年末が近づくと、市区町村から「償却資産申告書」が届きます。「建物の固定資産税はもう払っているのに、何を申告するのか」「アパートの大家にも関係があるのか」と戸惑うオーナーは少なくありません。
固定資産税の償却資産申告は、土地・家屋以外の事業用の資産について、毎年1月1日時点で持っているものを1月31日までに申告する制度です。賃貸物件では、駐車場の舗装やフェンス、屋外の照明、入居者用のルームエアコンや家具家電などが対象になりえます。一方で、同じ「設備」でも、家屋の評価に含まれて建物の固定資産税で課税されているものもあり、区分を誤ると申告漏れや二重課税につながります。
この記事では、賃貸物件で対象になる資産・ならない資産、家屋との区分、税額の計算、テナントが付けた設備の扱い、申告漏れのリスク、そして会計処理と銀行からの見え方を解説します。
- 償却資産申告は、1月1日時点で所有する事業用の償却資産を、その年の1月31日までに、資産の所在する市町村(東京23区は都税事務所)へ申告する。個人の大家も法人も対象
- 賃貸物件では、駐車場の舗装・フェンスなどの構築物、屋外照明、ルームエアコン、防犯カメラ、太陽光発電設備、家具家電などが対象になりうる。一方、給排水・電灯配線・ユニットバスなど家屋と一体の設備は家屋として課税される(東京都23区の区分表の例)
- 10万円未満で経費にしたもの・20万円未満の一括償却資産は対象外。ただし、中小企業者等の少額特例で損金にしたものは対象になる
- 課税標準額の合計が150万円未満なら課税されない(免税点)。税率は1.4%(東京都23区)
- 申告漏れは、最大5年分さかのぼって課税されることがあり、10万円以下の過料の規定もある。会計上は租税公課、銀行は固定資産台帳との整合と、突然の追加負担がないかを見る
償却資産申告とは:固定資産税の「第3の課税対象」
固定資産税は、土地・家屋・償却資産の3つにかかる市町村の税金です。土地と家屋は、登記や家屋調査をもとに市町村が評価して課税しますが、償却資産は市町村が把握しにくいため、所有者が自ら申告する仕組みになっています(地方税法383条)。
東京都主税局の案内では、毎年1月1日現在に所有している償却資産について、1月31日までに資産の所在する区の都税事務所へ申告するとされています(東京都主税局:固定資産税(償却資産))。物件が複数の市区町村にあれば、市区町村ごとに申告します。eLTAX(地方税ポータルシステム)による電子申告も可能です。
申告の対象になるのは、事業の用に供することができる資産で、その減価償却費が法人税・所得税の計算上、損金または必要経費に算入されるものです。遊休中・未稼働の資産も、事業に使える状態であれば対象です。空室の部屋に設置したエアコンも、申告から外れるわけではありません。
対象外になるもの
東京都の案内では、次のものは償却資産の申告の対象外とされています。
| 対象外となる主なもの | 賃貸業での例 |
|---|---|
| 自動車税・軽自動車税の課税対象となるもの | 管理用の車両 |
| 無形固定資産 | 管理ソフト、借地権など |
| 繰延資産 | 創立費、開業費など |
| 耐用年数1年未満、または取得価額10万円未満で、税務上一時に損金・必要経費にしたもの | 少額の家電・備品 |
| 取得価額20万円未満で、3年間の一括償却をしたもの | 一括償却資産として処理した家具 |
逆に、中小企業者等の少額減価償却資産の特例で一時に損金にしたもの、少額でも通常の減価償却を選んだものは、申告の対象です。法人税と所得税で同じように「その年の経費にした」資産でも、どの制度を使ったかで償却資産申告の要否が変わる点が、いちばん間違えやすいところです。少額資産の制度と、令和4年改正で貸付けの用に供した資産が除外された仕組みは、少額減価償却資産・一括償却資産と「貸付けの用」の除外で解説しています。
賃貸物件で対象になる資産・ならない資産
家屋に含まれる設備と、償却資産になる設備
建物に付いている設備は、固定資産税では、家屋と構造上一体となって家屋の効用を高めるものは家屋の評価に含め、特定の業務用のもの、独立した機械・装置としての性格が強いもの、家屋と構造上一体でないものなどは償却資産として扱います。法人税・所得税の勘定科目(建物か建物附属設備か)とは基準が違うことに注意が必要です。
