外部への売却(M&A)

M&Aで経営者保証を外すための実務|保証解除の交渉の時期・3つの方法・必要書類と契約条項

M&Aで会社を売る経営者にとって、売却代金と同じくらい大切なのが、会社の借入につけている経営者保証(個人保証)を外すことです。株式を売っても、保証は自動的には外れません。売却後に会社が行き詰まれば、もう自分の会社ではないのに、保証人として借金を背負うことになります。

中小企業庁は、M&Aの成立と同時に経営者保証を解除することを「最も優先される対応」と位置づけています。この記事では、その実現のために、いつ・誰に・何を出して・どう交渉するかを、中小M&Aガイドラインの参考資料と公的な制度に沿って整理します。事業承継全般の保証の考え方は事業承継と経営者保証、悪質な買い手による保証のトラブルは「吸血鬼スキーム」の手口と見抜き方をご覧ください。

この記事の結論
  • 経営者保証は社長と金融機関の契約。株式を売っても外れない
  • 中小企業庁の資料は、クロージングと同時の解除を最優先とし、金融機関への相談は遅くとも最終契約後からクロージング前までに始めるべきとしている
  • 方法は、①金融機関の承諾による解除、②買い手の資金での借換え・返済、③買い手側の保証や無保証の融資への差替えの3つ
  • 金融機関が「代表者がまだ替わっていない」「M&A成立前だ」といった形式的な理由で審査を拒むことは不適切とされている
  • 株式譲渡契約では、保証解除をクロージングの前提条件にし、間に合わない場合の義務・補償・解除の条項を入れる

なぜM&Aで保証が問題になるのか

中小企業の借入では、社長が会社の借入を連帯保証していることが多くあります。保証人を降りるには、金融機関がそれに応じる必要があります。

状態売り手社長のリスク
保証が外れてからクロージング最も安全
クロージングと同時に解除ほぼ安全(手続きの確実性しだい)
クロージング後に解除する約束買い手が手続きをしなければ、保証人のまま。会社が倒産すれば請求を受ける
保証の扱いを決めずにクロージング最も危険

中小企業庁の「M&Aに関するトラブルにご注意ください」(2024年8月)は、クロージング後に何度依頼しても保証の移行がされず、会社が倒産して、保証が残っていた売り手経営者が個人破産に至った事例を紹介しています。保証の扱いは、価格交渉と同じ重さで扱うべき論点です。

中小企業庁の資料が示す基本の考え方

中小M&Aガイドライン(第3版)の参考資料「中小M&A時の経営者保証の取扱いについて」は、売り手・買い手・支援機関・金融機関それぞれに求める対応を整理しています。要点は次のとおりです。

立場資料が示す考え方(要旨)
売り手・買い手トラブルを避けるには、M&A成立と同時に保証を解除することが最も優先される。難しい場合も成立後できるだけ早く解除する
相談の時期可能な限り最終契約の一定期間前に金融機関への相談を始めるのが望ましく、少なくとも最終契約後からクロージング前までには始めるべき
時間が足りない場合買い手の資力で売り手の会社の借入を返済する借換えが有効な選択肢。ただし借換えにも審査と手続きの時間がかかる
成立後の解除とする場合最終契約で買い手の義務として位置づけ、契約の解除や買戻しに関する条項の追加も検討する
金融機関「代表者の変更がなされていない」「M&A成立前の段階である」といった形式的な理由で審査を拒むことは不適切。可能な限り早く方向性を検討し、結果を伝える。解除できない場合は、どう改善すれば可能性が高まるかを具体的に説明する

保証を外す3つの方法

方法内容向いている場面注意点
① 金融機関の承諾による解除買い手の信用力や会社の財務を踏まえ、金融機関が売り手の保証を外す(買い手側の保証や無保証に切り替える)会社の財務が健全、買い手の信用力が高い審査に時間がかかる。金融機関ごとに対応が異なる
② 買い手の資金での借換え・返済買い手やその取引金融機関の資金で、会社の既存借入を返済し、保証ごと消す審査が間に合わない、既存の金融機関が解除に応じない買い手の資金調達が前提。期限前返済の手数料などを確認
③ 制度融資・無保証の融資への差替え経営者保証を求めない公的制度などで借り換える一定の財務要件を満たす会社要件と限度額がある

③で検討できる公的な制度

  • 日本政策金融公庫(国民生活事業)の経営者保証免除特例制度:事業承継・集約・活性化支援資金を利用する場合などに、経営者の保証が免除され、上乗せ利率はないとされています。ただし、事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付金がないことなど、法人と代表者の一体性の解消が求められる場面があります
  • 信用保証協会の事業承継特別保証:事業承継時の経営者保証を不要とする保証制度で、経営者保証のある既存の借入の借換えにも使えるとされています(全国信用保証協会連合会のリーフレットによる)。対象となる事業承継の時期や財務要件は改定されることがあるため、申込みの前に取引金融機関か信用保証協会で最新の条件を確認してください

M&Aの資金調達で使える公的制度はM&A融資で使える公的制度で詳しく解説します。

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交渉の時期と段取り

M&Aの流れに沿って、保証解除の段取りを並べると次のようになります(M&A全体の流れはM&Aの進み方参照)。

M&Aの段階保証解除のためにやること
準備・買い手探し借入と保証の一覧をつくる(金融機関、残高、保証の種類、根保証か、保証協会付きか)。法人と個人の資産・経理の分離を進める
基本合意(LOI)保証の扱い(解除か借換えか、誰が手続きをするか)を基本合意書に入れる
DD・最終契約の準備買い手の了解を得て、主要な金融機関に相談を始める。買い手の決算書や事業計画を金融機関に示す準備をする
最終契約保証解除をクロージングの前提条件にする。間に合わない場合の義務・期限・補償・解除を条項にする
クロージング解除の書面(または返済の完了)を確認してから、株式と代金を交換する
クロージング後解除が残っている場合は、期限と進捗を確認する。保証人として、主たる債務の状況について金融機関に情報の提供を求めることもできる(民法458条の2)

