外部への売却(M&A)

1億円未満の小規模M&Aの進め方|相談先・手数料の公表データ・手続きの簡素化と注意点

「うちは小さな会社だから、M&Aなんて縁がない」。そう考えている経営者の方は少なくありません。けれども、中小企業のM&Aの多くは、実は譲渡額が1億円に満たない小規模なM&Aです。後継者のいない会社が、従業員と取引先を守りながら事業を引き継ぐ方法として、小規模なM&Aはすでに身近な選択肢になっています。

一方で、小規模なM&Aには特有の難しさがあります。いちばん大きいのが手数料の重さです。この記事では、中小企業庁の公表データと中小M&Aガイドライン(第3版)をもとに、1億円未満の小規模M&Aの進め方、相談先の選び方、手続きを簡素にするときの注意点を整理します。

この記事の結論
  • 小規模なM&Aは、相談先によって手数料と支援の中身が大きく違う。事業承継・引継ぎ支援センターへの相談は無料、M&Aプラットフォームは売り手の登録が無料のものが多い
  • 中小企業庁の集計(2024年度)では、譲渡額に対する報酬の割合の中央値は、1,000万円超2,000万円以下で31.3%、5,000万円超1億円以下で16.6%。小さい案件ほど割合が高い
  • 手続きは規模に応じて簡素にしてよいが、契約書、税務、未払残業代、経営者保証は省略しない
  • 小規模案件ほど買い手の見極めが重要。個人の買い手や資金力の弱い買い手には、資金の出どころと保証の扱いを確認する

小規模M&Aはどれくらいあるのか

中小企業庁がM&A支援機関登録制度の実績報告をもとに公表している「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」では、2024年度に登録支援機関から報告された譲渡側の案件は4,940件でした。株式譲渡額別の報酬率の集計に使われたサンプルを見ると、譲渡額1億円以下の区分だけで1,267件あり、全体(2,955件)の4割を超えます。

株式譲渡額の区分サンプル数
500万円以上〜1,000万円以下200件
1,000万円超〜2,000万円以下215件
2,000万円超〜3,000万円以下191件
3,000万円超〜4,000万円以下126件
4,000万円超〜5,000万円以下134件
5,000万円超〜1億円以下401件

出典:中小企業庁 M&A支援機関登録制度「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(報酬率の分布、2024年度。株式譲渡額500万円未満の案件は除く)

この集計は登録支援機関が関わった案件だけで、すべてのM&Aを網羅しているわけではありません。それでも、数百万円から数千万円の会社が実際に売買されていることがわかります。中小M&Aガイドラインも、譲り渡し側の事業が小規模であったり、赤字や債務超過であったりしても、譲り受け側が価値を認めることは大いにあり得るとしています。

小規模M&Aで一番の問題は手数料

譲渡額が小さいほど、手数料の割合は高い

同じ集計で、株式譲渡額に対する報酬総額の割合(報酬率)を見ると、譲渡額が小さいほど割合が高くなっています。

株式譲渡額の区分第1四分位中央値第3四分位
500万円以上〜1,000万円以下20.0%50.0%90.9%
1,000万円超〜2,000万円以下15.4%31.3%66.7%
2,000万円超〜3,000万円以下15.5%33.3%68.3%
3,000万円超〜4,000万円以下12.5%25.4%51.9%
4,000万円超〜5,000万円以下10.0%20.0%42.0%
5,000万円超〜1億円以下9.4%16.6%25.0%
1億円超〜1億5,000万円以下6.9%13.3%16.9%
5億円超3.2%4.3%5.2%

出典:同上(譲渡側の案件のみ集計)

同サイトの解説は、譲渡額の大小にかかわらずM&Aには一定の支援工程が必要なこと、再生案件などでも報酬が生じることを理由として挙げています。譲渡額1,000万円以下の区分では、中央値で譲渡額の半分が報酬になっています。

最低手数料と報酬の基準に注意

多くの仲介者・FAは、成功報酬にいわゆるレーマン方式(譲渡額などの階層ごとに料率を掛ける方式)を使いつつ、最低手数料を設けています。中小M&Aガイドラインの計算例でも、譲渡額5,000万円の案件で最低手数料1,000万円(税抜)が適用され、手数料総額が1,100万円(税込)、譲渡額の22%になるケースが示されています。報酬の基準が譲渡額ではなく「移動総資産(譲渡額+負債)」の場合は、さらに大きくなります。

小規模なM&Aでは、「料率は何%か」ではなく、最終的にいくら払うのか、着手金や月額報酬は成約しなくても払うのかを、契約前に確認することが欠かせません。手数料の仕組みはM&Aの手数料(レーマン方式・最低手数料)、契約書の確認点はM&A仲介・FA契約書のチェックポイントで解説しています。