東京都が公表している「償却資産と家屋の区分表」(東京都23区の取扱い。家屋と設備の所有者が同じ場合の例示)から、賃貸住宅に関係しそうなものを抜き出すと、次のようになります(東京都主税局:償却資産と家屋の区分表)。
| 設備 | 償却資産とする主なもの | 家屋に含める主なもの |
|---|---|---|
| 空調 | ルームエアコン(ウインド型・壁掛型) | 中央式の空調設備 |
| 照明 | 屋外の照明(外灯・庭園灯など) | 屋内の照明設備、電灯コンセント配線 |
| 監視カメラ | カメラ、受像機 | 配管・配線 |
| テレビ共聴 | 受像機(テレビ) | アンテナ、ブースター、配線などの共聴設備 |
| 給水・排水 | 屋外の給排水設備、水道メーターから外側の引込設備、浄水器など | 屋内の配管、受水槽、ポンプ、水栓 |
| 給湯 | 流し用などの給湯器・電気温水器 | 浴室・床暖房用の給湯器 |
| 衛生器具 | タオル掛け、化粧鏡、紙巻器など | 便器、洗面器、ユニットバス、システムキッチン、温水洗浄便座 |
| 太陽光発電 | 発電設備一式(屋根材一体型を除く) | 屋根材一体型のソーラーパネル |
| 受変電 | キュービクルなど受変電設備一式 | ― |
このほか、駐車場や通路の舗装、門・塀・フェンス、駐輪場、植栽などの構築物、入居者用の家具・家電、カーテンなどの器具備品は、家屋ではないため償却資産の対象になります。構築物の税務上の扱いは駐車場・フェンスなど構築物の耐用年数、防犯設備は防犯カメラ・オートロックの処理、家具家電は家具付き賃貸の備品の処理も参考にしてください。
区分表には、取得時期によって扱いが変わる設備もあります。たとえばインターホンの親機・子機は平成20年1月1日以前の取得分は償却資産、1月2日以降の取得分は家屋とされています。この区分は東京都23区の取扱いで、市町村によって異なる場合があるため、物件のある自治体の手引きで確認してください。
テナントや入居者が付けた設備
店舗や事務所のテナントが自分の事業のために取り付けた内装・造作や建築設備は、建物に付合して法律上は建物の所有者のものになっても、取り付けたテナントを所有者とみなして償却資産として課税できる規定があります(地方税法343条10項)。東京都の案内でも、テナントが取り付けた事業用の内装・造作・建築設備は、テナントの償却資産として申告の対象になるとされています。
オーナー側から見ると、店舗の内装をテナントが負担した部分は、オーナーの申告に入れないのが原則です。逆に、オーナーが費用を負担して店舗の設備を入れた場合は、オーナーの資産です。賃貸借契約書や工事の発注書で、誰が費用を負担し、誰の資産かを確認できるようにしておきます。
税額の計算と免税点
評価額の計算
償却資産の評価額は、取得価額から、耐用年数に応じた減価率で毎年減価させて計算します。
前年中に取得した資産は、取得した月にかかわらず半年分を減価させます。法人税・所得税の減価償却のような月割りはありません。また、評価額には取得価額の5%という下限があり、税務上は償却が終わって備忘価額1円になった資産でも、使っている限り課税が続きます。
免税点と税率
市町村ごとの課税標準額の合計が150万円未満なら、償却資産の固定資産税は課税されません(東京都の案内では、この場合は納税通知書も発行されません)。税率は東京都23区で1.4%です。
たとえば、前年に入居者用のルームエアコンを1台15万円で20台(合計300万円)設置し、ほかに償却資産がない場合で試算すると、次のようになります(耐用年数6年の減価率0.319で計算)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 取得価額の合計 | 300万円 |
| 評価額(300万円 ×(1 − 0.319 ÷ 2)) | 252万1,500円 |
| 課税標準額(1,000円未満切捨て) | 252万1,000円 |
| 税額(× 1.4%、100円未満切捨て) | 3万5,200円 |
