「息子は東京で働いていて、戻ってくるかわからない」「社内に任せられる人はいるが、株を買うお金はない」。後継者が決まらないまま、5年、10年と過ぎていく会社は少なくありません。決めないこと自体が悪いわけではありませんが、決めないまま時間が過ぎると、選べる道が減っていくのが事業承継の難しさです。
この記事では、後継者が決まらないときの選択肢を6つに分けて比べ、帝国データバンクの調査や中小機構の公表資料、事業承継税制の期限を確認しながら、判断の順番を整理します。親族に継がせるか、外に任せるかは、どちらが正しいということはありません。家族で話し合うための材料としてお読みください。
- 後継者不在率は50.1%(帝国データバンク、2025年)。社長交代の就任経緯は「内部昇格」が「同族承継」を上回った(速報値)
- 選択肢は、親族・社内(MBO/EBO)・外部招聘・所有と経営の分離・M&A・廃業の6つ。「経営を誰に」と「株を誰に」を分けて考える
- 事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、贈与・相続等が令和9年12月31日まで
- 廃業は、清算すると残余財産の分配にみなし配当課税がかかり、借入と経営者保証の整理も必要。売却と手残りを比べる
- 公的な事業承継・引継ぎ支援センターは無料で相談できる。迷っている段階から使える
データで見る「後継者が決まらない」
帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によれば、全国約27万社のうち後継者が「いない」または「未定」の企業は13.8万社で、後継者不在率は50.1%でした。前年から2.0ポイント下がり、7年連続で改善しています(帝国データバンク)。
同じ調査で、2025年に代表者が交代した企業の就任経緯をみると、次のとおりです。
| 就任経緯 | 2024年 | 2025年(速報値) |
|---|---|---|
| 内部昇格(血縁によらない役員・社員) | 35.0% | 36.1% |
| 同族承継 | 35.7% | 32.3% |
| M&Aほか | 19.2% | 20.6% |
| 外部招聘 | ― | 7.6% |
後継者候補が決まっている企業でも、候補の属性は「非同族」が41.0%で最も多くなっています。子どもが継ぐのが当たり前という前提は、データの上でも変わりつつあります。
6つの選択肢を比べる
| 選択肢 | 経営 | 株式 | 主な課題 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子ども・親族 | 子ども・親族 | 本人の意思と適性。株価が高いと贈与税・相続税 | 子どもに継がせるメリット・デメリット |
| 社内承継(MBO・EBO) | 役員・従業員 | 役員・従業員 | 株を買う資金、借入の経営者保証の引継ぎ | 役員・従業員への承継(MBO・EBO) |
| 外部招聘 | 外部の経営者 | オーナー家に残すことが多い | 社内の受け入れ、権限と報酬の設計 | 外部から経営者を招くという選択 |
| 所有と経営の分離 | 社内の役員など | 親族 | 株主と経営者の利害調整、議決権の設計 | 所有と経営を分ける承継 |
| M&A(第三者への売却) | 買い手 | 買い手 | 買い手探し、従業員・取引先への影響、条件交渉 | 外部に売却するメリット・デメリット |
| 廃業 | ― | ― | 従業員の雇用、借入の返済、清算の税金 | 廃業と売却の比較 |
「経営」と「株式」を分けて考える
後継者問題が行き詰まる原因の一つは、「経営を継ぐ人」と「株を持つ人」を同じ人にしようとすることです。社内に経営を任せられる役員がいても、その人に会社の株を買う資金がなければ、話が止まってしまいます。
この場合、株式は親族が持ち、経営は役員に任せる「所有と経営の分離」や、議決権のない株式・拒否権付株式などの種類株式を組み合わせる方法があります(種類株式を事業承継に使う)。子どもが「経営はしないが、株主として会社を見守る」という関わり方を選ぶこともできます。子どもの人生とキャリアについては子どもには先に外で修業させるべきかで、家族で話し合う材料をまとめています。
選択肢ごとに必要な「お金」
どの道を選ぶかは、気持ちだけでなく、誰がどれだけの資金を用意する必要があるかでも変わります。
| 選択肢 | 必要な資金 | 誰が負担するか | 主な税金 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継(贈与・相続) | 贈与税・相続税の納税資金 | 後継者(事業承継税制の納税猶予を使えば猶予) | 贈与税・相続税 |
| 親族内承継(売買) | 株式の購入代金 | 後継者 | 先代に譲渡所得税(20.315%) |
| 社内承継(MBO・EBO) | 株式の購入代金。後継者個人では足りないことが多い | 後継者、持株会社を通じた借入、ファンドなど | 先代に譲渡所得税 |
| 外部招聘 | 経営者の報酬 | 会社 | ― |
| M&A | 仲介・FAの報酬、DD対応の費用 | 売り手(オーナー) | 譲渡所得税 |
| 廃業 | 従業員の退職金、借入の返済、清算の費用 | 会社(足りなければ保証人) | 残余財産のみなし配当 |
社内承継では、後継者が持株会社をつくり、その会社が金融機関から借りて株式を買う方法がよく検討されます。この場合、買収後の会社の利益で借入を返していくため、会社の返済余力が承継の成否を決めます。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。承継前から借入が多い会社では、株式の購入資金の借入まで上乗せすると、この目安を大きく超えてしまうことがあります。
決めないままにしておくリスク
