「子どもは継がない、社内にも任せられる人がいない。でも、会社を大手に吸収されるのではなく、誰か一人の後継者に引き継いでほしい」。そう考える経営者にとって、選択肢の一つになりうるのがサーチファンドです。
サーチファンドは、経営者を目指す個人(サーチャー)が、投資家の支援を受けて引き継ぐ会社を探し、買収して自ら社長になる仕組みです。売り手から見ると、会社を買う人と次の社長が同じ人物になる点が、ほかのM&Aと大きく違います。この記事では、サーチファンドの仕組み、売り手にとっての利点と注意点、確認すべきことを整理します。
- サーチファンドは、経営者を目指す個人が投資家の資金と助言を受けて会社を探し、買収後に自ら社長として経営する仕組み
- 売り手にとっての利点は、次の社長と直接話して選べること、会社が大きな組織に吸収されず独立した会社として続きやすいこと
- 注意点は、サーチャーの中小企業の経営経験、買収資金に借入を使う場合の財務の負担、数年後の再売却の可能性
- 売り手は、面談で人物と経営の考え方を確かめ、契約で引継ぎ期間・従業員・経営者保証の扱いを決める
サーチファンドの仕組み
サーチファンドの一般的な流れは、次のとおりです。
| 段階 | サーチャーがすること | 売り手との関わり |
|---|---|---|
| 1. 準備 | 投資家から、会社を探す期間の活動資金の支援を受ける | ― |
| 2. 探索(サーチ) | 後継者のいない会社を探し、経営者と面談を重ねる | 経営者同士の対話。会社の考え方を伝える |
| 3. 買収 | 投資家の出資と金融機関の借入で、買収のための会社を通じて株式を買う | 条件交渉、DD、株式譲渡契約 |
| 4. 引継ぎ・経営 | 社長に就任し、売り手から引継ぎを受けながら経営する | 一定期間、顧問などとして引継ぎ |
| 5. その後 | 会社の価値を高め、長期保有するか、将来の売却などで投資家に回収してもらう | ― |
ポイントは、投資家は資金と助言を出し、経営はサーチャー本人が担うことです。投資家には、経営経験のある人や、ほかの会社に投資した経験のある人が含まれることが多く、サーチャーの相談役として経営を支えます。
ほかの承継の方法との違い
| 親族内承継 | 社内承継(MBO・EBO) | 事業会社への売却 | 投資ファンドへの売却 | サーチファンド | |
|---|---|---|---|---|---|
| 次の社長 | 子ども・親族 | 役員・従業員 | 買い手が決める | 既存の経営陣か外部人材 | サーチャー本人 |
| 株式の買い手 | 贈与・相続・売買 | 役員・従業員(借入が多い) | 事業会社 | ファンド | サーチャーと投資家 |
| 会社の独立性 | 続く | 続く | グループに統合されやすい | 続くことが多い | 続くことが多い |
| 買収資金の課題 | 相続税・贈与税 | 個人の資金力が足りない | 小さい | ファンドの資金と借入 | 投資家の資金と借入 |
サーチファンドは、社外の人材に経営を引き継ぐという点で、外部から経営者を招くという選択に近く、経営者が株式も買うという点で、役員・従業員への承継(MBO・EBO)に近い仕組みです。社外の経営者に株式ごと引き継いでもらう方法と考えるとわかりやすいでしょう。
売り手にとっての利点
1. 次の社長と直接話して選べる
事業会社への売却では、売却後に誰が会社を率いるかは買い手が決めます。サーチファンドでは、交渉の相手が次の社長です。会社の歴史、従業員への思い、取引先との関係を直接伝え、この人に任せたいと思えるかどうかを自分の目で確かめられます。
2. 会社が独立した会社として続きやすい
サーチャーは、引き継いだ会社の社長になることが目的です。会社が別の会社に吸収されたり、社名が変わったりすることは比較的少なく、会社の名前と文化を残したい経営者には合いやすい方法です。
3. 規模が大きくない会社も対象になりうる
サーチャーは、自分が経営できる規模の会社を探します。大手の事業会社や大型のファンドの対象になりにくい規模の会社でも、相手になる可能性があります。
売り手が注意したいこと
1. 中小企業の経営経験
サーチャーの経歴はさまざまで、会社勤めの経験は豊富でも、中小企業の社長を務めた経験がある人ばかりではありません。中小企業の経営は、資金繰り、採用、現場の段取り、銀行との交渉まで、社長がすべてに関わることが多くなります。引継ぎの期間を十分に取り、売り手が現場と取引先を丁寧に引き継ぐ前提で考える必要があります。
2. 借入を使った買収の財務の負担
サーチファンドの買収では、投資家の出資に加えて、金融機関からの借入を使うことが多くあります。買収のための会社が借入をして株式を買い、その後、対象会社の利益で返済する形(いわゆるLBO)では、売却後の会社が借入の返済を背負うことになります。
著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としていますが、買収直後はこの数字が大きくなりやすく、業績が少し落ちただけで返済が苦しくなることがあります。売り手としては、借入の額と返済の計画、その前提になっている利益が現実的かを確認しておくことが大切です。仕組みは融資を使ったM&A(LBO・SPC)の仕組みで解説しています。
3. 投資家と将来の売却
投資家は、いずれ投資した資金を回収する必要があります。サーチャーが長く経営を続けることもあれば、将来、別の会社に売却されることもあります。将来の方針と、そのときに従業員がどう扱われるかを、交渉の段階で聞いておきましょう。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る面談と契約で確認すべきこと
