外部への売却(M&A)

合併と株式譲渡の違い|手続き・債権者保護・税金・従業員への影響を比較(会社法の条文と判例)

会社を売る、またはグループ会社を整理するとき、最初に決めなければならないのが「どの方法で行うか」です。中小企業でよく比べられるのが、合併と株式譲渡です。

どちらも「会社の経営が別の会社に移る」点では似ていますが、会社法上の手続き、債権者保護、売り手と会社にかかる税金、従業員の労働条件、銀行借入への影響まで、ほとんどの点で違いがあります。合併は会社そのものが消えて1つになり、株式譲渡は会社が残って株主だけが替わるからです。

この記事では、合併と株式譲渡の違いを、会社法の条文と最高裁判例、国税庁の資料をもとに比較します。どちらを選ぶかの判断材料にしてください。

この記事の結論
  • 株式譲渡は株主が替わるだけで会社は残る。手続きは比較的軽く、売り手の株主に現金が入る
  • 合併は消滅会社の権利義務が存続会社にまるごと移る。株主総会の特別決議、債権者保護手続(1か月以上)、登記が必要
  • 税金は、株式譲渡なら個人株主に20.315%の譲渡所得課税。合併は適格か非適格かで、株主・会社の課税が大きく変わる
  • 従業員の雇用はどちらも続くが、合併後に労働条件を統一するときは、不利益変更の同意に関する最高裁平成28年2月19日判決に注意
  • 中小企業では、まず株式譲渡で子会社にし、時期を見て合併するという二段階の方法もよく使われる

合併と株式譲渡の基本的な違い

何が移るのか

株式譲渡では、売り手の株主が持っている株式を、買い手に売ります。会社そのものは何も変わらず、資産も負債も契約も従業員も、そのまま会社に残ります。変わるのは「誰が株主か」だけです。

合併(ここでは中小企業で一般的な吸収合併を前提にします)では、消滅会社の権利義務のすべてが、効力発生日に存続会社に承継されます(会社法750条1項)。消滅会社は解散し、清算手続きを経ずに消えます。消滅会社の株主は、合併契約の定めに従って、存続会社の株式や金銭などを受け取ります。

比較項目株式譲渡吸収合併
会社残る(株主が替わる)消滅会社は解散し、存続会社に一体化
対価を受け取る人売り手の株主消滅会社の株主
主な対価現金存続会社の株式(金銭も可)
資産・負債・契約会社にそのまま残る存続会社が包括的に承継
主な会社法の手続き譲渡制限株式の承認、株主名簿の書換え合併契約、事前開示、株主総会の特別決議、債権者保護手続、登記
期間の目安手続き自体は短い債権者保護手続だけで1か月以上
簿外債務のリスク会社に残る(買い手が間接的に負う)存続会社が直接引き継ぐ

中小企業では「株式譲渡のあと合併」が多い

第三者への売却では、売り手のオーナーが現金で対価を受け取りたいことが多く、手続きも軽い株式譲渡が選ばれるのが一般的です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」も、中小M&Aの手法として合併・株式譲渡・事業譲渡などを挙げており、それぞれの特徴を比べて選ぶことが前提になっています(要点は中小M&Aガイドラインの要点で解説しています)。

一方、買い手側では、株式譲渡で子会社にした後、管理コストを減らすため、または事業を一体で運営するために、時期を見て合併することがよくあります。この場合、合併は買収の二段階目の手続きになり、税務では欠損金の引継ぎや適格要件の判定が問題になります(合併で繰越欠損金を引き継げる場合・引き継げない場合)。

会社法の手続きの違い

株式譲渡の手続き

中小企業の株式の多くは、定款で譲渡に会社の承認が必要と定めた譲渡制限株式です。この場合、株主は会社に譲渡承認を請求し、取締役会(取締役会がない会社は株主総会)の承認を得て譲渡します。譲渡後は、株主名簿の書換えを行います。手続きの詳細は譲渡制限株式と株式譲渡の承認手続きで解説しています。

