M&Aの税務

株式を対価にするM&A(株式交付制度)|会社法の手続と、譲渡益の課税繰延べの要件・同族会社の除外

M&Aの代金は現金で払うのが一般的です。しかし、買い手が成長中の会社で手元資金が少ない場合や、売り手のオーナーが「買い手グループの株主として成長の果実も受け取りたい」と考える場合には、買い手の株式を対価にする方法が選択肢になります。そのための会社法の制度が、令和元年の会社法改正で設けられた株式交付です。

この記事では、株式交付制度の会社法上の手続と、売り手の譲渡益の課税繰延べの要件(80%要件と同族会社の除外)を、e-Gov法令検索の条文と国税庁の資料で確認しながら整理します。中小企業のオーナーにとって使える場面と、使いにくい場面の両方を見ていきます。

この記事の結論
  • 株式交付は、株式会社が他の株式会社を子会社にするために、自社株式を対価にその株式を譲り受ける制度(会社法774条の2以下)。100%取得は不要
  • 個人株主は、対価のうち親会社株式が80%以上なら、株式部分の譲渡益の課税が繰り延べられる(租税特別措置法37条の13の4)
  • ただし、株式交付直後の親会社が一定の同族会社に該当すると繰延べは使えない。オーナー企業が親会社なら要注意
  • 親会社が非公開会社だと簡易手続は使えず、株主総会の特別決議が必要。反対株主の買取請求、場合により債権者保護手続もある
  • 売り手は換金しにくい株式を受け取る。売却・配当・相続税評価まで見て判断する

株式交付とは:株式交換・現金買収との違い

会社法774条の2は、株式会社は株式交付をすることができ、その場合は株式交付計画を作らなければならないと定めています。株式交付を行う会社を株式交付親会社、株式を譲り受けられる会社を株式交付子会社といいます。

項目現金による株式譲渡株式交換株式交付
対価現金親会社の株式など親会社の株式(金銭などを併用できる)
取得の範囲合意した株主から対象会社の株式の100%子会社にする範囲(議決権の過半数)以上。100%でなくてよい
対象会社側の手続譲渡承認など対象会社の株主総会の決議が必要対象会社の総会決議は不要。応じた株主が個別に譲渡を申し込む
親会社側の手続原則不要(大型なら決議)株主総会の特別決議(簡易手続あり)株式交付計画の承認(簡易手続あり。非公開会社は不可)
買い手の資金必要原則不要原則不要
売り手の課税譲渡益に20.315%適格なら繰延べ要件を満たせば株式部分を繰延べ

株式交換は対象会社を完全子会社にする制度なので、少数株主が反対していると使いにくい面があります。株式交付は、子会社化に必要な範囲で、応じた株主からだけ株式を譲り受けられるのが特徴です。ただし、すでに子会社になっている会社の株式を買い増すためには使えません。株式交換を使った持株会社化は株式交換で持株会社をつくるで取り上げています。

会社法の手続

手続条文内容
株式交付計画の作成774条の2・774条の3子会社の商号・住所、譲り受ける株式の数の下限(子会社にするのに必要な数以上)、対価の内容、効力発生日など
譲渡の申込みと割当て774条の4以下親会社が申込者に計画の内容を通知し、申込みを受けて割り当てる
計画の承認816条の3効力発生日の前日までに、株主総会の決議(特別決議)で承認
簡易手続816条の4交付する対価の額が親会社の純資産額の5分の1以下なら総会決議不要。ただし親会社が公開会社でない場合は使えない
反対株主の株式買取請求816条の6親会社の反対株主は、公正な価格での買取りを請求できる
債権者の異議816条の8親会社株式に準ずるもの以外(金銭など)を対価に含める場合、親会社の債権者は異議を述べられる