守秘義務との関係で、金融機関への相談の範囲と時期は、買い手と事前に合意しておきます。買い手の側から見ても、保証の問題が片付かないと取引が実行できないため、協力は買い手自身の利益にもなります。

金融機関に出す書類と、解除の書類

相談・審査のときに用意するもの

  1. 対象会社の資料:直近3期の決算書、直近の試算表、借入と保証の一覧、資金繰り表
  2. 買い手の資料:直近の決算書(グループなら連結または主要会社分)、会社概要、資金の出どころ(自己資金か借入か)
  3. M&Aの内容:株式譲渡契約書の案、取引の概要(クロージング予定日、株式の取得割合)
  4. 買収後の計画:事業計画、資金計画(買い手から運転資金をどう入れるか)、新しい代表者と役員の体制
  5. 保証の扱いの希望:売り手の保証解除、買い手側の保証の有無、借換えの可否

解除のときに確認するもの

  • 金融機関との保証契約の解除(保証債務の免除)の合意書や通知書など、保証が外れたことを示す書面
  • 信用保証協会付きの借入は、金融機関だけでなく保証協会の手続きも必要になる場合がある
  • 借換えで返済した場合は、完済の確認と、担保(売り手個人の不動産など)の抹消手続き

「口頭で外すと言われた」だけでは、クロージングの条件を満たしたことにはなりません。書面で確認できるまで、株式を渡さないのが原則です。

株式譲渡契約に入れる条項

条項内容
前提条件売り手の保証解除(または借換えによる完済)が完了していることを、クロージングの前提条件とする
買い手の義務保証解除・借換えのために必要な協力(資料の提出、買い手側の保証の差入れ、資金の手当て)を義務とする
期限クロージング後の解除とする場合、期限を決める
補償解除されないまま売り手が保証債務を履行した場合、買い手が補償する
解除・買戻し期限までに解除されない場合の契約解除や株式の買戻し
資金流出の制限解除が済むまで、会社から買い手グループへの貸付・配当などを制限する

ただし、買戻しや補償は、相手に資力がなければ機能しません。条項はあくまで補助で、クロージングまでに外すことが基本です。契約全体の要点は株式譲渡契約の要点をご覧ください。

銀行の目線:保証を外してもらえる会社とは

金融機関が保証の解除に応じやすいのは、経営者保証ガイドラインが示す3つの要件(法人と経営者の資産・経理の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示)に近い会社です。M&Aでは、これに買い手の信用力が加わります。

  • 会社から社長への貸付金や、私的な経費が残っていない(役員貸付金の解消方法)
  • 返済の原資が会社の利益で説明できる。著書のモデルでは、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」10年以内を健全の目安としている
  • 試算表を毎月出せるなど、情報開示の体制がある
  • 買い手が決算書を開示し、買収後の資金計画を説明できる

売却の準備(売る前の磨き上げ)の段階からこれらを整えておくことが、保証を外す交渉の一番の材料になります。保証を外すための一般的な考え方は経営者保証を外す方法でも解説しています。

まとめ

  • 経営者保証は、株式を売っても外れない。クロージングと同時の解除が最優先
  • 金融機関への相談は、遅くとも最終契約後からクロージング前、できれば最終契約より前に始める
  • 方法は、承諾による解除、買い手資金での借換え、公的制度などへの差替えの3つ
  • 金融機関には、会社・買い手・M&A・買収後の計画の資料を出し、解除は書面で確認する
  • 契約では、保証解除をクロージングの前提条件にし、期限・補償・解除の条項で補う

クレフティには、元地方銀行員の資金調達部長をはじめ、金融機関との折衝に慣れたメンバーがいます。事業承継・M&A支援の中で、保証解除に向けた金融機関への説明資料づくりや、借換えの資金調達をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の公認会計士・税理士や金融機関出身のコンサルタントが対応します。

よくある質問

会社を売ったら、社長の連帯保証は自然に外れますか?
外れません。経営者保証は、社長個人と金融機関との契約です。株式を売って会社の持ち主が替わっても、金融機関との間で保証契約を解除しない限り、売り手の社長は保証人のままです。売却後に会社の経営がうまくいかなくなれば、保証人として返済を求められる可能性があります。
金融機関には、いつ相談すればよいですか?
中小企業庁の資料(中小M&Aガイドラインの参考資料)は、可能な限り最終契約の締結より一定期間前に相談を始めることが望ましく、少なくとも最終契約後からクロージング前の間までには相談を始めるべきだとしています。金融機関の審査には時間がかかるため、買い手が決まり条件の大枠が固まった段階で、守秘義務に配慮しながら相談を始めるのが現実的です。
金融機関が保証を外してくれない場合はどうすればよいですか?
まず、何が足りないのか、どう改善すれば外れる可能性が高まるのかを具体的に説明してもらいます。そのうえで、買い手の資金で借入を返済してもらう(借換え)、買い手側の保証に差し替える、クロージングを延期する、といった方法を検討します。保証が外れないままクロージングするなら、解除を買い手の義務として契約に明記し、解除されない場合の契約解除や買戻しの条項も検討してください。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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