相談先の選び方

小規模なM&Aでは、相談先の選び方が手取りに直結します。主な相談先を比較します。

相談先費用の特徴向いている場面注意点
事業承継・引継ぎ支援センター相談は無料(登録機関等に依頼する段階からは有料)まだ売るか決めていない。セカンド・オピニオンがほしい全国48か所。マッチングは登録機関等に橋渡しされることが多い
M&Aプラットフォーム売り手の登録は無料のものが多い。買い手は成約時に譲渡額の数%程度が多い自分で相手を探したい。小規模で手数料を抑えたい情報の出し方に注意。マッチング後の交渉・契約は原則当事者が行う
仲介者・FA着手金・中間金・成功報酬。最低手数料がある場合が多い交渉や手続きを任せたい最低手数料で割合が高くなりやすい
顧問税理士・公認会計士顧問料とは別に報酬が必要な場合がある会社の数字をよく知る専門家に相談したいM&Aの経験の有無を確認

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、国が全都道府県に設置している公的な相談窓口で、ガイドラインによれば全国48か所(東京都は2か所)にあります。中小M&Aだけでなく、親族内承継や従業員承継、廃業の相談まで幅広く受け付けており、意思決定ができていない段階でも相談できます。ほかの仲介者・FAの助言についてセカンド・オピニオンを求めることもできます。後継者不在の小規模事業者と創業希望者をつなぐ「後継者人材バンク」も運営しています。公的な支援の全体像は事業承継・M&Aの補助金と公的支援をご覧ください。

M&Aプラットフォーム

M&Aプラットフォームは、インターネット上で売り手と買い手のマッチングの場を提供するサイトです。ガイドラインは、譲り渡し側が無料で登録できるものが相当数あり、手数料を払う資力のない小規模な事業者でもM&Aの可能性が大きく広がったと評価しています。計算例として、譲渡額2,000万円の株式譲渡で、譲り渡し側は手数料なし、譲り受け側は成功報酬3%(最低30万円)で66万円(税込)というケースが示されています。

ただし、マッチング後の基本合意や最終契約、条件交渉は、原則として当事者が自分で行うことになります。プラットフォームの使い方と注意点はM&Aマッチングサイトの使い方と注意点で詳しく解説します。

株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。

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手続きは規模に合わせて簡素にしてよい

中小M&Aガイドラインは、対象の事業規模が特に小規模な場合には、より簡易な形で実施することが現実的なケースも多いとし、ガイドラインに書かれたすべての手続きを厳格に実施することを求めるものではないとしています。

工程一般的な中小M&A小規模M&Aで簡素にする例
企業概要書(IM)詳細な資料を作成決算書・事業内容・従業員・取引先の要点をまとめた資料
バリュエーション専門家による算定時価純資産+利益の数年分などの簡易な方法で目安を出す
基本合意書面で締結意向表明への応諾書で代えることもある
DD財務・税務・法務・労務など数年分の税務申告書の確認とヒアリングに絞る
最終契約表明保証・補償を詳細に規定簡素にしても、表明保証の範囲・補償の上限・経営者保証の扱いは書く

ガイドラインは、中小M&Aの実務では、本格的なDDを行わず、数年分の税務申告書の確認と経営者へのヒアリングだけで終えることもあると記載しています。ただし、簡素にしてよいのは手続きの「量」であって、後で大きな問題になる項目まで省いてよいわけではありません。

小規模でも省略しないこと
  • 最終契約書:表明保証の範囲、補償の上限と期間、競業避止、引継ぎ期間を書面にする
  • 税務:過去の申告漏れや源泉所得税の未納は、買い手が引き継ぐ。売り手も事前に確認する
  • 労務:未払残業代は小規模な会社ほど見落とされやすい(労務DDと未払残業代のリスク)
  • 経営者保証と個人の借入:会社の借入の保証をクロージングでどう外すかを契約に書く

DDの範囲と費用の考え方はDDの種類と規模別にどこまで行うかで整理しています。

小規模M&Aで気をつけたい買い手

小規模なM&Aでは、買い手も中小企業や個人であることが多くなります。ガイドラインも、譲り受け側は譲り渡し側の数倍程度の規模で、必ずしも大規模ではない企業が相当割合あるとしています。誠実な買い手が多い一方で、注意が必要なケースもあります。

