オーナー社長が急に亡くなったとき、残された家族が最初に直面する大きなお金の問題が、自社株の相続税です。
自社株は、相続税の評価では数億円になることがあります。けれども、上場株式のように市場で売ることはできません。会社にお金があっても、それは会社のお金で、相続人のお金ではありません。そして、相続税は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、原則として現金で一括で納める必要があります。
この記事では、非上場株式の相続税をどう納めるかを、生命保険・死亡退職金・金庫株・延納・物納の順に、国税庁の資料と公表裁決をもとに整理します。社長が亡くなった直後の会社の手続きは事業オーナーが亡くなったら、次の日から会社はどうなるかで解説しています。
- 自社株の相続税は、評価は高いのに換金しにくい。10か月以内に現金で納めるのが原則
- 資金の手当ては、①手元資金・生命保険金(500万円×法定相続人の数まで非課税)、②死亡退職金(同じく非課税枠)、③金庫株(会社への売却。みなし配当の特例と取得費加算)、④延納、⑤物納の順に検討する
- 金庫株は、相続税を納める人が期限内に売れば譲渡所得(20.315%)。ただし会社の分配可能額の範囲内に限られる
- 延納は不動産等の割合で期間・利子税が決まる。分納の滞納で延納許可が取り消された裁決もある
- 非上場株式の物納は第2順位。売却の見込みがない株式の物納を認めなかった裁決もあり、最後の手段と考える
なぜ非上場株式の相続税は払いにくいのか
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 評価が高くなりやすい | 利益や純資産が積み上がった会社ほど、類似業種比準価額・純資産価額が高くなる |
| 換金できない | 市場がなく、買い手は会社や後継者、M&Aの相手に限られる |
| 期限が短い | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付 |
| 会社のお金は使えない | 会社の預金は相続人のものではない。会社から借りれば役員貸付金になる |
| 相続人間で負担が偏る | 株式を相続した後継者に、税額が集中する |
株価の基本的な計算方法は自社株評価の方法をご覧ください。相続税を払うために後継者が個人で借入をすることもありますが、返済原資は役員報酬や配当しかなく、後継者の家計と会社の財務の両方を圧迫します。
納税資金の手当て:5つの方法と順番
| 順番 | 方法 | 主なポイント |
|---|---|---|
| ① | 手元資金・生命保険金 | 被相続人が保険料を負担した死亡保険金は、500万円×法定相続人の数まで相続税がかからない(相続人が受け取る場合) |
| ② | 死亡退職金 | 会社が遺族に支払う退職金。同じく500万円×法定相続人の数の非課税枠。会社は損金算入(過大な部分を除く) |
| ③ | 金庫株(会社への売却) | 相続税を納める人が期限内に発行会社に売れば、みなし配当ではなく譲渡所得。取得費加算も併用可 |
| ④ | 延納 | 金銭で一括納付が困難な金額の範囲で、担保を出して分割で納める。利子税がかかる |
| ⑤ | 物納 | 延納でも困難な金額の範囲で、相続財産で納める。非上場株式は第2順位 |
延納は「一括で納めるのが困難」、物納は「延納によっても困難」であることが要件です。①〜③で資金を作れるなら、まずそちらを検討することになります。死亡退職金の税務と裁決は死亡退職金・弔慰金の税務、保険の備え方は経営者の万一に備える生命保険と資金繰りで詳しく解説しています。
金庫株:会社に買い取ってもらう
税金の特例
会社が株主から自己株式を買い取ると、売った株主には、資本金等の額を超える部分にみなし配当(総合課税)が生じるのが原則です。ただし、相続で取得した非上場株式を、一定の期間内に発行会社に売る場合は、次の2つの特例があります。
| 特例 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| みなし配当課税の特例(措法9条の7) | 納付すべき相続税額がある人が、相続税の課税対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合、みなし配当とせず全額を譲渡所得の収入金額とする(国税庁タックスアンサーNo.1477) | 相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで |
