土地を買ってアパートやマンションを建てると、工事請負契約の締結時に着手金、上棟時に中間金、引渡し時に残金、というように建築代金を何回かに分けて払うのが一般的です。数千万円単位のお金が先に出ていくため、「払った期に経費にできないか」「消費税はいつ控除できるのか」というご相談をよくいただきます。
結論から言うと、着手金・中間金は払った時点では経費にも課税仕入れにもならず、資産(建設仮勘定)として持っておき、建物の引渡しを受けた時に建物の取得価額へ振り替えます。この記事では、税務上の扱い、消費税の計上時期と公表裁決、会計上の表示、そして銀行からの見え方を順に整理します。
- 着手金・中間金は完成建物の代金の前払い。法人も個人も建設仮勘定(資産)に計上し、損金・必要経費にはならない
- 一括請負の建物の課税仕入れの時期は、目的物の全部の完成・引渡しの日(消費税法基本通達9-1-5・11-3-1)
- 建設仮勘定の特例(同11-3-6)は、すでに行われた課税仕入れを完成時にまとめるための取扱いで、中間金を前倒しで控除する根拠にはならない(平成11年9月16日裁決)
- 引渡しの日は、登記・代金決済・経理処理などの実態で判断される。軽微な工事が残っていても引渡しと同視された裁決もある
- 中間金を手元資金やつなぎ融資で払うと、流動比率が一時的に悪化する。建築期間中の決算書の見え方を事前に試算しておく
着手金・中間金の税務上の扱い:前払いであって費用ではない
法人も個人も「建設仮勘定」
建物の建築を請け負わせる契約では、工事会社が負っているのは完成した建物を引き渡す義務です。着手金や中間金は、その代金の一部を先に払っているにすぎません。建物はまだ自分のものとして使える状態にないため、支払った時点では費用になりません。
自己が建設した減価償却資産の取得価額は、建設のために要した原材料費、労務費及び経費の額と、事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とされています(法人税法施行令54条1項2号、個人は所得税法施行令126条1項2号)。着手金・中間金・残金は、引渡しを受けた時点で合計され、建物(と建物附属設備・構築物)の取得価額になります。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 着手金・中間金の支払時 | 建設仮勘定(前払金)として資産計上。損金にならない | 同じく資産として管理。必要経費にならない |
| 建物の取得価額への振替 | 引渡しを受けた時 | 引渡しを受けた時 |
| 減価償却の開始 | 事業の用に供した日から | 業務の用に供した日から |
| 建築中の借入利息 | 損金か取得価額かを選択 | 業務開始の前か後かで違う |
| 契約解除の違約金(別の資産を取得する場合) | 取得価額に算入しないことができる(法人税基本通達7-3-3の2(3)) | 必要経費に算入されたものを除き取得価額に算入(所得税基本通達38-9の3) |
建築中の借入利息の扱いは建築中の借入利息は取得価額か期間費用かで詳しく解説しています。
「事業の用に供した日」は引渡し後
減価償却は、建物の引渡しを受け、賃貸の用に供した日から始まります。期末直前に引渡しを受けた場合は、入居者の募集を開始して貸付けできる状態になったかを、募集の記録などで説明できるようにしておきましょう。引渡しが翌期にずれ込めば、その期の減価償却費はゼロです。
消費税:課税仕入れは「引渡しの日」
請負は目的物の全部を完成して引き渡した日
消費税の仕入税額控除は、課税仕入れを行った日の属する課税期間に行います。課税仕入れを行った日がいつかは、資産の譲渡等の時期の取扱いに準じて判断します(消費税法基本通達11-3-1)。そして、請負による資産の譲渡等の時期は、物の引渡しを要する請負契約であれば目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日です(同9-1-5)。
つまり、建物の建築を一括して請け負わせている場合、着手金や中間金をいくら払っても、その時点では課税仕入れは行われていません。建物全体の課税仕入れは、引渡しを受けた日にまとめて発生します。
例外として、1個の建設工事でも、完成した部分を引き渡すたびにその割合で工事代金を受け取る特約や慣習がある場合には、部分ごとの引渡しの日に資産の譲渡等があったとされます(同9-1-8)。契約書に部分引渡しの条項がない限り、通常の新築アパートの請負はこの例外に当たりません。
