決算書と銀行格付け

決算前に税理士と確認すべきことのチェックリスト|3か月前・期末まで・期末後の時期別に、不動産会社の論点を整理

決算書は、期末日の時点でほとんど決まってしまいます。期末を過ぎてから「利益が出すぎた」「赤字に見える」と気づいても、できることは限られます。著書では、人間ドックの前に体調を整えるのと同じように、決算日の数か月前から格付けを良くするための準備を行い、その結果である決算書も評価してもらいやすいように整えることを「決算書磨き」と呼んでいます。

この記事では、不動産会社が決算の前に税理士と確認すべきことを、時期別のチェックリストにしました。決算書の中身(PL・BSの項目別)のチェックは不動産事業者の決算書チェックリストで扱っているので、ここでは「いつまでに、何を決めるか」に焦点を当てます。

この記事の結論
  • 決算の打ち合わせは期末の3か月前と1か月前が目安。期末を過ぎると打てない手が多い
  • 期末までに決めること:役員給与の設計、決算賞与の通知、工事・売却・取得の時期、短期前払費用、消費税の届出、役員貸付金の精算、借入の長期化
  • 期末後に決めること:評価損・減損、未払・未収の計上、表示区分、納税資金、銀行への提出資料
  • 税務上の損金算入と、決算書の表示区分(企業会計の基準で判断)は別の問い。両方を同じ打ち合わせで確認する

決算前の打ち合わせで決めること:全体像

時期主な確認事項期限を過ぎると
期末3か月前着地見込み、納税額の見込み、主要指標(債務償還年数・ICR・純資産)、物件の売却・取得・工事の時期売却・工事の時期を動かせない
期末1か月前決算賞与、短期前払費用、消費税の届出、役員貸付金の精算、借入の条件変更期中の行為が必要なものはできない
期末日現預金・借入金の残高確定、在庫の確認残高は動かせない
期末後〜申告評価損・減損、未払・未収、表示区分、税効果、納税資金、銀行提出資料申告期限・提出期限に間に合わない

期末3か月前:着地見込みと大きな取引の時期

着地見込みと主要指標を試算する

月次試算表をもとに、期末までの利益と納税額を見込みます。同時に、銀行が見る指標を試算します。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいとされます。財務制限条項がある融資では、その指標も確認します。月次の数字の作り方は不動産会社の月次試算表と銀行への提出、条項の確認はDSCR・LTVと財務制限条項をご覧ください。

売却・取得・工事の時期を決める

取引税務の論点決算書・銀行の論点
物件の売却原則として引渡しの日の属する期の益金売上高(販売用)か特別損益(固定資産)か。借入返済で債務償還年数が改善
物件の取得取得費用を取得価額に入れるか損金にするか費用にすれば当期の利益が減る
大規模修繕修繕費か資本的支出か。費用は債務の確定(役務の完了など)が必要販管費か、臨時・多額として特別損失か
取壊し・除却除却損の計上時期と要件特別損失。純資産が減る

物件の売却は、税務上の益金の時期と、決算書のどの区分に出るかの両方で、決算の姿を大きく変えます。著書では、債務償還年数を改善する方法として、繰上返済はほとんど効かず、物件の売却が最も直接的に効くとしています。

期末1か月前:期中にしかできない手当て

役員給与・決算賞与

項目要件・期限(法人)確認のポイント
定期同額給与の改定原則として会計期間開始の日から3か月を経過する日までに改定今期はもう変えられないことが多い。来期の金額を決算前に設計する
事前確定届出給与所定の期限までに届出が必要届出どおりの時期・金額で支給する
使用人への決算賞与期末までに各人別・同時期の全員に支給額を通知、期末の翌日から1か月以内に支払、通知した期に損金経理通知の記録を残す

役員給与は損金算入の要件が厳格です。役員報酬の水準は、法人税・所得税・社会保険料のバランスと、融資への影響で考えます。詳しくは役員報酬の決め方をご覧ください。使用人賞与の要件は国税庁タックスアンサーNo.5350で確認できます。

短期前払費用

法人税基本通達2-2-14は、前払費用のうち、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを、継続して支払った期の損金としている場合に、それを認めています。期末に家賃や保険料を前払いすれば当期の損金を増やせる場面がありますが、利益が減れば純資産も現預金も減ります。

消費税の届出

簡易課税制度の選択は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに届出書を提出する必要があります(国税庁タックスアンサーNo.6505)。課税事業者の選択なども、原則として前の課税期間中に届け出ます。翌期に建物の取得や売却を予定している会社は、決算前の打ち合わせで届出の要否を確認してください。不動産業の簡易課税は不動産業の簡易課税で扱っています。

BSの手当て

  • 役員貸付金・仮払金を精算する(銀行の実態BSでゼロ評価されやすい)
  • 短期借入金を長期借入金に借り換えられないか検討する(流動比率が改善する)
  • 役員借入金の返済条件を契約書で整え、表示区分と合わせる

著書では、短期借入金を長期に借り換えるだけで流動比率が改善すること、役員借入金を短期借入金に計上していると安全性指標が悪化することを指摘しています。

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裁決事例:1年を超える前払は短期前払費用にならない

  • 国税不服審判所 平成22年2月15日裁決(裁決事例集No.79)
  • 事案:白蟻防除業の法人が、施工の保証に係る損害保険料を支払時に全額損金に算入した。保険の保証は実際には5年間に及んでいた
  • 判断:本件保険料は5年間の保証期間に係るもので、支払時に全額を損金に算入することはできない。保険料を60か月で割った額に、翌期以降に役務の提供を受ける月数を掛けた額は前払費用とされた。法人税基本通達2-2-14の短期の前払費用に当たるのは、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものに限られる
  • 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例