2026年版中小企業白書は、不適切な買い手が経営の苦しい会社を買収した後、会社から資金を吸い上げる一方、売り手の経営者保証を解除しないまま連絡を絶つ事案を指摘しています。小規模で資金繰りに余裕のない会社ほど、狙われやすい傾向があります。

  • 買収資金の出どころ(自己資金か、借入か、会社の資金を使う前提か)を確認する
  • 経営者保証は、クロージング日に解除または借換えされる段取りを確認する。「後で外す」という口約束で済ませない
  • 代金の支払いと株式の引渡しを同時に行う。分割払いにする場合は担保や保証を検討する
  • 事業承継・引継ぎ支援センターや顧問税理士など、第三者の目を入れる

具体的な手口と身を守る方法は悪質な買い手・トラブル事例と身を守る方法で取り上げています。

税金・融資・補助金

税金

株式譲渡なら、個人株主の譲渡益に対して20.315%の申告分離課税が基本です(個人株主が株式を売ったときの税金)。個人事業主の場合は株式がないため、事業譲渡で事業用資産や契約を個別に引き継ぐことになり、資産の種類ごとに課税関係が変わります(事業譲渡と株式譲渡の違い)。小規模なM&Aでは手数料の割合が大きいため、手数料が譲渡費用として差し引けるかどうかも手取りに影響します。

買い手の融資

小規模なM&Aでも、買い手が買収資金を借りることはよくあります。クレフティでは、年商5,000万円の専門職の会社が9,000万円のM&Aを行った際、政府系金融機関と地方銀行の協調融資で、買収資金と統合後の運転資金を調達した事例があります。買い手が融資を受けられるかどうかは、売り手の決算書の内容にも左右されます。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としていますが、売り手の会社の数字が整っていれば、買い手は銀行に説明しやすくなります。公的な融資制度はM&A融資で使える公的制度をご覧ください。

補助金

事業承継・M&A補助金の専門家活用枠では、仲介・FAの費用やDDの費用などが補助の対象になりえます。ただし、補助率や上限額、対象となる支援機関(M&A支援機関登録制度に登録されていることなど)は公募回ごとの公募要領で定められ、交付決定前に契約した経費は原則として対象外です。仲介者・FAと契約する前に確認してください。

まとめ

  • 譲渡額1億円未満の小規模M&Aは珍しくない。中小企業庁の集計(2024年度)でも、1億円以下の区分だけで1,267件のサンプルがある
  • 小規模案件ほど手数料の割合が高い。報酬率の中央値は1,000万円超2,000万円以下で31.3%、5,000万円超1億円以下で16.6%
  • 事業承継・引継ぎ支援センターの相談は無料。M&Aプラットフォームは売り手の登録が無料のものが多いが、交渉・契約は原則当事者が行う
  • 手続きは規模に合わせて簡素にしてよいが、契約書・税務・労務・経営者保証は省略しない
  • 買い手の資金の出どころと保証の解除の段取りを、クロージングまでに確認する

クレフティの代表の相亰はベンチャーのM&A仲介会社で役員を経験しており、事務所としても小規模なM&Aの資金調達を支援してきました。事業承継・M&A支援では、株価の目安の算定、仲介者・FAの提案や契約書のセカンドオピニオン、簡易なDD、買い手の融資の相談に対応しています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。

よくある質問

譲渡額が数千万円の会社でも、M&Aで売れますか?
売れる可能性はあります。中小M&Aガイドラインは、小規模企業や個人事業主、赤字や債務超過の会社でM&Aが成立した事例を紹介しています。中小企業庁の集計でも、株式譲渡額500万円以上1,000万円以下の区分だけで200件の報告があります。ただし、譲渡額が小さいほど手数料の割合が高くなりやすいため、相談先と手数料の確認が重要です。
小規模なM&Aの手数料は、譲渡額の何%くらいですか?
中小企業庁が公表している2024年度の集計(譲渡側)では、株式譲渡額に対する報酬総額の割合の中央値は、1,000万円超2,000万円以下で31.3%、5,000万円超1億円以下で16.6%でした。最低手数料があるため、譲渡額が小さいほど割合が高くなる傾向があります。契約前に、料率ではなく実際に払う金額を確認してください。
小規模なM&Aでも、デューデリジェンス(DD)は必要ですか?
規模に応じて範囲を絞ることは現実的です。中小M&Aガイドラインも、本格的なDDを行わず、数年分の税務申告書の確認と経営者へのヒアリングだけで終えることもあるとしています。ただし、未払残業代や税務の問題など、後から見つかると影響の大きい項目は、範囲を絞ってでも確認しておくことをおすすめします。売り手にとっても、事前に問題を整理しておくことが交渉を円滑にします。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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