「M&A仲介会社に頼むほどの規模ではないけれど、会社を誰かに引き継いでほしい」。そんな経営者にとって身近な選択肢になっているのが、M&Aマッチングサイトです。インターネット上で売り手と買い手が出会える仕組みで、中小企業庁の中小M&Aガイドラインでは「M&Aプラットフォーム」と呼ばれています。
マッチングサイトは手軽で費用も抑えられる一方、情報の出し方を間違えると取り返しがつかず、マッチングした後の交渉や契約は自分で進めるのが原則です。この記事では、中小M&Aガイドライン(第3版)の記載に沿って、マッチングサイトの使い方と注意点を整理します。
- マッチングサイトは、売り手の登録が無料のものが多く、小規模な会社でも買い手を探せるのが最大の利点
- 最大のリスクは情報の流出。ノンネームでも特定されうるため、公開されても受け入れられる情報だけを載せる
- サイトごとに、閲覧できる相手(法人のみか個人も可か)、交渉の始め方、専門家の関与の仕組みが違う
- マッチング後の基本合意・最終契約・条件交渉は原則として当事者が行う。株価、契約書、税金、経営者保証は専門家に確認する
M&Aマッチングサイトとは
中小M&Aガイドラインは、M&Aプラットフォームを、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで譲り渡し側・譲り受け側のマッチングの場を提供するウェブサイトと定義しています。運営する事業者は「M&Aプラットフォーマー」と呼ばれ、利用できる人やサービスの内容は事業者ごとに異なります。
ガイドラインは、マッチングサイトの意義を次のように評価しています。
- 売り手は無料で登録できるサイトが相当数あり、手数料を払う資力のない小規模な事業者でもM&Aの可能性が大きく広がった
- 当事者が自ら相手先を探せるケースもあり、以前はM&A専門業者しか接触できなかった案件情報に直接触れられるため、スピーディな交渉が可能になった
- 近い将来に廃業を考えている小規模な事業者でも、廃業以外の選択肢があるという認識のもと、活用を積極的に検討することが望まれる
ガイドラインの参考資料「中小M&Aの事例」にも、後継者のいない売上高2億円のメッキ加工業の会社が、顧問税理士の勧めでマッチングサイトを使い、技術力を評価した他地域の会社に事業を譲渡した例や、赤字に転落して廃業を考えていた会社が、顧問の公認会計士がマッチングサイトで相手を探した結果、M&Aが成立した例が紹介されています。
仲介者・FAとの違い
| マッチングサイト | 仲介者・FA | |
|---|---|---|
| 主な役割 | マッチングの場の提供(サイトによって専門家の紹介など) | マッチングから交渉・契約・クロージングまでの支援 |
| 売り手の費用 | 無料のものが多い | 着手金・中間金・成功報酬。最低手数料があることが多い |
| 相手探し | 自分で探す・申込みを受ける | 支援機関が候補先に打診する |
| 秘密保持 | 掲載情報が多くの人の目に触れる | 打診先を絞ってノンネームで打診する |
| マッチング後 | 原則として当事者が交渉・契約 | 支援機関が進捗を管理 |
仲介者とFAの違いはM&A仲介とFAの違いで、手数料の仕組みはM&Aの手数料で解説しています。
注意点①:情報の出し方
ガイドラインが、マッチングサイトを使うときにまず注意すべきとしているのが、情報の取扱いです。
- ノンネーム情報であっても、インターネットの特性上、会社が特定されるリスクがある。どこまで開示するかを慎重に検討する
- サイトによって、情報を開示する相手が違う(法人・個人を問わず閲覧できるサイト、法人に限ったサイトなど)
- 一度でもインターネット上に情報が流出すると、完全に消去することは困難。ある程度公開されても受忍できる程度の情報しか載せない
- これは、一般に公開されていない閉じた(クローズドな)サイトでも同じ
特定されやすい情報の組み合わせ
1つひとつは匿名でも、組み合わせると会社が特定されやすくなります。
| 項目 | 特定されにくい書き方の例 | 特定されやすい書き方の例 |
