外部への売却(M&A)

買い手から見て「買いやすい会社」とは|数字・人・株主・契約・お金の5つの視点と、今からできる準備

「うちの会社に買い手はつくだろうか」。売却を考え始めたオーナー経営者が最初に抱く不安です。同じ業種・同じ規模の会社でも、買い手がすぐに見つかり条件よく売れる会社と、なかなか話が進まない会社があります。その差は、業績の良し悪しだけでは決まりません。

この記事では、中小企業白書(2021年)に掲載された買い手の心配事項と、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」が求める「見える化」「磨き上げ」をもとに、買い手から見て「買いやすい会社」の条件を5つの視点で整理し、価格と銀行への影響、今からできる準備を紹介します。

この記事の結論
  • 買いやすい会社とは、買い手の不安を小さくできる会社。買い手の心配の上位は、従業員の理解(32.4%)、期待する効果(30.8%)、情報不足(25.6%)、企業価値評価の適正性(23.1%)
  • 視点は5つ:①数字が信頼できる ②社長がいなくても回る ③株主と事業用資産が整理されている ④契約と許認可が引き継げる ⑤借入と保証が説明できる
  • ガイドラインは、M&Aの前に最低限、株式と事業用資産等の整理・集約が必要だとしている
  • 買いやすさは価格に直結する。リスクが見えない会社ほど、価格を下げられたり、重い表明保証を求められたりする
  • 準備には年単位の時間がかかる。毎期の決算を「見られる前提」で整える

買い手は何を心配しているのか

中小企業庁の「中小PMIガイドライン」は、中小企業白書(2021年)に掲載された調査(東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」)から、M&Aを実施した企業(買い手側など)の心配事項を紹介しています。

心配事項(複数回答)割合
相手先従業員等の理解が得られるか不安がある32.4%
期待する効果が得られるかよく分からない30.8%
仲介等の手数料が高い29.8%
判断材料としての情報が不足している25.6%
相手先(売り手)が見付からない23.8%
相手先の企業価値評価の適正性に不安がある23.1%
買収資金の調達が困難15.9%
M&Aを進める社内体制の構築が困難13.8%

裏返せば、従業員が残ってくれそうで、数字と情報がそろっていて、価格の根拠が説明でき、買収資金を借りやすい会社が、買い手にとって「買いやすい会社」です。以下、5つの視点に分けて見ていきます。

視点①②:数字が信頼でき、社長がいなくても回る

数字が信頼できる

買い手が最初に見るのは決算書と税務申告書です。数字が信頼できないと、DD(デューデリジェンス)に時間がかかり、価格も保守的になります。

  • 毎月の試算表が早く出る:月次の数字が締まっている会社は、管理ができている会社と見られる
  • 正常な収益力を説明できる:社長の高額な報酬、私的な経費、一時的な損益を除いた「本来の利益」を説明できる(正常EBITDAとは、役員報酬・オーナー個人の経費の正常化参照)
  • 資産の中身が実態に合っている:回収できない売掛金、売れない在庫、使っていない設備が資産に残っていない
  • 税務の処理が適正:源泉所得税・消費税の処理、役員への貸付金・借入金の扱いに問題がない

買い手の心配事項の「判断材料としての情報が不足している」「相手先の企業価値評価の適正性に不安がある」は、まさにこの点です。過去の税務調査の指摘事項と対応の記録、部門別・取引先別の損益、数年分の資金繰り表がすぐに出せる会社は、価格の根拠を買い手に示しやすくなります。反対に、決算のたびに数字が大きく修正される会社や、税理士任せで社長自身が数字を説明できない会社は、それだけで評価が下がります。

社長がいなくても回る

買い手の心配の1位は「相手先従業員等の理解」でした。従業員や取引先が社長個人に結びついている会社は、社長が抜けたとたんに価値が下がるおそれがあるため、買い手は慎重になります。

