不動産投資や不動産事業の税務では、同じような取引が繰り返し争われています。国税不服審判所の公表裁決事例や最高裁判決を読むと、否認される処理にはいくつかの典型パターンがあることが分かります。
この記事では、公式サイトで内容を確認できる裁決・判決から、不動産に関する否認パターンを8つに整理し、それぞれの争点・判断・実務への示唆をまとめます。最後に、否認が決算書と銀行の評価にどう響くかも確認します。なお、裁決・判決はいずれも個別の事実関係に基づく判断であり、「この裁決があるから同じ取引はすべて否認される」という意味ではありません。
- 否認のパターンは、①架空・仮装の取引、②実態のない関係者への支払、③事業的規模の前提を欠く家族給与、④保養目的の物件の損失、⑤土地建物の按分、⑥修繕費と資本的支出、⑦中古建物の耐用年数、⑧消費税の用途区分に整理できる
- どの事例でも、判断の基準は契約書の名称ではなく、取引・業務・工事・所有目的の実態
- 「前回の調査で指摘されなかった」「長年是正されなかった」は理由にならないとした裁決・判決が複数ある
- 否認の場面でも、除却損の計上のように納税者の主張が認められた部分がある。事実を正確に整理することが大切
- 修正申告や重加算税は、追徴税額以上に決算書の信頼を損なう。銀行の評価への影響まで考えて処理と記録を整える
否認パターンの一覧
| # | パターン | 取り上げる裁決・判決 | 結論の要点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 架空・仮装の取引 | 国税不服審判所 平成24年7月9日裁決 | 領収書があっても支払を否定。重加算税 |
| 2 | 実態のない同族管理会社への管理料 | 平成18年6月13日裁決 | 管理業務の必要性・履行が認められず、管理料は必要経費にならない |
| 3 | 事業的規模でない貸付けの専従者給与 | 平成8年7月31日裁決、平成16年9月27日裁決 | 賃料が多額でも事業と認めず、専従者給与・特別控除を否認 |
| 4 | 保養目的の物件の損益通算 | 平成13年5月30日裁決 | リゾートホテルの客室は「生活に通常必要でない資産」。損益通算できない |
| 5 | 土地建物の按分 | 令和4年11月8日裁決 | 固定資産税評価額の割合による区分を合理的と認め、鑑定評価額による区分を退けた |
| 6 | 修繕費と資本的支出 | 平成26年4月21日裁決 | キッチン・浴室の全面取替えは資本的支出。旧設備の除却損は認めた |
| 7 | 中古建物の耐用年数 | 平成25年12月17日裁決 | 見積法等は取得した年に限る。後からの変更は不可 |
| 8 | 消費税の用途区分 | 最高裁 令和5年3月6日判決(2件) | 住宅として賃貸中の建物の購入は共通対応。全額控除に「正当な理由」なし |
以下、順に見ていきます。
取引・支払の実態が問われたパターン
前半の4つは、取引や支払、業務、所有目的の「実態」が問われたパターンです。
1. 架空・仮装の取引:領収書があっても支払は否定される
国税不服審判所 平成24年7月9日裁決は、不動産業等を営む個人が、①妻への自宅の売却収入とその取得費、②競売物件の前所有者への引越費用等350万円、③その前所有者への別の土地建物の売却、④別物件の修繕工事費980万円を計上していたところ、原処分庁がいずれも架空として更正し、重加算税を課した事案です。
- 自宅の売却:領収書の原本はあったものの、所有権移転登記はされず、固定資産税も引き続き請求人に課され、請求人が自宅を従前どおり使っていた。買主とされた妻も、代金を払った記憶はないと申述した
- 引越費用:領収書の日付の筆跡が受領者本人のものではなく、同じ日付の領収書に別の印鑑が押されていた。受領者は実際の引越費用は10万円にも満たないと申述した
- 修繕工事費:工事をしたとされる会社の代表者が施工を否定し、白紙の領収書を渡した記憶があると申述。帳簿上の小口現金勘定は、その出金の後にマイナス残高になっていた
審判所はこれらの取引の実在を認めず、架空の取引を前提とした経理処理と申告は隠ぺい・仮装に当たるとして、重加算税の賦課を適法としました。
実務への示唆:領収書は支払の証拠の一つにすぎず、登記、固定資産税、利用の実態、受領者の申述、現金勘定の残高などと照らし合わせて判断されます。現金払いの記録の残し方は現金払い・手渡しのリスクで解説しています。
2. 実態のない同族管理会社への管理料
国税不服審判所 平成18年6月13日裁決(裁決事例集No.71 205頁)は、不動産賃貸業を営む個人が、自ら代表取締役を務める管理会社に払った管理料が争われた事案です。原処分庁は、同族会社の行為計算の否認(所得税法157条)などを適用して、管理料の一部を必要経費から除いていました。
審判所は、貸アパートは一括借上げ会社が、賃貸マンションは別の管理会社が管理し、駐車場・貸地の賃料も個人の口座に直接振り込まれていたことなどから、同族管理会社に管理業務を委託する客観的な必要性がなく、業務を履行したことを客観的に認める証拠もない(業務の記録も残されていない)として、管理料は必要経費に当たらないと判断しました。
実務への示唆:管理会社方式では、料率の妥当性以前に、その会社が実際に何をしているかが問われます。サブリースや外部の管理会社と業務が重なっていないか、業務の記録が残っているかを確認してください。詳しくは不動産管理会社方式と管理料率の争いとサブリース方式の仕組みと適正賃料をご覧ください。