株主が複数いる場合は、買い手が全員と個別に売買契約を結ぶ必要があります。株式が分散していると、1人でも売らない株主がいれば100%の取得ができません。

合併の手続き

吸収合併では、存続会社と消滅会社の双方で、次の手続きが必要です。

手続き内容主な条文
合併契約の締結対価の内容、効力発生日などを定める会社法748条・749条
事前開示書類の備置き合併契約の内容などを本店に備え置き、株主・債権者が閲覧できるようにする782条・794条
株主総会の承認効力発生日の前日までに、原則として特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、その3分の2以上の賛成)783条・795条、309条2項12号
反対株主の株式買取請求反対する株主は、公正な価格での買取りを請求できる785条・797条
債権者保護手続官報公告と、知れている債権者への個別の催告。異議を述べる期間は1か月以上789条・799条
効力発生と登記効力発生日に権利義務を承継。効力発生日から2週間以内に、消滅会社の解散登記と存続会社の変更登記750条・921条
事後開示存続会社が合併に関する書面を備え置く801条

株主総会の決議要件と、決議が不要になる場合(簡易合併・略式合併)はM&Aに必要な株主総会・取締役会の決議で詳しく解説します。ここで1点だけ注意しておくと、存続会社の株主総会を省略できる簡易合併(交付する対価が存続会社の純資産のおおむね5分の1以下の場合、796条2項)は、存続会社が公開会社でなく、消滅会社の株主に譲渡制限株式を交付する場合には使えません(同項ただし書)。株式に譲渡制限がある中小企業どうしの合併で、存続会社の株式を対価にするときは、存続会社でも株主総会が必要になるのが通常です。

債権者保護手続:合併に特有の負担

合併で最も手間がかかるのが債権者保護手続です。消滅会社の債権者から見れば、債務者が別の会社に替わるのと同じなので、異議を述べる機会が保障されています(会社法789条)。存続会社の債権者にも同じ手続きがあります(799条)。

  • 合併をすること、相手の会社の商号・住所、計算書類に関する事項、異議を述べることができる旨を官報に公告する
  • 知れている債権者には個別に催告する。ただし、官報に加えて、定款で定めた日刊新聞紙または電子公告でも公告すれば、個別の催告は省略できる
  • 異議を述べる期間は1か月を下回ることができない
  • 異議を述べた債権者には、合併で害されるおそれがない場合を除き、弁済、担保の提供、または信託をしなければならない

効力発生日までにこの手続きが終わっていなければ、合併の効力は生じません(750条6項)。官報の掲載には申込みから日数がかかるため、効力発生日から逆算して、2〜3か月前には準備を始めるのが一般的です。株式譲渡には、この手続きはありません。

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税金の違い:売り手・会社・登記

売り手(株主)の税金

比較項目株式譲渡吸収合併
個人株主譲渡益に所得税・住民税等あわせて20.315%(申告分離課税)適格合併で存続会社の株式だけを受け取る場合は、課税が繰り延べられる。非適格合併では、みなし配当(総合課税)と譲渡損益が生じることがある
法人株主譲渡益は法人税の課税対象同上。みなし配当には受取配当等の益金不算入の適用がある
現金が入るか入る株式対価なら入らない

株式譲渡は「現金化」と「課税」が同時に起こり、合併は株式対価であれば「現金化しない代わりに課税も繰り延べる」のが基本です。オーナーが会社を売って現金を受け取りたいなら、合併ではなく株式譲渡が素直な選択になります。個人の株式譲渡の税金は会社を売ったときの個人の税金で詳しく解説しています。

会社の税金

株式譲渡では、会社には課税関係は生じません。会社の資産の帳簿価額も、繰越欠損金も、原則としてそのまま残ります(買収後に事業を大きく入れ替えると欠損金が使えなくなる制限はあります)。