|---|---|---|
| 所在地 | 「関東地方」「九州」 | 「○○市」「○○駅から徒歩圏」 |
| 業種 | 「建設業(設備工事)」 | 地域で数社しかない専門分野の具体名 |
| 売上・従業員 | 「売上1億〜3億円」「従業員10〜20名」 | 「売上1億2,300万円、従業員14名」 |
| 特徴 | 「大手メーカーと長年の取引」 | 取引先名、特許、受賞歴の具体名 |
従業員や取引先に売却の話が漏れると、M&Aが頓挫するだけでなく、従業員の退職や取引先の離反につながりかねません。ガイドラインも、最終契約の前は可能な限り一部の関係者にしか知らせないことを原則としています。真に極秘で進めたい案件は、マッチングサイトには向かず、仲介者・FAとの使い分けが必要とされています。伝える時期と順番は従業員・取引先・銀行に売却をどう伝えるかで取り上げます。
注意点②:サイトの選び方
ガイドラインは、サイトごとに特徴があるため、どのサイトを使うかも検討が必要だとしています。比べるポイントは次のとおりです。
| 比べるポイント | 違いの例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 閲覧できる相手 | 法人・個人を問わない/法人のみ | 個人も可ならマッチングの可能性が広がる。法人のみなら登記情報で確認しやすく安全性が高まる |
| 交渉の始め方 | 双方から申し込める/売り手からしか始められない | 売り手から始める形なら、相手を選びやすい |
| 登録・交渉の方法 | 当事者が直接登録・交渉/FAを介してのみ | FAを介する形なら、専門家の目が入る |
| マッチング後の支援 | 専門家の紹介、手続きを支援する仕組みの有無 | 自分で進める範囲がどこまでかを確認 |
| 料金体系 | 売り手無料・買い手成功報酬が多い | 最低手数料、専門家に依頼する場合の報酬も確認 |
日本税理士会連合会も、顧問税理士が関与先の窓口になって引継ぎ先を探すマッチングサイト「担い手探しナビ」を運営しています。ガイドラインは、税理士が仲介者やFAとしてM&Aを主導する場合に、民間のマッチングサイトや担い手探しナビを積極的に活用することも期待されるとしています。顧問税理士に相談してから使うのも一つの方法です。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る注意点③:手数料の計算例
ガイドラインによると、現在は、売り手についてはマッチングに関して一切の手数料が発生しないケースが多い一方、買い手は成約時の成功報酬(いわゆる完全成功報酬型)が多く、着手金や月額報酬などは発生しないケースが多いとされています。買い手の手数料は譲渡額等の数%程度が多く、最低手数料を設けるところと設けないところがあります。
ガイドラインが示す計算例は次のとおりです。
ただし、ガイドラインは、今後マッチングサイトの市場が発展し、売り手の件数が増えてくれば、売り手にも手数料が発生するケースが増える可能性があるとしています。また、マッチング後の手続きで仲介者・FAや士業等専門家に依頼する場合は、その手数料・報酬が別途必要です。中小企業庁の集計では、株式譲渡額が小さい案件ほど、譲渡額に対する報酬総額の割合が高くなる傾向がみられます(1億円未満の小規模M&Aの進め方)。
注意点④:掲載案件と相手の信頼性
ガイドラインは、マッチングサイトは案件の掲載が容易であるがゆえに、実在しない事業者や、譲り渡し・譲り受けの意思のない情報が掲載される可能性があると指摘しています。運営者には法人番号などによる実在性の確認や、掲載案件の進捗状況の反映が望まれるとされていますが、利用者の側でも確認が必要です。
売り手にとって特に重要なのが、買い手の見極めです。ガイドラインは、譲渡代金を払わない、最終契約に定めた義務を履行しない、売り手の経営者保証を移行させる想定だったのに移行しない、といった不適切な譲り受け側の存在を指摘し、仲介者・FA(マッチングサイトの運営者を含む)に、譲り受け側の財務状況や事業実態、反社会的勢力への該当性などの調査を求めています。それでも、調査には限界があるとも書かれています。
