「LOIの前にIMを見て、DDのあとにSPAで表明保証を…」。M&Aや事業承継の話を始めると、聞き慣れないカタカナや略語、法律用語が一気に出てきます。わからないまま話が進み、気づいたら書類に署名していた、ということも起こりがちです。
この記事は、オーナー経営者と後継者のためのM&A・事業承継の用語集です。用語を「進め方」「契約」「株価・企業価値」「税金」「会社法・民法」「制度」の6つに分け、かみくだいて説明します。条文番号や期限は、e-Gov法令検索、国税庁、中小企業庁の情報で確認したものです。くわしく知りたい用語は、各解説記事へのリンクからたどってください。
- M&Aの用語は、進め方(NDA→LOI→DD→SPA→クロージング→PMI)の流れに沿って覚えるとわかりやすい
- 契約の用語(独占交渉権、表明保証、補償、テール条項など)は、署名後の行動や手取り額を縛るので特に重要
- 株価には「相続税評価額」「税務上の時価」「M&A価格」の3つがあり、用語も別々
- 税金の用語は、株式譲渡の20.315%、退職所得、みなし配当、令和9年分からの高所得者の追加負担などが手取りに直結する
- 事業承継税制の特例は、特例承継計画の提出が令和9年(2027年)9月30日まで、贈与・相続が同年12月31日まで
M&Aの進め方に関する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 仲介 | 売り手と買い手の両方と契約し、双方の間に立って成約を目指す支援の形。両方から報酬を受けるため、利益相反に注意が必要 |
| FA(ファイナンシャル・アドバイザー) | 売り手か買い手の一方とだけ契約し、その側の利益のために助言・交渉する支援の形 |
| ノンネームシート(ティーザー) | 社名を伏せて、業種・地域・規模などの概要だけを記載した、買い手候補への打診資料 |
| NDA(秘密保持契約) | 会社の情報を開示する前に結ぶ、情報の目的外利用や漏えいを禁じる契約 |
| IM(企業概要書) | NDA締結後に買い手候補に渡す、事業・財務・組織などをまとめた詳しい資料 |
| 意向表明書 | 買い手候補が、想定価格や条件、スケジュールを示す書面 |
| LOI・MOU(基本合意書) | 価格の目安や独占交渉期間、DDの実施などを合意する書面。価格などは法的拘束力を持たせないことが多い |
| DD(デューデリジェンス) | 買い手が、財務・税務・法務・労務などの実態やリスクを調べる調査 |
| クロージング | 株式の引渡しと代金の支払いを行い、取引を完了させること |
| PMI(統合プロセス) | クロージング後に、組織・業務・システムなどを統合していく取組み |
| MBO・EBO | 経営陣(MBO)や従業員(EBO)が、オーナーから株式を買い取って承継する方法 |
全体の流れはM&Aの進め方の全体像、仲介とFAの違いは仲介とFAの違い、DDの種類は財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスで解説しています。
契約に関する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 専任条項 | 契約期間中、ほかの仲介会社・FAに依頼することを禁じる条項 |
| テール条項 | 契約終了後も一定期間、紹介を受けた相手と成約したら報酬を払う義務が残る条項 |
| レーマン方式 | 取引金額の段階ごとに異なる料率をかけて成功報酬を計算する方式。基準となる金額(株価か移動総資産かなど)で報酬額が大きく変わる |
| 独占交渉権 | LOIで定める、一定期間ほかの候補と交渉しない義務 |
| SPA(株式譲渡契約) | 株式の売買の条件を定める最終契約 |
| 表明保証 | 売り手が、決算書の正確さや簿外債務がないことなどを「事実である」と表明し保証する条項 |
| 補償(インデムニティ) | 表明保証違反などで買い手に損害が出たとき、売り手が支払う義務。上限額や請求期間を定めることが多い |
| 前提条件 | クロージングの前に満たすべき条件(主要取引先の同意、許認可の取得など) |
| 価格調整 | クロージング時点の運転資本やネットデットに応じて代金を精算する仕組み |
| エスクロー・ホールドバック | 代金の一部を第三者口座に預ける、または買い手が支払いを留保する仕組み |
| アーンアウト | 売却後の業績などの条件を満たした場合に、追加で代金を払う仕組み |