1棟だけなら数万円ですが、物件数が増え、駐車場の舗装や太陽光発電設備などが加わると、毎年の負担として無視できない金額になります。なお、免税点は市町村ごとの判定です。免税点未満でも申告を求める自治体が多いため、申告書が届いたら提出するのが基本です。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る申告漏れのリスク:5年さかのぼり、過料の規定も
償却資産は自己申告のため、申告していなければ市町村は課税できません。しかし、申告漏れが見逃され続けるとは限りません。市町村は、法人税・所得税の申告書に添付された減価償却の明細などの資料を閲覧できるため、税務署に出している資産と償却資産の申告が合っていないと、調査や問い合わせのきっかけになります。
申告漏れが判明した場合の主なリスクは次のとおりです。
- 過年度分の課税:固定資産税の賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まで行うことができます(地方税法17条の5第5項)。最大で5年度分がまとめて課税されることがあります
- 過料:正当な事由なく申告しなかった場合、市町村は条例で10万円以下の過料を定めることができ(地方税法386条)、東京都も都税条例で定めています
- 虚偽の申告:虚偽の申告には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の罰則があります(地方税法385条)
申告漏れに気づいたら、固定資産台帳と照らし合わせて対象資産を洗い出し、資産の所在する市町村に相談のうえで申告するのが基本です。
判例・裁決事例について
償却資産の固定資産税は市町村が課す地方税で、国税不服審判所の公表裁決事例の対象ではありません。この記事では、賃貸物件の償却資産申告について一般化できる判断を示した裁判例を公式の情報で確認できなかったため、個別の事件は取り上げていません。家屋と償却資産の区分や評価に疑問がある場合は、まず資産の所在する市町村の担当課に区分の根拠を確認してください。
税務上の扱い:法人と個人の違い
償却資産の固定資産税は、賦課課税方式の税金です。納税通知書で税額が決まり、原則として年4回の納期に分けて払います。経費になる時期は、法人と個人で次のように整理できます。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 申告の義務 | 事業用の償却資産があれば対象 | 不動産賃貸も事業として対象(事業的規模かどうかは問わない) |
| 経費になる時期の原則 | 賦課決定のあった日の属する事業年度(法人税基本通達9-5-1(2)) | 賦課決定のあった年(所得税基本通達37-6) |
| 例外 | 納期の開始日の属する年度、または実際に納付した日の属する年度に損金経理すれば、その年度 | 納期の開始日の年、または実際に納付した年に必要経費とすることもできる |
| 勘定科目 | 租税公課 | 租税公課 |
| 申告の対象外となる少額資産 | 10万円未満の一時損金、20万円未満の一括償却。中小企業者等の少額特例を使ったものは対象 | 10万円未満の必要経費算入、20万円未満の一括償却。少額特例(青色申告者)を使ったものは対象 |
| 過年度分を一度に課税されたとき | その賦課決定のあった年度の損金 | その賦課決定のあった年の必要経費 |
個人の大家で、自宅と賃貸物件の家事共用の資産がある場合や、法人と個人の両方で物件を持っている場合は、所有者ごと・市町村ごとに申告が分かれます。物件ごとに誰の資産かを整理しておくことが前提です。
会計上の扱いと、銀行からの見え方
会計上の表示
法人の決算書は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作ります。会社法431条は株式会社の会計を一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとし、法人税法22条4項も、損金の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。
償却資産の固定資産税は、利益に応じて課される税金ではないため、損益計算書では「法人税、住民税及び事業税」ではなく、販売費及び一般管理費の租税公課に表示するのが一般的です。不動産賃貸業を本業とする会社では、賃貸原価として表示する場合もあります。