合併では、適格合併なら消滅会社の資産・負債は帳簿価額で引き継がれ、譲渡損益は生じません。非適格合併では、消滅会社が資産を時価で譲渡したものとして、含み益に法人税がかかります。適格かどうかの判定は組織再編の適格要件の基本をご覧ください。

登記・不動産の税金

不動産を持つ会社では、登記にかかる税金にも差が出ます。

項目株式譲渡吸収合併
不動産の所有権移転登記不要(会社の所有のまま)必要。登録免許税は固定資産税評価額などの1,000分の4
資本金の増加の登記不要増加した資本金の1,000分の1.5(一部1,000分の7)、最低3万円
不動産取得税かからない法人の合併による取得は非課税(地方税法73条の7第2号)

登録免許税の税率は国税庁タックスアンサー「No.7191 登録免許税の税額表」で確認できます。不動産を多く持つ会社を合併すると、所有権移転の登録免許税がまとまった金額になります。株式譲渡ではこれがかかりません。

従業員への影響と最高裁判例

雇用はどちらも続く

株式譲渡では、雇用主である会社は変わらないため、労働契約にも就業規則にも変化はありません。合併でも、労働契約は存続会社に包括的に承継されるため、従業員一人ひとりの同意は不要で、雇用は続きます。この点は、従業員の同意(転籍の同意)が必要になる事業譲渡と大きく違います。

ただし、合併後は、2つの会社の就業規則、賃金体系、退職金制度が1つの会社の中に併存します。いつまでも別々の制度のままでは運営しにくいため、多くの場合、合併前後に制度の統一を検討します。ここで問題になるのが、労働条件の不利益変更です。

最高裁平成28年2月19日判決(山梨県民信用組合事件)

最高裁第二小法廷 平成28年2月19日判決(平成25年(受)第2595号)は、合併に伴う退職金の支給基準の変更が争われた事件です。

判決によれば、経営破綻が懸念された信用組合が別の信用組合に吸収合併されるにあたり、消滅する組合の職員の退職金の支給基準が、基礎となる給与額を2分の1にするなど大きく引き下げられました。管理職員は、同意しないと合併できないと告げられて同意書に署名押印しましたが、変更後の基準では、自己都合退職の場合に退職金が0円となる結果になっていました。

最高裁は、賃金や退職金に関する労働条件の変更について、労働者が受け入れる行為をしたとしても、直ちに同意があったとみるのは相当でないとしました。そして、不利益の内容と程度、同意に至った経緯と態様、事前の情報提供や説明の内容などに照らして、その行為が労働者の自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかどうかという観点からも判断すべきだとして、同意を認めた原審を破棄し、差し戻しました。

この判決から、合併で労働条件を統一するときの実務上の示唆は明確です。

  • 不利益になる変更は、変更の必要性だけでなく、一人ひとりにどんな不利益が出るのかを具体的に説明する
  • 説明に使った資料、説明会の記録、個別面談の内容を残す
  • 退職金のように金額の大きいものは、移行措置や経過期間を検討する

株式譲渡で子会社のまま運営する場合は、こうした制度統一の問題は先送りできます。逆に言えば、合併の時期は、人事制度の統一の準備ができてからにする、という判断もあり得ます。従業員への伝え方は従業員・取引先・銀行に売却をどう伝えるかも参考にしてください。

銀行・取引先・許認可への影響

借入と保証

株式譲渡では、借入は会社に残ります。ただし、銀行との契約に、株主の変更(チェンジオブコントロール)を通知事項や期限の利益喪失事由とする条項があることがあります。

合併では、消滅会社の借入は存続会社が承継します。債権者保護手続の対象になるため、取引銀行には公告・催告の前に事前に相談しておくのが実務の常識です。金銭消費貸借契約や銀行取引約定書で、合併を事前の承諾事項としていることも多く、無断で進めると関係が悪化します。銀行との関係の詳細は売り手の取引銀行は買収後もそのまま使えるかで解説しています。