| 表明保証保険 | 表明保証違反による損害を保険会社が補償する保険 |
| キーマン条項 | 売り手の社長などが一定期間、会社に残って引継ぎをすることを定める条項 |
基本合意書の法的拘束力は基本合意書(LOI)、表明保証の判例は株式譲渡契約(SPA)の要点、仲介契約の条項はM&A仲介・FA契約書のチェックポイントをご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る株価・企業価値に関する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 事業価値(EV) | 事業そのものの価値。株式価値にネットデットを加えた額として扱うことが多い |
| 株式価値(エクイティバリュー) | 株主に帰属する価値。株式の譲渡代金の基礎になる |
| ネットデット | 有利子負債から現預金などを引いた額。事業価値から差し引いて株式価値を出す |
| EBITDA | 営業利益に減価償却費などを足し戻した、おおまかな稼ぐ力の指標 |
| 正常収益力(調整後EBITDA) | オーナーの役員報酬や一時的な損益などを調整した、本来の収益力 |
| 時価純資産法 | 資産・負債を時価に置き換えた純資産を基に株式価値を考える方法 |
| DCF法 | 将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて価値を出す方法 |
| のれん | 買収価格のうち、受け入れた純資産の時価を超える部分。日本の会計基準では20年以内に償却し、減損の対象にもなる |
| 類似業種比準方式 | 相続税評価で、上場会社の業種別株価を基に、配当・利益・純資産を比べて評価する方法(財産評価基本通達180) |
| 純資産価額方式 | 相続税評価で、会社の資産・負債を相続税評価額に置き換えて評価する方法(同185) |
| 配当還元方式 | 相続税評価で、同族株主以外の株主などが取得した株式を、配当を基に評価する方法(同188-2) |
| 総則6項 | 通達どおりの評価が著しく不適当な場合に、別の方法で評価できるとする財産評価基本通達の定め |
| 税務上の時価 | 所得税・法人税で、低額譲渡かどうかなどを判定するときの価格。取引相場のない株式は所得税基本通達59-6などの条件のもとで計算する |
株価の3つの値段の違いは相続税評価額・税務上の時価・M&A価格はなぜ違うか、事業価値と株式価値は事業価値と株式価値の違い、のれんはのれんの会計処理と税務、自社株評価の基本は自社株評価の方法で解説しています。
税金に関する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 株式の譲渡所得 | 個人が株式を売ったときの所得。非上場株式は申告分離課税で税率20.315%(令和9年以後も合計は同じ) |
| 概算取得費 | 取得費が不明な場合などに、譲渡代金の5%を取得費とする方法 |
| 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置 | 所得が極めて高い人への追加負担。令和9年分からは(基準所得金額-1億6,500万円)×30%が基準所得税額を上回る部分を追加で納める(租税特別措置法41条の19) |
| 退職所得 | 退職金から退職所得控除額を引いた額の2分の1に課税。役員勤続5年以下の役員退職金は2分の1をかけない |
| 退職金スキーム | 株式の代金の一部を役員退職金として受け取る方法。実質的な退職や金額の相当性が問われる |
| みなし配当 | 会社が自己株式を買い取ったときなどに、資本金等の額を超える部分を配当とみなして課税するもの |
| みなし譲渡 | 個人が法人に時価の2分の1未満で資産を譲渡したときなどに、時価で譲渡したとみなす課税(所得税法59条) |
| みなし贈与 | 著しく低い価額で財産を譲り受けたときに、時価との差額を贈与とみなす課税(相続税法7条) |
| 繰越欠損金 | 過去の赤字を将来の黒字と相殺できる制度。株主が替わった後に一定の事情があると使えなくなる制限がある |
| 適格組織再編 | 一定の要件を満たす合併・会社分割などで、資産を帳簿価額で引き継ぎ、課税を繰り延べる扱い |
手取りへの影響は会社を売ったら手元にいくら残るか、よくある質問はM&A・事業承継の税金Q&Aにまとめています。