建設仮勘定の特例は「まとめる」ための取扱い
消費税法基本通達11-3-6は、建設工事等の目的物の完成前に行った課税仕入れを建設仮勘定として経理した場合でも、原則はその課税仕入れをした日の課税期間で控除するとしつつ、目的物が完成した日の課税期間にまとめて控除することも認めるとしています。
対象になるのは、設計料(設計業務の完了時)や、自ら発注した資材の購入など、完成前にすでに課税仕入れが行われたものです。中間金のように、まだ課税仕入れが行われていない支出を早めに控除する取扱いではありません。
なお、居住用賃貸建物(住宅として貸し付ける建物で、税抜1,000万円以上のもの)は、そもそも仕入税額控除の対象外です(居住用賃貸建物の消費税)。計上時期が問題になるのは、主に店舗・事務所・ホテルなどの建物や、併用建物の課税部分です。高額特定資産の取得による「3年縛り」も引渡しの日がどの課税期間に入るかで変わるため、高額特定資産・自己建設高額特定資産の3年縛りもあわせて確認してください。
公表裁決:中間金の控除時期と「引渡し」の判断
平成11年9月16日裁決(裁決事例集No.58・276頁):中間金は支払時の課税仕入れではない
不動産賃貸業を営む個人が、賃貸用建物の建設工事の請負代金のうち契約時に支払った分(建設仮勘定に計上した1億7,400万円)と、企画・設計から竣工まで及ぶコンサルタント業務の委託料のうち契約時・着工時に支払った分を、支払った課税期間の課税仕入れとして申告した事案です。請求人は、11-3-6の「課税仕入れ等をした日」は建設仮勘定に計上した日と解すべきだと主張しました。
審判所は、11-3-6は建設仮勘定として経理した課税仕入れを完成・引渡しの日の課税期間にまとめることを認めるものであって、課税仕入れをした日より前に、建設仮勘定に経理したことをもって課税仕入れとすることまで認めるものではないと判断しました。請負契約に部分的な引渡しの特約もないため、請負代金の課税仕入れの日は建物の引渡しを受けた日とされています。コンサルタント業務についても、業務ごとに委託料が区分されず、業務ごとの完了確認もないことから、役務の提供が完了したのは竣工前後の時期とされ、支払時の控除は認められませんでした(国税不服審判所)。
実務への示唆:設計・コンサルタント業務を早い時期の課税仕入れとしたいなら、少なくとも業務ごとの対価と完了の確認が必要です。一式の契約では、最後の業務が終わるまで役務の提供は完了していないと判断されやすくなります。
平成24年7月24日裁決:軽微な工事が残っていても引渡しと同視
賃貸用アパートを新築した合同会社が、建物の表示登記・所有権保存登記を済ませ、銀行の抵当権を設定し、請負代金を完済し、建設仮勘定を建物勘定に振り替えた課税期間に、建物の取得の消費税を控除した事案です。原処分庁は、内装やエアコンの工事が終わっておらず、建築主事の完了検査も未了だったとして、その課税期間の引渡しを否定しました。
審判所は、引渡しの日は、契約の内容、作業の終了状況、工事代金の精算状況、登記の状況などを総合考慮して判断すべきで、若干の工事が残存していても、課税期間内に完成し引渡しがあったと同視できる場合には、その課税期間に課税仕入れがあったとみるのが相当としました。外壁と屋根で外気と分断され、基礎で土地に定着し、共同住宅として使える構造を備えていたことから大部分は完成しており、残る工事は軽微な補修や附属設備の工事にすぎないとして、更正処分の全部を取り消しています(国税不服審判所)。
実務への示唆:引渡しの日は、契約書の日付だけでなく、引渡書、登記、代金の決済、経理処理がそろっているかで判断されます。期末をまたぐ引渡しでは、これらの書類を同じ日付でそろえておくことが大切です。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」など)でも、建設中の固定資産のために支出した金額は建設仮勘定として固定資産に表示し、完成・引渡し時に建物などの科目に振り替えるのが一般的です。法人税法22条4項が、所得の計算は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うとしているのも、このような会計の慣行を前提にしています。
| 時点 | 仕訳の例(税抜経理・店舗の例) | BS上の表示 |
|---|---|---|
| 着手金の支払 | 建設仮勘定 / 現預金 | 固定資産(建設仮勘定) |