- 登記簿で、会社の実在・代表者・役員・設立時期を確認したか
- 直近の決算書や税務申告書で、買収資金を払える財務状況かを確認したか
- 買収資金の出どころ(自己資金・借入・会社の資金を使う前提か)を確認したか
- 過去にM&Aを行った実績と、その後の運営の状況を聞いたか
- 経営者保証を、クロージング日に解除・借換えする段取りに合意できるか
悪質な買い手の手口は悪質な買い手・トラブル事例と身を守る方法で詳しく解説しています。
マッチング後の進め方
マッチングサイトは、あくまでマッチングまでにとどまるのが一般的です。ガイドラインは、マッチング後の基本合意・最終契約の締結や条件交渉は原則として当事者が行うことになるが、当事者はM&Aの知見を持たないことが多いため、事業承継・引継ぎ支援センターや士業等専門家などの支援を受けながら進めることが望ましいとしています。
| 工程 | 自分で進める場合のポイント | 専門家に確認したいこと |
|---|---|---|
| 秘密保持契約 | 情報を出す前に必ず締結 | 対象の範囲、期間、違反時の扱い |
| トップ面談 | 事業への考え、従業員の処遇の希望を伝える | 聞くべきこと・話してよい範囲 |
| 価格の交渉 | 自社の希望額の根拠を持つ | 株価の目安(時価純資産・利益・倍率) |
| 基本合意 | 価格・スケジュール・独占交渉の期間 | 法的拘束力のある条項の範囲 |
| DD | 求められた資料を整理して出す | 問題になりそうな点の事前整理 |
| 最終契約 | 表明保証・補償・競業避止・引継ぎ | 条項の内容、税金、経営者保証の解除 |
| クロージング | 代金の受領と株式・事業の引渡しを同時に | 登記、銀行への届出、保証の解除 |
事業承継・引継ぎ支援センターは、特定の相手が決まっている場合や合意ができている場合に、その後の手続きの一部を支援する対応も行っています。相談は無料です。全体の流れはM&Aはどう進むのか、秘密保持契約は秘密保持契約・ノンネームシートとIMをご覧ください。
銀行への説明も準備しておく
買い手が買収資金を借りる場合、銀行は売り手の会社の決算書を見て、買収後に返済できるかを判断します。決算書の数字が整理され、役員報酬やオーナー個人の経費が区別されていれば、買い手は銀行に説明しやすくなり、話が早く進みます。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としていますが、売り手の会社の数字が良いほど、買い手の資金調達のハードルは下がります。
まとめ
- M&Aマッチングサイトは、売り手が無料で登録できるものが多く、小規模な会社でも買い手を探せる
- 最大のリスクは情報の流出。ノンネームでも特定されうるため、公開されても受け入れられる情報だけを載せる。極秘で進めたい案件には向かない
- サイトごとに、閲覧できる相手、交渉の始め方、専門家の関与、料金体系が違う。ガイドラインの計算例では、譲渡額2,000万円で売り手は手数料なし、買い手は66万円(税込)
- 掲載案件と買い手の信頼性は自分でも確認する。資金の出どころと経営者保証の解除は必ず確かめる
- マッチング後の交渉・契約は原則として当事者が行う。株価、契約書、税金、保証は専門家に確認する
クレフティの代表の相亰はベンチャーのM&A仲介会社で役員を経験しており、公認会計士・税理士がバリュエーションやDD、税務の検討を担当しています。事業承継・M&A支援では、マッチングサイトで相手が見つかった後の株価の目安の算定、契約書のセカンドオピニオン、税金と手取りの試算、買い手の融資の相談に対応しています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。
中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(第1章Ⅲ「M&Aプラットフォーム」、第2章Ⅵ「M&Aプラットフォーマー」、参考資料4「中小M&Aの事例」)