面談で確かめたいこと
| 確認すること | 聞き方の例 |
|---|---|
| 経営の考え方 | 「当社のどこに魅力を感じ、5年後にどうしたいですか」 |
| 従業員への向き合い方 | 「古参の社員とどう関係をつくりますか」 |
| 引継ぎの計画 | 「最初の1年で何を学び、私に何を期待しますか」 |
| 投資家の関わり方 | 「投資家は経営にどう関わり、困ったときに誰が助けますか」 |
| 資金の構造 | 「買収資金のうち、出資と借入はどのくらいですか」 |
| 将来の方針 | 「長く経営を続けるつもりですか。将来売却する可能性はありますか」 |
中小M&Aガイドラインは、トップ面談を、譲り受け側の経営理念・企業文化や経営者の人間性などを直接確認するための重要な機会と位置づけています。サーチファンドでは、その相手が次の社長そのものです。1回の面談で決めず、複数回会って、現場を一緒に見てもらうことをおすすめします。
買い手の確認
ガイドラインは、譲渡代金を払わない、最終契約の義務を履行しない、売り手の経営者保証を移行させる想定だったのに移行しないといった不適切な譲り受け側の存在を指摘し、仲介者・FAに、譲り受け側の財務状況や事業実態、反社会的勢力への該当性などの調査を求めています。サーチファンドでも、買収のための会社の資金の出どころ、出資する投資家、融資する金融機関を確認してください。
契約で決めておくこと
| 項目 | 決める内容 |
|---|---|
| 引継ぎ期間 | 売り手が顧問・会長などとして残る期間、役割、報酬 |
| 従業員 | 雇用の維持、労働条件の扱い |
| 経営者保証 | クロージング時に、既存の借入の保証を解除・借換えする段取り |
| 代金の支払い | 一括か、分割・アーンアウト・売り手の再出資があるか |
| 表明保証・補償 | 範囲、上限、期間 |
| 競業避止 | 売り手が同じ事業をしない範囲と期間 |
サーチャーとの交渉は、仲介者・FAを通さず、経営者同士の対話から始まることもあります。その場合でも、価格の目安、契約書の条項、税金は、売り手の側に立つ専門家に確認してから決めてください。公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターでは、無料でセカンド・オピニオンを求めることもできます。
売り手の経営者保証は、株式を売っても自動的には外れません。経営者保証ガイドラインの「事業承継時に焦点を当てた特則」は、前経営者と後継者の双方から保証を取る二重徴求を原則として行わないこととしていますが、具体的な解除の段取りは、金融機関と事前に話し合う必要があります(事業承継と経営者保証、M&Aで経営者保証を外すための実務)。
税金と銀行の視点
株式をサーチャーの買収会社に売る場合、売り手個人の譲渡益には20.315%の申告分離課税がかかるのが基本です(個人株主が株式を売ったときの税金)。株式の代金の一部を役員退職金として受け取る設計にする場合は、売却後も顧問などとして残る関わり方によっては、退職の実態が問われることがあります(退職金スキームとは)。
銀行から見ると、サーチファンドによる承継は、「次の社長が社外から来る」承継です。後継者の経歴、投資家の支援体制、事業計画の妥当性が融資の判断材料になります。売り手が決算書を整え、取引銀行に承継の計画を早めに伝えておくと、買収後の取引の継続や借換えの話が進みやすくなります(事業承継と銀行)。
サーチファンドが合う会社・合わない会社
| 合いやすい会社 | 合いにくい会社 |
|---|---|
| 親族・社内に後継者がいない | 社長の個人的な技術や人脈にほぼすべてを頼っている |
| 会社の名前と文化を残したい | 早く経営から完全に離れたい(引継ぎ期間を取れない) |
| 利益が安定していて、借入の返済に耐えられる | 赤字が続いている、または大きな設備投資が控えている |
| 社長が一定期間、引継ぎに関われる | 事業会社のシナジーで高く売れる見込みが大きい |
どの方法が正解ということはありません。親族内承継、社内承継、事業会社やファンドへの売却、サーチファンドを並べ、会社と従業員、家族にとって何を大切にしたいかを家族で話し合う材料にしてください。選択肢の全体像は後継者が決まらないときの選択肢でまとめています。
まとめ
- サーチファンドは、経営者を目指す個人が投資家の支援を受けて会社を探し、買収して自ら社長になる仕組み。会社を買う人と次の社長が同じ人物になる
- 売り手の利点は、次の社長と直接話して選べること、会社が独立した会社として続きやすいこと
- 注意点は、サーチャーの中小企業経営の経験、借入を使った買収の財務の負担、将来の売却の可能性
- 面談を重ねて人物と経営の考え方を確かめ、契約で引継ぎ期間・従業員・経営者保証・代金の支払い方を決める
- ほかの承継の方法と並べて、家族で話し合う材料にする
クレフティでは、公認会計士・税理士の髙橋優太がベンチャーのCFOとして資本政策や事業計画づくりに携わり、三浦孝友が大手FASでバリュエーションや財務DDに携わってきました。事業承継・M&A支援では、サーチャーとの交渉前の株価算定、提示された条件と事業計画の検証、手取り額の試算、契約書のセカンドオピニオンをご相談いただけます。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。