過年度分がまとめて課税された場合の表示区分(当期の費用か、臨時的な損失として扱うか)は、金額や発生の経緯によって判断が分かれます。税務上は損金算入の時期が論点になる一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か)は、企業会計の基準に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
また、償却資産の評価額は、税務上の帳簿価額とは別の計算です。評価額は取得価額の5%が下限で、月割りもないため、決算書の固定資産の簿価と、償却資産申告の評価額は一致しません。両者がずれていること自体は問題ではありませんが、資産の一覧(どの資産を持っているか)は一致している必要があります。
銀行はどこを見るか
償却資産の固定資産税は、1物件あたりでは大きな金額ではないことが多く、それ自体で銀行の格付けが大きく動くことはまずありません。ただし、次の点は融資の場面で効いてきます。
- 突然の追加負担:申告漏れで過年度分がまとめて課税されると、その期の営業利益・経常利益が下がり、債務償還年数やICR(利払いに対する利益の倍率)が一時的に悪化して見えます。銀行への説明が必要になるうえ、「管理が行き届いていない会社」という印象も残ります
- 固定資産台帳との整合:物件ごとの固定資産台帳、減価償却の明細、償却資産申告の内容がそろっている会社は、物件明細の説明に説得力があります。台帳の作り方は固定資産台帳の作り方と按分根拠の残し方で解説しています
- 物件ごとの収支:銀行は物件ごとの収支で返済力を見ることがあります。固定資産税(土地・家屋・償却資産)を物件ごとに把握しておくと、収支計画の精度が上がります。課税明細書の読み方は固定資産税の課税明細書の読み方を参考にしてください
実務のチェックポイント
| 時期 | 確認すること |
|---|---|
| 物件の取得時 | 売買契約・重要事項説明で、エアコン・家具・駐車場設備などの付帯設備の一覧を受け取る。前所有者の償却資産をどう引き継ぐか確認する |
| 工事・設備の発注時 | 見積書・請求書を、家屋に含まれる設備と償却資産になる設備(屋外工事、エアコン、カメラなど)に分けてもらう |
| 決算時 | 固定資産台帳に「償却資産申告の対象か」「少額資産の処理方法(10万円未満・一括償却・少額特例)」の欄を設ける |
| 12月〜1月 | 1月1日時点の資産を確定し、前年の取得・除却を反映して、市町村ごとに申告書を作る。除却した資産は「減少資産」として申告する |
| テナント物件 | 賃貸借契約書と工事の発注書で、内装・設備の費用負担者を確認する(テナント負担分はテナントが申告) |
| 申告漏れに気づいたとき | 過去の取得資産を台帳から洗い出し、市町村に相談して申告する |
特に除却の反映漏れは、払わなくてよい税金を払い続ける原因になります。エアコンを交換したら、古いエアコンを減少資産として申告しないと、評価額の5%の下限で課税され続けることがあります。設備の入れ替えの処理は給湯器・エアコンの交換の処理も参考にしてください。
まとめ
- 償却資産申告は、1月1日時点の事業用の償却資産を1月31日までに、資産の所在する市町村へ申告する。賃貸業を営む個人・法人とも対象
- 賃貸物件では、構築物(舗装・フェンスなど)、屋外照明、ルームエアコン、防犯カメラ、太陽光発電設備、家具家電が対象になりうる。家屋と一体の設備は家屋として課税される。区分は自治体の区分表で確認する
- 10万円未満の一時損金・20万円未満の一括償却は対象外、中小企業者等の少額特例で損金にしたものは対象
- 免税点は150万円、税率は1.4%(東京都23区)。評価額には取得価額の5%の下限がある
- 申告漏れは最大5年分の過年度課税と過料のリスクがある。会計上は租税公課で、銀行には固定資産台帳と申告の整合が、管理の確かさとして伝わる
税理士法人クレフティには、公認会計士×税理士のパートナー2名と、元地方銀行員の資金調達部長が在籍し、物件ごとの固定資産台帳の整備から、償却資産申告、銀行に出す決算書・物件明細の作成までを一貫して支援しています。初回のご相談は無料です。不動産投資家・不動産事業者向けのサービスもご覧ください。
