M&Aや事業承継の相談を受けていると、同じような税金の質問を何度もいただきます。「株を売ったら税金はいくら?」「退職金でもらったほうが得?」「息子にいくらで売ればいい?」「買った会社の赤字は使える?」。どれも、答えを間違えると数千万円単位で手取りが変わる質問です。
この記事は、M&A・事業承継の税金Q&Aです。オーナー経営者からよくいただく質問に、国税庁の資料と法令で確認した内容で答え、関連する判例・裁決を公式情報で紹介します。くわしい解説は、各回答のリンク先の記事をご覧ください。
- 個人株主の株式譲渡益は20.315%(令和9年以後も同じ)。令和9年分から、所得が極めて高い人の追加負担が1億6,500万円・30%に強化される
- 役員退職金は、実質的な退職と金額の相当性が問われる。分掌変更で否認された裁決、認められた裁決の両方がある
- 親族や会社への売買は、時価との差で贈与税・みなし譲渡・受贈益が生じる。法人への譲渡の時価は譲渡人の支配力で評価する(最高裁令和2年3月24日)
- 相続した株式を発行会社に売るなら、みなし配当の特例と取得費加算の特例を検討する
- 繰越欠損金やのれんの税務は、組織再編の要件と濫用の否認(ヤフー事件・IDCF事件)に注意する
株式を売るときの税金
Q1. 会社を売ったら、税金はいくらかかりますか?
個人株主が非上場株式を売る場合、譲渡益(譲渡代金-取得費-譲渡費用)に、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%がかかります。令和9年1月からは、所得税額に1%の防衛特別所得税が課される一方で復興特別所得税の税率が1%下がるため、合計の税率は変わりません(財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」)。取得費が分からない場合は、譲渡代金の5%を取得費にできます。詳しくは個人株主が株式を売ったときの税金をご覧ください。
Q2. 高所得者の追加課税は、M&Aにも関係しますか?
関係します。所得が極めて高い人の追加負担(租税特別措置法41条の19)は、基準所得金額に非上場株式の譲渡益や退職所得も含めて計算します(国税庁タックスアンサーNo.2270)。令和8年度改正で、令和9年分からは(基準所得金額-1億6,500万円)×30%が基準所得税額を上回る部分を追加で納めることになりました。株式の譲渡益だけで見ると、おおむね3億4,000万円を超えると追加負担が生じます。試算は会社を売ったら手元にいくら残るかにまとめています。
Q3. 株式譲渡と事業譲渡では、税金はどう違いますか?
| 株式譲渡 | 事業譲渡 | |
|---|---|---|
| 売り手 | 株主(個人) | 会社 |
| 売り手の税金 | 譲渡益に20.315%(個人) | 会社の譲渡益に法人税等。代金を個人に移すときに配当・退職金として課税 |
| 消費税 | かからない(有価証券の譲渡は非課税) | 建物・設備・営業権などの課税資産の部分にかかる |
| 買い手の税務 | 株式の取得価額(償却できない) | 資産を時価で受け入れ、一定の要件で営業権相当は資産調整勘定として5年で損金 |
一般に、オーナー個人の手取りは株式譲渡のほうが大きくなりやすい一方、買い手は資産調整勘定などで税務上のメリットがある事業譲渡を好むことがあります。比較は事業譲渡の税金をご覧ください。
Q4. 法人が株式を売ると、消費税に影響はありますか?
株式の譲渡は消費税が非課税ですが、課税売上割合の計算では、有価証券の譲渡対価の5%を非課税売上として分母に入れます。持株会社などが多額の株式を売った年は、課税売上割合が下がり、仕入れの消費税の控除額が減ることがあります(持株会社が子会社株式を売るときの税務)。
役員退職金の税金
Q5. 株式の代金の一部を退職金で受け取ると得ですか?
退職所得は(退職金-退職所得控除額)×2分の1に課税され、分離課税です(国税庁タックスアンサーNo.1420)。ただし、役員としての勤続が5年以下だと2分の1が使えません。金額が大きいと最高税率の部分が増え、株式で受け取る場合との差は小さくなります。会社側で損金になる効果も含めて比べる必要があります。仕組みは退職金スキームとはで解説しています。
Q6. 会長や顧問として会社に残っても、退職金は認められますか?