| 相続税額の取得費加算(措法39条) | 支払った相続税のうち、売った株式に対応する部分を取得費に加算 | 同上 |
特例を使うには、譲渡する日までに届出書を発行会社に提出する必要があります。要件と計算例は相続した株式を会社に売る特例で解説しています。
会社側の制約:分配可能額
会社が自己株式を取得できるのは、会社法上の分配可能額の範囲内に限られます。分配可能額を超えて取得すると、売った株主と関与した取締役などが、会社に対して支払義務を負います(会社法461条・462条)。特定の株主から取得する場合は株主総会の特別決議も必要で、非上場会社の相続人からの取得には特則もあります(会社による自己株式の取得)。
利益が出ていても、分配可能額が小さい会社や、現預金が少ない会社では、金庫株で十分な資金を作れないことがあります。会社が銀行から借りて買い取る場合は、自己株式の取得で純資産が減り、借入で負債が増えるため、自己資本比率が二重に下がる点にも注意が必要です。
延納:分割で納める
要件
国税庁タックスアンサー「No.4211 相続税の延納」によれば、延納の要件は次のとおりです。
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することを困難とする事由があり、その納付を困難とする金額の範囲内であること
- 延納税額と利子税の額に相当する担保を提供すること(延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下なら不要)
- 延納申請期限(期限内申告なら申告期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して提出すること
担保には、国債・地方債、確実と認められる社債などの有価証券、土地、保険に付した建物、確実と認められる保証人の保証などを充てられます。相続人の固有の財産や第三者の財産でもかまいません。
延納期間と利子税
延納期間と利子税の割合は、相続財産に占める不動産等の割合で決まります(国税庁No.4211の表から主なものを抜粋)。
| 不動産等の割合 | 区分 | 延納期間(最高) | 利子税(年割合) | 特例割合(令和8年1月1日現在) |
|---|---|---|---|---|
| 75%以上 | 不動産等に係る延納相続税額 | 20年 | 3.6% | 0.6% |
| 75%以上 | 動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| 50%以上75%未満 | 不動産等に係る延納相続税額 | 15年 | 3.6% | 0.6% |
| 50%以上75%未満 | 動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| 50%未満 | 一般の延納相続税額 | 5年 | 6.0% | 1.0% |
特例割合は、令和8年1月1日現在の延納特例基準割合1.3%で計算されたもので、「年割合×延納特例基準割合÷7.3%」(0.1%未満切捨て)で求めます。どの財産が「不動産等」に含まれるかは、国税庁の「相続税・贈与税の延納の手引」で確認してください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る物納:相続財産で納める
国税庁タックスアンサー「No.4214 相続税の物納」によれば、物納には次の要件があります。
- 延納によっても金銭で納付することが困難な事由があり、その困難な金額を限度とすること
- 日本国内にある相続財産で、定められた順位によること
- 管理処分不適格財産に該当しないこと。物納劣後財産は、ほかに適当な財産がない場合に限る
- 物納申請期限(納期限)までに、物納申請書と物納手続関係書類を提出すること
| 順位 | 財産 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(物納劣後財産に該当するものを除く) |
| 第2順位 | 非上場株式等(物納劣後財産に該当する非上場株式等を含む) |
| 第3順位 | 動産 |
株式では、譲渡に関して手続きがとられていないもの、譲渡制限株式、担保権の目的となっているもの、権利の帰属に争いがあるものなどが管理処分不適格財産とされます。事業を休止している法人の株式(一時的な休止を除く)は物納劣後財産です。物納の収納価額は、原則として相続税の課税価格の計算の基礎となった価額です。
中小企業の株式のほとんどは譲渡制限株式です。物納を考えるなら、定款や株式の状態を含めて、早い段階で税務署と相談する必要があります。