| 中間金の支払 | 建設仮勘定 / 現預金 | 固定資産(建設仮勘定) |
| 引渡し・残金支払 | 建物・建物附属設備・構築物、仮払消費税等 / 建設仮勘定、現預金 | 固定資産(建物等) |
ポイントは、中間金が固定資産の部に入ることです。営業利益や経常利益には影響しませんが、BSの中身は大きく動きます。税抜経理の場合、課税仕入れが行われていない中間金の消費税相当額は、引渡し時まで仮払消費税等にしないのが原則的な考え方です。
なお、設計料などを含めて建設仮勘定にまとめたものは、引渡し時に建物本体・建物附属設備・構築物に正しく配分する必要があります(建物と建物附属設備・構築物の区分)。設計料の扱いは設計料・建築確認申請費用・設計変更費の処理で解説しています。
銀行からの見え方:中間金は流動比率を下げる
「資産は上に、負債は下に」の観点
著書では、BSの整え方として「資産は上に、負債は下に」という考え方を紹介しています。流動資産÷流動負債で計算する流動比率が、銀行の安全性の指標として見られるためです。
中間金の支払は、この流動比率に直接効きます。
| 動き | BSへの影響 | 流動比率 |
|---|---|---|
| 手元資金から中間金を払う | 流動資産(現預金)が減り、固定資産(建設仮勘定)が増える | 下がる |
| 短期のつなぎ融資で中間金を払う | 流動負債(短期借入金)が増え、固定資産が増える | 下がる |
| 長期の建築資金融資(分割実行)で払う | 固定負債(長期借入金)が増え、固定資産が増える | 変わりにくい |
建築期間中に決算を迎えると、現預金が減り、短期借入金が増えた状態の決算書が銀行に提出されることになります。銀行の担当者は事情を理解していることが多いものの、格付けは決算書の数字で機械的に計算される部分があります。決算期と工事の支払スケジュール、つなぎ融資の返済時期を並べて、期末時点のBSがどう見えるかを先に試算しておくのが実務的です。
ただし、表示区分は取引の実態で決まります。1年以内に返済する予定のつなぎ融資を、見え方のために長期借入金として表示することはできません。税務上の損金算入の問題とは別に、決算書の表示区分は企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは契約内容と実態次第です。融資の組み方を含め、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
前払いしすぎのリスクも見られている
もう一つ、銀行が気にするのは、出来高を大きく超える前払いをしていないかです。工事の進み具合を超えて代金を払っていると、施工会社に万一のことがあった場合に、払った代金に見合う建物が手に入らないおそれがあります。支払条件は、出来高や工程の節目に合わせて組んでおくと、銀行への説明もしやすくなります。銀行の格付けの見方は不動産投資の銀行格付けで解説しています。
実務のチェックポイント
- 着手金・中間金を費用処理せず、建設仮勘定(前払金)に計上しているか
- 請負契約に部分引渡しの特約があるか(ない場合、課税仕入れは引渡しの日に一括)
- 設計・監理・コンサルタント業務は工事請負と別契約か。業務ごとの対価と完了確認の書類があるか
- 建設仮勘定の特例(11-3-6)を、中間金の前倒し控除と取り違えていないか
- 引渡書・登記・残金決済・建物勘定への振替の日付がそろっているか
- 引渡しの日が属する課税期間で、居住用賃貸建物・高額特定資産の判定を確認したか
- 工事請負契約書の印紙税を確認したか(不動産売買契約書・工事請負契約書の印紙税)
- 建築期間中の期末BS(現預金・短期借入金・流動比率)を試算し、銀行への説明を準備したか
まとめ
- 着手金・中間金は建物代金の前払い。法人も個人も建設仮勘定として資産計上し、引渡し時に建物などへ振り替える
- 一括請負の建物の課税仕入れは、目的物の全部の完成・引渡しの日。中間金の支払時ではない
- 建設仮勘定の特例は完成時にまとめるための取扱いで、前倒しの根拠にはならない(平成11年9月16日裁決)
- 引渡しの日は登記・決済・経理などの実態で判断され、軽微な残工事があっても引渡しと同視された例がある(平成24年7月24日裁決)
- 中間金の支払は流動比率を下げる。建築期間中の決算書の見え方と資金計画を、着工前に組み立てておく
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