  • 主要な取引先の窓口を、社長以外の幹部も担っている
  • 価格の決め方、仕入先との交渉、金融機関とのやり取りが、社長の頭の中だけにない
  • 技術者・資格者が定着していて、労働時間の管理や残業代の支払いが適法に行われている(労務DDと未払残業代のリスク参照)

社長がすぐに引退できない場合は、売却後の引継ぎ期間を設けることになります。どのくらい残るか、どんな立場で残るかは売却後、オーナーは会社に残るのかで解説しています。

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視点③:株主と事業用資産が整理されている

中小M&Aガイドラインは、M&Aの実行のためには、見える化・磨き上げのなかでも最低限、株式・事業用資産等の整理・集約が必要だとしています。

株式の整理

ガイドラインは、株式が分散していたり一部の株主の所在が不明だったりすると、M&Aを実行する際に重大な障害となるおそれがあるとしています。全事業の譲渡などの特別決議を確実に可決するには総議決権の3分の2以上を持っておくことが望ましく、株式譲渡で全株式を譲渡するなら、基本的に売り手の経営者が全株式を保有しておく必要があります。株主名簿が正しく整備されているか、名義株がないか、株券発行会社なら株券が適切に管理されているかも確認が必要です(名義株とは、分散した株式を集中させる方法参照)。

事業用資産の整理

重要な不動産や機械設備が第三者の名義である、担保が設定されている、遺産分割で争われている、係争中である、といった場合は、譲渡後の事業継続に支障が生じうるため確認が必要です。家族経営の会社では、会社の財産と経営者個人の財産が明確に分かれていないことも多く、ガイドラインは、明確に区別して整理・集約しておく必要があるとしています。

視点④⑤:契約・許認可と、借入・保証

契約と許認可が引き継げる

買い手が買うのは「事業を続けられる状態」です。次の点が整理されていると、買い手は安心できます。

確認事項買いやすい状態
主要取引先との契約契約書があり、支配権の変更で解除できる条項の有無が分かっている
事務所・店舗・工場の賃貸借契約書があり、承継や名義の扱いについて賃貸人と話ができる
許認可有効期限・要件(専任者・役員要件)が整理され、承継の方法が分かっている
知的財産商標やドメインが会社名義で登録されている
訴訟・クレーム係争の有無と見込みを説明できる

株式譲渡と事業譲渡では、契約や許認可の引継ぎ方が大きく違います(事業譲渡と株式譲渡の違い参照)。

借入と保証が説明できる

買い手の心配事項には「買収資金の調達が困難」(15.9%)もありました。買い手の多くは、買収資金の一部を金融機関から借ります。その審査では、対象会社のキャッシュフローで返済できるかが見られます。

  • 借入金の残高、金利、返済条件、担保が一覧になっている
  • 会社が他社や親族の借入を保証していない(していれば説明できる)
  • 社長の経営者保証を、買い手の保証や無保証に切り替える交渉の材料がそろっている

著書の銀行格付けモデルでは、安全性・収益性・成長性・返済能力の4つの視点で会社を評価し、債務償還年数「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」が10年以内を健全の目安としています。この目安を満たす会社は、買い手が買収資金を借りやすい会社でもあります。銀行の評価を上げる方法は銀行格付けを上げる方法で解説しています。

買い手のタイプ別に見るポイント

「買いやすさ」の中身は、買い手のタイプによっても少しずつ違います。自社にとって相性のよい買い手を考えるときの目安です。

買い手のタイプ主に評価するもの特に気にする点
同業・近い業種の事業会社取引先、技術者・資格者、商圏、設備従業員が残るか、取引先が離れないか、統合後の重複
異業種の事業会社新しい分野に入るための許認可・ノウハウ・人材社長が抜けても事業が回るか、業界特有のリスク
投資ファンド安定したキャッシュフローと成長の余地経営を任せられる幹部、数字の管理体制、借入で買えるか
個人・小規模な事業者小さくても利益の出る事業、引継ぎのしやすさ買収資金の融資が受けられるか、売り手の引継ぎ期間