延納・物納をめぐる公表裁決
国税不服審判所の公表裁決事例要旨(延納・物納)から、非上場株式の相続税の納め方を考えるうえで参考になる事例を紹介します。
| 裁決 | 争点 | 結論 | 実務への示唆 |
|---|---|---|---|
| 平成10年6月10日裁決(裁決事例集No.55) | 相続財産のほとんどが取引相場のない株式で、ほかに物納に充てる財産がない場合、株式の物納は認められるか | 売却できる見込みがない株式は「管理又は処分をするのに不適当」に当たるとして、物納を認めず | 課税価格の計算の基礎になった財産でも、物納に適するとは限らない。具体的な買受け希望者が見込まれるなど、一定の条件を満たすものに限って例外的に認められるとの考え方 |
| 平成14年6月21日裁決(裁決事例集No.63) | 分納税額の滞納を理由とする延納許可の取消しは、地価下落期に過酷で裁量の逸脱か | 弁明を受けて完納の見込みがないと認定した取消しは相当。分納期限の延長も重ねていた | 延納は「分ければ払える」計画が前提。資金繰りが崩れると延納そのものが取り消されうる |
| 平成15年3月20日裁決(裁決事例集No.65) | 延納許可の取消しの前に、法律が定める弁明を聞く手続きが行われたか | 弁明の機会であると認識できる形で聴取していないとして、取消処分を違法と判断 | 延納取消しには手続き上の要件がある。税務署とのやりとりは記録に残す |
| 平成26年11月25日裁決 | 複数の担保物の一部に第三者の強制換価手続が始まった場合、弁明を聴かずに延納許可を取り消せるか | 取り消せるとして、請求を棄却 | 担保に入れた不動産などの状態の変化が、延納の継続に直結する |
平成10年の裁決は、平成18年の物納制度の見直し(管理処分不適格財産・物納劣後財産の明確化など)の前の事案です。現在の要件は国税庁No.4214で確認する必要がありますが、「相続税の評価額がついた財産でも、国が換金できなければ物納は難しい」という考え方は、今も変わらない前提と考えておくのが安全です。
生前にできる準備と、銀行から見た納税資金
試算と準備の例
たとえば、自社株の相続税評価が3億円で、相続税が1億円と見込まれる場合、次のように資金の手当てを組み合わせて考えます(金額は説明のための例です)。
| 手当て | 金額の例 | 準備しておくこと |
|---|---|---|
| 生命保険金(法人契約の保険金を原資とする死亡退職金を含む) | 4,000万円 | 受取人・非課税枠・会社の資金繰りの確認 |
| 後継者の手元資金 | 1,000万円 | 役員報酬の水準の見直し |
| 金庫株 | 4,000万円 | 分配可能額の試算、特例の期限の管理、定款の確認 |
| 延納 | 1,000万円 | 担保になる財産の確認 |
株価を下げすぎる対策は、総則6項で否認されるリスクもあります(総則6項と株式評価)。事業承継税制で納税を猶予する方法もありますが、2027年12月31日までの贈与・相続が対象で、特例承継計画の提出も必要です(事業承継税制(特例措置)の要件)。
銀行から見た「納税資金の出どころ」
銀行は、相続の後、会社から資金が流出しないかを見ています。金庫株や死亡退職金で会社の現預金が大きく減ると、手元流動性や自己資本比率が下がり、格付けに影響することがあります。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、現預金の減少はそのまま債務償還年数を延ばします。
だからこそ、生前に保険で備え、会社の財務を傷めない形で納税資金を作ることが大切です。相続の後で銀行に相談するのではなく、相続の前から「万一のときはこう納税資金を作る」という計画を共有しておくと、銀行も後継者を支えやすくなります。
まとめ
- 自社株の相続税は、評価が高く換金しにくいうえに、10か月以内に原則として現金で納める必要がある
- 手当ては、①保険金、②死亡退職金、③金庫株、④延納、⑤物納の順に検討する
- 金庫株は期限内なら譲渡所得として課税され、取得費加算も使えるが、会社の分配可能額が上限
- 延納は不動産等の割合で期間・利子税が決まる。滞納で延納許可が取り消された裁決がある
- 非上場株式の物納は第2順位で、譲渡制限株式は管理処分不適格財産。売却見込みのない株式の物納を認めなかった裁決もある
クレフティでは、自社株の相続税の試算、納税資金の計画(保険・死亡退職金・金庫株の組み合わせ)、延納の検討、銀行との調整まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