「実質的に退職したと同様の事情」があるかで判断されます。国税不服審判所の公表裁決事例要旨(役員退職給与)から紹介します。
| 裁決 | 事案 | 判断 |
|---|---|---|
| 平成29年7月14日裁決 | 代表取締役社長が代表権のない取締役会長になった | 分掌変更後も経営で主要な地位を占め、重要な決定に関与していたとして、退職給与と認めず |
| 令和2年12月15日裁決 | 代表取締役・取締役を辞任した元代表者。税務署は辞任後も経営に従事していたと主張 | 退職当時の客観的な証拠がなく、報酬も受けていないとして、退職給与と認めた |
| 昭和56年6月23日裁決(裁決事例集No.22) | 代表取締役から取締役への分掌変更 | 議事録が真正に作成されたと認められず、登記もなく、退職と同様の事情にあったとは認められないとして損金算入を否定 |
残る場合は、経営上の決定に関与しない立場、報酬の大幅な減額、議事録と登記を整え、実態をそれに合わせることが前提です。
Q7. 退職金はいくらまでなら認められますか?
法人税では、役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金になりません。実務では、最終報酬月額×役員の勤続年数×功績倍率で考える方法がよく使われます。平成19年11月15日裁決(裁決事例集No.74)は、創業以来の代表取締役らについて会社が主張した功績倍率3.6倍・3.3倍を退け、類似法人3社の平均功績倍率1.9倍で算定した額を超える部分を不相当に高額としました。「裁判例や裁決例では3.3〜3.6倍が定着している」という主張も、具体的な事情を考慮しないものとして採用されていません。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る親族・会社への売買と承継の税金
Q8. 後継者や持株会社にいくらで売ればよいですか?
| 売る相手 | 安すぎた場合 | 時価の基準 |
|---|---|---|
| 後継者個人 | 著しく低い価額なら、差額に贈与税(相続税法7条) | 相続税評価額(国税庁タックスアンサーNo.4423) |
| 持株会社・発行会社 | 時価の2分の1未満なら、売り手は時価で売ったとみなされる(所得税法59条)。法人には受贈益 | 所得税基本通達59-6(売り手の議決権で判定、中心的な同族株主なら小会社として評価など) |
最高裁第三小法廷 令和2年3月24日判決(平成30年(行ヒ)第422号)は、法人への譲渡の時価について、譲受人ではなく譲渡人の支配力に応じて評価すべきとしました(裁判所ウェブサイト)。国税不服審判所の令和7年9月10日裁決は、訴訟上の和解で決めた価格でも時価とはいえないとしています(裁決)。詳しくは株式の買取りで税務上問題にならない価格と後継者に安く株を売ったときの課税をご覧ください。
Q9. 売るのと贈与するのでは、どちらがよいですか?
後継者に買取資金があるか、親が現金を必要とするか、株価の水準、ほかの相続人との関係で変わります。売買なら親に20.315%の譲渡所得税がかかり、後継者に資金が必要です。贈与なら後継者に贈与税がかかり、暦年課税・相続時精算課税・事業承継税制から選びます。事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、贈与・相続が同年12月31日までです(国税庁タックスアンサーNo.4439)。株価の出し方は自社株評価の方法、贈与税の計算例は自社株を贈与したときの贈与税の計算例にまとめています。
Q10. 相続した株式を会社に買い取ってもらうと、税金はどうなりますか?
会社が自己株式として買い取ると、代金のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額は原則としてみなし配当(総合課税)になります。ただし、相続税が課された人が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続した非上場株式を発行会社に譲渡した場合は、みなし配当課税をせず、全体を株式の譲渡所得として扱う特例があります(租税特別措置法9条の7)。さらに、相続税額のうち一定額を取得費に加算できる特例(同法39条、国税庁タックスアンサーNo.3267)も使えます。手続は相続した株式を発行会社に売る特例で解説しています。
Q11. 会社が株主から高い価格で買い取ると、問題になりますか?
第三者との交渉で決まり、経済的合理性があれば、時価として認められます。国税不服審判所の平成21年3月3日裁決(裁決事例集No.77・194頁)は、同族会社が同族関係のない株主から1株15,800円で自己株式を買い取った事案で、会社は「時価より高い部分は寄附金で、みなし配当ではない」と主張しましたが、再三の交渉の経緯や直前の取引価格(13,025円)などから経済的合理性を認め、時価と判断しました。結果として、資本金等の額を超える部分はみなし配当で、源泉徴収が必要だったとされています(裁決)。
買い手側・組織再編の税金
Q12. 買った会社の繰越欠損金は使えますか?