中小企業の多くは、すべての株式に譲渡制限がある非公開会社です。買い手が非公開会社なら、規模が小さくても株主総会の特別決議が必要になります。また、対象会社の株式が譲渡制限株式であれば、対象会社側での譲渡承認の手続も確認します(譲渡制限株式と株式譲渡の承認手続き)。

売り手の税金:課税繰延べの要件

個人株主(租税特別措置法37条の13の4)

国税庁の説明では、個人が株式交付によって所有株式を譲渡し、株式交付親会社の株式の交付を受けた場合、親会社株式の価額が交付を受けた対価の合計額の80%以上であれば、親会社株式に対応する部分の所有株式の譲渡はなかったものとみなされます(国税庁 No.1545)。

要件・取扱い内容
80%要件交付を受けた親会社株式の価額が、交付を受けた金銭・その他の資産を含む対価の合計額の80%以上
同族会社の除外株式交付の直後の親会社が一定の同族会社に該当する場合は適用されない(令和5年度税制改正で追加)
繰延べの範囲親会社株式に対応する部分のみ。金銭などを受け取った部分は、その時に譲渡益として課税
申告株式以外の資産の交付を受けた場合などを除き、確定申告は不要
親会社株式の取得価額元の所有株式の取得価額(株式以外の対価がある場合は株式に対応する部分)を引き継ぐ

同族会社の除外が中小企業には大きい

除外される「一定の同族会社」は、法人税法2条10号の同族会社のうち、判定の基礎になった株主に同族会社でない法人がいる場合はその法人を除外して判定しても、なお同族会社になるものです(租税特別措置法37条の13の4第1項)。

かみくだくと、オーナーとその家族が支配している会社が親会社になる場合は、多くがこの除外に当たり、課税繰延べが使えません。一方、上場会社のように株主が分散している会社、あるいは同族会社でない法人が主要株主である会社が親会社になる場合は、除外に当たらないことがあります。会社法上は株式交付ができても、税務の繰延べが使えるとは限らないことに注意が必要です。

単純化した計算例

所有株式の取得価額:1,000万円対価:親会社株式 9,000万円 + 金銭 1,000万円(合計1億円)株式の割合 = 9,000万円 ÷ 1億円 = 90% → 80%以上なので特例の対象金銭に対応する部分:取得価額のうち10%(100万円)を差し引き、譲渡益 = 1,000万円 − 100万円 = 900万円 → 20.315%で約183万円親会社株式に対応する部分:譲渡はなかったものとみなされ、親会社株式の取得価額は900万円を引き継ぐ

金銭の割合が増えて株式の割合が80%を下回ると、特例は適用されず、株式部分も含めて全体が譲渡として課税されます。対価の組み合わせを決める段階で、80%の線を下回らないかを確認しておく必要があります。なお、金銭に対応する部分の計算は政令で定められているため、実際の申告では条文に沿って計算します。

法人株主の場合

法人株主が株式交付で株式を譲渡した場合も、80%要件と同族会社の除外を同様に定めた特例が租税特別措置法に置かれています(2026年10月時点のe-Gov法令検索では66条の2)。持株会社などの法人株主が応じる場合は、法人税の申告で確認します。法人株主の売却全般は持株会社(法人株主)が子会社株式を売る場合の税務をご覧ください。

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売り手から見たリスク:受け取るのは「換金しにくい株式」

非上場株式を受け取る意味

買い手が上場会社でなければ、売り手が受け取るのは非上場の株式です。

論点確認すること
換金将来いつ、誰に売れるか。買い手の上場予定、買取りの約束(プット・オプション)の有無
少数株主の立場親会社の経営にどこまで関与できるか。株主間契約で何を決めるか
配当配当方針。配当がなければ、株主として受け取るものがない
相続受け取った株式は相続税で財産評価基本通達により評価される。分けにくい財産が残る
課税の繰延べ将来その株式を売ったときに、元の取得価額を基に課税される(課税がなくなるわけではない)