3. 事業的規模でない貸付けの専従者給与
国税不服審判所 平成8年7月31日裁決(裁決事例集No.52 41頁)は、店舗1件(床面積22.8㎡)を1社に貸し、年約1,600万円の賃料を得ていた個人が、子に青色事業専従者給与300万円を払っていた事案です。審判所は、貸付物件・貸付先が1件1社のみで、役務の提供は極めて僅少、修理は賃借人が行い、再開発までの限定的な貸付けであることなどから、賃料収入が1,500万円以上あっても事業とは認められないとして、専従者給与の否認を適法としました。
平成16年9月27日裁決(裁決事例集No.68 59頁)も、同族会社1社への倉庫・事務所の貸付けについて事業性を否定し、妻への専従者給与と55万円の青色申告特別控除を認めませんでした。請求人は9年間事業として申告し、是正されてこなかったと主張しましたが、そのことは事業性の根拠にならないとされています。
実務への示唆:5棟10室に満たない貸付けで事業的規模を主張するなら、第三者への貸付けと、自ら募集・管理・交渉を行う実態が必要です。詳しくは個人の事業的規模(5棟10室基準と実質判断)をご覧ください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る4. 保養目的の物件の損益通算
国税不服審判所 平成13年5月30日裁決(裁決事例集No.61 268頁)は、リゾート地のホテルの一室をホテル会社に貸し、不動産所得の損失を損益通算していた事案です。審判所は、所有目的は主観ではなく客観的な事情で判断するとしたうえで、別荘と同様に使える物件であること、分譲案内書で「合理的な節税対策」がうたわれていたこと、オーナーが無料で何回でも利用できたこと、賃料が必要経費の2割程度で管理費にも届かなかったことから、主として保養等の目的で所有する「生活に通常必要でない資産」に当たるとして、損益通算を認めませんでした。
実務への示唆:「貸している」という形式だけでは足りず、所有目的と収支の合理性が見られます。損益通算できない損失の全体像は不動産所得の赤字と給与所得の損益通算で整理しています。
金額の区分・計算方法が問われたパターン
後半の4つは、取得価額や費用、税額控除の「区分・計算方法」が問われたパターンです。
5. 土地建物の按分
国税不服審判所 令和4年11月8日裁決は、米国の賃貸用不動産を土地・建物一括で購入し、代金の全額を借入金でまかなった個人について、建物の取得価額と、損益通算できない土地分の借入金利子が争われた事案です。
売買契約上、土地・建物の各代価は明らかでなく、請求人は不動産鑑定評価額の割合で区分していました。審判所は、代価が明らかでない場合は合理的な方法で区分する必要があるとし、現地の固定資産税評価額の割合による区分を合理的と認めました。提出された鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準に定める手法を守っていない理由が示されていないなどとして採用されていません。一部の年分は評価額の事後変更を踏まえて処分の一部が取り消されましたが、前回の税務調査で指摘されなかったことは過少申告加算税の「正当な理由」に当たらないとされています。
実務への示唆:建物の比率を高めるための区分は、合理的な根拠がなければ否認されます。按分の方法は土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例で解説します。
6. 修繕費と資本的支出
国税不服審判所 平成26年4月21日裁決は、賃貸マンションの退去後に、流し台をシステムキッチンに、浴室をユニットバスに取り替えた費用の全額を修繕費とした個人の事案です。
審判所は、既存設備や壁・床の表面を全面的に撤去して新しい設備に取り替えた工事は、台所・浴室を新設したものとして、全額が資本的支出に当たると判断しました。一方で、取り壊した旧設備については、建物の取得価額を総床面積で割った単価に床面積を掛ける方法で取得価額相当額を算定し、除却損失の必要経費算入を認めました。
実務への示唆:「居住用機能の回復」という目的だけでは修繕費になりません。工事の内容と範囲で判断されます。同時に、資本的支出になる場合は、取り壊した部分の除却損を忘れずに検討します。判断の基本は修繕費と資本的支出の判断、設備交換については給湯器・エアコン・設備交換は修繕費か資本的支出かをご覧ください。
7. 中古建物の耐用年数
国税不服審判所 平成25年12月17日裁決は、不動産賃貸業の法人が中古建物に一律に法定耐用年数(39年)を使っていたところ、後の事業年度で見積法等による短い耐用年数に変更した事案です。審判所は、見積法等による耐用年数の算定は、取得して事業の用に供した最初の事業年度に限りできるとして、変更を認めませんでした。更正の請求に係る調査の担当職員が「変更できる」と誤った指導をしていた事実も認定されましたが、更正処分が信義則に反するとはいえないとされています。
実務への示唆:耐用年数は取得した年の判断がその後すべての年を決めます。詳しくは中古建物の耐用年数(簡便法)と否認された事例をご覧ください。
8. 消費税の用途区分(最高裁令和5年3月6日の2判決)