会社法・民法に関する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 普通決議・特別決議 | 株主総会の決議。普通決議は出席株主の議決権の過半数(会社法309条1項)、定款変更や合併などの特別決議は3分の2以上(同条2項)が原則 |
| 譲渡制限株式 | 株式を譲渡するのに会社の承認が必要な株式。中小企業の多くが定款で定めている |
| 種類株式 | 議決権がない株式や、拒否権付き株式(黄金株)など、内容の異なる株式(会社法108条) |
| 属人的株式 | 非公開会社で、株主ごとに議決権や配当で異なる扱いを定款で定めたもの(会社法109条2項) |
| 名義株 | 株主名簿上の名義人と、実際に出資した人が異なる株式 |
| 所在不明株主 | 連絡がとれない株主。通知が5年以上継続して到達しないなどの要件で株式を売却できる手続がある(会社法197条) |
| スクイーズアウト | 少数株主の株式を、株式等売渡請求(議決権の90%以上を持つ特別支配株主。会社法179条)や株式併合で強制的に取得する方法 |
| 事業譲渡・会社分割・合併・株式交換 | 株式譲渡以外のM&Aの手法。手続や税金、許認可の引継ぎが異なる |
| 遺留分 | 一定の相続人に保障された最低限の取り分。自社株を後継者に集中させるときに問題になる |
| 遺留分に関する民法特例 | 経営承継円滑化法で、後継者に贈与した自社株を遺留分の計算から除外する「除外合意」や、価額を固定する「固定合意」ができる仕組み |
保有比率ごとの権利は株式の保有比率ごとの権利、遺留分は遺留分と自社株を参考にしてください。
制度・ガイドラインに関する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 中小M&Aガイドライン | 中小企業庁が公表する、中小M&Aの進め方や支援機関の行動指針。2024年8月に第3版が公表された |
| M&A支援機関登録制度 | 中小企業庁の登録制度。登録した仲介会社・FAは中小M&Aガイドラインの遵守が求められ、国の補助金で専門家に支払う費用を対象にする際の要件にもなっている |
| 事業承継税制(特例措置) | 後継者が贈与・相続で取得した自社株の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度。特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、贈与・相続が同年12月31日まで(国税庁タックスアンサーNo.4439) |
| 経営者保証ガイドライン | 経営者の個人保証に頼らない融資を進めるための指針。事業承継時の取扱いを定めた特則もある |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 国が各都道府県に設置する、事業承継やM&Aの公的な相談窓口 |
ガイドラインの要点は中小M&Aガイドライン(第3版)の要点、登録制度はM&A支援機関登録制度とは、事業承継税制の期限は事業承継税制の特例の期限で解説しています。
用語を「自分ごと」にするために
用語を覚えること自体が目的ではありません。大切なのは、その用語が出てきた書類に署名すると、何が決まり、何に縛られるのかを理解することです。たとえば、基本合意書の独占交渉権に署名すれば、その期間はほかの候補と交渉できません。最終契約の表明保証は、売却後に代金の一部を返す義務につながることがあります。
銀行との関係でも用語は出てきます。買い手側では、のれんの償却や減損が決算書の利益と純資産を動かし、銀行の格付けに影響します。売り手側では、経営者保証の解除が重要な条件になります。用語の意味をあいまいにしたまま交渉を進めると、条件の違いに気づかないまま合意してしまうおそれがあります。
まとめ
- M&Aの用語は、NDA→LOI→DD→SPA→クロージング→PMIの流れに沿って覚える
- 契約の用語(独占交渉権、表明保証、補償、テール条項)は、署名後の行動と手取りを縛る
- 株価は「相続税評価額」「税務上の時価」「M&A価格」を区別する
- 税金では、株式譲渡の20.315%、退職所得、みなし配当・みなし譲渡・みなし贈与、令和9年分からの追加負担を押さえる
- わからない用語は、署名の前に専門家に確認する
クレフティでは、M&Aや事業承継の書類の読み方から、株価算定、デューデリジェンス、契約書のセカンドオピニオンまで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