少数株主としての権利は少数株主の権利、株主間契約で決めるべきことは株主間契約で決めておくべきことをご覧ください。

株式の価値をどう決めるか

株式交付では、対象会社の株式の価値と親会社の株式の価値の両方を評価し、交換比率を決めます。現金買収なら対象会社の価値だけを見ればよいのに対し、株式対価では、買い手の会社の価値が高すぎないかも売り手が検証する必要があります。買い手の事業計画が楽観的なら、売り手は高く見積もられた株式を受け取ることになるからです(企業価値の前提になる事業計画の妥当性)。

なお、株式交付は令和3年3月に施行された比較的新しい制度で、税務上の取扱いを争った公表裁決・判例は、2026年10月時点で確認できたものはありません。反対株主の買取請求が使われた場合の「公正な価格」の考え方は、合併や株式交換などで蓄積された裁判例が参考になります(合併・事業譲渡に反対する株主の株式買取請求と価格決定の判例)。

銀行・従業員から見た株式交付

買い手の銀行

株式交付は、買い手が借入をせずに子会社を取得できる方法です。現金買収をM&A融資で行うと、買収後の返済負担がのしかかります。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としていますが、株式対価なら借入金が増えないため、この数字を悪化させずにグループを大きくできます。一方で、対象会社に親会社株主以外の少数株主が残る場合、銀行はグループの意思決定や配当の流出も見ます。

対象会社の従業員・取引先

株式交付は株式の持ち主が変わるだけなので、対象会社の雇用契約や取引契約はそのまま続きます。ただし、取引先との契約にチェンジオブコントロール条項があれば、支配株主の変更として通知や承諾が必要になります(取引先との契約のチェンジオブコントロール条項)。売り手のオーナーが買い手グループの株主として残ることは、従業員にとって「前の社長も一緒に新しいグループに入る」というメッセージにもなります。

まとめ

  • 株式交付は、自社株式を対価に他社を子会社にする会社法の制度。100%取得は不要で、すでに子会社の会社には使えない
  • 個人株主は、対価のうち親会社株式が80%以上なら、株式部分の譲渡益の課税が繰り延べられる
  • 株式交付直後の親会社が一定の同族会社なら繰延べは使えない。オーナー企業が買い手なら先に確認する
  • 親会社が非公開会社なら簡易手続は使えない。反対株主の買取請求、場合により債権者保護手続も必要
  • 売り手は換金しにくい株式を受け取る。売却・配当・少数株主の権利・相続まで見て判断する

クレフティでは事業承継・M&A支援として、株式対価と現金対価の手取り額の比較、交換比率の前提となる株価算定、課税繰延べの要件の確認をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。

よくある質問

株式交付とは何ですか?
株式会社が、他の株式会社を子会社にするために、その会社の株式を株主から譲り受け、対価として自社の株式を交付する会社法の制度です(会社法774条の2以下)。令和元年の会社法改正で設けられました。株式交換と違って100%を取得する必要はなく、子会社にする(議決権の過半数を取得する)範囲で、応じた株主からだけ株式を譲り受けることができます。
株式交付で株式を渡した個人株主に、税金はかかりますか?
交付を受けた株式交付親会社の株式の価額が、交付を受けた対価の総額の80%以上である場合は、親会社株式に対応する部分の譲渡はなかったものとみなされ、課税が繰り延べられます(租税特別措置法37条の13の4)。ただし、株式交付の直後に親会社が一定の同族会社に該当する場合は適用されません。金銭など株式以外の対価を受け取った部分は、その時に課税されます。
中小企業どうしのM&Aでも、株式交付は使えますか?
会社法上は使えますが、税務の課税繰延べは、株式交付の直後の親会社が一定の同族会社に該当すると使えません。オーナーが支配する中小企業が親会社になる場合は同族会社に当たることが多いため、まず親会社が同族会社に当たるかを確認します。また、売り手は換金しにくい非上場株式を受け取ることになるため、売却の方法や配当の方針を事前に決めておく必要があります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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