使えることもありますが、制限があります。株主が替わった後に、旧事業の廃止や多額の資金借入れなど一定の事実があると、繰越欠損金が使えなくなる規定(法人税法57条の2)があり、合併で引き継ぐ場合にも要件があります。さらに、要件を形式的に満たしても、組織再編税制を租税回避の手段として濫用したと評価されれば否認されます。最高裁第一小法廷 平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第75号、ヤフー事件)は、濫用かどうかを、行為が不自然かどうか、税負担の減少以外に合理的な理由となる事業目的などがあるかどうかなどを考慮して判断するとしました(裁判所ウェブサイト)。詳しくはM&Aと繰越欠損金をご覧ください。
Q13. のれんは税金の計算で損金になりますか?
株式で買った場合、払った金額は子会社株式の取得価額になり、のれんの損金算入はありません。事業譲渡や非適格合併で、事業とその主要な資産・負債のおおむね全部を移す場合などは、時価純資産を超える部分が資産調整勘定となり、5年で均等に損金になります(法人税法62条の8)。ただし、資産調整勘定を生じさせるための形づくりは、最高裁第二小法廷 平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第177号、IDCF事件)で否認が認められています(裁判所ウェブサイト)。会計との違いはのれんの会計処理と税務、減損は買収後ののれんの減損と銀行の見え方をご覧ください。
Q14. 仲介手数料やDDの費用は、税金の計算でどう扱いますか?
売り手の個人が払う仲介会社やFAの成功報酬は、株式の譲渡費用として譲渡益から差し引きます。買い手の法人が払う手数料など、株式の購入のために要した費用は、原則として株式の取得価額に含めます(法人税法施行令119条1項1号)。費用の性質や支払の時期によって扱いが分かれることもあるため、契約書や請求書で内容を区分しておきます。
Q15. 株式譲渡契約書に印紙は必要ですか?
株式譲渡契約書は、原則として印紙税の課税文書に当たりません。一方、事業譲渡契約書は、内容によって課税文書になることがあります。不動産を移す手法では登録免許税・不動産取得税もかかります(M&Aの印紙税・登録免許税)。
判例・裁決の一覧
この記事で紹介した判例・裁決をまとめます。
| 判決・裁決 | 論点 | 結論 |
|---|---|---|
| 最高裁 令和2年3月24日判決 | 法人への株式譲渡の時価 | 譲渡人の支配力に応じて評価すべき(原判決破棄・差戻し) |
| 国税不服審判所 令和7年9月10日裁決 | 和解価格は時価か | 時価とはいえず、59-6で小会社として評価(棄却) |
| 国税不服審判所 平成21年3月3日裁決 | 自己株式の取得価格とみなし配当 | 経済的合理性のある価格で時価。みなし配当の源泉徴収が必要 |
| 国税不服審判所 平成29年7月14日裁決 | 分掌変更による退職金 | 実質的な退職と認めず |
| 国税不服審判所 令和2年12月15日裁決 | 辞任後の関与と退職金 | 退職の事実を認め、損金算入 |
| 国税不服審判所 平成19年11月15日裁決 | 退職金の功績倍率 | 類似法人の平均1.9倍を超える部分は不相当に高額 |
| 最高裁 平成28年2月29日判決(ヤフー事件) | 合併による欠損金の引継ぎ | 組織再編税制の濫用として否認 |
| 最高裁 平成28年2月29日判決(IDCF事件) | 資産調整勘定の計上 | 組織再編成に係る行為計算の否認を適用 |
判例・裁決は、それぞれの事実関係のもとでの判断です。「この判決があるから必ず否認される(認められる)」とは言えません。自社の事実関係に当てはめたときにどう説明できるかを、実行の前に検討することが大切です。
まとめ
- 株式譲渡は20.315%。令和9年分から、所得が極めて高い人の追加負担が1.65億円・30%に強化される
- 退職金は実質的な退職と金額の相当性。会長・顧問として残るなら記録と実態を整える
- 親族・会社への売買は時価との差に注意。法人への譲渡の時価は譲渡人の支配力で評価する
- 相続した株式を発行会社に売るなら、みなし配当の特例と取得費加算の特例を検討する
- 繰越欠損金・のれんの税務は、要件と濫用の否認の両方を確認する
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