後継者を決めないままオーナーが急に亡くなると、株式は相続人の共有になり、遺産分割がまとまるまで議決権の行使にも手続が必要になります(相続で共有になった株式の議決権)。代表取締役もいなくなるため、銀行取引や契約の手続が滞ります。「まだ決められない」場合でも、万一のときに誰が会社を動かすかだけは決め、遺言や緊急時の計画にしておくことをおすすめします(オーナー急逝に備えるチェックリスト)。
期限のある制度:事業承継税制の特例措置
親族や社内の後継者に株式を贈与・相続で渡す場合、法人版事業承継税制の特例措置を使うと、一定の要件で贈与税・相続税の納税が猶予されます。国税庁によれば、特例措置を使うには次の期限があります(国税庁 No.4439)。
| 手続 | 期限 |
|---|---|
| 特例承継計画の都道府県への提出 | 平成30年4月1日から令和9年(2027年)9月30日まで |
| 贈与・相続等 | 平成30年1月1日から令和9年12月31日まで |
2026年10月時点で、特例承継計画の提出期限まで約1年です。特例承継計画には後継者を記載するため、後継者が決まらないままでは提出できません。特例措置を検討する可能性があるなら、期限から逆算して、家族で話し合う時期を決めることが現実的です。期限と今やるべきことは事業承継税制の特例の期限(2027年)と今やるべきことで詳しく取り上げます。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る廃業と売却:手残りと借入の違い
後継者が見つからないとき、「最後は廃業すればいい」と考える方もいます。しかし、廃業にはお金と手間がかかります。
| 項目 | 廃業(解散・清算) | M&A(株式譲渡) |
|---|---|---|
| 従業員 | 雇用は終了 | 原則としてそのまま |
| 取引先 | 取引は終了 | 原則として継続 |
| 借入と経営者保証 | 資産を売って返済。足りなければ保証人が負担するおそれ | 買い手が借入を引き継ぎ、保証の解除・移行を交渉 |
| オーナーの税金 | 残余財産の分配のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当(所得税法25条1項4号)として総合課税 | 譲渡益に20.315%の分離課税 |
| 資産の処分 | 在庫・設備は安く処分されがち | 事業として評価される |
清算での残余財産の分配は、資本金等の額を超える部分が配当とみなされ、他の所得と合算して累進税率で課税されます。株式を売る場合の分離課税とは、税率の仕組みが違います。手残りの比較は廃業と売却の比較で試算しています。
銀行から見た「後継者未定」
銀行は、取引先の経営者の年齢と後継者の有無を見ています。帝国データバンクの同じ調査では、メインバンク別の後継者不在率は、メガバンクが44.2%、政府系金融機関が42.3%と低い水準でした。金融機関が事業承継の支援に力を入れていることの表れともいえます。
後継者が決まらないまま経営者が高齢になると、長期の借入や設備投資の融資で、「返済期間中に誰が経営するのか」を問われるようになります。承継の方針を銀行に説明できること自体が、融資を受け続けるための条件になっていきます(事業承継と銀行:後継者の信用をどうつくるか)。
相談先と、判断の順番
公的な窓口
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が47都道府県に48カ所設置している公的な相談窓口です。中小機構によると、令和6年度の相談者数は2万3,540者、第三者承継(M&A)の成約件数は2,132件で過去最高、創業希望者と後継者不在の事業者を引き合わせる後継者人材バンクの成約件数も106件で過去最高でした(J-Net21「事業承継・引継ぎ支援センター令和6年度実績」)。補助金などの公的支援は事業承継・M&Aの補助金と公的支援をご覧ください。
判断の順番
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 会社の現状を数字で把握する(株価、借入、経営者保証、不動産) |
| 2 | 家族の意向を聞く(子どもが継ぐ気があるか、株主として関わるか) |
| 3 | 社内の候補を考える(経営を任せられる人、株を買う資金) |
| 4 | 期限のある制度を確認する(事業承継税制の特例措置) |
| 5 | 外部の選択肢を調べる(M&A、外部招聘)。売れる会社かを知っておく |
| 6 | いつまでに決めるかを決める(オーナーの年齢、借入の返済期間) |
M&Aを選ばないとしても、自分の会社が売れるのか、いくらぐらいなのかを知っておくことは、親族内承継や社内承継の判断にも役立ちます。株価が高ければ、親族や社内への承継では税金や資金の手当てが必要になるからです。全体の進め方は事業承継のロードマップとチェックリストにまとめています。
まとめ
- 後継者不在率は50.1%。社長交代は内部昇格が同族承継を上回り、後継者候補も「非同族」が最多
- 選択肢は親族・社内・外部招聘・所有と経営の分離・M&A・廃業。「経営」と「株式」を分けると道が広がる
- 事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、贈与・相続等が令和9年12月31日まで
- 廃業は、残余財産のみなし配当課税と、借入・経営者保証の整理が必要。売却と比べてから決める
- どれを選ぶかは人による。家族で話し合い、期限から逆算して決める時期を決める
クレフティでは事業承継・M&A支援として、株価算定、親族内承継・社内承継・M&Aそれぞれの税金と手残りの試算、事業承継税制の検討、銀行への説明資料づくりをお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
