡益を繰り延べ(課税なし) | 時価で取得 |
| 事業会社の株式を第三者に売却 | 繰り延べた譲渡益を戻し入れ(課税) | 影響なし |
戻し入れによる法人税等は、売却後の事業会社(=買い手の子会社)が払うことになります。そのため、買い手は、この税金を株式の価格から差し引くか、売り手の補償の対象にすることを求めるのが通常です。売却前の不動産の切り離しで、この点を見落とすと手取りの計算が狂います。不動産の切り離し方は不動産を会社から切り離してから売る方法で比較しています。
子会社を売る前の配当と現物分配
持株会社が100%子会社を売る場合は、売却前に子会社から配当を受けると、完全子法人株式等からの配当として全額が益金不算入になります。また、子会社が持つ不動産などを、売却前に適格現物分配で親会社に移すこともできます。適格現物分配では、子会社は資産を帳簿価額で移転したものとされ、親会社が受ける利益は益金に算入されず、源泉徴収も必要ありません。
ただし、次の点に注意が必要です。
- 支配関係のある子会社から株式の帳簿価額の10%を超える配当を受けると、子会社株式簿価減額特例で帳簿価額が減らされることがある。適用除外(設立以来の保有、10年超、2,000万円以下など)を確認する
- 配当や現物分配の原資(利益剰余金か資本剰余金か)で、みなし配当と譲渡損益の計算が変わる
- 税負担の減少以外の理由が乏しい形で組み合わせると、行為計算否認(法人税法132条・132条の2)の対象になり得る
配当と簿価減額特例の詳細は持株会社(法人株主)が子会社株式を売る場合の税務と売却前の配当は得かをご覧ください。
買収のときに起こること
中小法人の特例が使えなくなる場合
資本金1億円以下の会社でも、資本金5億円以上の法人などの大法人による完全支配関係がある普通法人は、中小法人向けの特例の一部が使えません(法人税法66条5項など)。
| 特例の例 | 影響 |
|---|---|
| 法人税の軽減税率(所得年800万円以下の部分) | 適用されない |
| 繰越欠損金の控除限度(中小法人等は所得の全額まで) | 大法人並みの限度になる |
| 交際費等の定額控除 | 適用されない |
| 貸倒引当金の繰入れ | 原則として適用されない |
大手の会社やその100%子会社に買われる場合、対象会社の税負担は買収前より重くなることがあります。買い手の事業計画や、売却後も役員として残る売り手が業績目標(アーンアウトなど)を負う場合には、その前提に入れておく必要があります。
買収後のグループ内取引
100%で買収した会社は、買い手のグループの一員になります。その後のグループ内取引には、グループ法人税制が適用されます。
- 親会社から子会社への資金支援を、債権放棄や低い利率の貸付けで行うと、寄附金(親会社は全額損金不算入)と受贈益(子会社は全額益金不算入)の問題になる
- グループ内で土地などを移転すると、譲渡損益が繰り延べられる。将来グループから外れれば戻し入れられる
- 子会社を清算すると、一定の要件で子会社の繰越欠損金を親会社が引き継げる(法人税法57条2項)。ただし、支配関係が生じてから5年以内などの場合は制限がある
合併で欠損金を引き継ぐ場合の制限は合併で繰越欠損金を引き継げる場合・引き継げない場合で、M&Aと繰越欠損金の全体像はM&Aと繰越欠損金の引継ぎ・制限で解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る裁決事例に見る「グループ内の支援」と寄附金
グループ法人税制の導入前から、関係会社への支援が寄附金に当たるかは数多く争われてきました。現在は、法人による完全支配関係がある会社の間の寄附金は全額損金不算入になるため、それが寄附金に当たるかどうかの判断がいっそう重要です。
| 裁決 | 事案 | 判断 |
|---|---|---|