同業の買い手は業界を知っている分、リスクも見抜きやすく、価格には統合の効果(シナジー)を織り込むことがあります。投資ファンドは、数年後に再び売却することを前提に、管理体制と経営陣を重視します。個人の買い手は、金融機関の融資を使うことが多いため、視点⑤の「借入と保証が説明できる」ことが一段と重要になります。どの買い手が向いているかは、仲介者やFAの選び方とも関係します(M&A仲介とFAの違い参照)。

買いやすさは価格にどう表れるか

買いやすさは、そのまま価格と条件に表れます。

会社の状態価格・条件への影響
数字が信頼でき、正常収益力が説明できる価格の根拠を示しやすく、交渉で主導権を持ちやすい
リスクが開示され、価格に織り込まれている表明保証や補償の範囲を限定しやすい
数字や株主が整理されていないDDが長引き、価格が保守的になる。重い表明保証・特別補償を求められる
社長への依存が大きい引継ぎ期間が長くなる、アーンアウト(業績連動の追加払い)を求められる

価格の考え方は中小企業M&Aは正常EBITDAの何倍で取引されるか、売る前の準備は売る前の磨き上げをご覧ください。

今からできる準備

時期の目安やっておくこと
売却を考え始めたら毎期の決算を「見られる前提」で整える。月次試算表を早く出す。会社と個人の財産の線引き
数年前株主の整理(名義株・分散株)、社長の仕事の棚卸しと幹部への移管、労務管理の点検
1〜2年前契約書・許認可の整理、不要な資産の処分、役員貸付金・借入金の解消、借入と保証の一覧化
直前資料の一式(決算書・申告書・契約書・規程類)の準備、売却後の自分の役割の整理

準備の多くは、売却しない場合でも会社を強くするものです。財務が整い、社長がいなくても回る会社は、銀行からの評価も上がり、親族や社内への承継でも有利になります。

まとめ

  • 買いやすい会社とは、買い手の不安(従業員、効果、情報、価格の根拠、資金調達)を小さくできる会社
  • 5つの視点:数字の信頼性、社長への依存、株主と事業用資産の整理、契約と許認可、借入と保証
  • ガイドラインは、M&Aの前に最低限、株式と事業用資産等の整理・集約が必要としている
  • 買いやすさは価格と契約条件に直結する
  • 準備には年単位の時間がかかる。毎期の決算から整えていく

クレフティでは事業承継・M&A支援として、売却前の株価算定、財務・税務の事前チェック、株主の整理の進め方のご提案、金融機関との調整を含む資金調達支援をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

買い手は、売り手の会社のどこを一番気にしていますか?
中小企業白書(2021年)の調査では、M&Aを実施した企業の心配事項として、相手先従業員等の理解が得られるか不安がある(32.4%)、期待する効果が得られるかよく分からない(30.8%)、判断材料としての情報が不足している(25.6%)、相手先の企業価値評価の適正性に不安がある(23.1%)などが挙がっています。人が残るか、数字が信頼できるか、という点を気にしていると言えます。
赤字の会社や小さな会社でも、買い手は見つかりますか?
見つかる場合はあります。買い手は、黒字かどうかだけでなく、技術者や資格者、取引先、許認可、立地など、自社では短期間に手に入らないものに価値を見いだすことがあります。ただし、赤字の原因が説明できない、数字が信頼できない、株主が整理されていない、といった会社は敬遠されやすくなります。何が買い手にとっての価値かを整理し、弱点を説明できるようにしておくことが大切です。
売却の準備は、何年前から始めればよいですか?
決算書の数字を整える、株主を整理する、会社と個人の財産を分ける、社長がいなくても回る体制を作る、といった準備には数年かかることもあります。買い手は通常、過去数期分の決算書と申告書を見るため、売却を考え始めた時点から、毎期の決算を「見られる前提」で整えていくのが理想です。経営者保証や借入の整理は、取引銀行との相談も必要になります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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