銀行の見え方としては、合併すると2社の決算書が1つになるため、合併初年度は前期との比較がしにくくなります。著書で紹介している債務償還年数(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)も、合併後の合算の数字で計算し直されます。合併前に、合算した試算表と、合併後の事業計画を用意して説明すると、格付けの見直しで不利に扱われにくくなります。

取引先との契約と許認可

株式譲渡では、契約の当事者である会社は変わらないため、契約は原則としてそのまま続きます(チェンジオブコントロール条項がある契約は別です)。合併では、契約上の地位も包括的に承継されますが、契約で合併を解除事由としている場合もあるため、主要な契約は事前に確認します。

許認可は業種ごとに扱いが違います。合併で承継できるものもあれば、存続会社が改めて取得し直す必要があるものもあります。たとえば建設業は、事前に認可を受けることで合併による承継ができる制度があります(建設業法17条の2)。許認可が事業の生命線になっている会社では、許認可を持つ会社を存続会社にする、または株式譲渡で子会社のまま残す、という選択がよく行われます。

判断のポイント株式譲渡が向く場合合併が向く場合
売り手の希望現金で対価を受け取りたい対価は株式でよい、グループ内の整理
会社の存続会社名・許認可・契約をそのまま残したい1つの会社にまとめて管理を効率化したい
手続きの負担短期間で終えたい債権者保護手続などの期間をとれる
不動産不動産が多く、移転の登録免許税を避けたい不動産が少ない
人事制度制度統一を先送りしたい制度統一の準備ができている

まとめ

  • 株式譲渡は株主が替わるだけで、会社・資産・契約・従業員はそのまま。売り手の株主に現金が入り、個人なら20.315%の課税
  • 合併は権利義務がまるごと存続会社に移る。株主総会の特別決議、1か月以上の債権者保護手続、2週間以内の登記が必要
  • 合併の税金は適格か非適格かで大きく変わる。不動産があれば所有権移転の登録免許税もかかる
  • 合併後に労働条件を統一するときは、最高裁平成28年2月19日判決を踏まえ、不利益の具体的な説明と記録が欠かせない
  • 中小企業では、株式譲渡で子会社にし、準備が整ってから合併する二段階の方法が現実的なことが多い

クレフティでは、合併と株式譲渡のどちらを選ぶかの比較検討、適格要件や欠損金の判定、株価算定、合併後の決算書と銀行への説明まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

中小企業のM&Aでは、合併と株式譲渡のどちらが多いのですか?
中小企業の第三者への売却では、手続きが比較的簡単で、会社をそのまま残せる株式譲渡が選ばれることが多いです。合併は、株式譲渡で子会社にした後、グループを整理するために行う二段階目の手続きとして使われることがよくあります。どちらが適しているかは、売り手が現金を必要とするか、会社を残す必要があるか、許認可や契約の扱いなどで変わります。
合併すると、消滅する会社の従業員はどうなりますか?
合併では、消滅会社の権利義務が存続会社に包括的に承継されるため(会社法750条1項)、従業員の労働契約も個別の同意なしに存続会社に引き継がれます。ただし、合併を機に退職金や賃金の制度を統一する場合、従業員に不利益な変更には慎重な手続きが必要です。最高裁平成28年2月19日判決は、合併に伴う退職金の不利益変更について、同意書に署名押印があっても、自由な意思に基づくかを慎重に判断すべきとしました。
合併の手続きには、どれくらいの期間がかかりますか?
債権者保護手続として、官報公告と知れている債権者への催告を行い、異議を述べる期間を1か月以上とる必要があるため(会社法789条・799条)、準備期間を含めると数か月を見込むのが一般的です。株主総会の招集、事前開示書類の備置き、効力発生日から2週間以内の登記も必要です。株式譲渡は、株式の譲渡承認と代金決済で完了するため、手続きそのものは短く済みます。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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