エー・ディー・ワークス事件(令和4年(行ヒ)第10号)
最高裁判所第一小法廷 令和5年3月6日判決は、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要する」課税仕入れの意味について、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、すべて共通対応に当たると判断し、上告を棄却しました。転売目的であっても、住宅として賃貸されている建物の購入は、賃料(非課税)にも対応するため共通対応になる、という整理です。
ムゲンエステート事件(令和3年(行ヒ)第260号)
同日の最高裁判所第一小法廷 令和5年3月6日判決は、転売目的で購入した住宅として賃貸されている建物を「課税資産の譲渡等にのみ要する」ものとして全額控除した事業者について、過少申告加算税を免除する「正当な理由」があるとは認められないと判断し、加算税の取消しを認めた原判決を破棄しました。最高裁は、税務当局が遅くとも平成17年以降、こうした課税仕入れを共通対応とする見解を採っており、そのことは税務当局の職員が執筆した公刊物や公表裁決例、下級審の裁判例を通じて一般の納税者も知り得たことなどを挙げています。
実務への示唆:用途区分は、取得目的ではなくその資産がどの売上に対応するかで判断されます。また、当局の見解が公刊物や公表裁決で知り得る状態にあれば、「知らなかった」は正当な理由になりにくいといえます。詳しくはムゲンエステート事件をわかりやすくとエー・ディー・ワークス事件と用途区分をご覧ください。
個人と法人で、否認の影響はどう違うか
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 主な否認の根拠 | 必要経費の要件(所得税法37条)、損益通算の制限、事業的規模、同族会社の行為計算の否認(所得税法157条) | 損金の要件、役員給与・交際費の規定、同族会社の行為計算の否認(法人税法132条) |
| 否認されたときの影響 | 所得税・住民税(事業税)の追徴。損益通算で戻った税金の返還 | 法人税・住民税・事業税の追徴。欠損金の減少 |
| 加算税 | 過少申告加算税、隠ぺい・仮装があれば重加算税 | 同左 |
| 決算書への影響 | 青色申告決算書の数字が変わる | 会計上も過去の誤りを正す処理が必要。当期の決算書に影響 |
会計上の扱いと、銀行からの見え方
否認は税務上の問題ですが、その影響は決算書にも及びます。
- 追徴税額・加算税・延滞税は資金の流出:現預金が減り、著書のモデルで計算する債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))が悪化します
- 過去の利益の見え方が変わる:修繕費の否認なら過去の利益は過小、架空経費の否認なら過去の決算書そのものが不正確だったことになります
- 重加算税は信頼の問題になる:仮装・隠ぺいが認定されると、銀行は決算書の数字を前提にした格付けができなくなります。融資の継続に影響することもあります
逆に言えば、上の8つのパターンに当てはまらない処理と記録を日頃から整えておくことは、税務調査対策である以上に、銀行に決算書を信頼してもらうための土台です。銀行格付けの考え方は銀行格付けと不動産の決算書もご覧ください。
実務のチェックポイント
| パターン | 日頃のチェック |
|---|---|
| 架空・仮装 | 支払は原則振込。現金払いは領収書・作業記録・出金記録をそろえる |
| 同族管理会社 | 業務内容を契約書で特定し、業務の記録を残す。外部の管理会社と業務が重なっていないか |
| 事業的規模 | 基準未満で専従者給与を払っていないか。家族の業務記録はあるか |
| 保養目的の物件 | 自己利用できる物件の損失を通算していないか。賃料は経費に見合うか |
| 土地建物の按分 | 契約書の内訳、固定資産税評価額などの根拠を保存しているか |
| 修繕 | 工事ごとに見積書・写真を残し、資本的支出と除却損を検討したか |
| 耐用年数 | 中古建物の耐用年数を取得した年に正しく算定したか |
| 消費税 | 取得目的ではなく、対応する売上で用途区分をしているか |
調査の流れと確認項目は不動産業の税務調査で見られるポイントで解説しています。
まとめ
- 不動産の否認パターンは、架空取引、同族管理会社、事業的規模、保養目的の物件、按分、修繕、耐用年数、消費税の用途区分の8つに整理できる
- 判断の基準は一貫して実態。契約書の名称や科目名、取得目的だけでは決まらない
- 前回指摘されなかったこと、長年是正されなかったこと、当局の見解を知らなかったことは、多くの場合理由にならない
- 否認の場面でも、除却損のように認められる主張がある。事実を正確に整理する
- 否認は追徴税額だけでなく、決算書の信頼を損なう。融資を受け続けるためにも、日頃の処理と記録を整える
取引ごとの処理の判断や、税務調査で指摘を受けた後の対応は、事実関係を整理したうえで専門家と検討することが大切です。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、処理の見直しから税務調査への対応、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。