| 平成14年6月28日裁決(裁決事例集No.63 341頁) | 子会社に対する貸付債権を「子会社支援損」として放棄 | 銀行から子会社の債務超過の解消を求められた事実はなく、翌期にも追加で貸し付けており、倒産の危機にあったとは認められない。返済猶予や金利の棚上げと資金効果は変わらず、合理的な再建計画に基づくものとも認められないとして、寄附金に当たる |
| 平成23年8月23日裁決 | グループ法人に支払った業務委託料 | 契約に基づく役務提供が認められず、委託先への貸付債権と相殺されていることから、債務を消滅させる経済的利益の無償の供与として寄附金に当たる |
| 平成6年3月31日裁決(裁決事例集No.47 319頁) | 関係会社の損失を一切賠償するという契約に基づく損失補てん | 関係会社の責めに帰すべき損失まで負担する不自然・不合理なもので、補てんしなければ倒産するとも認められないとして、寄附金に当たる |
| 平成24年8月15日裁決 | 子会社から、利益剰余金と資本剰余金を同じ効力発生日に原資とする配当を受けた | 全額が資本剰余金の減少に伴うもので、資本の払戻し(みなし配当と譲渡損益の計算が必要)に当たる |
平成14年6月28日裁決/平成23年8月23日裁決/平成6年3月31日裁決/平成24年8月15日裁決(いずれも国税不服審判所 公表裁決事例)
平成14年の裁決が示すように、子会社への債権放棄が寄附金に当たらないとされるには、倒産を防ぐためにやむを得ないことや、合理的な再建計画に基づくことなど、相当な理由が必要です(法人税基本通達9-4-1・9-4-2の考え方)。M&Aの前に、売却対象の子会社の財務を整えるために親会社が債権放棄をする場合や、買収後に子会社を支援する場合は、この考え方で説明できるかを確認しておきましょう。売却前の債権放棄の税務は売却前の債権放棄・DESと税金でも扱っています。
銀行から見たグループと、M&Aの準備
銀行は、グループ会社を一体として見て、グループ全体の財務と資金の流れを評価することがあります。グループ内の貸付金や、繰延べで帳簿価額と時価がずれた資産があると、単体の決算書だけでは実態がわかりにくくなります。グループで見た銀行の評価の考え方はグループ会社の決算書と銀行の見方で解説しています。
- グループの資本関係図を作り、個人による完全支配関係・法人による完全支配関係の範囲を確認したか
- 過去にグループ内で譲渡した帳簿価額1,000万円以上の資産と、繰り延べている譲渡損益の一覧(別表)はあるか
- 売却によって完全支配関係が切れる会社の組合せと、戻し入れられる損益の額を試算したか
- グループ内の貸付金・債権放棄・低額取引が、寄附金・受贈益として正しく処理されているか
- 売却前の配当・現物分配で、簿価減額特例の適用除外に当たるか
- 買い手の資本金の規模(5億円以上か)と、中小法人の特例が使えなくなる影響を確認したか
まとめ
- グループ法人税制は、完全支配関係(100%)がある内国法人の間に、選択なしで適用される。個人による完全支配関係でも適用されるルールがある
- グループ内で譲渡した帳簿価額1,000万円以上の資産の譲渡損益は繰り延べられ、子会社の売却などで完全支配関係がなくなると戻し入れられる。その税金は価格交渉の対象になる
- 法人による完全支配関係がある会社の間の寄附金は全額損金不算入。支援が寄附金に当たるかは、相当な理由の有無で判断される(平成14年6月28日裁決など)
- 売却前の配当・適格現物分配は有効な手段になり得るが、簿価減額特例と行為計算否認に注意する
- 資本金5億円以上の法人などに100%買収されると、中小法人の特例の一部が使えなくなる
グループ法人税制は、普段の取引では意識されにくいものの、M&Aの瞬間に税金として表に出てきます。クレフティでは事業承継・M&A支援として、グループの資本関係と繰延べ損益の確認、売却前の再編と手取りの試算をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。