実務への示唆

業種は違いますが、不動産会社でも、長期の保険料や保守料、複数年分の家賃などを期末にまとめて払うことがあります。1年を超える分は、支払っても当期の損金にはなりません。長期一括払いの火災保険料の扱いは賃貸物件の火災保険・地震保険の長期一括払いは期間按分で解説しています。

期末後〜申告:数字の確定と表示の整理

税務と会計を分けて確認する

期末後の打ち合わせでは、数字を確定させるとともに、決算書の表示を整理します。ここでいう会計の基準は、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)です。法人税法22条4項は、収益・費用の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。

項目税務の確認会計・表示の確認
販売用不動産の評価評価方法(原価法・低価法)、評価損の要件簿価切下げの要否、売上原価か特別損失か
賃貸不動産の減損減損損失は原則として損金不算入減損の要否、特別損失
未払費用・未収家賃債務の確定、計上時期期間対応
修繕・工事修繕費か資本的支出か販管費か特別損失か、資産計上か
付帯収入益金の時期売上高か営業外収益か
法人税等納税額と納付期限未払法人税等、税効果

税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。評価損は販売用不動産の評価損(低価法)と税務、減損は賃貸不動産の減損と税務、表示区分の考え方は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いをご覧ください。

個人の場合

個人の不動産所得は暦年で計算し、12月31日が「期末」です。家族への給与(青色事業専従者給与)の届出、修繕の時期、少額の資産の扱いなど、年内にしか手を打てない項目は法人と同じように年末前に確認します。少額の資産は、貸付けの用に供するものに特例の制限がある点に注意が必要です(少額減価償却資産・一括償却資産と「貸付けの用」の除外)。

銀行からの見え方:利益を消す決算は格付けを下げる

決算前の打ち合わせは、どうしても「税金をどう減らすか」に傾きがちです。しかし著書では、節税の本質は利益を減らすことであり、利益が減れば内部留保が減り、自己資本も現預金も厚くならないと指摘しています。きちんと納税すれば、税引後の利益が利益剰余金として純資産に積み上がり、同額の現預金がBSに残る――これが「払った税金の2倍、会社は強くなる」という考え方です。詳しくは「払った税金の2倍、会社は強くなる」の意味をご覧ください。

著書ではまた、税理士の助言が必要な節目として、物件を買う前、決算書磨き、融資を申し込むとき、売却で大きな利益が出たとき、相続・組織再編を見据えるときを挙げています。決算前の打ち合わせは、そのうち最も頻繁に訪れる節目です。

実務のチェックポイント(一覧)

  • 期末3か月前に、着地見込み・納税額・債務償還年数・ICR・純資産を試算したか
  • 物件の売却・取得・大規模工事の時期と、税務上の区分・表示区分を決めたか
  • 来期の役員給与の金額と、届出が必要な給与の有無を確認したか
  • 決算賞与を出す場合、期末までに全員に各人別の通知をしたか
  • 前払する費用が、1年以内の役務に係るものか確認したか
  • 翌期に向けた消費税の届出の要否を確認したか
  • 役員貸付金・仮払金の精算、短期借入金の長期化を検討したか
  • 期末後に、評価損・減損・未払・未収・表示区分を税務と会計に分けて確認したか
  • 納税資金と、銀行への提出資料(決算書・物件一覧・借入一覧・説明資料)を準備したか

まとめ

  • 決算の打ち合わせは期末の3か月前と1か月前が目安。期末を過ぎると打てない手が多い
  • 役員給与・決算賞与・短期前払費用・消費税の届出には、それぞれ期限と要件がある
  • 1年を超える前払は短期前払費用にならないとした裁決がある
  • 税務上の損金算入と決算書の表示区分は別の問い。利益を消すだけの決算は格付けを下げる。顧問税理士・会計の専門家と、税務と表示の両方を検討する

決算前の打ち合わせから、銀行に伝わる決算書づくりまで、不動産投資家向けサービスでご支援しています。

よくある質問

決算の打ち合わせは、いつ税理士とすればよいですか?
期末の3か月前に一度、1か月前にもう一度が目安です。役員給与の設計、決算賞与の通知、工事や売却の時期、消費税の届出など、期末までにしか手を打てない項目が多いからです。期末を過ぎてから相談しても、できるのは数字の確認と表示の整理に限られます。
利益が出そうなので、期末に1年分の費用を前払いすれば節税になりますか?
法人税基本通達2-2-14は、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用を、継続して支払った期の損金としている場合に認めています。ただし対象は一定の契約に基づく継続的な役務の対価に限られ、1年を超える分は認められません。また、利益を減らせば純資産と現預金も減り、銀行格付けには不利に働きます。税額だけでなく、決算書の見え方と合わせて判断してください。
決算書の表示区分(特別損失など)も税理士と相談すべきですか?
はい。税務上は損金算入が認められるかが論点ですが、決算書の表示区分は企業会計の基準に沿って、取引の実態から判断します。同じ損金でも、販管費か特別損失かで営業利益や経常利益が変わり、銀行格付けに影響します。損金算入の可否と表示区分の両方を、決算を締める前に確認することが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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